固定観念で資本主義を見ない
佐藤 いいキックオフです。私はマルクス経済学から入ってますが、所与の状況から資本主義体制は続くと、それが大前提になると思う。それに代わる知恵があるかもしれないけれども、いまのところ資本主義とどううまくつきあっていくかを考えないといけない。そのときに、いままでの固定観念で資本主義を見ない、というのは重要です。竹中さんを、「新自由主義者」だという間違ったレッテルを貼って批判して、生産や労働、経済成長を否定する思想は、私は危ないと思ってます。
竹中 何とか主義のレッテルは第三者が理解をしやすくするために貼る、一種の分類学なんですね。私も学者だから分類学は嫌いではないけれども、エコノミストとしては、いまあるこの問題をどうしたら解決できるのか、という問題解決を考えている。アダム・スミスが『国富論』を書いたのも、結局重商主義を続けてはいけないという、その問題を解決するためです。ケインズはいまの失業問題をどう解決するんだ、と『ソリューション』を書いたわけで、別にケインズ主義をつくるために書いたわけではない。
いまある問題を解決しないといけない。さっきいった資本主義のちょっとした変化も、それぞれの問題を解決するためにそう変化している。たとえば、経営と資本の分離がどのように実現されてきたかというプロセスを見るとおもしろいのは、それはデラウェア州とカリフォルニア州があったからだ、ということになる。つまり、いまのアメリカの大企業のかなりの数がじつはデラウェア州に本部を置いている。デラウェア州の商法、会社法が、経営者の自由度をできるだけ認める法律になっているからです。資本家とは別にプロの経営者の役割が大事だ、という時代的要請に沿って、デラウェア州が州法をつくった。だから、企業が集まったわけです。
佐藤 おもしろいですね。デラウェア州なんて、東部の小さな州なのに……。
竹中 ところが、資本が蓄積されてくると、カリフォルニア州に企業がシフトしてくる。なぜカリフォルニアかというと、例のカルパース(CalPERS=The California Public Employees’ Retirement System=カリフォルニア州職員年金基金。世界最大の公的年金基金)です。
今度は蓄積した資本をいかに有利に運用してもらえるか。お金を出すほうから見て、安全、有利に運用して稼いでもらうためには、コーポレイト・ガバナンスが重要だとなる。この点、カリフォルニア州の法律が非常によくできている。だから、シフトしてくる。アメリカは州によって商法、会社法が違うことがおもしろい役割を果たしたわけです。つまり、新しいニーズが出てくるところに、新しい資本主義のモデルが出てくる。その意味では、日本が新しいモデルになるということはありうる。まだ出てきてないけど。