つむぐ:2012・11 桃浦 「水産業復興特区」活用し漁業再開 サラリーマンの漁師に /宮城
毎日新聞 2012年11月11日 地方版
◇「生活」「集落再生のため」…浜に残る
東日本震災で甚大な被害を受けた県内各地。復旧・復興を図り、新たなモノを作り上げようと日々を紡ぐ人々の歩みを、いくつかの現場で継続的に追う。
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漁業に民間参入を促す「水産業復興特区」の活用を決断した唯一の浜、石巻市・桃浦(もものうら)漁港。村井嘉浩知事が特区構想を掲げて以降、反発する県漁協と県は対立を深めたままで、特区に否定的な漁業関係者や県議らがやり玉に挙げることも度々あった。そんな中、漁師らは壊滅状態になった浜に出向き続け、水産業の復活を目指して黙々と作業を続けてきた。
「まだちゃっこいからなあ、去年の夏挟んだカキは」「カキむきできるのは12月だな」。10月中旬の朝、漁師たちはロープにホタテの殻を挟み込みながら、口々に話した。
今年は長い残暑や少雨などの影響か、カキの生育が遅い地域が多い。県内は10月15日に出荷解禁。だが、桃浦は成長を待って、より大きなカキを出荷することにした。
「早く結果を出すことが一番。採算が出る見込みが無ければ、初めから陸(おか)に上がるっちゃ」と、浜の若手、大山洋(ひろし)さん(39)。会社組織で漁業を再開することに、将来性を感じている。
「ただ単にカキをやるんじゃない。これまでとは違うやり方だ。一緒にやってみないか」。大山さんは今夏、震災でトラック運転手の職を失った同市の佐藤文彦(あやひこ)さん(30)を誘った。会社組織という新たな漁業に魅力を感じた佐藤さんは、参加を決意。浜で貴重な後継者の一人となった。「不安というより期待が大きい。定年まで働きたい」と意気込む。
渡辺金一さん(60)も、「生活のため」と会社員となって漁を続けることを選んだ一人。特区がなければ続けるつもりはなかった。「震災前からカキの値は下がりに下がっていた。だけど、漁協は結局、仲買いの言いなりで、何も守ってくれなかった」と振り返る。「仲間が『違うやり方で一緒にやっぺす』と誘ってくれたから、ここで漁を続けることにした。1人じゃ浜に残っていなかった」