ゲームデザインの理論
更新日 : 2012/4/8 (2008/11/29 より執筆開始)
下滝 亜里 <asatohan at gmail.com>
内容に関するコメント(感想、提案、書き間違いの指摘)は歓迎します。
ドラフトバージョン
コンピュータゲームにおけるデザインの理論を議論します。
このドキュメントは、ゲームデザインの三部作の一つです。
はじめに
ゴールとスコープ
このドキュメントのゴールは、コンピュータゲームデザインの基礎を築くことにあります。このドキュメントでは、以下を論じます。
- コンピュータゲームデザインに関わる基本的な概念の定義
- たとえば、「コンピュータゲームとは何か?」「コンピュータゲームデザインとは何か?」など。
- コンピュータゲームデザインに関わる現実から観察できる基本的な現象の説明
- たとえば、「ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する」など。
別の言い方をすれば、このドキュメントは、コンピュータゲームデザインに関する科学的な理論を構築しようとする試みです。
このドキュメントの役割は、ゲームデザイナーの方のコンピュータゲームデザインに関する理解を助ける存在になることです。その理解に基づき、「理論的にはこうであるので、こうする」「理論的にはこうであるが、こうする」といった議論がされるようになれば、その役割が達成されたことになります。
このドキュメントは基礎の構築をゴールとするため、ゲームデザインに関わる根本的な事柄のみを分析の対象とします。そのため、
といった特定のゲーム開発形態における課題は扱いません。たとえば、具体的には、次のような課題は対象外とします。
また、次のような実務的な疑問・課題も対象外とします。
- どのようにしてゲームを開発するのが効果的・効率的なのか?
なお、このドキュメントでは、意図的にコンピュータゲームのみを議論の対象とします。ボードゲームといった他の種類のゲームは対象としません。理由は、分析対象とした事例がコンピュータゲームのみであるためであり、結果として過度の一般化を避けるためです。下記の図は、このドキュメントの現状を示しています。
このドキュメントの構成
この節では、このドキュメントの構成について説明します。このドキュメントは、4部構成です。
- 第1部: コンピュータゲームデザインの枠組み
- 第2部: ゲームプレイヤーを理解する
- 第3部: ゲームデザインを理解する
- 第4部: ゲームデザインのプロセスを理解する
第1部では、コンピュータゲームデザインの枠組みを定義します。下記の図は、この枠組みの構成要素と関係を示しています。これらの要素を定義することがこの部のゴールです。
この枠組みを基に、残りは、以下の3部で構成されます。
- ゲームプレイヤーの特徴づけ
- ゲームデザインの特徴づけ
- ゲームデザインプロセスの特徴づけ
下記の図は、これら部が枠組みのどこに対応するのかを示しています。
各部は、細かなトピックで構成されます。トピックの多くは、独立しているため、どの順序からでも読めるようになっています。独立していない場合には、依存しているトピックへの参照を紹介しています。
ゲームプレイヤーの特徴づけ
ゲームデザインの特徴づけ
ゲームデザインプロセスの特徴づけ
第1部: コンピュータゲームデザインの枠組み
コンピュータゲームデザインの枠組みを考える
はじめに
ここでは、コンピュータゲームデザインの枠組みを定義します。つまり、後の議論の対象とする要素や活動の定義を行います。また、除外する対象を明確にします。
この枠組みは、以下の構成要素から成ります。
- プロダクト(モノ): コンピュータゲーム、ゲームデザイン
- プロセス(活動、行為): ゲームデザインプロセス、ゲームプレイプロセス
- 人: ゲームプレイヤー、ゲームデザイナー
- 関係: 上記の構成要素間の関係
上記からは、たとえば、以下のような要素を除外していることが分かります。
- プロダクト(モノ): ゲームの仕様書
- プロセス: ゲームプログラミング
- 人: ゲームプログラマー
これらの要素が重要ではないということではなく、単にこのドキュメントでは議論対象としないということに注意してください。たとえば、ゲームの仕様書は、物理的あるいはデジタルに表現されるモノです。コンピュータゲームは、理論的には、そのようなゲームの仕様書がなくても作れることを実証できます。したがって、ゲームの仕様書は、必須の要素ではないことが分かります。
続く節では、枠組みの構成要素を段階的に定義・再定義していきます。まずは、コンピュータゲームは人工物の一種であるという前提から議論を開始します。
人工物としてのコンピュータゲーム
この節では、
コンピュータ(or ビデオ)ゲームとは何か?
という疑問に対しての回答を試みたいと思います。より具体的には、
コンピュータゲームとは 少なくとも 何か?
という観点から、コンピュータゲームの最低限の定義を考えてみたいと思います。
まず言えるのは、コンピュータゲームというのは、プロセスではなくプロダクトであるということです。別の言い方をするならば、コンピュータゲームは、人工物の一種です。また、コンピュータゲームはゲームの一種です。下記の図は、この分類を示しています。
まずは人工物とは何かという定義を行います。
人工物とは、ある目標を達成するために人により作られたモノである
人工物は、人により使われます。たとえば、ゴミ箱は、ある人が不要となったものを入れておくために作られたモノです。
ここで以下の三点をもう少し明確にしておきたいと思います。
- 人工物は、人により作られる: ここでは、人工物を作る人を、デザイナー(設計者)と呼びます。これは、人工物とデザイナーとの間の関係を表します。
- 人工物は、目標を達成することを意図して作られる: これは、目標と人工物との間の関係を表します。
- 人工物は、人により使われる: ここでは、人工物を使う人を、ユーザ(利用者)と呼びます。これは、人工物とユーザとの間の関係を示します。
下記の図は、「人工物」「デザイナー」「目標」「ユーザ」とそれらの間の関係を人工物の枠組みとして示しています。
それでは、次に、人工物の一種としてのゲームの定義について考えたいと思います。ここでは、ゲームを以下のように定義します。
ゲームは、人を楽しませたり、面白くさせることを目標としたモノである
つまり、どのような目標を意図しているかでゲームとその他の人工物を区別します。 また、これに合わせて、
- コンピュータゲームのユーザを、ゲームプレイヤー
- コンピュータゲームのデザイナーを、ゲームデザイナー
と呼ぶことにします。以下の図は、ゲームの枠組みを示しています。
次に、ゲームの一種としてのコンピュータゲームを定義します。ここでは、コンピュータゲームをソフトウェアの一種としてさらに分類することで、ボードゲームといった他の種類のゲームと区別します。下記の図は、コンピュータゲームの枠組みを示しています。
最後に、コンピュータゲームを以下のように定義します。
コンピュータゲームとは、人を楽しませたり、面白くさせることを目標としたソフトウェアである
コンピュータゲームのデザインプロセス
次に、コンピュータゲームのデザインプロセスを定義します。まずは、人工物のデザインプロセスから議論を開始します。
ここでは、デザインのプロセスを
「達成したい目標」を満たすような機能を備える「人工物」を作るプロセス
として定義します。この定義は、従来のデザインの定義より広い意味で使っているため、受け入れにくいかもしれません。
前節では、コンピュータゲームは、ゲームの一種であると同時に、ソフトウェアの一種であると定義しました。まずは、ゲームの観点からデザインプロセスを定義します。
ゲームのデザインプロセスとは、人を「楽しませたり、面白くさせる」という目標を満たすモノを作るプロセスである
次に、ソフトウェアのデザインプロセスを定義します。
ソフトウェアのデザインプロセスとは、「達成したい目標」を満たすような機能を備えるソフトウェアを作るプロセスである
しかし、この定義は、実際に私たちがソフトウェアを作るプロセスの観点からは受け入れにくい部分があります。たとえば、ソフトウェアを作るには、ソースコードをコンパイルするプロセスを含みます。この場合、上記の定義に従えば、コンパイルのプロセスをソフトウェアデザインのプロセスの一部と見なすことになります。
ここでは、コンパイルのようなプロセスをソフトウェアデザインのプロセスの一部でないと見なします。一部であるかどうかの基準を、
「達成したい目標」を満たす「ソフトウェア」を作るにあたって、デザイナーの介入が必要かどうか
であるとします。
この基準に従えば、コンパイルは、ソフトウェアデザインのプロセスの一部でありません。なぜなら、このプロセスはデザイナーが介入しないからです。
改良した図は以下のようになります。
以下は、ゲームとソフトウェアのデザインプロセスをまとめた図になります。
次に、コンピュータゲームのデザインプロセスを考えます。コンピュータゲームのデザインプロセスは、ゲームのデザインプロセスと、ソフトウェアのデザインプロセスを組み合わせたプロセスです。
コンピュータゲームのデザインプロセスとは、人を「楽しませたり、面白くさせる」という目標を満たすソフトウェアを作るプロセスである
コンピュータゲームのデザインプロセスを以下の図に示します。
簡略化した図は以下になります。
しかし、この定義は、実際に我々がコンピュータゲームを作るプロセスの観点からは受け入れにくい点があります。たとえば、ゲームプログラミングを、コンピュータゲーム用のソースコードを出力するプロセスであるとすると、ゲームプログラミングは、コンピュータゲームデザインのプロセスの一部となります。しかし、通常、プロダクトとしてのコンピュータゲームデザインを示すとき、ソースコード、より正確には、プログラムがどのように構成されているかは気にしません。たとえば、変数がどのように命名されているかどうかや、関数がどのように分割されているかは、関係がありません。
したがって、ここでは、コンピュータゲームデザインのプロセスを二つのプロセスに分割します。分割した二つのプロセスをそれぞれ以下のように呼びます。
- コンピュータゲームデザインプロセス
- コンピュータゲームプログラミング
分割前のプロセスを「コンピュータゲームソフトウェアデザインプロセス」と呼ぶことにします。
そして、この二つのプロセスの間に存在するプロダクトを「コンピュータゲームデザイン」、あるいは単に「ゲームデザイン」と呼ぶことにします。
コンピュータゲームデザインとは、人を楽しませたり、面白くさせるという目標を達成するために必要であるとして決定した事柄(デシジョン)の集合である
この定義は、非常に一般的で抽象的です。次の節では、コンピュータゲームデザインをもう少し具体的に表現します。
コンピュータゲームデザイン
コンピュータゲームのデザインプロセス(活動) とは、ここでは、次のような側面に対する様々な決定を行うことだとします。
- (1) ゲームのルールの側面: 「キャラクターのレベルは上がる」。「レベル制限は99」。「戦闘はターン制であり」、「敵と見方が交互に行動を行う」、など。
- (2) ゲームのバランスの側面: 敵のパラメータ設定など。「敵Aの最大HPは50である」など。
- (3) ゲームのシステムの側面: 「セーブ数は10件である」「ソフトリセット機能がある」など。
- (4) ゲームのユーザインタフェースの側面: 「LボタンとRボタンでキャラクターの切り替えができる」など。
- (5) ゲームの遊び方に関する側面: 「ゲーム中のBGMを自由に変更できる」など。
ここでは、個々の決定を、ゲームデザインデシジョン、あるいは単に デシジョン と呼ぶ事にします。
コンピュータゲームデザイン とは、この活動の結果として決めたことの集合、つまり、ゲームデザインデシジョンの集合であるとします。
「ゲームデザインのモデリング」のドキュメントでは、ゲームデザインをデシジョンの集合として見ることが妥当なのかを検証しています。
ゲームデザインをデシジョンの集合と見なすことは、どのような結果をもたらすのでしょうか? デシジョンは、ゲームデザインの最小の構成単位です。この構成単位に基づくことで、以下のような分析が可能になります。
- 各デシジョンを個別に分析できる
- デシジョン間の関係性を分析できる
- ゲームデザイン間の関係性を分析できる
- たとえば、ゲームデザインAとBの違いは、Aのデシジョンの集合と、Bのデシジョンの集合の違いの観点から分析できます。
コンピュータゲームのプレイプロセス
この節では、ゲームプレイのプロセスの定義を行います。まずは、人工物の利用のプロセスから議論します。
ここまでの議論で、人工物を以下として定義しました。
人工物とは、ある目標を達成するために人により作られたモノである
人工物には、ユーザがいます。ユーザは、人工物が実際に目標を達成しているかどうかを評価します。ここでは、このプロセスを利用のプロセスと定義します。
利用のプロセスとは、ある人が人工物が実際に目標を達成しているかどうかを評価するプロセスである
次にコンピュータゲームの利用のプロセスを定義します。ここでは、利用のプロセスをゲームプレイのプロセスと言い換えます。
ゲームプレイのプロセスとは、ある人がコンピュータゲームが実際に「楽しいか、面白いかどうか」を評価するプロセスである
コンピュータゲームデザインの枠組み
最後に、これまでの議論のまとめは以下の図になります。
ただし、このドキュメントでは、上記の図で示している全ての要素を分析の対象とはしません。以下の図で示す要素、このドキュメントでの大まかな分析対象となります。対象外としたのは、「ゲームプログラミング」と「コンパイル」になります。つまり、「コンピュータゲームデザイン」から「コンピュータゲーム」が得られるプロセスは、対象外とし、単に「実現される」として図では示しています。
このドキュメントでは、この図を「コンピュータゲームデザインの枠組み」として使用します。続く節では、この枠組みをもとに議論します。なお、以後の議論では、「コンピュータゲームデザイン」などは「ゲームデザイン」と呼ぶことにし、「コンピュータ」という言葉は省略します。
欠点
この枠組みでは、以下の点を十分に考慮できていません。
- BGM、グラフィック、シナリオなどのゲームの構成要素の存在をどのように位置づけるか?
- RPGツクールなど、プログラミングを行わずにゲームを作れる事実をどのように位置づけるか?
第2部: ゲームプレイヤーを理解する
ゲームプレイヤーがどのような特徴を持つのかの理解は重要です。プレイヤーをどう理解するかが、ゲームデザインの行い方に影響を与えるためです。ここでは、続く以下の節の全体像を紹介します。
これら節で主張したことは次のようにまとめられます。
- ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する
- あるゲームに対するあるゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
- ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
- ゲームプレイヤーは、ゲームデザインを合理的に評価する
- ゲームプレイヤーは、プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなゲームデザインを期待することがある
- あるゲームプレイヤーは、あるデザインが新奇だからというだけで、そのデザインを受け入れない
- あるゲームプレイヤーは、新奇なデザインを受け入れない場合、新奇でない既存のデザインを代替案として期待する
- ゲームプレイヤーは、自身のプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
ゲームプレイヤーによるゲームデザインの探索
はじめに
この節では、以下を主張します。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
このプレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームデザインのプロセスに以下の結果をもたらします。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
ゲームプレイヤーのゲームデザインに対する不満
一年以上前から、ゲームレビューサイトに投稿されたレビューを読み、プレイヤーがどんな不満を持っているのかを分析しています。発見の一つは、以下です。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
ここで不満とは、以下を意味します。
プレイヤーの不満とは、 プレイヤーが実際にプレイして感じたこととプレイヤーが期待することとの間の不一致である。
レビューでのプレイヤーの不満の表現は、抽象的なものから具体的なものまで様々です。たとえば、NDSのRPGである『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のような不満の表現がありました。
- 抽象的な不満の表現: はっきりとは言えないが、なぜかストレスが溜まっていく(メニュー画面とかの操作性が原因?)
- 具体的な不満の表現: キーアイテムは処分不可能でありアイテム欄を圧迫するのに、預り所がない。
ここで、実際にプレイして感じたこととは、そのプレイヤーにとってのそのゲームの質あるいは機能的な事実です。質とは、上記の例で言えば、「ストレスがたまる」に対応します。機能的な事実とは、「預り所がない」に対応します。
ここで、プレイヤーが期待することとは、実際にプレイして感じたこととの中で、プレイヤーが受け入れたくないことを解消する質や機能のことです。上記の例で言えば、「ストレスがたまらない」や「預り所がある」などです。
ゲームプレイヤーによるゲームデザインの探索
この節では、具体的な不満の表現が行われるプロセスには、
プレイヤーが自身に適したゲームデザインを探索するプロセス
が含まれることを議論します。
具体的な不満の表現として、たとえば、『セブンスドラゴン』のレビューでは、次のようなものがありました。
- (1) ダッシュは、序盤のクエストをクリアすることの報酬としてできるようになるが、最初からダッシュできたほうがいい。
- (2) 受注したクエストの確認がメニュー画面でできない。
- (3) フロワロは踏むとダメージを受ける仕様(毒沼)だが、毒沼だけでなく幾つか種類を増やしてもよかった。たとえば、雑魚敵が強くなるなど。
![expected_design_table.PNG](/contents/104/429/574.mime5)
これら不満の表現には、以下の二つの要素が明示的・暗黙的に含まれると考えられます(上記の表を参照)。
- プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザイン
- プレイヤー自身に適したゲームデザイン
ここで注目したいのは、これら二つの要素間の関係です。ここでは、関係の一つの見方として
「プレイヤー自身に適さない実際のゲームデザイン」から「プレイヤー自身に適したゲームデザイン」への探索
があると考えます。以下の図は、この関係を表しています。
![player_explore.PNG](/contents/104/429/575.mime5)
また、以下の図は、探索のプロセスは以下の二つのサブプロセス
- (1) プレイヤーによる決定の拒否
- (2) プレイヤーによる決定
により行われることを示しています。
![](/contents/104/429/576.mime5)
ここで「探索」と呼ぶのは、迷路を探索することに似ている部分があるためです。たとえば、分かれ道がAとBの二つあり、Aを選択した(デザイナーによる決定に対応)とします。Aの道を進んでいくと、行き止まりです。そこでこの道を引き返します(プレイヤーによる決定の拒否)。次にBを選択します(プレイヤーによる決定)。
もちろん、全てのプレイヤーが十分な探索を行うとは限りません。つまり「プレイヤーによる決定の拒否」の段階で止まっているような不満の表現もあります。たとえば、「受注したクエストの確認はメニュー画面でもできる」という探索に到達しないような不満の表現があります。具体的な件数 は以下の表に示す通りです。
![](/contents/104/429/577.mime5)
![](/contents/104/429/578.mime5)
まとめ:段階的なゲームデザインのプロセスと課題
この節では、以下を主張しました。
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを通じて不満があるとき、プレイヤー自身に適したゲームデザインを探索する。
このプレイヤーが自分に適したゲームデザインを探索するという見方は、 ゲームデザインのプロセスに以下の結果をもたらすと考えられます。
あるプレイヤーに適したゲームは、段階的にデザインできる。
これは、プレイヤー自身が自分に適したゲームデザインを探索するためである。そのため、ゲームデザイナは、プレイヤーが探索したゲームデザインを採用することで、段階的にデザインを行います。
ただし、次の課題があり解決が必要です。
- (1) プレイヤー自身の探索の失敗: プレイヤーが想像したデザインは、実際にはプレイヤーに適し ていないかもしれない。ゲームデザインは、実際にゲームとして実現されプレイされるまで適切な評価ができない可能性がある。そのため、プレイヤーが自分が 探索したデザイン評価できるように、デザインを素早くゲームとして実現できる必要がある。
- (2) プレイヤー間の好みの衝突: プレイヤーAに適したデザインは、プレイヤーBには適していないかもしれない。そのため、好みの衝突を解消するようなゲームデザインを行う必要がある。
ゲームプレイ時におけるプレイヤーの好みの変化
はじめに
この節では、以下の主張を行います。
あるゲームに対するあるゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出す必要がある
ゲームプレイ時におけるゲームプレイヤーの好みの変化
PS2のRPGである『ペルソナ4』のレビューでは、以下の不満が挙げられていました。
中間くらいで戦闘ナビがいらないと思うようになった。分かってることを何度も言ってくるので、音楽を聴いていたほうがいい気がした。
この不満は、全139件のレビューの内で1件だけであったので、この不満に対処する優先順位は低いかもしれません。しかし、この不満の表現からは以下が分かります。
あるゲームに対する あるゲームプレイヤーの好みは、ゲームプレイを通じて、変化する
ゲームデザインの観点からは、もっと一般的に以下のように言えます。
あるゲームプレイヤーに適したゲームデザインは、ゲームプレイヤーのプレイ経験を通じて変化する
下記の図は、プレイヤーAのプレイ経験が変化することで、ゲームに対する満足度が「満足」の状態から「不満」に変化することを示しています(ここでは簡単のためゲーム=ゲームデザインとしています)。
![player_exp.PNG](/contents/104/429/579.mime5)
ここで重要なのは、
ある程度のプレイ経験が蓄積されるまでは、そのプレイヤーにとってゲームデザインは適切であった
ということです。戦闘ナビの例でいえば、この機能は、このプレイヤーにとっては初めから不要に思われていたわけでなかったと言えます。
下記の図は、このプレイヤーの視点から理想的な状況を表しています。このプレイヤーにとっては、ナビが不要だとなったら、そうなることが望ましいことを表しています。
![player_exp2.PNG](/contents/104/429/580.mime5)
ゲームプレイヤーの好みの変化に対応できるゲームデザインとデザインプロセス
ゲームデザイナーは、プレイヤーのこのような要求に対応する必要があります。しかしながら、このようなプレイヤーの経験の変化に対応するには、ゲームデザイン側であらかじめ対応できるようになっている必要があります。たとえば、「戦闘ナビはオン・オフできる」というデシジョンを行ったデザインである必要があります。
![player_exp3.PNG](/contents/104/429/581.mime5)
以上のことから、ゲームデザインのプロセスに対する以下の要件を設定できます。
(要件)ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出す必要がある
一つのアプローチは、例でも示したように、プレイヤー自身が自分の現状の好みに合わせてゲームを調整できる機能を導入することです。
まとめ
この節では、以下の主張を行いました。
あるゲームに対するある ゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する
この主張が適切であれば、ゲームデザインのプロセスは、以下の特徴を備えていなければなりません。
ゲームデザインのプロセスは、プレイヤー個人の好みの変化に対応できるデザインを生み出す必要がある
他の事例
世界樹の迷宮2
アトラスのNDSのRPGである『世界樹の迷宮2』は、Wizardryような3Dダンジョン探索型のRPGです。『世界樹の迷宮』シリーズの特徴として、タッチペンを使って、プレイヤー自身がダンジョンをマッピングできるという点があります。
このマッピング機能に対して、レビューサイトでは、次のような不満が投稿されていました。
- 序盤場良かったけど、中盤からは飽きる。
- 最初は面白かったけど、だんだん面倒になる。
- 前作でもマッピングを十分やったので、早い段階で飽きてしまった。
これらの不満の表現は、ゲームプレイの過程でマッピング機能に対する評価が満足から不満に変化したことを示すと考えられます。
なお、以下のブログエントリにおて、この不満の対処についての議論を行いましたので参考にしてください。
ゲームプレイヤー自身によるゲームの目標設定
はじめに
この節では、以下を主張します。
- (1) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
- (2) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
このことは、以下を意味します。
ゲームデザインのプロセスでは、
- (A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定するのかを予測し、
- (B) その目標がいかに達成されるのかを分析し、
- (C) 達成の困難さに基づいて、ゲームデザインを修正していく
必要がある。
ゲームプレイヤー自身によるゲームの目標の設定
この節では、ゲームプレイヤーの特徴の一つを議論します。それは、
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
ということです。
以下では、プレイヤーの目標設定がどのようにゲームに対するプレイヤーの不満に結びつくのかを実例をもとに見ていきます。つまり、
ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ということを見てきます。
NDSのSRPGの『女神異聞録デビルサバイバー』のレビューでは、次の不満が挙げられていました。
■セーブ箇所が1つ。マルチエンディングではっきりしたストーリー分岐が最終日のみにも関わらずセーブは1箇所。2・3週目くらいまでは初プレイと同様楽しく進められそうだが、エンディングコンプのために周回を重ねるとなるとその都度最初からやり直す羽目になるので流石に飽きそうな予感。
この不満の表現から、「プレイヤーの設定した目標」という観点を軸に、次のような要素を特定しました。
- プレイヤーの設定した目標:エンディングコンプリート
- プレイヤーの不満(避けたいこと): 他のエンディングを見るまでに飽きる(かも)
- デザイナーの行ったデシジョン: マルチエンディングである
- デザイナーの行ったデシジョン: セーブ箇所は一つである
下記の図は、これら要素間の関係を表しています。
![goal.PNG](/contents/104/429/582.mime5)
この実例からは、以下のことが考察できます。
(1) プレイヤー依存の目標設定: 「エンディングコンプリート」という目標は、全てのプレイヤーが目標とするものではない。したがって、一般的に、プレイヤーによって設定される目標は、プレイヤーによって異なる。
- (2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: 「エンディングコンプリート」という目標は、デザイナー(作り手側)が想定した目標ではないかもしれない。したがって、一般的に、プレイヤーはデザイナーが想定しなかったような目標を設定することがある。
- (3) デシジョンから発生する目標: 「エンディングコンプリート」という目標は、「マルチエンディングである」というデシジョンがなければ発生しない。たとえば、「シングルエンディングである」というデシジョンによるゲームの場合、「エンディングコンプリート」という目標はプレイヤーによって設定されない。したがって、一般的に、あるデシジョンの存在がある目標が設定の要因となる。
- (4) 目標を阻害するデシジョン: 「エンディングコンプリート」という目標は、「セーブ箇所が一つである」というデシジョンが存在することにより、達成が難しくなる。
他の実例を使って上記の考察が妥当かどうかを検証してみます。
NDSのRPGの『セブンスドラゴン』のレビューでは、次の不満が挙げられていました。
● アイテム所持数制限
他の方も書かれている通り、100個しか持てません。
それはそれで、せめてギルドの倉庫みたいなものがあったらよかったなーと思うところ。
ただ、アイテムを持たなくても十分戦えるパーティーにすることもできるようですし、いらんものをぽんぽん売れば、十分な数かも、とも思います。
武器や防具なんかをとっておけないのは、コレクターさんには辛いかもしれません。
この不満の表現に対しては、「武器や防具のコレクト」という目標の観点から、先ほどの事例と同じように考えます。
- プレイヤーの設定した(するかもしれない)目標:武器や防具のコレクト
- プレイヤーの不満: 武器や防具をとっておけない
- デザイナーの行ったデシジョン: 武器や防具がある
- デザイナーの行ったデシジョン: アイテムの最大所持数は100個
![goal2.PNG](/contents/104/429/583.mime5)
先ほどの考察がこの例でも同じように考察ができるか確認します。
- (1) プレイヤー依存の目標設定: 全てのプレイヤーが「武器や防具のコレクト」を目標とするわけではない。
- (2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い: この項目に関しては確かなことは言えない。デザイナーは「武器や防具のコレクト」という目標を想定しなかったかもしれない。
- (3) デシジョンから発生する目標: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「武器や防具がある」というデシジョンから発生する。
- (4) 目標を阻害するデシジョン: 「武器や防具のコレクト」という目標は、「アイテムの最大所持数は100個」というデシジョンが存在することにより、達成が不可能になる。
ここまでをまとめると、ゲームプレイヤーについて以下が言えます。
- (a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
- (b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
ゲームデザインとゲームデザインのプロセスについては、次節で議論します。
ゲームプレイヤーの目標を考慮するゲームデザインとプロセス
前節では、ゲームプレイヤーについて以下の特徴付けを行いました。
- (a) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
- (b) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
また、以下の考察を行いました。
- (1) プレイヤー依存の目標設定
- (2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
- (3) デシジョンから発生する目標
- (4) 目標を阻害するデシジョン
これら(a)と(b)と(1)〜(4)は次のように関係づけられます。
- (3)と(4)が(a)と(b)に関係する。つまり、プレイヤーの不満は、ゲームデザインを構成するデシジョン間の不整合により発生する。
- (1)と(2)は、不整合の発生の起こりやすさに影響する。つまり、デザイナーがプレイヤーが設定するかもしれない目標を適切に想定するのは困難である。
まずは前者を議論します。前節の二つの例をプレイヤーの目標を妨げないようにするという観点から再デザインしてみます。
以下の図は、一つ目の実例の再デザインの例です。
![goal_after.PNG](/contents/104/429/584.mime5)
この再デザインでは、「セーブ箇所は一つである」というデシジョンを「セーブ箇所は二つである」というデシジョンに変更しました。これにより、「エンディングコンプリート」という目標の達成が容易になります。
同様に、以下の図は、二つ目の実例の再デザインの例です。
![goal2_after.PNG](/contents/104/429/585.mime5)
この再デザインでは、プレイヤーの提案である「倉庫がある」を採用し、このデシジョンを追加しました。また「最大格納数は500個」というデシジョンを新たに追加した。これらのデシジョンにより、「武器や防具のコレクト」という目標の達成が容易になります。
以上のことから、
ゲームデザイン上のデシジョンが、プレイヤーの目標の設定と目標の達成の困難さから発生する不満を決める
ことを示しました。
次に、このようなデシジョンを行う際に、以下の二つがどのように影響するのかを考えます。
- (1) プレイヤー依存の目標設定
- (2) プレイヤーとデザイナーの目標設定の違い
(1)は、あるゲームデザイン上のデシジョンから発生する目標は、プレイヤーによって異なることを意味します。
(2)は、デザイナーが各プレイヤーが設定するかもしれない目標の推測が容易ではないかもしれないことを意味します。容易でないのは、(1)の結果から、発生する目標は多様であるかもしれないためです。
結論としては、プレイヤーの目標設定から発生する不満をできる限り少なくするためには、以下のようなゲームデザインのプロセスが必要であると考えられます。
- (A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定するのかを予測し、
- (B) その目標がいかに達成されるのかを分析し、
- (C) 達成の困難さに基づいて、ゲームデザインを修正していく
下記の図は、このプロセスを表しています。
また、下記の図は、一つ目の事例でのこのプロセスの実施例を示しています。
このA〜Cのサイクルを容易にするには、たとえば、あるデシジョンからどのような目標が設定されるのか、ということを収集し、再利用することが考えられます。
まとめ
この節では、事例をもとに、ゲームでプレイヤーに関して以下が観察できることを示しました
- (1) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時に、プレイヤー自身によりゲームの目標を設定する
- (2) ゲームプレイヤーは、自身が設定した目標の達成が困難であるとき、不満を持つ
この観察をもとに、以下を議論しました。
ゲームデザインのプロセスでは、
- (A) 現状のゲームデザインからプレイヤーがどのような目標を設定するのかを予測し、
- (B) その目標がいかに達成されるのかを分析し、
- (C) 達成の困難さに基づいて、ゲームデザインを修正していく
必要がある。
ゲームプレイヤーの合理性
はじめに
この節では以下の主張を行います。
・ゲームプレイヤーは、ゲームデザインを合理的に評価するため、ゲームデザインのプロセスは、合理的なゲームデザインを創るためのプロセスである必要がある。
この主張は次の論理に基づきます。
- (1) ゲームプレイヤーは、ゲームデザインを合理的に評価する。
- (1.1) あるプレイヤーは、合理的でないデザインを不満があるとして評価する。
- (2) あるプレイヤーの不満を解消するには、合理的なゲームデザインが必要となる。
- (3) ゲームデザインのプロセスは、合理的なゲームデザインを創れるプロセスである必要がある。
項目(1)の妥当性は、私が行っているゲームレビューの分析結果に基づいています。
ゲームデザインに対するゲームプレイヤーの合理的評価
gooの国語辞典によれば「合理的」とは次の意味を持ちます。
- (1) 論理にかなっているさま。因習や迷信にとらわれないさま。
- (2) 目的に合っていて無駄のないさま。
ここでは、ゲームプレイヤーのゲームレビューを分析することで得られた観察から、ゲームプレイヤーはゲームデザインを合理的に評価することを示します。
DSのRPGの一つである『セブンスドラゴン』の レビュー では、次のような不満がありました。
この不満は、この記事を書いている時点では、全94件中7件ありました。これら7件の不満の中には単に機能不足を不満に思っているものもありますが、ほとんどのプレイヤーはそれがなぜ不満なのかを理由付けしています。以下の表にまとめます。
不満は、大きく分けて以下に分類できるとしました。
- (a) オートバトルの機能がない(2件)。
- (b) エンカウント率が高いため、バトルが多いのに、オートバトルの機能がない(3件)。
- (c) LとRボタンが使われておらず空いているのに、オートバトルの機能が割り当てられていない(2件)。
- (d) 過去のゲーム(ファミコン時代の『女神転生』と『世界樹の迷宮II』)では、オートバトルの機能があったのに、このゲームにはない(2件)。
これらの不満の種類を合理性の観点から分析します。
- 項目(a): 不満の理由が書かれていないため、合理的とは判断できません。
- 項目(b): オートバトル機能が何故必要となるのかの理由を挙げています。
- 項目(c): オートバトル機能の実現の容易性を挙げています。もし、LとRボタンが埋まっているなら、ゲームデザイナーはインタフェース上の新たな決定を行わなければならないが、空いているため、そうではないためです。
- 項目(d): オートバトル機能は新奇性を伴うような実現の困難な機能ではないことを挙げていると推測できます。
以上から、項目(b)、(c)、(d)は、「オートバトルの機能がない」というゲームデザイン上のデシジョンに対する不満を、合理的な観点から行っていると考えられます。
もちろん、プレイヤーの不満の理由付けには合理的との判断が難しいものも存在します。たとえば以下のような不満がありました。
この不満は、94件中1件ありました。この不満には、以下の理由付けがされていました。
- 違う職業を使いたくなった場合、別キャラを1から育てなければいけない為、非常に手間がかかる。
しかし、この理由が合理的かどうかの判断は、以下の疑問があるため容易でないと考えられます。
- この理由が合理的であるとすると、職業選択式の場合、転職できることが必須となる。
- しかし、この不満は、94件中1件であり、多くのプレイヤーがこの不満の解消を望んでいるのかどうか分からない。
ここまでの議論を以下にまとめます。
- (A) プレイヤーの不満には、以下が存在する。
- (A1) 不満の理由付けがされていないもの。「オートバトルの機能がない」
- (A2) 不満の理由付けがされているもの。「エンカウント率が高いため、バトルが多いのに、オートバトルの機能がない」
- (B) 不満の理由付けがされたものには、以下が存在する。
- (B1) 合理的な理由付けがされているもの。「エンカウント率が高いため、バトルが多いのに、オートバトルの機能がない」
- (B2) 合理的でない、もしくは合理的と判断が難しいような理由付けがされているもの。「違う職業を使いたくなった場合、別キャラを1から育てなければいけない為、非常に手間がかかるのに、転職できない」
- (C) 不満の理由付けは、個々のプレイヤーにより異なる観点から行われる。「エンカウント率が高いため、バトルが多いのに、オートバトルの機能がない」「 LとRボタンが使われておらず空いているのに、オートバトルの機能が割り当てられていない」
合理的なゲームデザインを創るゲームデザインプロセス
上記で書いたことをまとめるなら、
・あるプレイヤーは、合理的でないゲームデザインを不満があるとして評価する。
ということだと言えます。プレイヤーを満足させることがゲームデザインの目標であるとすると、これは、以下を意味します。
・あるプレイヤーにとって合理的でないゲームデザインから発生する不満を解消するには、合理的なゲームデザインが必要である。
したがって、ゲームデザインのプロセスに対する以下の要件があると考えられます。
・ゲームデザインのプロセスは、少なくとも、部分的には合理的なゲームデザインを創るプロセスである必要がある。
ここで「部分的に」としたのは、ゲームデザインの全ての部分、つまり、全てのデシジョン(決めたこと)が合理的である必要があるかどうかは不明のためです。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームデザイナーが決定を行うプロセス、つまり、意思決定のプロセスであると見なせるため、上記の要件は、以下にように言い換えられます。
・ゲームデザイナーは、合理的な意思決定を行わなければならない。
ここで二つの注意の必要な点があります。一つ目は、以下です。
・ゲームプレイヤーとゲームデザイナーは異なるゲームデザインを評価する。
これは、以下の理由のためです。
・ゲームプレイヤーは、ゲームデザイナーが行った全ての決定(デシジョン)を知ることはできない、または困難である。
したがって、
・ゲームプレイヤーにとっては、ある不満に対する合理的な理由付けであっても、ゲームデザイナーにとっては、合理的でない可能性がある。
つまり、たとえば、「オートバトル機能の有無」では、「オートバトル機能が存在しない」のは、ゲームデザイナーが行った合理的な理由付けによるかもしれません。
二つ目として、以下についても注意が必要です。
・ゲームデザイナーが合理的な決定を常に行うことは現実には困難である。
つまり、ゲームデザイナーにとって、合理的である最適なゲームデザインを生み出すのは困難です。というのは、最適である決定を行うために必要となる情報、認知能力、時間などの制約がゲームデザイナーには存在するためです。一般に、意思決定者がこのような制約のもとでしか意思決定を行えないことは、限定合理性(Bounded rationality)と呼ばれます。
ここまでをまとめると、ゲームデザインの合理性の欠如により、ゲームプレイヤーから不満が発生する場合、以下がありえます。
- (1) ゲームプレイヤーにとっては合理的なゲームデザインであるが、ゲームデザイナーにとっては合理的でないゲームデザイン
- (2) ゲームプレイヤーにとっては合理的なゲームデザインであるが、ゲームデザイナーが合理的にできなかったゲームデザイン
項目(1)に関しては、以下が必要となります。
- (a) ゲームプレイヤーを満足させることが目標である場合、ゲームデザイナーが妥協し、プレイヤーにとっての合理性を優先する。
項目(2)に関しては、以下が必要となります。
- (b) ゲームデザイナーが合理的な決定を行えるように支援する仕組み。たとえば、ある決定(「バトル機能がある」「エンカウント率は高めである」)を行った場合、次にどんな決定を行うのが合理的なのか(「オートバトルの機能がある」)を提示するようなシステム。
まとめ
この節では、以下を主張しました。
・ゲームプレイヤーは、ゲームデザインを合理的に評価するため、ゲームデザインのプロセスは、合理的なゲームデザインを創るためのプロセスである必要がある。
ゲームデザインは、ゲームデザイナーによって行われる。しかし、
・ゲームデザイナーが合理的な決定を行うのは容易でないため、ゲームデザイナーの決定を支援するような仕組みが必要である。
ゲームプレイヤーの尊重性
はじめに
この節では、以下を主張を行います。
ゲームプレイヤーは、プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなゲームデザインを期待することがある
ゲームプレイヤーはゲームプレイを通じて、自分に適さない点があるとき、不満を持ち、その解消を期待します。しかし、ある種のプレイヤーは、自分だけに適するような不満の解消をゲームデザインに対して期待するのではなく、他のプレイヤーの好みを考慮するような解消を期待することがあります。ここでは、ゲームプレイヤーのそのような特徴を「ゲームプレイヤーの尊重性」と呼びます。
ゲームプレイヤーの尊重性
ndsmk2さんのところの『ドラクエ9』のレビューを分析していると、次のような不満がありました。
メッセージスピードを変更できない
この不満は、161件のレビュー中10件ありました(2009/8/8時点)。ここで興味深いのは、なぜ、
「メッセージスピードが遅い」あるいは「メッセージスピードが速い」というような、プレイヤー自身に適した不満の表現でないのか
ということです。実際、「メッセージスピードが遅い」という不満は2件ありました。ただし、「メッセージスピードが速い」という不満はありませんでした。
この疑問に対して、3つの解釈を考えました。
- (解釈1) プレイヤー自身の過去の体験からの予測による: 今までのドラクエのシリーズ(全てかどうかは未検証)では、メッセージスピードを変更する機能は存在していた。しかし、今作では、存在していない。そのため、過去の体験のあるプレイヤーは「メッセージのスピードの度合いが自分に適していない」というレベルの不満はなく、「メッセージのスピードが適していなくてスピードを変更したいのに、その機能がなくなっている」というレベルでの不満の表現を行った。
- (解釈2) 実際はプレイヤー自身に適した不満の表現である: 実際に、メッセージスピードの変更が必要な理由がプレイヤーにあったのかもしれない。たとえば、メッセースピードは最初はプレイヤーに適していた。しかし、プレイヤーが慣れるにつれて、メッセージスピードがプレイヤーに適さなくなった。そのため、スピードの変更の必要性があった。
この節で主張したいのは、3つ目の解釈です。
- (解釈3) プレイヤーは、プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなゲームデザインを期待することがある: 自分に適したメッセージスピードは他のプレイヤーには適していないかもしれない。しかし、メッセージスピードをプレイヤー毎にに適するように変更できれば、自分だけなく他のプレイヤーの不満も解消できる。
もちろん、レビューを書いたプレイヤーは、3つ目のようなことを思考して不満を表現したわけではないかもしれません。実際、著者自身もこの「メッセージスピードを変更できない」という不満を持ちましたが、3の解釈ような思考を行ったわけではありませんでした。著者自身は、どちらかというと1の解釈だったように思えます。
しかしながら、3の解釈も適切である、とも言えると思えます。少なくとも、筆者自身は自分の3の解釈に反論はありませんでした。
ここでは、3の解釈に基づくゲームプレイヤーの特徴を「ゲームプレイヤーの尊重性」と呼びます。
次節では、ゲームプレイヤーが尊重性を備えてるかどうかでゲームデザインのプロセスにどのように影響を与えるか議論します。
ゲームデザインのプロセスへのゲームプレイヤーの尊重性の影響
ゲームデザインで難しいことの一つは、プレイヤー間で好みの衝突がある ことです。上記で紹介した「メッセージスピード」の事例は、好みの衝突の事例としては少し分かりにくいため(「メッセージスピードが速い」という不満はなかったため)、別の事例により以下では議論します。
NDSのシミュレーションRPGである「女神異聞録デビルサバイバー」のレビューでは、難易度に関する次のような不満がありました。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429591)
この表から分かるように、「難易度が高い」「難易度が低い」「難易度の選択がない」という不満がありました。
「メッセージスピードの変更をできない」に対応するのは「難易度の選択がない」です。具体的には(a)、(b)、(c)の三つがあります。まず、前節で述べた解釈のどれに対応するのかを考えます。
- (a) 解釈2でないと考えられます。解釈3と見なします。
- (b) 解釈2でないと考えられます。解釈3と見なします。
- (c) 解釈2であると考えます。
この事例をもとに議論していきます。まず、以下のプレイヤーがいると考えてください。
- 「難易度が高い」という不満を持つあるプレイヤーA
- 「難易度が低い」という不満を持つあるプレイヤーB
- 難易度に関する不満を持たないあるプレイヤーC
いるとします。この場合、AとBの間で好みの衝突が起こっています。Aの不満を解消するようにすれば、Bは不満のままです。同様に、Bの不満を解消するようにすればBは不満のままです。また、AかBの不満を解消するようにすることで、Cが不満になってしまう可能性があります。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429592)
この状況を解決する一つの方法は、「難易度を設定できる」というデシジョンを行うことです。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429593)
もちろん、このデシジョンだけで難易度に関するプレイヤーの全ての不満をなくせるわけではありません。たとえば、HARDの難易度は、特定のプレイヤーにとってはまだ満足できるほどの難しさではないかもしれません。しかし、プレイヤー間の好みの衝突はこれで解決できます。
この解決のプロセスで着目したいのは、
デザイナーがプレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを行った
ということです。ここで危惧したい点は、「衝突を解消するようなデシジョンを受け入れるプレイヤー」だけでなく、
衝突を解消するようなデシジョンを受け入れないプレイヤー
がいるかもしれない点です。デザイナーだけの視点では、このようなプレイヤーがいるかどうかを知ることができません。プレイヤーの視点が重要になります。
事例では、「衝突を解消するようなデシジョンを行うプレイヤー」がいることを示し、プレイヤーの尊重性として特徴づけました。しかし、プレイヤーの尊重性は、暗黙的かもしれず、明示的に不満として表現されないかもしれません。そのため、
プレイヤーがプレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを行うかどうか
を知ることが重要になります。
まとめ
この節では、以下の主張を行いました。
ゲームプレイヤーは、プレイヤー間の好みの衝突を解消するようなゲームデザインを期待することがある
また、ゲームデザインのプロセスでは、
プレイヤーがプレイヤー間の好みの衝突を解消するようなデシジョンを行うかどうか
を知ることが重要になることを主張しました。
ゲームプレイヤーによるゲームデザインの新奇性の評価
前提:
- ゲームデザインの定義:コンピュータゲームデザインとは、人を楽しませたり、面白くさせるという目標を達成するために必要であるとして決定した事柄(デシジョン)の集合である。
- デシジョンの種類:ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないなものが存在する。
はじめに
この節では、以下の主張を行います。
(1) あるプレイヤーは、あるデザインが新奇だからというだけで、そのデザインを受け入れない
(2) あるプレイヤーは、新奇なデザインを受け入れない場合、新奇でない既存のデザインを代替案として期待する
事例
『真・女神転生 STRANGE JOURNEY』(以下SJ)は、アトラスのRPGであり、NDSで発売されました。ndsmk2のユーザレビューでは、53件中4件の以下のような不満がありました。
「デビルCO-OP」が楽しくないので、「プレスターン」のほうが良かった。
「デビルCO-OP」とは、SJで新たに採用されたバトルシステムです。簡単に言えば、敵の弱点を突くことで、特定の条件を満たすパーティメンバーが連続攻撃を行ってくれる、というシステムです。
「プレスターン」とは、同じくアトラスから、PS2で発売されたRPGである『真・女神転生III-NOCTURNE』で採用されたバトルシステムです。
戦闘における新システム。このシステムは、敵・味方それぞれのターンにキャラクターの数だけプレスターン・アイコンというものを割り当て、その個数分だけ行動できるようにしたものである。相手の弱点を突いたり何もせずに次のキャラクターに回したりすると、プレスターン・アイコンの消費量が抑えられ、より多くの行動を取ることができるようになるので有利になる。逆に攻撃を無効化されたり吸収されたりするとアイコンが大量に消費されるので、行動できる回数が減って不利になり、最悪の場合プレイヤーが何もできないまま全滅してしまうことさえある。
真・女神転生III-NOCTURNE - Wikipedia
ここでは、システムの詳細は重要ではありません。着目したいのは以下です。
- (1) あるプレイヤーは、あるデザインが新奇だからというだけで、そのデザインを受け入れない:「デビルCO-OP」は、新奇システム(デザイン)ですが、一部のユーザには受け入れられていませんでした。受け入れられなかった理由には、たとえば「パーティ編成の自由度を下げる」などがあります。
- (2) あるプレイヤーは、新奇なデザインを受け入れない場合、新奇でない既存のデザインを代替案として期待する:一部のユーザは、新奇システムの「デビルCO-OP」の代わりに、過去のシステムである「プレスターン」を期待しています。ここで、別の新奇なデザインをプレイヤーが必ずしも期待していないことに注意して下さい。
ゲームプレイヤー間のインタラクションとゲームデザインの適合性
はじめに
ここでは次の主張を行います。
(1) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時において他のゲームプレイヤーに対する不満を持つ
(2) ゲームプレイヤーは、そのような不満の解消をゲームデザインに対して期待する
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームプレイヤー間のインタラクションにゲームデザインを適合させるプロセスである
実例
GREEが提供してる携帯ゲームである『釣り★スタ』に対する以下のような不満がありました。
558 :友達の友達の名無しさん:2010/03/25(木) 02:40:10 ID:uZ7EA8JB0
もうほんと小判うざいわ
なんでグリーはポイント制を導入しないだ
勝ち:3点
負け:0点
棄権:1点×棄権数
こんな感じで景品の目標もポイントで何がもらえるとか何が出てくるとかにすれば
棄権したやつへのペナルティになるし、悪気があったわけじゃない棄権なら軽い減点で済むのに
後、連勝したら勝ち点の数を増やすとかな
もっとゲーム性を上げていかないともたないぞ
ぼったぐりー
559 :友達の友達の名無しさん:2010/03 /25(木) 02:56:23 ID:uZ7EA8JB0
>>558
イライラしててミスったorz
棄権:-1点×棄権数
これで棄権を繰り返す輩はm9(^Д^)プギャー
【GREE】釣り★スタ 12匹目【フロー島ツアー】
『釣り★スタ』は釣りをするゲームです。また、『釣り★スタ』では、プレイヤー同士で釣りのバトルをするイベントが定期的に開催されています。各バトルは、3人対3人で行われます。上記の不満は、バトル参加にエントリーはするのに、放置するプレイヤーに対する不満です。
この実例からは、以下が考察できます。
(1) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時において他のゲームプレイヤーに対する不満を持つ:上記のプレイヤーは、棄権するプレイヤーのプレイ態度に対する不満を持っています。
(2) ゲームプレイヤーは、そのような不満の解消をゲームデザインに対して期待する:上記のプレイヤーは、ポイント制に変更し、棄権するプレイヤーに対してペナルティが与えられるゲームデザインを期待しています。
まとめ
この節では、以下の主張を行いました。
(1) ゲームプレイヤーは、ゲームプレイ時において他のゲームプレイヤーに対する不満を持つ
(2) ゲームプレイヤーは、そのような不満の解消をゲームデザインに対して期待する
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームプレイヤー間のインタラクションにゲームデザインを適合させるプロセスである
メモ
ゲームプレイヤー間での不満発生とその不満度合いは、以下により決まると考えられます。
- (a) そのゲームがどのような性格のプレイヤーによりプレイされているのか
- (b) そのゲームのプレイヤーは、どのような性格のプレイヤーの割合で構成されているのか
なお、ここでは、「性格」と呼びしましたが、「特徴」あるいは「質」と呼んでもよいかもしれません。
ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合性
はじめに
ここでは次の主張を行います。
(1) ゲームプレイヤーは、自身のゲームプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
(2) ゲームプレイヤーの不満は、ゲームデザインとゲームプレイ環境との間の不適合から発生する
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームプレイ環境にゲームデザインを適合させるプロセスである
ゲームプレイ環境とゲームデザインとの間の不適合
『女神異聞録デビルサバイバー』は、NDSでアトラスから発売されたシミュレーションRPGです。以下では、このデビルサバイバーのユーザレビューの具体例を基に、上記の主張を議論します。
レビューで挙げられている不満の一つに以下がありました。
セーブデータが一つしか作れない
この不満は、これを書いている時点の全39件のレビューのうち、12件ありました。なぜこれが不満なのか? 12件中何件かは、不満の理由を書いています。ここでは以下の理由に着目します。
セーブデータが一つでは、家族で共有出来ない。
ここまでを一般化して整理していきます。まず、「家族でゲームを共有出来ない」というのは、ゲームプレイヤーの不満です。
- ゲームプレイヤーの不満: 「家族でゲームを共有出来ない」
この不満は、以下の二つの要素の関係から発生します。
- ゲームプレイ環境: 「ゲームをする家族がいる」
- ゲームデザイン上の決定: 「セーブデータは一つ作れる」
もし、ゲームをする家族がいなければ、上記の不満は発生しません。同様に、もし、セーブデータが二つもしくはそれよりも作れるのであれば、上記の不満は発生しにくいと考えられます。
まとめると、ゲームプレイヤーの不満の発生は、以下のように表現できます。
ゲームプレイヤーの不満は、ゲームデザインとゲームプレイ環境との間の不適合から発生する
また、ゲームプレイヤーを以下のように特徴づけられます。
ゲームプレイヤーは、自身のゲームプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
要素間の関係を以下の図に示します。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429595)
ゲームプレイ環境への適合プロセスとしてのゲームデザインのプロセス
前節では、ゲームプレイヤーの不満は、「ゲームデザイン」と「ゲームプレイ環境」との間の不適合から発生する、としました。不適合を解消するには、「ゲームデザイン」か「ゲームプレイ環境」のどちらかが変わらなければなりません。通常、
ゲームデザイナーはゲームデザインを変更できる
が
ゲームデザイナーはゲームプレイ環境を変更できない
と考えられます。つまり、ゲームデザイナーは、ゲームデザインに適合するゲームプレイ環境をプレイヤーに強制することはできません。
したがって、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけられます。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームプレイ環境にゲームデザインを適合させるプロセスである
ゲームプレイ環境の定義
ここで、ゲームプレイ環境を以下のように定義します。
コンピュータゲームのプレイ環境とは、コンピュータゲームプレイヤーとコンピュータゲームを取り巻く現実世界の空間に存在する人および人工物の集合である
ここで、ゲームプレイ環境は、静的でなく、動的なものであることに注意してください。環境は、プレイヤーの意思とは関係なく変化し、また、プレイヤーの意思により変化します。たとえば、プレイヤーが移動することにより、プレイ環境は変化します。
ゲームプレイ環境は、ゲームプレイヤー、ゲームデザインおよびゲームデザインプロセスを特徴づける重要な要素だと考えられます。このことを明確にするために、ゲームデザインの枠組みを以下の図に示すように拡張します。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429596)
ゲームプレイヤーは、ゲームプレイを、特定のゲームプレイ環境において行います。
まとめ
この節では、以下の主張を行いました。
(1) ゲームプレイヤーは、自身のゲームプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
(2) ゲームプレイヤーの不満は、ゲームデザインとゲームプレイ環境との間の不適合から発生する
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスは、ゲームプレイ環境にゲームデザインを適合させるプロセスである
第3部: ゲームデザインを理解する
ゲームデザインの構造
前提:
- ゲームデザインの定義:コンピュータゲームデザインとは、人を楽しませたり、面白くさせるという目標を達成するために必要であるとして決定した事柄(デシジョン)の集合である。
ゲームデザインとは、デシジョン(決めたこと)の集合であるとしました。ここでは、ゲームデザインを単にデシジョンの集合として見るのではなく、構造であると見ます。
ゲームデザインの構造とは、デシジョンとそれらの間の関係から成るものである。
下記の図は、ゲームデザインの構造のモデルを示しています。
関係には、どのような種類があるのでしょうか? たとえば、一つは「あるデシジョンを行うには、他のデシジョンが行われていなければならない」という関係です。たとえば「レベル制限は99」というデシジョンは「キャラクターのレベルは上がる」というデシジョンがまずなされていなければなりません。
上記の関係は、論理的なものです。しかしながら、他の関係も存在します。たとえば、「セーブは一つ」というデシジョンと「マルチエンディングである」というデシジョンが存在するとして下さい。これら二つのデシジョン間には、先ほどのような論理的な関係はありません。しかし、これら二つのデシジョンの存在は、「他のエンディングを見にくい」というユーザの不満を発生させます。エンディング分岐がある時点でのセーブデータを残せないためです。「不満を発生させる」という意味で言えば、これら二つのデシジョン間には、何らかの関係があると見なせます。ここで、以下のことに注意してください。
- 任意のデシジョンAとBに対して、「不満を発生させる」という関係が存在するわけでない:たとえば、「マルチエンディングである」と「レベル制限は99」にはこの関係が存在しないかもしれません。
結局のところ、なぜ単にデシジョンでなく、デシジョン間の関係を考慮する必要があるのでしょうか? それは、任意のデシジョンの集合、すなわちゲームデザインが、ゲームの目標を達成できるわけではないためです。また、各デシジョンが独立して存在しているわけではないためです。
アナロジーとして、たとえば、部屋にいくつかの家具を配置すると考えみてください。本棚や作業机、テレビなどです。目標は、「快適な」空間を作ることです。ある空間は、どのような 家具を配置するのか、各家具を どこ に配置するのか、といった多数のデシジョンにより作成されます。いくつかのデシジョンは、物理的、あるいは論理的に不可能です。たとえば、本棚と作業机を同じ位置に配置できません。いくつかの空間は、家具間の配置位置の関係により、あまり快適でないかもしれません。たとえば、本棚と作業机が離れていると、資料となる本をすぐに見つけにくいため、作業を行いにくいかもしれません。
ゲームプレイヤーの不満とゲームデザインの構造
はじめに
この節では、以下を主張します。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
- (1) 個々のデシジョンから発生する場合
- (2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
ゲームプレイヤーの不満とゲームデザインの構造
ndsmk2さん のところで、シミュレーションRPGである『デビルサバイバー』の レビュー を分析していると、次の不満があることが分かりました
セーブデータは一つ
この不満を挙げたレビューを詳しく調査してみると、不満となる理由には、いくつかあることが分かりました。以下の図は、不満の理由をまとめて表したものです。
![save_devil.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429599)
図から分かるように、「セーブデータは一つ」ということに対する不満には「家族で共有できない」や「友達に貸せない」などがあります。
以下では、この図をもとに、
「ゲームプレイヤーの不満」と「ゲームデザインの構造」の関係
について考察します。その前に、このドキュメントの定義によれば「セーブデータは一つ」というのは、「決めたこと(デシジョン)の一つ」であり、また「ゲームデザインの一部」であるということを思い出してください。また、ゲームデザインの構造とは、「決めたこと」と「決めたこと」との間の関係から構成されるものを表します。
上記の図から、以下を考察しました。
- (1) ある一つのデシジョンから発生する不満: 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」などは、「セーブデータは一つ」というデシジョンが存在すれば、直接的に発生する不満である。たとえば、以下の図に示すように、NDSのRPGである『ドラゴンクエスト9』(以下ドラクエ9)でも、「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた結果として 「家族で共有できない」や「友達に貸せない」といった不満が発生している。
![save_dq9.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429600)
- (2) デシジョン間の関係から発生する不満: 一方で、「他のエンディングを見にくい」という不満は、「セーブデータは一つ」というデシジョンだけでは発生しない不満である。つまり「マルチエンディングである」というデシジョンが存在しなければ発生しない不満である。
(2)の観点から見れば、最初の図は不適切であると言えます。というのも「マルチエンディングである」というデシジョンが図の要素として表されていないためです。以下の図は、改良前(図の上)と改良後(図の下)を示しています。
![decision_structure.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429601)
改良後の図は、大きく二つの部分から構成されるとして表しています。
- ある一つのデシジョンとそのデシジョンから発生する不満:「セーブデータは一つ」というデシジョンとこのデシジョンから発生する不満
- デシジョン間の関係とその関係から発生する不満:「セーブデータは一つ」と「マルチエンディングである」というデシジョンと、これらのデシジョンの関係から発生する不満
逆の見方をすれば、この改良後の図は、これら二つの部分の合成の結果であるとも見なせます。
![decision_structure_synthesis.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429604)
次に、二つ目の構成部分である「デシジョン間の関係とその関係から発生する不満」の図について少し考察します。いくつかの疑問があるかもしれないためである。一つ目は、以下です。
疑問:「セーブデータは一つ」に対する不満要素(「他のエンディングを見にくい」)関係付け(案1)であり、 「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」という関係に対する関係付け(案2)でないのは何故か?
以下の図は、案1と案2を表しています。
![decision_structure_fig1.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429605)
理由は、以下のような不満の表現はあっても
マルチエンディングなのにセーブデータは一つ
以下のような不満の表現はなかったためです。
セーブデータは一つなのにマルチエンディング
つまり、誤ったデシジョンなのは「セーブデータは一つ」であって「マルチエンディングである」ではないということです。この関係を表すために、案1を採用しました。
二つ目の疑問は、以下です。
疑問:「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」の間の関係に方向性があるのはなぜか。
以下の図は考えられる選択肢を表しています。
![decision_structure_fig2.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429606)
まず、案3を採用しなかったのは、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」とが同等の関係にあるように感じさせるためです。
案1か案2のどちらが適切なのかの判断は難しく思えました。
- 案1は、「マルチエンディングである」は、「セーブデータは一つ」ということに悪い影響を受けているという関係を強調している
- 案2は、「セーブデータは一つ」ということは「マルチエンディングである」に悪い影響を与えているという関係を強調している
と見なせるかもしれません。
ここまでをまとめたいと思います。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
- (1) 個々のデシジョンから発生する場合
- (2) デシジョン間の関係から発生する場合
この考察をもとに、次節では、ゲームデザインのプロセスにどのような影響を与えるのかを考えます。
構造化のプロセスとしてのゲームデザイン
前節では、ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生することを示しました。
- (1) 個々のデシジョンから発生する場合
- (2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、ゲームデザインのプロセスの観点から見れば、行ったデシジョンの適切かどうか、つまりプレイヤーの不満が発生するかどうかは、以下の場合で評価できることを意味します。
- (a) 個々のデシジョン
- (b) デシジョン間の関係
ここで重要なのは、(b)の場合には、デシジョン間の関係付けが必要になることです。通常あるデシジョンが他の どの デシジョンと関係するのかは明らかではありません。しかしながら、関係付けの失敗は、適切な評価を行えないことを意味します。
まとめると
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
と言えます。
以下の図は、「マルチエンディングである」と「セーブデータは一つ」というデシジョンが行われた後のステップを表しています。
![structuring.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429607)
まとめ
この節では、以下を主張しました。
ゲームデザインに対するプレイヤーの不満は、以下の場合に発生する。
- (1) 個々のデシジョンから発生する場合
- (2) デシジョン間の関係から発生する場合
このことは、ゲームデザインのプロセスを以下のように特徴づけます。
ゲームデザインのプロセスにおいては、個々のデシジョンを行うだけでなく、デシジョン間の関係付け、つまり、ゲームデザインの構造化が必要となる
ゲームデザインの構造に対する制約
DSの『セブンスドラゴン』のレビューを読んで、分析していると、不満の一つに次のようなものがありました
モンスター図鑑的な物が存在しないため、敵が落とす素材を集めるクエストで、どの敵が落とすのか把握していないといけない。
これを題材に、ここでは以下の主張を行います。
ゲーム上のある決定は他の決定を要求する構造になっていくのかもしれない。
ここで「ある決定」とは「敵が落とす素材を集めるクエストが存在する」に対応し、「他の決定」とは「モンスター図鑑的な物が存在する」に対応します。「ある決定」が「他の決定」を要求するかどうかは、プレイヤーが不満を抱えるかどうかで決まります。ここで「不満」は「どの敵が落とすのか把握していないといけない」に対応します。
- ある決定: 敵が落とす素材を集めるクエストが存在する
- 他の決定: モンスター図鑑的な物が存在する
- 不満: どの敵が落とすのか把握していないといけない
もっと一般的に、ゲームデザインの観点からは、最初の二つは、『セブンスドラゴン』のゲームデザインの一部としての「決めたこと(決められたこと)」に対応します。三つめは、ゲームデザインとして「決められた」に対するプレイヤーの評価であると見なせます。
- 決めたこと1: モンスター図鑑的な物が存在しない
- 決めたこと2: 敵が落とす素材を集めるクエストがある
- 決めたことに対する評価: どの敵が落とすのか把握していないといけない
以下を考察します。
- (考察1)「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の依存関係が要求されない: 「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定をするためには、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定を先に行なわれていなくてもかまいません。逆も同様であり、「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定をするためには、「モンスター図鑑的な物が存在しない」とう決定を先に行なわれていなくてもかまいません。これは、「ゲームデザインの構造」の節で例にしたような、「レベル制限は99」という決定は「キャラクターのレベルは上がる」という決定が先になされていなければならない、という関係とは異なります。
![dependency_type.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429608)
- (考察2) 決めたことに対する評価に伴う決めたことの関係付け: 考察1では、「決めたこと1」と「決めたこと2」の間には、決定順序の関係がないとしました。しかし、決めたことに対するプレイヤーの評価は、これら「決めたこと1」と「決めたこと2」の間を関係付けます。ここではそのような関係を「不満関係」と呼びます。
![dissatisfaction.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429609)
これらの考察に加えて、以下の前提があるとします。
- (前提)ゲームデザインは、プレイヤーをなるべく満足させなければならない。
ここで「なるべく」としたのは、プレイヤー間で好みの衝突があるためです。
これを前提とすると、さきほどの不満の解消する一つの方法は、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定ではなく、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定を行なうことであると言えます。ここではそのような不満の解消による新たな関係付けを「満足関係」と呼びます。
![satisfaction.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429610)
以上のことから次を結論とします。
- (結論1)ある決めたことに対して、0以上の不満関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在しない」という決定との不満関係がある。
- (結論2)ある決めたことに対して、0以上の満足関係がありうる: 「敵が落とす素材を集めるクエストがある」という決定には、「モンスター図鑑的な物が存在する」という決定との満足関係がある。ただし、「モンスター図鑑 的な物が存在する」という決定以外との満足関係も考えられる。たとえば、「敵が落とす素材を集めるクエストを受けている場合には、マップ上にその素材を落 す敵の情報が直接表示される」といった決定である。
- (結論3)ゲームデザインは、個々の決定だけでなく、決定の構造を選択するプロセスである: 結論2より、ゲームデザインのプロセスにおいては、一つ一つの決定を行なっていくのではなく、一つの決定が他の決定を満足関係の観点から要求するような、決定の構造を選択するプロセスだと特徴付けられる。
これらの結論から、ゲームデザインの実践について何が言えるでしょうか?
ゲームデザインにおいて、不満・満足関係を備える部分的構造を特定することは、有益である。そのような構造は、可能なゲームデザインに対する構造上の制約・指針として利用できる。
つまり、
- (利用法1)制約として利用することで、プレイヤーを満足させられないような誤ったゲームデザインを生み出すことを避けられる。
- (利用法2)指針として利用することで、状況に適するように、プレイヤーを満足させられるゲームデザインを生み出せる。
![constraint.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429611)
![design_recommendation.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429612)
ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合構造
前提:
- ゲームデザインの定義: ゲームデザインとは、人を楽しませたり、面白くさせるという目標を達成するために必要であるとして決定した事柄(デシジョン)の集合である
- ゲームのプレイ環境の定義: ゲームのプレイ環境とは、ゲームプレイヤーとゲームを取り巻く現実世界の空間に存在する人および人工物の集合である
- ゲームプレイヤーは、自身のプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
「ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合性」の章では、
ゲームプレイヤーは、自身のプレイ環境に適合するゲームデザインを期待する
ということを主張しました。
下記の図は、ゲームプレイ環境とゲームデザインがうまく適合していない状況の一例を示しています。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429595)
この章では、ゲームプレイ環境とゲームデザインを関係付けます。関係付けたモノをここでは、「ゲームプレイ環境の適合構造」と定義します。
ゲームプレイ環境の適合構造とは、ゲームプレイ環境を構成する要素(エンティティ)とゲームデザインの要素(デシジョン)との間の適合関係から成るモノである
下記の図は、ゲームプレイ環境の適合構造のモデルを示しています。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429613)
このモデルでは、デザインがプレイ環境に「適合している」という関係ではなく、「適合していない」という関係を強調するモデルです。
図の下部の例は、以下のように解釈します。
「セーブデータは一つ作れる」というデシジョンは、「ゲームをする家族がいる」というプレイ環境に適合していない
ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョン
はじめに
ここでは以下の主張を行います。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないものが存在する。
ここでは、あるデシジョンの区別を、既に知られているかどうかの観点から行います。既に知られているとき、「ルーチン的デシジョン」と呼び、知られていないとき「ルーチン的でないデシジョン」と呼びます。
ルーチン的かどうかの区別の動機は、ゲームデザインが全く新しいもの(デシジョン)のみで構成されるわけでないことを強調することにあります。ゲームデザインは、ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンで構成されます。
ゲームデザインにおいては、しばしば、創造性(クリエイティビティ)が強調され、創造的であることが求められます。創造的であるためには、少なくとも、そのデシジョンはルーチン的であってはなりません。
しかし、ゲームデザインはルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョンから構成されると見なすなら、創造性のみを強調するのは不十分です。ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行なえなければ、ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出せません。
ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョン
ここでは、具体例をもとに、デシジョンをルーチン的なデシジョンとルーチン的でないデシジョンに区別できることを議論します。
ルーチン的デシジョンとは、既に知られているデシジョンのことを指します。一方で、ルーチン的でないデシジョンとは、知られていないデシジョンを指します。たとえば、現代のRPGにおいて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンは、ルーチン的です。一方で、過去に初めて「アイテムの預り所の機能がある」というデシジョンが行われた時、そのデシジョンは、ルーチン的でないデシジョンです。
![decision_type.png](http://megalodon.jp/get_contents/104429614)
あるデシジョンがルーチン的かどうかは、歴史的な観点により決まります。
![historical_decision.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429615)
もちろん、歴史的な観点から判断を行うのは人であり、ある人がある時点まででの歴史上の全てのゲームを知ることは不可能なため、どの時点であるデシジョンがルーチン的になったかは知ることはできません。
ゲームプレイヤーにとってのルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョン
個々のゲームプレイヤーの観点から、あるデシジョンがルーチン的であるかどうかを区別することもできます。
![player_decision.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429616)
あるゲームプレイヤーがプレイを通じて、ゲームに対する不満を持つ時、それはあるゲームデザイナーが行ったデシジョンとゲームプレイヤーが期待するデシジョンとの間のミスマッチが原因です。この時、そのデシジョンがルーチン的かどうかは問題でなく、同様に不満として扱われます。
![decision_mismatch.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429617)
このことから分かる重要なことは、二つの種類のデシジョンが存在すると見なせるということです。つまり、以下の二つです。
- ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン
- ゲームプレイヤーが期待するデシジョン
これまでのデシジョンがルーチン的かどうかの区別は、前者、つまり「ゲームデザイナーが行った実際のデシジョン」を対象としてきました。同様に、「ゲームプレイヤーが期待するデシジョン」もルーチン的かどうかで区別することもできます。
![player_expected_decision.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429618)
また、あるゲームデザイナーにとって、ゲームプレイヤーが期待するデシジョン がルーチン的かどうかも区別できます。
![designer_expected_decision.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429619)
ミスマッチ発生場所の特定
ここまでであるデシジョンがルーチン的かどうかの区別は、以下の3つの観点から行えることを議論しました。
- 歴史的な観点
- ゲームプレイヤーが期待するデシジョンの観点
- ゲームデザイナーに期待されるデシジョンの観点
3つの観点の組み合わせると、以下の表に示すように5つのケースが考えられます。この5つのケースは、上から順に、プレイヤーとデザイナーの間でミスマッチが発生してはならない度合いを表します。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429620)
- (1) 歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的期待される: この場合、ゲームデザイナーは、プレイヤーを不満にせずに済んだのかもしれないのに、不満にしてしまったケースだと言えます。プレイヤーは、ゲームデザイナーが何も分かってない、と思うかもしれません。ただし、もちろん、全てのゲームプレイヤーを満足させることはできません。
- (2) 歴史的ルーチン的/ルーチン的期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、ゲームデザイナーのゲームデザインに対する知識不足が原因で、プレイヤーを不満にさせてしまったケースだと言えます。
- (3) 歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的期待される: この場合、(1)と同様ですが、プレイヤーの不満度合いは低いかもしれません。というのも、プレイヤーは、自身が提案する期待するデシジョンにより作られたゲームをプレイした経験がなく、その妥当性を評価できていないためです。
- (4) 歴史的ルーチン的/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、(2)と同様ですが、単なる知識獲得だけでなく、適切なデシジョンを行う分析能力と創造性がゲームデザイナーに要求されるかもしれません。
- (5) 歴史的ルーチン的でない/ルーチン的でない期待する/ルーチン的でない期待される: この場合、不満を避けるのが最も困難だったケースだと言えます。
この分析の不十分な点は、あるデシジョンに対して、どれだけのプレイヤーが不満を持っているのかを考慮していない点です。多くのプレイヤーが不満を持つほど、ゲームデザインの不適切さを示します。
まとめ
ここでは、以下を主張しました。
ゲームデザインにおけるデシジョン(決めたこと)には、ルーチン的なものとルーチン的でないものが存在する。
ゲームプレイヤーが満足するようなゲームデザインは生み出すには、ルーチン的でないデシジョンを行うだけでなく、ルーチン的デシジョンを適切に行なえなければなりません。
参考
Gero, JS and Kannengiesser, U. Creative designing: An ontological view.
この節を書くにあたっては、上記の論文を参考にしました。特に、ルーチン的・ルーチン的でないという言葉はこの論文から拝借しました。この論文では、ルーチン的でないは、さらに、革新的と創造的に区別されています
ただし、この節の内容とこの論文では焦点が異なります。この節では、プロセスの結果としてのデシジョンに着目しましたが、論文ではデザインのプロセスの観点からも議論がされています。
ゲームデザインの複雑性
はじめに
この節では、以下を主張します。
あるゲームに要求される ゲームデザインは、ゲームプレイヤーのゲームプレイ経験の蓄積に伴い、徐々に複雑になっていく。
たとえば、直感的には、昔のRPGと比べて、現代のRPGは複雑です。ここでいう複雑さは、プレイヤーにとってゲームの操作方法や内容が複雑というのではなく、ゲームデザインの複雑さを意味します
ゲームデザインの複雑さとは、ゲームが備える要素の数と関係の度合いです。たとえば、現代のRPGでは、「隠しボス」や「クリア後の二週目」というような要素があることが昔と比べて多くなっています。そのため、昔のRPGと比べて現代のRPGはより複雑です。また、そのような要素がなければ、現代のプレイヤーが期待するものと違うため、それらは不満点として扱われます。
もし、過去より現代のゲームデザインが複雑であり、現代より未来のゲームデザインがこのまま複雑になっていくなら、複雑性の適切な理解と、その理解に基づいて複雑性を制御していくことが不可欠となります。
ゲームデザインの複雑性
ゲームデザインの構造の違いの観点から、ゲームデザインの複雑性を定義します。
基本的には、ゲームデザインの構造を構成する要素の数と要素間の関係の数として複雑性を定義します。あるゲームデザインbがゲームデザインaより複雑であるというとき、bのほうがaより要素と関係が多いことを意味します。
たとえば、以下の図で示しているように、「RPG b」は「RPG a」より複雑です。bは、aにはない「隠しボスが存在する」という要素(決めたこと)を備えるためです。
また、「隠しボスが存在する」という決定は、さらなる決定を要求します。たとえば、「隠しボスのはスキルAとBを持つ」、「隠しボスを倒すとアイテムXを落とす」などの決定です。
![design_complexity.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429621)
ゲームデザインの複雑性の増大
上記の例で示したように、ある決定、たとえば「隠しボスが存在する」という決定をした後には、さらに決定を行う必要がある場合があります。必要な決定の数が増えるほど、誤った決定を行う可能性も増えます。誤った決定は、プレイヤーにとっての不満点となります。
そのため、プレイヤーの不満を避け、誤りを少なくするために、より複雑でないゲームデザインを目標とするかもしれません。しかし、プレイヤーはゲームプレイの経験の蓄積により、より複雑なゲームデザインを要求するかもしれません。その場合、複雑さを受け入れる必要があります。
たとえば、「隠しボスが存在しない」という決定は、昔のRPGでは許容されたかもしれません。しかし、「隠しボスが存在する」というRPGのプレイ経験を持つプレイヤーにとっては、現代のRPGにおいて、「隠しボスが存在しない」という決定は、受け入れにくいかもしれません。そのため、この決定はプレイヤーにとっての不満点となるかもしれません。
![design_complexity2.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429622)
したがって、複雑なゲームデザインを求めるプレイヤーを満足させていくには、複雑なゲームデザインを適切に創っていける必要があります。
もちろん、全てのプレイヤーが複雑なゲームデザインを求めるとは限りません。しかし、より多くのプレイヤーを満足させることを目標とする場合、複雑さを要求するプレイヤーと要求しないプレイヤーの両方を満足させていく必要があります。
まとめ
この節では、以下を主張しました。
あるゲームに要求される ゲームデザインは、ゲームプレイヤーのゲームプレイ経験の蓄積に伴い、徐々に複雑になっていく。
この主張が適切ならば、以下が言える。
ゲームデザインの複雑さの制御が困難になっていく。
したがって、今後は、
ゲームデザインの複雑性の制御を支援するための仕組みや手法が必要となる。
と言えます。
ゲームデザインの構造特性
ゲームデザインの構造が得られたのなら、構造から何らかの性質・特性を考察することができます。たとえば、ある決めたことは、決めたことの多くとの関係を持つかもしれません。他の分野での例を挙げるなら、たとえば、建物と建物の間の関係です。駅の周辺にある建物の種類や数は、病院の周辺にある建物の種類や数とは異なると考えられます。
対称性
対称性とは、Wikipediaによると次のような性質です。
対称性(たいしょうせい)、又はシンメトリー(Symmetry)とは、ある変換に関して不変である性質のことを言う。
この例では、ゲームデザインの構造には、(局所的な)対称性があるかもしれないということを議論します。
例とするのは、ゲームでの呪文・魔法・スキルの要素です。たとえば、ドラクエでは「メラ」、FFでは「ファイア」、女神転生シリーズでは「アギ」などです。これらある種の呪文・魔法・スキルで共通する点として、以下の二つに着目したいと思います。
- (1)属性でグループ化されている。たとえば、炎系、氷系、雷系など。
- (2)威力の観点から段階的な関係がある。たとえば、メラ、メラミ、メラゾーマ。
これらの点が、要素間の関係となります。したがって、構造を形成します。
具体的には、たとえばペルソナ4では以下です。
アギ系 |
ブフ系 |
ジオ系 |
ガル系 |
アギ |
ブフ |
ジオ |
ガル |
アギラオ |
ブフーラ |
ジオンガ |
ガルーラ |
アギダイン |
ブフダイン |
ジオダイン |
ガルダイン |
ラグナロク |
ニブルヘイム |
真理の雷 |
万物流転 |
FF5では以下です。
ファイア系 |
ブリザド系 |
サンダー系 |
ファイア |
ブリザド |
サンダー |
ファイラ |
ブリザラ |
サンダラ |
ファイガ |
ブリザガ |
サンダガ |
ドラクエ5では以下です。
メラ系 |
ギラ系 |
イオ系 |
ヒャド系 |
バギ系 |
メラ |
ギラ |
イオ |
ヒャド |
バギ |
メラミ |
ベギラマ |
イオラ |
ヒャダルコ |
バギマ |
メラゾーマ |
ベギラゴン |
イオナズン |
マヒャド |
バギクロス |
一方で、ドラクエ4では以下です。
メラ系 |
ギラ系 |
イオ系 |
ヒャド系 |
バギ系 |
メラ |
ギラ |
イオ |
ヒャド |
バギ |
メラミ |
ベギラマ |
イオラ |
ヒャダルコ |
バギマ |
メラゾーマ |
ベギラゴン |
イオナズン |
ヒャダイン |
バギクロス |
|
|
|
マヒャド |
|
構造の特性の観点から、考察したいのは、なぜ以下の事実があるのかという点です。
- (1)ペルソナ4、FF5、ドラクエ5では、ある属性に含まれる魔法の数が同じである。それぞれ、4個、3個、3個。
- (2)ドラクエ4では、ヒャド系だけが、3個でなく、4個の魔法がある。
- (3)ドラクエ5では、ヒャド系が他の属性の数と同じに変更されている。
この観察はある意味では、正しくありません。なぜなら、観察対象とする魔法の属性を制限しているためです。たとえば、ザキ系には、ザキとザラキの二つしかありません。とはいえ、ザキ系が、大きなグループとしてのメラ系、ギラ系、イオ系、ヒャド系、バギ系とは異なり、このグループに属さないというのは直感的に正しく思えます。この点については別の記事で考察します。
これらペルソナ、FF、ドラクエは単なる例です。後に、一般的な考察をするために、以下では、先ほどの表を次のように簡略化した図で議論したいと思います。
![symmetry.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429624)
この図では、丸い図が、魔法・呪文を表します(なお、ドラクエ5については省略しました)。今回の議論では、以下の部分を抽象化(情報のフィルタリング)しています。
- 威力の関係: 各魔法は、威力ごとに丸の大きさを変化させるのではなく、全て同じ大きさで表現しています。
- 属性間の関係: 各属性を四角や三角で区別することなく丸で表現しています。
対称性が観察できるのは、ある属性からある属性への横の関係を見た場合です。ペルソナ4やFF5では、属性の位置を横にずらしても、丸は変わりません。たとえば、「アギ系、ブフ系、ジオ系、ガル系」を「ガル系、アギ系、ブフ系」として横にずらしても、丸の図の部分は同じです。
一方で、非対称性があるのは、ドラクエ4です。横に一つずらすと、異なる図になります。
少し分かりにくいので、図自体を変更してみます。
![symmetry3.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429625)
一般化した図で、対象性・非対称性を含む構造を持つゲームデザイン構造を表すと次のようになります。
![symmetry2.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429626)
![symmetry4.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429627)
対称性の構造を持つゲームをデザインする
図で示したような特性を、対称性と呼んでいいのかは議論の余地があるかもしれません。しかし、何と呼ぼうとも、ゲームデザインの構造上の可変な部分として図で示したような特性があるのは事実です。また、恐らく現在の多くのRPGなどのゲームが、魔法・呪文・スキルについては、対称性を持つようにデザインされているのではないかと思います。
このことからは、次の疑問を生みます。
- (1)魔法・呪文・スキルについて、現在の多くのゲームデザインが対称性を備えているのは、何か合理的な理由があるのか? 何らかの原理に基づいているのか?
- (2)面白い・優れている(といわれる)ゲームのデザインは、魔法・呪文・スキルについて対称性を備えているのか?
- (3)魔法・呪文・スキルといった部分的な構造だけでなく、ゲームデザインの構造の全てが、対称性もしくは、非対称性のどちらかを備えているべきなのか?
第4部: ゲームデザインのプロセスを理解する
繰り返しのプロセスとしてのゲームデザイン
ここでは、以下を主張します。
ゲームデザインのプロセスは、繰り返し行われる
事例
数年前から、ローグライクなゲームを開発しています。素材に関わる部分以外は、ゲームデザインからプログラミング、デバッグ、テストプレイまで一人で担当しています。
この前、ゲームデザイン上の新たな決定(デシジョン)として、プレイヤーが通常攻撃を行なった時の効果音を一つから複数にしてみることにしました。
- 変更前の(部分的な)ゲームデザイン:プレイヤーの通常攻撃が敵にヒットしたときに、あらかじめ決められた効果音を再生する。
- 変更後の(部分的な)ゲームデザイン:プレイヤーの通常攻撃が敵にヒットしたときに、あらかじめ決められた複数の効果音から一つをランダムに選択し、その選択した効果音を再生する。
ゲームデザインを変更しようと思った理由は、そうすれば面白さが増すかな、と思ったからです。しかし、実際に、面白さが増すかどうかは分かりませんでした。
ゲームデザインの変更後、プログラミングを行い、テストプレイして評価を行いました。結果は、特に面白さが向上したとは感じませんでした。
悪いことには、逆に面白さを損なうかもしれないと思いました。理由は、同じ行動(通常攻撃)し、効果音が変わると、何が異なる結果になったとプレイヤーが思ってしまうかもしれないためです。
繰り返しのプロセスとしてのゲームデザイン
上記の事例からは以下が考察できます。
ゲームデザイナーとゲームプレイヤーが同じ人だとしても、実際にプレイするまでは、ゲームが目標とする面白さを達成できているか分からない
別の言い方をするなら、
ゲームデザインの評価とゲームプレイの評価が一致するとは限らない
ということです。
そして、もしゲームデザインの評価では「面白く」、プレイの評価では「面白くない」という不一致が出たのであれば、ゲームデザインのプロセスをやり直す必要があります。
このことからは、
ゲームデザインのプロセスは、繰り返し行われる
と特徴づけられます。
好みの衝突解消プロセスとしてのゲームデザイン
この節では、ゲームデザインには、ユーザ間の好みの衝突を解消するプロセスの側面があることを議論します。
まず、次の前提があるとします。
- (前提1) ゲームをプレイするユーザにとってできる限り面白いゲームを作ることがゲームデザインの目標である。
もちろん、現実的には、面白いという評価基準のみでゲームをデザインすることはできません。コストや時間の制約があるため、これらの制約を無視して面白さのみを追求することはできないません。しかし、ここではこの制約は無視します。
- (前提2) あるゲームの面白さの度合いを評価するのは、そのゲームを プレイした時の特定のユーザ である。
これらの前提を基に、続いて、次の仮定をします。
- (仮定1) 特定の誰か(ユーザ)のみのために ゲームを作るとする。
この場合、ゲームの面白さは、この特定の誰かが評価することになります(前提2より)。評価結果は、次の二つになります。
- (評価結果1) 面白い、もしくは、面白くないところはない
- (評価結果2) 面白くない。
1の場合、ゲームデザインのプロセスは終了となります(前提1より)。
2の場合、次のことが行えます。
- (評価対応) ゲームデザインの修正
- (評価対応a) 悪いと指摘された部分を修正する
- (評価対応b) 面白くなることを期待して修正する
修正後は、評価のプロセスに戻ります。
続いて、最初の仮定を少し変更します。
- (仮定2)特定の二人(AさんとBさん)のために ゲームを作るとする
この場合、仮定1のようなプロセスは行えなくなります。まず、評価のプロセスでは、評価結果が4つ考えられるようになります。
- (評価結果1) AさんBさんとも、面白い、もしくは、面白くないところはない。
- (評価結果2) Aさんは、面白い、もしくは、面白くないところはない。Bさんは、面白しろくない。
- (評価結果3) Bさんは、面白い、もしくは、面白くないところはない。Aさんは、面白しろくない。
- (評価結果4) Aさんも、Bさんも面白しろくない。
1の場合、ゲームデザインのプロセスは終了となります。
2の場合、次の対応が考えられます。
- (評価対応2) Bさんにとって面白くなるように修正する
- (評価対応2-a) Bさんに悪いと指摘された部分を修正する
- (評価対応2-b) Bさんに面白くなることを期待して修正する
3の場合、次の対応が考えられます。
- (評価対応3) Aさんにとって面白くなるように修正する
- (評価対応3-a) Aさんに悪いと指摘された部分を修正する
- (評価対応3-b) Aさんに面白くなることを期待して修正する
4の場合、次の対応が考えられます。
- (評価対応4) AさんやBさんにとって面白くなるように修正する
- (評価対応4-a) AさんやBさんに悪いと指摘された部分を修正する
- (評価対応4-b) AさんやBさんに面白くなることを期待して修正する
仮定1の場合と違い、たとえば、対応2(Bさんが面白くなるように修正)の場合の修正後の評価は、次のようになります。
- (修正後評価結果1) Aさんは面白いままであり、Bさんは面白しろくなった
- Aさん:面白い->面白い(もしくは面白い部分が増えた)
- Bさん:面白くない->面白い(もしくは、面白くなかった部分が減った)
- (修正後評価結果2) Bさんは面白くないまま
- Aさん:面白い->面白い(もしくは面白い部分が増えた)
- Bさん:面白くない->面白くない(もしくは、面白くなかった部分が増えた)
- (修正後評価結果3) Bさんは面白くなったが、Aさんは面白くなくなった
- Aさん:面白い->面白くない(もしくは面白かった部分が減った)
- Bさん:面白くない->面白い(もしくは、面白くなかった部分が減った)
- (修正後評価結果4) Bさんは面白くないままであり、かつ、Aさんは面白くなくなった
- Aさん:面白い->面白くない(もしくは面白かった部分が減った)
- Bさん:面白くない->面白くない(もしくは、面白くなかった部分が増えた)
たとえば、この3番目の項目から分かるように、AさんとBさんの面白さの好みが異なる場合、好みの衝突を解消し、AさんとBさんを同時に満足させるようなゲームデザインの提案は簡単でなくなります。
現実的には、ゲームのプレイする対象が二人というように少ないことはありえないため、衝突の解消はさらに困難となります。
しかし、ある種のこのような好みの衝突はゲームデザイン上の決定として解消できる場合があります。既存のゲームでの代表的な解消方法としては、ユーザ自身が自分の好みを選択できるような機能の導入があります。たとえば、以下のようなものです。
- ゲームの難易度を選択できる機能
- 特定の機能(たとえば音声)のオン・オフを選択できる機能
以上のことから、ゲームデザインの一つの側面は、ゲームをプレイするユーザ間の好みの衝突を解消するプロセスである、といえます。
デシジョン変更とユーザ満足度の保持性
はじめに
この記事では、以下を主張します。
- ゲームデザイン上のデシジョンの変更結果には、以下の二つがある。
- (1)あるユーザを満足させつつ、不満だった他のユーザも満足させるようなもの
- (2)あるユーザを満足させずに、不満だった他のユーザを満足させるようなもの
ゲームデザインのプロセスは、繰り返しのプロセスとして特徴付けられます。これは、ゲームデザイン上の決定(デシジョン)の変更が繰り返し必要になるということです。デシジョンの変更は、そのゲームをプレイするユーザの満足度に影響を与えます。ゲームデザインのプロセスの目標の一つは、できる限り多くのユーザを満足させることであると考えられるため、デシジョンの変更によるユーザの満足度の変化 の理解が重要になります。
この記事では、ゲームデザイン上のデシジョンの変更結果には、以下の二つがあることを述べます。
- (1)あるユーザを満足させつつ、不満だった他のユーザも満足させるようなもの
- (2)あるユーザを満足させずに、不満だった他のユーザを満足させるようなもの
ユーザ満足を保持するデシジョン変更と保持しないデシジョン変更
NDSの『女神異聞録デビルサバイバー』のレビューの79件(2009/5/29時点)を分析した結果、以下の不満は2件ありました。
図で表すと以下のようになります。
![decision_satis.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429630)
以下では、たったの2件の不満ですが、この実例をもとに考察していきます。
この不満を解消する一つの方法は、99999より十分大きな値を設定するようにデシジョンを変更することです。たとえば、二桁増やして9999999などにすることで、解消できると考えられます。
![decision_satis2.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429631)
ここで着目したいことは、このデシジョンの変更は、他の77人(件)のユーザを満足させつつ、不満だった2人も満足させるだろうということです。
![decision_satis3.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429632)
しかし、一般的には、変更後のデシジョンが、元々満足だったユーザを満足させたままとは限りません。そのため、デシジョンの変更結果には、ユーザ満足の保持するかどうかの観点から以下の二つが考えられます。
- (1)ユーザ満足を保持するデシジョン変更: あるデシジョンAからBの変更は、デシジョンAで満足していたユーザを満足させたまま、満足していなかった(一部の)ユーザを満足させる。
- (2)ユーザ満足を保持しないデシジョン変更: あるデシジョンAからBの変更は、デシジョンAで満足していた(一部の)ユーザを不満足にし、満足していなかった(一部の)ユーザを満足させる。この場合、ユーザ間に好みの衝突が発生したといえる。
一つ目の「ユーザ満足を保持するデシジョン変更」を以下の図に示します。
![decision_satis_type1.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429633)
二つ目の「ユーザ満足を保持しないデシジョン変更」を以下の図に示します。
![decision_satis_type2.PNG](http://megalodon.jp/get_contents/104429634)
考察とまとめ
この節では、ゲームデザイン上のデシジョンの変更結果には、二つあることを主張しました。この二つの分類がどんな意味を持つのでしょうか? 一つ考察できるのは、
- (1)あるデシジョンの変更がどちらの種類に分類されるのかが十分に分析されず理解されていない
ということです。理解不足は、ユーザを十分に満足させられない不十分なゲームデザインを生み出すと考えられます。
- (a)ユーザ満足を保持するデシジョン変更であるのに、ユーザを不満足なままにしてしまう。
- (b)ユーザ満足を保持しないデシジョン変更であるのに、元々満足であったユーザを不満足にしてしまう。
また、ある種のデシジョンは、一般的なデシジョンとして扱えると考えられます。たとえば、例とした「マッカの最大値」は、RPGのような所持金があるようなゲームでは、「所持金の最大値」に関するデシジョンとして一般化できます。このデシジョンは恐らくユーザ満足を保持するデシジョン変更として扱えるため、最大値はできる限り大きくしたほうがよいと言えます。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429635)
ただし、以下の考慮が必要です。
- (A)あるデシジョンは他のデシジョンと依存関係を持つため、デシジョン間の関係を考慮して、デシジョンの構造としてユーザ満足の保持性を考える必要があります。たとえば、マッカの最大値が99999なのは、ユーザインタフェースを考慮してのことかもしれません。つまり、表示する桁数が増えるとユーザインタフェースに悪影響を与えるからかもしれません。
ゲームデザインの再利用
はじめに
ゲームデザインが意思決定の結果だとするなら、どんな種類の(部分的な)意思決定結果を再利用できるのでしょうか?
再利用するとは、別の言い方をするなら、新奇性を伴わない行いと見なせるかもしれません。しかし、ある種の再利用は、コストの面などから不可避であるともいえます。事実、既存のゲームの多くが過去のゲームのデザインを明示的・暗黙的に再利用しています。
ここでの課題は、どんな種類のデザイン であれば、適切な再利用かを決める何らかの 基準・原則 を明らかにすることであることです。
ゲームデザインの再利用とは
ゲームデザインの再利用とは、あるゲームデザインの部分的構造を、他のゲームデザインに利用することだと言えます。もちろん、再利用時にはそのまま利用できないかもしれず、修正が必要かもしれません。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429636)
ゲームデザインの再利用の分類
ゲームデザインの再利用は、ゲームのシリーズの観点から以下の二つに分類できます。
- (1)シリーズ内再利用: あるゲームシリーズ内でのゲームデザインの再利用。
- (2)シリーズ外再利用: シリーズ外のタイトル間でのゲームデザインの再利用。
![](http://megalodon.jp/get_contents/104429637)
シリーズの観点から分類を行う理由は、シリーズ内では許されるデザインと、シリーズの外で許されるデザインとでは違いがあるためです。たとえば、ドラクエシリーズで、メラやヒャドといった呪文の種類や名前が何度も使用されるのは、ゲームをプレイするユーザ側からみても違和感はないといえます。しかし、ドラクエとは全然異なるゲームタイトルで、メラやヒャドといった対象を使用するのは、問題があるといえます。
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![](http://megalodon.jp/get_contents/104429639)
シリーズ内再利用の決定要因
ここではシリーズ内でのゲームデザインの再利用を行うかどうかを決定する要因について考察します。再利用を行うかどうかは、開発者の観点とユーザの観点から決まります。
- 開発者の観点からの再利用の決定要因
- ユーザの観点からの再利用の決定要因
ここでは、ユーザの観点からの再利用の一つの要因について考察します。つまり、
- シリーズ内において過去のデザインのどの部分を再利用するかどうかは、過去のゲームをプレイしたユーザを考慮しなければならない。
まずは、開発者の観点からの再利用の決定要因について考察します。
開発者の観点からの再利用の決定要因
再利用を行うかどうかの決定には、様々な要因が関係します。再利用を行うことの利点の一つには、以下が考えられます
- デザイン(意思決定)のコストの削減: 適切なデザインを行う、もしくは、意思決定を行うのは難しい。そのため、過去の部分的なデザイン(決定内容)の品質が悪くないのなら、その部分を再利用することで誤った意思決定を行うリスクを避けられる。
これは、開発者側のビューと言えます。
ユーザの観点からの再利用の決定要因
一方で、ユーザの観点から、ゲームデザインの再利用を観察できます。具体的な例を基にこのことを議論します。
「女神異聞録デビルサバイバー」は、女神転生シリーズの新しいタイトルです。 この記事を書いている時点での、「女神異聞録デビルサバイバー」の全28件のレビューでのユーザの不満を分析した結果には、以下がありました。
悪魔全書は、最近の女神転生シリーズタイトルにおいて導入されているシステムの一つです。
悪魔全書がないことの不満は3件ありました。28件中の3件なので、どのユーザにも共通する不満とはいえないかもしれません。
もちろん、デビルサバイバーにおいて悪魔全書を導入もしくは再利用しなかった何らかの理由があるかもしれません。
- (1)容量の都合: 悪魔全書を導入したかったが容量上の都合でできなかった。
- (2)ゲームシステムの都合: 悪魔全書の導入を検討したが、今作は、従来のRPGとは異なるシミュレーションRPGであるため、悪魔全書の導入はゲームシステム上適切でないと判断した。
ユーザの観点からの再利用の方法
以下を考察できます。
- シリーズの新しいタイトルのデザインの不満は、過去のシリーズタイトルをプレイしたユーザかどうかよって異なる。
したがって、
- ゲームデザインを再利用するかどうかの決定は、開発側の観点からのみ考慮されるのではなく、過去のシリーズタイトルをプレイしたユーザの観点からも考慮されなけばならない。
もちろん、この考察は、考慮されなければならい、といっているだけでどうすればいいのかの具体的な指針を提供していません。一ついえるのは、通常、
- 過去のシリーズタイトルをプレイしたユーザにとっては、今までのシリーズで導入されていたデザインが再利用されなかった 理由が分からない
ということです。そのため、ユーザに納得してもらうためには、
- 開発者側は、デザインを 再利用しなかった根拠 を明確にする
ということが必要かもしれません。
付録
ゲームの定義例
『ゲームの教科書』では、ゲームを次のように定義しています。
人間が、或る一定のルール(規則)にのっとって目的にむかってなにかを行い、その結果によって優劣を競うもの。ただし、楽しみのためだけに行うこと。
『「おもしろい」のゲームデザイン』では、ゲームを次のように表現しています。
脳の働き方を調べて、私は自分なりの答えを見つけました。文献によると、脳は非常にどん欲にパターンを食い続けていく代物で、いわば柔らかくて丸々と太った灰色のパックマンみたいなものなのです。つまりゲームとは、食べると特においしい味がするパターンに他なりません。
『Rules of Play』では、ゲームを次のように定義しています。
A game is a system in which players engage in an artificial conflict, defined by rules, that results in a quantifiable outcome.
ゲームデザインの定義例
ゲームデザインのプロセスの定義例
『ゲームデザイナーの仕事』では、ゲームデザインを次のように定義しています。
ゲームデザインとはプレイヤーとの信頼関係を築く作業である。
また、ゲームデザインとは以下の3つの作業に大きく分かれるとしています。
これら作業をまとめたものをゲームデザインと呼んでいます。
「企画」「システムデザイン」「バランス調整」の3つの段階をまとめて「ゲームデザイン」と呼ぶ。
『ゲームデザイン脳』では、ゲームデザインを次のように言っています。
ただし、そういうことがたびたび起きるのは偶然ではない。そういう楽しい迷いが適度に起きやすい仕組みやルールがあるから、必然的に起きたのだ。
そういう仕掛けやルールを決めることをゲームデザインと呼ぶ。
ようするに、ゲームデザインというのは、ドキドキワクワクする状況を見つけ出し、なぜそれが楽しいのかを考え、その楽しさを他人がわかるように再現することだ。
『「ヒットする」のゲームデザイン』では、ゲームデザインを次のように定義しています。
ゲームデザインとはゲームのデザインの進化をコーディネートするプロセスである。
『Rules of Play』では、ゲームデザインを次のように定義しています。
Game design is the process by which a game designer creates a game, to be encountered by a player, from which meaningful play emerges.
参考文献とリソース
更新履歴
- 2012.04.08 : 「ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合性」を更新。
- 2010.07.28 : 「ゲームプレイヤー間のインタラクションとゲームデザインの適合性」を追加。
- 2010.05.22 : 「付録」を追加。
- 2010.01.14 : 「ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合構造 」を追加。
- 2009.12.25 : 「ゴールとスコープ」を更新。
- 2009.12.24 : 「ゲームプレイ環境とゲームデザインの適合性」を更新。
- 2009.12.23 : 「繰り返しのプロセスとしてのゲームデザイン」を更新。
- 2009.12.23 : 「目的とスコープ」を更新。
- 2009.12.22 : 「このドキュメントの構成」を更新。
- 2009.12.21 : 「ゲームプレイ環境」「コンピュータゲームデザインの枠組み」を追加。
- 2009.12.20 : 「コンピュータゲームのデザインプロセス」を更新。
- 2009.12.16 : 「人工物としてのコンピュータゲーム」を更新。
- 2009.12.11 : 「ゲームデザインとは」を更新。
- 2009.12.08 : 「ゲームデザインの構造」を更新。
- 2009.12.06 : 「ゲームプレイヤーによるデザインの新奇性の評価」を追加。
- 2009.12.03 : 構成をちょっと変更。「コンピュータゲームデザインの枠組み」を更新。
- 2009.11.30 : 「はじめに」「このドキュメントの読み方」を更新。
- 2009.11.18 : 「はじめに」を更新。
- 2009.09.18 : 「ゲームプレイ時におけるプレイヤーの好みの変化」に事例を追加。
- 2009.09.10 : 「ゲームプレイヤー自身によるゲームの目標設定」を追加。
- 2009.08.20 : 「ゲームプレイ時におけるプレイヤーの好みの変化」を追加。
- 2009.08.19 : 「ゲームプレイヤーの不満とゲームデザインの構造」を追加。
- 2009.08.08 : 「ゲームプレイヤーの尊重性」を追加。
- 2009.07.24 : 「ゲームプレイヤーによるゲームデザインの探索」を追加。
- 2009.07.18 : 「ルーチン的デシジョンとルーチン的でないデシジョン」を追加。
- 2009.06.17 : 「ゲームデザインの合理性」を追加。
- 2009.06.07 : 「ゲームデザインとゲームプレイ環境」を修正。「ゲームデザインの複雑性」を追加。
- 2009.06.01 : 「デシジョン変更とユーザ満足度の保持性」を追加。
- 2009.05.17 : 「ゲームデザインの再利用」を少し修正。
- 2009.04.14 : 「コンピュータゲームとは 」を追加。
- 2009.04.01 : 「ゲームデザインの構造に対する制約」を追加。
- 2009.02.17 : 「繰り返しのプロセスとしてのゲームデザイン」を追加。
- 2009.02.09 : 「ゲームデザインとゲームプレイ環境」を追加。
- 2009.02.02 : 「ゲームデザインの再利用」を追加。
- 2008.12.24 : 「対称性」のネタを追加。
- 2008.11.29 : 執筆開始。
todo/memo
- 原理を導く
- デザインプロセスを導く
- デシジョンの違いが、プレイスタイルの制約になる
- コンピュータゲームの定義が荒い
- プラットフォーム(ハードウェア・インタフェース)、ジャンルなどが制約要素になることを書く。
- デザイン=プロセスに思われる
- 体系的デザインや品質確保
- デザインの評価は、ユーザの過去のプレイ体験を伴う。リメイクについては、リメイク前と後での評価が行われる。
- the big model