発信箱:声帯を震わせ続けよう=小国綾子(夕刊編集部)
毎日新聞 2012年11月27日 00時16分
ジョージ・オーウェルの小説「1984」には「ニュースピーク」という架空の言語が登場する。小説の舞台の全体主義国家は、国民の使う語彙(ごい)の数や意味を厳しく制限し、反体制思想につながりかねない言葉を次々消していく。言葉が簡略化されてしまった国では、思想までもが貧しくなっていく−−。
「今の日本も同じ。言葉の力がひどく弱っている」と危惧するのは専修大の岡田憲治教授だ。著書「言葉が足りないとサルになる」「静かに『政治』の話を続けよう」の主張は明快。「うぜえ」「ちょーやばい」のような幼児語は使うな。批判された時「上から目線じゃね?」「ディスられた」で片付けるな。「いいね!」ボタンを押す代わり、時には「違うよ」と突っ込もう。他人と理解し合うには、相手との摩擦や葛藤で心にたくさんのカサブタを作ることが必要なんだよ……。ちなみにこの人、言語学者ではない。言葉が幼児化することで思想が貧しくなり政治が劣化することを憂える政治学者なのだ。
先日、岡田さんと「政治をめぐる嫌いな言葉」を選んでいて、意見が一致したのが「選挙で△△党におきゅうをすえる」。この国の課題はもはや「おきゅうをすえる」だけじゃ解決しないのに、と。投じた1票は、厳しい現実となって自分の身に降りかかる。
政権交代から3年。「投票したい政党がない」と多くの人がいう。岡田さんは「現実をつくるのは言葉。中身のない『野合』も『第三極』と名付けられれば志を同じくする集団のように見えてしまう。大ざっぱな言葉は使わず、丁寧な言葉で政治を語ろう。黙らず、声帯を震わせ続けよう」と呼びかける。
借り物の言葉に頼らず、政治を語りたい。