社説:自民の「国防軍」 名称変更の意図を疑う
毎日新聞 2012年11月27日 02時31分
自民党の「国防軍」設置公約をめぐり、民主、自民両党が激しい応酬を繰り広げている。
自民党は、衆院選の「政権公約」で憲法改正をうたい、「国防軍の設置を規定」と宣言している。
同党は今年4月に決めた「憲法改正草案」で、戦力不保持・交戦権否認を定めた憲法第9条2項の表現を削除し、代わりに「国防軍を保持する」などの項目を設けた。自衛隊を国防軍と明記して位置付け直すのが狙いで、これを公約に盛り込んだということなのだろう。
この公約について野田佳彦首相は「名前を変えて中身が変わるのか。大陸間弾道ミサイルを飛ばす組織にするのか。意味がわからない」と批判した。これに対し、自民党の安倍晋三総裁は「憲法9条を読めば、軍は持てないという印象を持つ。詭弁(きべん)を弄(ろう)するのはやめるべきだ」と反論した。民主、自民両党幹部からも同様の批判や反論が相次いでいる。
自衛隊を国防軍と名称変更する積極的意義は、確かに不明だ。安倍氏は国防軍設置に合わせ、「そのための組織を作り」、武器使用基準など戦闘行動要領を定めた交戦規定(部隊行動基準)を整備すると語った。
しかし、日本の防衛戦略である専守防衛を基本に、現在の交戦規定の一層の充実が必要だというなら、国防軍に名称変更しなくても対応できる。そして、国際社会では自衛隊はすでに軍隊と認識されている。
1954年に設置された自衛隊は、侵略戦争の経験を踏まえてあえて「軍」の表現を避けて名付けられた。「軍」の復活はかつて日本が侵略したアジア諸国に、よけいな反発を呼び起こしかねない。
名称変更には、その先に、他国並みの軍隊に衣替えしようという意図があるのかもしれない。日本は今、自衛権行使についても限定的に解釈している。もし、改憲による国防軍設置によって、専守防衛の原則を取り払い、自衛隊の攻撃能力を向上させることを目指しているとすれば、重大な戦略・政策の変更となる。
こうした疑念が湧くのも、安倍氏が自民党「タカ派」の代表格と見られているからである。
国防軍構想には他の党からも批判が出ている。自民党が選挙の支援を受け、衆院選後の連立相手に想定している公明党の山口那津男代表は「定着している自衛隊という名称を変える必要はない」と述べた。日本維新の会の橋下徹代表代行も「(自衛隊の)名前を変えるのは反対だ」と語った。
かつて自民党は「自衛軍」を提唱したことがある。「軍」に執着があるようだ。今回の安倍氏らの正確な意図は不明だが、単純な名称変更なら、それこそ必要ない。