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Project member 建築家 太田浩史氏 × 東芝エレベータプロジェクトチーム |
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かたや『機動戦士ガンダム』シリーズに登場する架空の月面都市を緻密にシミュレーションしてみせた建築家の太田浩史氏とCG制作を担当した福島慶介氏。かたや世界一の超高層ビル「TAIPEI
101」に世界最速エレベーターを納入する東芝エレベータの長谷充生、前田真吾、渡部正人ら技術陣。これは専門家たちがタッグを組んで、未来の月面都市交通を構築するプロジェクトである。低重力環境における垂直/水平交通にはどのような困難と可能性が待っているのだろうか。 |
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1979年の開始以来、現在も根強い人気を誇るSFアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズ。昨年末に出版された『機動戦士ガンダム公式設定集
アナハイム・ジャーナル U・C・0083‐0099』は、その緻密な世界観に基づき、作中に登場する企業のPR誌という体裁を装ったユニークな1冊だ。架空の広告ページなども混ぜながら、あたかも「ガンダム」の世界が実在するかのごとく構成される。そこで宇宙建築や都市計画的な観点を踏まえながら、架空の月面都市「フォン・ブラウン市」を丸ごと再構成してみせていたのが、建築家の太田浩史氏と福島慶介氏だった。
今回のプロジェクトはこの太田・福島両氏と東芝エレベータの技術陣によるコラボレーションで、月面都市の交通手段と融合した月面エレベーターをデザインしようとするものだ。重力が地球の6分の1という環境で、快適な交通を実現するためには何が必要か。思わぬ障壁にぶつかりながらも、低重力環境での未来のエレベーターが徐々に姿を見せはじめた。 |
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今回想定した月面都市は次のようなものだ。直径約6km(山手線の内側程度)の広さの地下都市で、上下5層、各層当たり約240mの高さを持つ。そしてこの重層構造の都市を垂直に貫く巨大な建物があり、その内部もしくは壁面をエレベーターで移動できるようにする。
最初に問題となったのは、垂直方向のエレベーター機能と、各層の平面を巡回するトラム(路面電車)の機能を継ぎ目なく融合し、この都市を垂直・水平どちらの方向にもスムーズに移動できる交通手段を考えることだった。
太田氏の提案は、エレベーターのケージ(かご)がそのまま市街に繰り出していくような乗り物を考えようというものだった。
「水平方向はリニアモーターカーのような、ケージが独自の駆動を持つ自走式のエレベーターになるでしょうね」(渡部)。
「水平に走っているものが垂直方向のシャフトに吸い込まれていくとすると、球体のような形状が合理的かもしれない」(長谷)。
セッションを進めていく中で、まずはケージそのものの形状が見えてきた。
軌道上を浮上走行する、3m大の球状のケージ。1ユニットはおよそ6人乗りで、ロープウェイや観覧車のゴンドラのようなものだ。乗客を支えるのは、クッション付の腰掛けバー。内壁に投影された地図から目的地をタッチすると、自動的に行き先まで連れて行ってくれる仕組みだ。 |
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球形ケージの水平方向の駆動源については、リニアモーターカーをベースに進められたが、長谷氏から興味深い案が出る。レーザー推進である。
レーザー推進とは、物体にレーザー光線を照射することで移動させる技術だ(注参照)。レーザーというと光源のイメージしかないが、現在は宇宙エレベーターや人工衛星の打ち上げ分野で実用化に向けて研究が進められている。ターゲットにレーザーを照射するだけで、エンジンも燃料も必要としないため、資源の大幅な節約とコストの低減が期待されているという。
このレーザー推進を今回のケージの駆動源に採用した場合、水平移動は言うまでもなく、垂直移動の推進力にも応用できそうだ。福島氏から、球型のケージの底面を安定させるため、三本足の突起状のレーザーコーンユニットを付け加える案も提出された。
「レーザー推進はその技術的な先進性もさることながら、未来的な景観にも大きく貢献するはずです」と太田氏。透明な球体が底面からレーザー光を発しながら空中を疾走するさまは、月面都市の夜景にさぞかし映えるはずである。 |
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実際の乗り降りについてはどうか。停留所の形態については、停車時にレーンの横にふくらんだ退避路に逸れる「地上走行・退避路停車式」、ケージが一段上に浮き上がって停まる「地上走行・浮上停車式」、そして高架を走るケージが一段下に下がって停車する「浮上走行・降下停車式」が提案された。
しかしメインのトラフィックを遮断せずに停車、乗り降りができ、しかも必要に応じて高速・遠距離走行に移行できるという条件を考え合わせて、最終的には「ストリーム方式」とでも呼べる案に落ち着いた。これは川の流れのように岸側ほどゆっくり、中心ほど速く進む複数の車線からなるもので、沿道もしくは停留所のすぐ横の低速レーンには、空のケージをいわゆる「動く歩道」程度のスピードで流す。乗客がスキー場のロープウェイを待つようにしてケージに乗り込み、目的地を指定すると、ケージは必要に応じて中速・高速レーンへと自動的に車線変更しながら進んでいくのである。 |
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