「百人一首」といえば、歌かるた。家庭や学校などで、一度は遊んだ経験がある方も多いのでは。お正月のみやびな遊びのイメージですが、実は老若男女が楽しめる「知的なスポーツ」。認知症の予防にも効果が期待できるといいます。
◇
東京都文京区にある「かるた記念大塚会館」を訪ねた。「会員は小学4年から83歳までの約80人」と、1904(明治37)年から続く「東京東(あづま)会」会長の松川英夫さん(69)。この道で知らない人はいないという段位10段、最高位の「名人」を9期務めた競技かるたの「永世名人」だ。「19歳からはじめ、50年間ずっと現役。体力、知力を保ち続けることが欠かせない」
競技かるたは「五七五七七」の和歌を「五七五」の「上の句」、「七七」の「下の句」に分け、「下の句」だけが書かれている札をいかに早くとるかを競う。100枚全て暗記することは大前提。その上で「決まり字」と呼ばれる、「下の句」が特定できる言葉が読まれた瞬間に札がとれるよう練習する。
コツは「決まり字」を覚えること。「き」で始まる歌でみると3首ある。(1)「きみがため はる〜」(2)「きみがため をし〜」(3)「きりぎりす〜」と続く。2文字目に「り」が読まれれば(3)がとれるが、「み」だと6文字目まで(1)か(2)か分からない。試合が進むと、さらにこの「決まり字」自体が変化する。
たとえば(1)が読まれた後は、(2)の「決まり字」は(3)と区別できる2文字目の「み」に。何が読まれ、何が読まれていないか。上級者は、100枚の流れをすべて把握しているという。
◇
元東海大教授(工学博士)の津久井勤さん(74)らは「決まり字」を音としてとらえる実験を試みた。大学かるた会に在籍する27人と一般学生12人の頭にセンサーを巻き、2種類の音を聞き分けてボタンを押してもらった。すると、競技者の方が早くボタンを押し、脳内の血流増加も早いことがうかがえたという。「競技かるたは集中力がつく。脳が活性化し、認知症予防などの波及効果も期待できる」
実際にお手合わせを願った。相手は佐藤貴久江さん(64)。46歳から始め、51歳でクイーン戦に挑むことができるA級(4段)に昇格した。こちらはどうにか100枚覚えている程度だが、反応なら負けないはず、と前のめりになった。いざ……。
しかし、手が動かないうちにとられてばかり。それでも数枚とれたと喜んでいると、「3割ぐらいの力かな」と佐藤さん。約1時間、汗ばんだ記者の目の前で、涼しげに笑っていた。
佐藤さんには当初、肩痛があった。「かるたに集中することで気分転換になった。以来、病院にも行っていないし、薬も飲んでませんよ」
たかがかるたと言うなかれ。みなさんも、お正月に向け、ひと汗かいてみませんか。(藤島真人)
◆インフォメーション
全日本かるた協会のサイト(http://www.karuta.or.jp/)では、競技かるたのルールや最寄りのかるた会、大会情報などが確認できる。協会によると来年1月の名人戦・クイーン戦(滋賀・近江神宮)は、14連覇中の西郷直樹・永世名人が出場を辞退したという。そのため、東西の挑戦者が名人位をかけて争う。