<関電値上げ>産業界に打撃 4社追随見通し
毎日新聞 11月26日(月)21時38分配信
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電気料金の値上げを申請し、会見する関電の八木社長(右から2人目)=大阪市北区で2012年11月26日、望月亮一撮影 |
関西電力が26日、電気料金の値上げを申請した。九州電力も27日に申請、東北、北海道、四国各電力も追随する見通し。今後の焦点は値上げ申請の審査に移るが、電力5社の値上げの影響は産業界にとって甚大で、全国各地に生産や営業の拠点を持つ企業は、東電に続く大幅値上げになる見通し。海外勢との競争が激化するなか商品価格への転嫁もままならず、業績への影響は避けられない企業も多いと見られ、産業界は危機感を強めている。
【関電が申請】家庭向け11.88%値上げ申請 33年ぶり
◇審査は人件費が焦点…妥当性
関西電力が平均11.88%の家庭向け電気料金値上げを申請したことを受け、政府は今後、値上げが妥当かどうかの審査に入る。関電は人件費の大幅カットなどを強調して理解を得たい考えだが、世論の反発は強いだけに、値上げ幅がどれだけ圧縮されるかが焦点となる。ただし関電の申請は現在停止中の高浜原発3、4号機が来年7月に再稼働することが前提で、安全性に関する原子力規制委員会の判断次第では、追加値上げの可能性も残っている。
「徹底した経営効率化を大前提としたうえで、(値上げを)申請した」。関電の八木誠社長は26日午後、資源エネルギー庁の高原一郎長官を訪問し、合理化に最大限取り組む姿勢を強調した。
経済産業省は29日、有識者らによる専門家委員会を開催。27日に値上げ申請する九州電力と合わせて、原価に当たる人件費や燃料費などでさらに削減余地がないかを精査する。来年1月28日には利用者が意見を述べる公聴会も開かれる。
このほか、内閣府の消費者委員会も専門調査会を開いて、消費者の立場から申請を検証する。最終的には経産相と消費者担当相が協議した上で、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催し、値上げ幅を判断。一連の審査の標準期間は4カ月程度とされる。
審査で焦点となるのが人件費だ。9月に値上げを実施した東京電力は申請時の値上げ幅が平均10.28%だったが、人件費を中心に圧縮された結果、認可時には同8.46%になった。関電は、経産省の査定基準に基づき、今後3年間の正社員の平均年収を11年度比16%減の664万円と従業員1000人以上の大企業並みに抑えた。経産省は「東電は公的資金が投入されたため人件費をさらに削減した。他の電力会社とは別」と、おおむね妥当とする可能性が高いが、消費者庁などが強く反発すれば、さらなる削減を求められる可能性もある。また、値上げの原価には政府の「40年廃炉原則」に引っかかる美浜原発の資産を計上しており、今後議論になりそうだ。
また、関電が値上げの前提とする高浜原発の再稼働は、規制委の判断基準が定まっておらず、大幅にずれ込む可能性がある。関電は、原発が全基稼働しない場合、「今回の申請の倍の値上げが必要」としている。【丸山進、小倉祥徳】
◇鉄鋼、自動車 コスト増、深刻…企業
東京電力に続く、関西電力や九州電力など5電力の値上げは、東電の値上げや円高で価格競争力が低下し収益悪化に苦しんでいる企業に追い打ちをかけることになる。
日本鉄鋼連盟の友野宏会長(新日鉄住金社長)は21日の定例記者会見で、関電など5電力の値上げは鉄鋼産業全体として900億〜1000億円のコスト増になるとの試算を公表し、「(鉄スクラップを原料に電気炉で鉄鋼を生産する)電炉メーカーにとっては廃業勧告だ」と訴えた。九州に生産をシフトしている自動車業界にも頭の痛い話で、ある大手幹部は「我々は簡単に価格転嫁できないが、電力会社の『お金が足りないから値上げします』という姿勢は民間企業とは思えない」と非難した。
関西電力管内に主力拠点を置く企業への影響も大きい。パナソニックは、年間約500億円の電気代のうち関電管内での負担が6割を占める。単純計算では値上げで約60億円のコスト増。津賀一宏社長は26日、記者団に「簡単には消費電力を減らせず、工場の移転もできず(悪化した業績を)挽回できなくなる」と懸念を示した。
シャープも関電管内で年間10億〜20億円程度のコスト増になると試算する。全事業所の照明をLED(発光ダイオード)に切り替えるなど節電対策を進めるが、町田勝彦相談役は「値上げの影響は当然ある。さらなる節電などコストを抑える努力をしないといけない」と語る。
中小企業にとっても影響は深刻だ。大阪府大東市のばね製造会社「富士発条」は、年間の電気代が約400万円。今夏は電気炉の稼働を間引くなどの努力をしたが、山中善博社長は「2割値上げは非常に厳しい数字」と不安を隠せない。「わずかでも電気代を減らす自衛策を、何とか考えないと」と話した。
大阪商工会議所の佐藤茂雄会頭は「電力会社の経営が厳しいのは、国のエネルギー政策の混迷のせい。国も値上げをどれくらい抑制できるか考えてほしい」と注文を付けている。【鈴木一也、高橋慶浩、大久保陽一】
◇使うほど上げ幅大きく…家庭
関電は家庭向け電気料金の値上げを申請したが、値上げ額は使用量や契約内容によって異なる。一般家庭の9割近くが契約する「従量電灯A」の場合、値上げ幅は使用量に応じ6.01〜13.80%で、使用量が300キロワット時の標準的な家庭の場合、値上げ額は月599円(8.8%増)となる。
従量電灯Aの場合、現行では最低料金(325.13円)に加え、電気の使用量が120キロワット時以下(第1段階)の場合は1キロワット時当たり19.38円▽120キロワット時を超えた部分は300キロワット時まで(第2段階)が同24.54円▽300キロワット時超(第3段階)は同25.88円となっており使用量に応じ単価が高くなる仕組みだ。
今回は、最低料金が14.02円(4.3%)、第1段階で1.21円(6.2%)、第2段階で2.54円(10.3%)、第3段階で4.74円(18.3%)の値上げで、多く使うほど、値上げ幅が大きくなる。一方、オール電化住宅で多く利用されている料金プラン「はぴeタイム」は標準ケースで17.11%の値上げとなり、従量電灯Aより値上げ幅は大きくなった。【安藤大介】
【キーワード】電気料金の値上げ
契約電力50キロワット未満の家庭向け電気料金は国の規制対象。石油や石炭など発電用の燃料価格の変動を毎月の料金にじかに反映させる制度とは別に、原価を見直す本格的な料金改定は経済産業相の認可が必要になる。燃料費や人件費などの原価に一定の利潤を上乗せした金額から電力会社が算定して国に申請。有識者による専門委員会の審査などを経て認可されると、周知期間を経て一斉に改定が実施される。今年5月に10.28%の値上げを申請した東電の場合、値上げ幅は最終的に8.46%に圧縮された。契約電力50キロワット以上の企業向け料金は既に自由化されており規制の対象外だが、電力会社が顧客企業の理解獲得に努めつつ同時に値上げするのが一般的だ。
最終更新:11月27日(火)8時10分
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