特集ワイド:訂正続き、信頼失墜 放射性物質拡散予測地図 「最悪」想定、もっと公開を
毎日新聞 2012年11月26日 東京夕刊
原子力規制委員会が公表した全国16原発の事故時の放射性物質拡散予測地図に、専門家や地元自治体から批判が相次いでいる。度重なる訂正で信頼を失ったばかりでなく、複雑な試算方法が影響を小さく見せているというのだ。公表されたのは膨大なデータのごく一部で「もっと公開を」との声も出ている。【柏崎通信部・高木昭午】
◇「風吹く回数により試算値無視」「最高値避け平均で計算」
地図は、国の原子力災害対策指針に基づき原発周辺自治体(21道府県135市町村)が策定する地域防災計画の「参考情報」として公表された。福島第1を除く16原発について(1)福島第1の1〜3号機と同量の放射性物質を放出(2)全原子炉内の放射性物質を福島第1と同じ割合で放出−−の2通りを想定。昨年の気象データを用い、国際原子力機関が定める緊急避難の判断基準(事故後1週間の累積線量が100ミリシーベルト)に達しうる地点(以下「100ミリシーベルト地点」)を16方位のそれぞれで、(1)(2)2種類の地図上に示した。
注目されたのは、事前に避難を準備する範囲を、従来の原発8〜10キロ圏から30キロ圏(緊急防護措置区域=UPZ)に拡大した新指針との整合性だ。結果的には0・2〜10・2キロオーバーした4原発を除く12原発の被ばく地点はUPZ内。規制委は「地形を考慮していないなど信頼性に限界はあるが、安全を見込んだ予測。防災計画作りの目安にしてほしい」としている。
ところが−−。「放射性物質の影響は(予測地図より)もっと遠くに及ぶ恐れがあります」。そう指摘するのは滋賀県琵琶湖環境科学研究センター環境監視部門長の山中直さん。滋賀県が美浜など4原発の放射性物質拡散を予測した際、データをまとめた研究者だ。どういうことか。「規制委の試算方法だと、年間に風が吹く回数の少ない方向で100ミリシーベルト地点が原発に近く見えたり、地図から消えたりしているのです」
例えば、事故の影響が全国最大とされた新潟県の柏崎刈羽原発。最も遠い100ミリシーベルト地点は「東方向に40・2キロ(長岡市内)」だった。その決め方はこうだ−−。
同原発で昨年、東向きの風が吹いたのは1年8760回(24時間×365日)のうち約960回(公表済みのグラフから推定)。その全回で0・2〜99・9キロ間の20地点の累積線量を試算。その際、高い方から数えて1〜261位の試算値は「極端な気象条件による」として無視した。各地点の262位の値を調べ、累積線量が100ミリシーベルトになる地点が40・2キロだった。