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日本の音楽に自由を!:「元JASRAC」作曲家・穂口雄右が語る、著作権問題とその元凶

 
 
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TEXT BY YUJI NAKAI



キャンディーズに込めた思い


──音楽をよりよい環境で楽しむために、どんな未来図を描いてますか?

うーん……何しろテレビの力が大きいのでね。テレビ局が使う楽曲を選ぶ編成権を、自分のところの権利優先では選ばせないようにしなきゃいけないっていう点がまず大きなポイントです。だって日本国民が音楽に触れる機会ってのは圧倒的にテレビなんですから。アメリカには日本と違ってテレビ局がいっぱいあって、視聴者は観たいテレビ局を選べます。でも日本では選べない。東京でNHKと民放6社、地方に行ったらもっとチャンネル数が少ないですよね。この状態がよくないなんですよね。そのチャンネル数が少ないところに加えて、大新聞も民放キー曲に乗っかって電波も押さえちゃってるときてる。こういう構図が諸悪の根源。

──メディアの寡占状態がいろんな障害をもたらしている、と。法改正より大事なことはメディアの意識改革ですか?

そうです。だから日本は不自由でしょうがないと思う。でも多くの日本国民は不自由はじゃないと思ってると思う。日本流のメディア社会に慣れて育ってきてますからね。

──ハワイ暮らしを選んだ理由には、日本で感じた窮屈感が影響していますか?

というよりもね、ご承知の通り私のつくってる曲ってのはほとんどアメリカ的ですから(笑)。つまりね、私は子どものころからアメリカンポップスとかアメリカのジャズが好きで、そういうのを聴いて育ってきたんですよ。けれど家が貧乏だったので、すぐにアメリカ留学とかはできなかったんですよね。いまは、おかげさまである程度の蓄えもできたので、子どものころからの夢を実現したいと思っているんです。もうほんと、アメリカの音楽で幸せを感じてきたしね。

だからもっと日本の子どもたちのために、自由に、いい音楽を選んで聴ける環境を、と思ってますね。経済的な理由でCDを買えない子どもたちを対象とした音楽商品の割引制度とか、音楽業界には考えてもらいたいぐらいですよ。

──子どもたちのため、という活動テーマがある?

実は私には、アイドルの曲を聴いて育つ子どもたちにも「こういう方向性で音楽を聴いてもらって次への成長のステップにしてもらいたい」という個人的なテーマみたいなものが昔からあって、で、作曲活動をしてきたんです。でもそれが、いともあっさり崩されちゃうんですよね。ビジネスとの兼ね合いで負けちゃうんですよ。大々的にテレビで放送されちゃうとそっちが勝っちゃうというね。

──テレビの影響力の前で無力さを感じたということですか?

いや、具体的にいうとね、キャンディーズというのはもちろんアイドル歌手ではあったけれども、彼女ら3人のある程度の実力、そして素晴らしいアイドル性という魅力を利用させていただいて、私は音楽的要素でいろんなチャレンジをしていたんですね。1970年代の当時にしては相当に斬新な要素、新しい音楽的な仕掛けを、作曲、編曲面に取り入れてね。音楽的に遅れていた歌謡曲というジャンルに、アメリカンポップス的な要素を入れていったんですよ。そうすることでアイドルの曲を聴いてくれる子どもたちの感性をどんどん上げていこうと思って。ジャズで多用するテンションコードや、ブルース色を出すブルーノートにも耳なじんでもらって。新しい音楽の魅力を知ってもらおうっていう意図でね、ポップスの要素を織り込みながらやってきたんですよ。でもね、関係ないもんね。テレビでピンクレディーやられて、一発でアウトでしたもんね。

──キャンディーズがピンクレディーにやられた?

ジャンルが違うんですよ、キャンディーズとピンクレディーは。同じアイドル歌謡曲でも音楽的ジャンルが違うんです。キャンディーズにはアメリカ的なブルース要素、そしてジャズやロックの要素も入ってるんですよ。一方のピンクレディーにもロックの要素が入っていますけど、でもリズムだけなんですよ。あちらの作曲は都倉俊一さんですが、都倉さんの音楽的ルーツはクラシックなんですよね。ピンクレディーのイントロ聴くだけでわかります。例えば「サウスポー」は、もうハチャトリアン。“ツンタンタン、ツンタンタン、ツンタ”って……ね、イントロから完全にハチャトリアンでしょう?(確かにハチャトリアンの名曲「剣の舞」を彷彿とさせる)

それが悪いってんじゃない。都倉さんなりのクラシックを消化した手法なんでしょう。でも私は歌メロにブルーノート入れたり、アレンジ面でミュージシャンのアドリブを大事にしたりね、黒人音楽的な要素をたくさん入れた作曲や編曲で歌謡曲にトライした、ということです。でもね、テレビの放送でバーン!とやられたらそんな違いなんか伝わらないからね。アメリカンポップなキャンディーズも、クラシック風味のピンクレディーもないんですよ。

──ああ、確かに同じ系統のアイドルという印象が強いですね。

でしょう? 私が昔、作曲やりたいって思ったのは、当時の日本にはあまりにもマイナー調の曲が多かったからなんですよ。演歌もそうだし、歌謡曲でも古いものはほんとマイナー調のものが多くて、音楽的にもスリーコードばっかりでね。で、これを何とかしなきゃと思ってね。もちろんそういうマイナーの曲のいいところもありますよ。でも私が作曲を始めた理由は、そういう思いからでしたね。だからこそ、お小遣いの少ない子どもなんかでも、あまりお金をかけずに自由にいろんな音楽を楽しめるような、音楽的に自由な世の中になっていってほしいんですよね。



JASRACを退会し、より明確に音楽ビジネスへの主張を発信し続ける穂口氏。去る9月3日のTwitterには次のような思いを綴っている。──「メディアの問題です。メディアには、幼年期、少年期、青年期の国民が良質な音楽に触るチャンスを積極的に提供する責任があります。金銭的利益目的の選曲姿勢は早急に止めるべきです。メディアが著作権収入を目的にすると、結果として国民の感性が劣化します」

 
 
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