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JASRACは悪者なのか?
──ところで、ネット上で最近JASRACがやり玉に上がります。どこに騒ぎの原因があると思いますか?
実務面ではJASRACはとてもきちんとやっています。ただ、それとは別に内部に組織上の問題点が存在していることは事実です。というのも、JASRACの役員には放送局の関係者が必ず入っているんですよ。設立当初からずっと。
──放送局の関係者が役員に入っていなきゃいけないルールでもあるんですか?
いや、ないです。ただ、ずっと談合でそういう人事が続いているんですよ。そして問題は、その放送局が膨大な曲数に対して著作隣接権をもっており、さらに傘下には著作権利者である音楽出版社をもってるってことですね。例えばフジテレビ系のフジパシフィック音楽出版。あそこはいま、管理楽曲が10万曲を超えてるんです。TBS系の音楽出版社の日音もやっぱり10万曲もってる。放送局が音楽出版社をもって曲の運用に影響力をもつということは、つまりその系列の構図で、著作権料の半分が放送局に入っちゃうということです。番組等で曲を放送したぶんだけじゃないです、一般の人が買ったレコードやCDの売上のぶんもですよ。全部の著作権料のなかから半分は、傘下の音楽出版社を通して放送局がもってっちゃう。つまりそこで著作権料のダンピングが起こっているわけです。そういう真実がある。
放送局は電波をもってますから著作権を簡単に集められる。「曲をテレビで放送してあげるよ」って言われたら、作家はみんな著作権を出版社に渡しますよ。渡さなかったのは私だけです。例えば作曲家の筒美京平さんなんかは放送局と一緒になってやってるわけですよ。だから大ヒット。全部、日音とつるんでやってるわけですから。作詞家の阿久悠さんなんかも大ヒット。阿久さんは日音もありますけど、もっと言えばスタ誕(日本テレビで放映されていたオーディション番組「スター誕生!」)ですよ。つまり日本テレビ音楽出版ですね。で、そうやってテレビで流せば曲は売れますから、作家はみんな著作権を渡しますよ、テレビ局(傘下の音楽出版社)に。
音楽著作権は、本来ならプロダクションがもつべきなんですけどね。プロダクションがタレントを育てて、タレントを売って、曲とタレントの価値を一緒に押し上げてるわけですから。テレビ局は広告収入で儲けているうえに、出版社を介したそういう手法で、著作権をプロダクションから取り上げているわけですよ。その図式でもう何年もやってきてる。だから一時はプロダクションもみんな腹を立てていて、テレビ局と対立してたんです。でも、やっぱり相手の力があまりに大きくて勝てないから、いまは渋々、もうみんな仲間になってうまくやろうか、みたいな図式になってるわけです。でもひどい話じゃないですか。国民のために認可された電波を使って著作権をかき集めてるわけですから。
──「既得権益」などと指摘される理由でしょうか。
JASRACの運営権をもつ「理事会」で決定されたことが総会で承認されると、それがJASRACの運営方針になるんですが、その理事のなかに音楽出版社の人間が6人いるわけです。全18人のうち作詞家6人、作曲家6人、音楽出版社代表者6人。その音楽出版社の理事のなかに放送局関係者が必ず2人、入る。で、この2人の意見が強いんですよ、何しろ放送関係なんで。そうして放送関係に有利な著作権徴収規約とか、そういうものができていくわけです。
──2人入るという仕組みは崩せない?
これがね、崩せないんですよ。われわれ作家側の理事も計12人いるわけですけれど、私とか小林亜星さんとかは、そういうのはダメだとずっと言ってきたんですよ。ところが多くのヒット作家は放送局に逆らいたくないんですよ。お世話になってるし、仲よくしてれば仕事もらえるし、大金が手に入るしね。作家も言うこと聞いちゃうんですよ、そういうとこから指令がいくと。自分がよければまずはよしということで、なかなか世の中のことまで考えないわけだ。何しろ作家は仕事をもらってる立場ですから、自分がほされないようにするのに精一杯ですよ。実際、本当にほされちゃいますからね……。仕事なくなったら生活できないですもん。そういう意味では作家というのは弱い立場なんです。
著作権法というものが歴史的になぜ生まれたかと言えば、そもそも作家の救済のためです。音楽なんかやってる人間は立場が弱いんで、メシ食えないんですよ。知らないうちに曲や楽譜を、印刷会社や楽譜出版社に勝手に使われちゃっていた。それをなんとかしなきゃいけないってんでできたのが著作権法なんですよ。なのにいま、その著作権法で儲かっているのは企業です。放送局やその系列の音楽出版社とか、そういうところが儲かってるんですよ。これじゃね、著作権法のもともとの立法の精神に反してますよ。
──責められるべきはJASRACに理事を送り込んでいる放送局のほうである、と。
その通り。いま問題になってることで言えば、例えばYouTubeで視聴者が気に入ってる動画が削除されちゃうと。でもJASRACは何にも削除なんかしていませんよ。むしろJASRACはYouTubeに対して許諾しているんですから。契約を締結していて、いまYouTubeは収入の2%かな、JASRACにお金を払ってますからね。じゃあ動画を消してるのは誰かといったら、あれは権利を主張する企業、すなわち著作隣接権者の仕業なんです。要するにテレビの番組には曲に関する著作隣接権という権利があると。それを盾に消しているんですよ。
そもそも著作隣接権が、著作権と一緒になっちゃっていることが誤解や混乱のもとなんです。現行の著作権法のなかには「著作権」とは別に、著作隣接権者のための「著作隣接権」が規定されています。一般の人がそれをよく知らないのをいいことに“著作隣接権、イコール著作権”と言ってしまっている。わかりにくい話ですが、著作隣接権は著作権法のなかに規定されているので、この著作隣接権というものを、著作権とまぜこぜにして言ってしまっても一応、間違いではないわけです。で、その理屈を使っていろんな場面で「著作権違反だ」という主張が通用してしまうわけですよ。
──まるでJASRACの影で、著作隣接権を主張する企業が暗躍しているかのようです。
そう、それで著作権の管理団体であるJASRACがとばっちりを受けちゃう。
あと、ネット上には”カスラック”などとの中傷もありますね。こんなふうにJASRACが悪く呼ばれるもうひとつの理由には、地方とかの小さなライヴハウスなんかにまで著作権使用料の徴収を徹底しているという点もあるでしょうね。著作権使用料は、法律上は当然払わなきゃいけないものではありますが、それを一般の方が“JASRACによる取り立て”と感じているという部分ですね。
で、なぜそこの取り立てが厳しくなるかといえば、これがまた「放送」との兼ね合いになるんですよ。JASRACがテレビ局から受け取れる放送使用料が安いから、そういうお店からも取り立てをやらないと割に合わない、成り立たないという論理になってくるわけです。私自身はJASRACの評議員をやってたとき、「そういう小さな演奏会とかはただでやらせてあげればいいじゃないか」とずっと言ってましたけれどね。でもそれは放送局が頑として認めなかった。何しろ著作権料ってのは放送局とJASRACが、交渉でそれを決めてますから。ところが、一般の演奏会場とかお店とかはそうじゃなく、JASRACが決めた通りに払わなくちゃならない。不公平でしょ? JASRACは放送局に対しても「決めた料率で払え」って言えばいいわけです。ところが放送局のほうはそれを認めず、頑として払わなかったというわけですよ。
──JASRACはまじめに仕事をして恨まれている?
結局はJASRACの理事会に問題があるということです。いまはなくなりましたが、以前はJASRACのなかに理事会を監査する目的の評議員会という機関もあったんです。昔は理事会に対して「それはダメだ」などと言うこともできたんですけどね。いろんなことが積み重なって、JASRACへのイメージもできてしまったんでしょう。
あと、すごくくだらないなと思うことのひとつが、歌詞サイトの歌詞がコピーできないということ。あれにしたって、いわゆるコピペを許したら著作権料払えっていうような話になってるんです。でも歌詞コピーするぐらい、いいんじゃないですかねえ。私は作家として、歌詞もどんどんコピーしてもらってみんなで楽しんでもらったほうがうれしい。でも、結局そういうのも理事会で決めるから。
さまざまな問題点の原因として、まずは著作権法のなかにある「著作権」と「著作隣接権」の混同が挙げられます。それと、テレビ局系の音楽出版社や大手レコード会社が著作権というものを盾にして、ある種、他者の営業妨害をしているような状況が起こっているという問題が挙げられますね。
著作権と著作隣接権
違法ダウンロードが刑罰化された10月1日からの改正点とは別に、現行の著作権法(昭和45年制定)には「著作権」「著作隣接権」についての定めがある。音楽に限って言えば「著作権」の権利者は作詞家と作曲家であるが、作詞家、作曲家はその曲の広範な運用を任せるために音楽出版社に著作権を渡すことが一般的である。つまり著作権者とは、実質「作詞家」「作曲家」「音楽出版社」の3者ということができる。またJASRACによって管理される著作権使用料の配分は、作詞家と作曲家に25%ずつ、音楽出版社に50%となっている。一方「著作隣接権」の権利者は「実演家(歌手や演奏者)」「レコード製作者(レコード会社)」「放送事業者(テレビ局など)」の3者である。
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