私選弁護と国選弁護の違いについて
弁護人の2つの種類
刑事事件の手続において,被疑者・被告人のためにさまざまな弁護活動を行う弁護士を「弁護人」と呼びます。この弁護人は「私選弁護人」と「国選弁護人」に分けられます。手続上,私選弁護が原則ですが,貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができない場合などは,国選弁護人を選任することもできます。
私選弁護のメリット
私選弁護人は,警察など捜査機関から任意で事情聴取される段階(任意同行・任意出頭)や逮捕・勾留された直後など,かなり早い段階から選任することが可能である点が大きく異なります。私選弁護では,不起訴や起訴猶予を獲得するための弁護活動を積極的に行うことができるのです。
実は,この起訴される前の捜査段階から弁護活動を行うことができる,という点が私選弁護の最大のメリットになります。統計資料によると,起訴された後に無罪判決が下される可能性は0.1%未満なのですが,起訴される前であれば57.5%の方は起訴されることなく,身柄を解放されています。
警察など捜査機関による逮捕・勾留は最大で23日間にも及びます。この間に,奪われたり失われたりする社会的な地位や信用・仕事・人間関係・時間は尋常なものではありません。1日も早い身柄の解放が求められます。
したがって,1日も早く被疑者を助け出すためには,捜査段階から積極的な弁護活動を行うことが非常に重要となるのです。
国選弁護についてのよくある質問
Q 国は弁護人をすぐにつけてくれますか?
国選弁護人がつくのは原則として起訴後となります。一定の重罪(法定刑が死刑または無期もしくは3年を越える懲役もしくは禁固に当たる事件)の場合には,起訴前から国選弁護人が付くようになっています。
また,起訴されようとする犯罪について,その事案が明白で軽微な場合には,簡易な裁判手続き(即決裁判手続)がとられることがあります。この手続きをとる場合には検察官から同意を求められますが,同意するかどうか決める際に弁護人が付いていない場合には,やはり国選弁護人が付くようになっています。
これに対して,私選弁護の場合には,起訴前の逮捕・勾留段階はもちろんのこと,警察などの捜査機関から任意の事情聴取を求められている段階(任意同行・任意出頭)から弁護活動を依頼することができます。ご家族の逮捕を知らされたとき,すぐに私選弁護を依頼することができれば,ご家族が接見禁止の状態であっても,弁護士がすぐに接見に赴き,法的なサポートやご家族との橋渡しをすることが可能です。
Q 必ず国選弁護人をつけてもらえますか?
国選弁護人を請求するためには,貧国その他の事由により弁護人を選任することができないとき,具体的には資力(現金と預金)が50万円に満たないことが必要です。
これに対して,私選弁護の場合は,弁護人を選ぶことのできる人(具体的には,被疑者・被告人,それらの配偶者,兄弟姉妹,直系の親族,保佐人)であれば,自由に弁護人へ依頼することができます。
Q 結局,国選弁護人と私選弁護人はどちらがよいのですか?
よく誤解されるのですが,弁護士を私選でつけることができない方たちのために国選弁護人という制度がありますので,どちらの弁護人であっても権限は変わりませんし,被疑者・被告人とされてしまった方のためにベストを尽くすものです。
違いがでるのは,資力が50万円未満であっても,ご親族やご家族に相談することで弁護士費用の都合をつけることができる場合です。
当事務所にしばしば寄せられるご相談内容として,「国選弁護人が信頼できない」,「国選弁護人があまり会いに来てくれない」といったものが散見されます。確かに,国選弁護人の報酬は仕事量に見合わない少額であることも事実です。また,こうしたご相談の原因は,刑事弁護に対する各弁護士間の熱意の差かもしれませんし,あるいは,被疑者・被告人とされた方と国選弁護人との相性の問題なのかもしれません。
刑事事件に関することは人生の一大事です。もし,ご自身やご家族が,国選弁護人とのコミュニケーションがうまくいかない,国選弁護人の弁護活 動に不安ある,といったご印象をお持ちの場合は,ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。
Q 国選弁護の場合は,弁護士費用は無料になるのですか?
必ずしもそうとは限りません。国から国選弁護人に支払われた弁護士費用について,被疑者・被告人が負担する場合もあります。実務上,裁判所が経済的に支払いが可能か否かを検討して支払いを命じることになります。
大まかな傾向として,懲役刑や禁固刑など実刑となった場合には,被告人の負担はありませんが,執行猶予となった場合には被告人が負担することがあります。これは,執行猶予となった場合には社会復帰して働くことができるので,経済的に負担させても不合理ではない,という判断に基づくようです。
まとめ 私選弁護と国選弁護の違い
私選弁護人 | 国選弁護人 | |
---|---|---|
選任者 |
|
国(裁判所) |
選任方法 | 自由に選ぶことができる | 国選弁護人として登録された弁護士(約18,000人,2011年)の中から選ばれる。 |
選任条件 | 弁護士との自由な契約による | 貧困その他の事由により弁護人を選任できないとき。具体的には,資力(現金と預金の合計)が50万円に満たない場合 |
選任時期 | 起訴前の捜査段階から可能 | 原則として起訴後 |
弁護人の権限 | 変わることはない |