カナダ:原爆ウラン精製の町…政府、4800軒線量調査へ
毎日新聞 2012年11月26日 02時32分(最終更新 11月26日 03時38分)
第二次世界大戦中、広島・長崎に投下する原爆開発のためのウラン精製が行われたカナダ・オンタリオ州ポートホープで、カナダ政府は12月にも市街地の全不動産を対象に放射線量調査を始める。過去の低レベル放射性廃棄物の影響を調べるのが狙い。規制値を超えた物件は除染し、15年完成予定の新処分場に移す。カナダで最大規模の除染事業となるが、住民からは環境汚染を招くと反発の声も上がっている。
◇土壌除染、住民に逆効果の声
ポートホープでは1932年にラジウムの精製を開始。第二次世界大戦中は国営企業がウラン鉱石を精製し、原爆を開発する米英加のマンハッタン計画の加工工場として使われた。
当時は放射性物質への危険性の認識は低く、ラジウム226、ウラン、ヒ素などを含んだ廃棄物は埋め立て用の土として宅地整備などに用いられた。
1970年代半ばに放射能汚染が問題化し、80年代にかけて除染が行われたが、処分場が満杯になり、「もはや健康への影響はないレベルになった」として作業を中断したまま、先延ばしにされてきた。国営企業はその後、民営化され世界有数のウランメーカー「カメコ」となり、今も同市でウラン転換工場などが稼働している。
市街地の全軒と周辺地域の一部を含む計約4800軒が調査の対象で、土壌のサンプル調査も行う。カナダ政府は今夏、うち約450軒に発がん性のあるラドンガスの検出器を1軒あたり2個以上配布。線量調査は12月にも着手する。
同事業を進めるポートホープ地域イニシアチブ管理事務所によると、ラドンが1立方メートルの空気中125ベクレル(カナダ政府の規制値は200ベクレル)、年間の放射線量の増加分が0.3ミリシーベルト(同1ミリシーベルト)を超える不動産について汚染源を調査し、過去の廃棄物が原因と判明すれば政府の負担で除染する。
本格調査に先立ち、すでにラドン濃度が200ベクレルを超える物件も出ているといい、約1割が何らかの除染の対象になると推計されている。
カナダ政府は今年1月、中断していた同地域周辺の除染を再開するため、10年間にわたって12億8000万カナダドル(約1024億円)の予算を投じると発表。浜辺やふ頭など港湾の除染も行われる予定という。