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第二章 傾国の宴 腹黒王女編
百十一日目~百二十日目
 “百十一日目”
 今朝起きると鍛冶師さんと錬金術師さんは姉妹さん達と同じように【職業・鬼子の聖母】を新しく獲得したそうだ。
 どうやら条件を満たせば即座に得られる一般的な【職業】とは違い、【職業・鬼子の聖母】にはある程度の時間経過が必要なタイプの【職業】であるらしい。
 まあ、ただ産めば簡単に得られるのなら、取得条件にあった本当に愛した鬼と子を産む、というのをクリアしたとは言えないだろうから、このタイムラグはそれ等の確認をする為の時間なのかもしれない。
 この世界についてはまだまだよく分かっていないので、そう思う事にした。

 今日も普段通りに早朝訓練を行い、それが終わったら宿に戻り、昔は美人だったんだろうなーと思えるふくよかな体型でパッと見五十歳代後半な女将さんが造ってくれた肉メインで大盛りな朝飯を喰う。
 その料理は姉妹さん達よりも年期があるからかより美味しく、それに加えて運動後と言う事で皆ガツガツと豪快な動作で腹に入れて行く。
 もう少しこの味を堪能したいと思ったが、今はお転婆姫を送り届けて仕事を終わらせるのが先だ。だから仕方ない、また機会があればココを訪ねる事にしよう。
 と、やや名残り惜しみながらもチェックアウト。
 昨日の内に迷宮都市では最後に露天などを冷やかしながら出立する事が決まっていたので出立準備に手間取る事も無く、今日の昼に食べる弁当や昨日買い忘れていた品などを揃え、外に繋がる門まで赴いた。
 騎士の少年の話によれば迷宮都市は外出の手続きが他の街よりも面倒らしいのである程度は覚悟していたのだが、手続きが長くなる原因である物珍しいマジックアイテムの類は買ったり奪ったりして得た“収納のバックパック”には入れていなかったので、たった二十分程待たされただけで済んだ。
 正直ありがたい。
 とはいえ重要なモノは他人からは全く認識できない俺の【異空間収納能力アイテムボックス】内に入れていたのだから、当然と言えば当然な話なのだろうけど。
 それに明らかに貴族の中の貴族的なオーラ――王族だけど、一応簡単な変装をさせて隠しているので王族とは知られていない、はず――を漂わせるお転婆姫を相手に、国に莫大な利益を齎す迷宮都市で働いているとはいえ一介の門番風情が長々と検問するのは色々と怖いのだろう。
 貴族に睨まれるのは、誰だって嫌だろうさ。
 俺としても同じ立場なら同じ考えをするだろうし、それでも最低限の仕事を済ませた門番は優秀だったと思う。生真面目そうで、なかなかの好青年だった。
 お転婆姫に、あの青年に何か褒美を与えてみれば? と冗談で言ったのだが、お転婆姫は本気で悩んでいたので和んだ。
 お転婆姫は扱い方が分かった後冷静に観察してみれば、ちょっとだけ背伸びをしている普通の女の子でしかなかったので、親戚の子供のように感じてしまうのが原因だろう。

 迷宮都市の外に出たのは、だいたい午前十時前後と言った所か。
 普通に進めば明日には目的地に到着する位置にまで来ているので、今日は今までに無いくらいにノロノロと進んでいく予定である。
 お転婆姫が居るから新しく得たアビリティの使用や調査はやり難いが、それでもココ等の地形調査やら密かなる分体派遣やら、やりたい事は色々あるのでスローペースで行くくらいが丁度いい。 
 ノロノロと進む骸骨百足の荷台に胡坐をかいて座り、膝の間に現時点でかなり成長しているオーロとアルジェントを乗せて抱き締めたりしてみる。するとキャッキャと嬉しそうに腕の中の二人が喜んだ。可愛いモノである。
 そうやって戯れていると、背中からお転婆姫が這い上がってきた。出逢ってからそれなりの日数が経過し、護衛とかの関係上俺の肩に座らせていたのだが、どうもお転婆姫はすっかり気に入ってしまったらしい。
 その事実に苦笑が漏れ、不意に角を掴まれた。こういった場合は大抵あれそれをしてくれ、といった事を言うので今度はなんだと思っていたら、歌を歌ってみせよ、との事。
 仕方ないので【職業・吟遊詩人ミンストレル】を発動させ、その結果得た俺の外見からは想像できないだろう美声で歌う事に。
 選んだ歌は赤髪ショートやお転婆姫達から教えてもらったこの世界の歌で、『イシェルンドの妖明』と言うらしい。明るい曲調の歌で、それを大声で熱唱しながら街道を進んでいく。
 王都に近いだけあってすれ違う人の数は多く、すれ違う度に色んな意味で注目される事になった。時折進み続ける馬車の上から行商人が果敢に品を売ってきたりという事はあったが、他は特にコレといった危険は無かった。
 偶に近づかなければ無害と言えるビッグコッコなどの雑魚モンスターが出てきたので、殺し方の御手本としてお転婆姫を肩に乗せたまま戦ったりはしたが、危険といえるモノではないだろう。
 そう言えば、あの時のお転婆姫は何故かノリノリだった気がする。それと何だろう、何か引っかかるフレーズを小声で言っていたような。
 こう、何かをけしかける様な。無邪気な少女が巨人に命令するような。
 ……いかん、忘れた。
 まあ、忘れるのならどうでもいい事なのだろう、きっと。



 今日は街道を進んで行くだけで話す事も特になかったので、今までは語っていなかった別グループの動向でも簡単に纏めるとしよう。

 オガ吉くんとアス江ちゃんが居る第二グループは現在、地下階層型迷宮【デュシス迷廊】に挑戦しているそうだ。【デュシス迷廊】は派生迷宮の一つで、俺達が先ほどまで居た迷宮都市“パーガトリ”とは違う場所にある迷宮都市“グリフォス”にあるのだとか。
 【デュシス迷廊】にはまだ潜り始めたばかりなので何とも言えないが、次に会う時までには必ずランクアップしてやる。だから今度会ったら戦おうぜ、的な事をオガ吉くんが通信した時に言っていた。
 全く、相変わらずのバトルジャンキーだと苦笑が漏れる。
 ただ、俺の心の中にはオガ吉くんが向けてくるその真っ直ぐな気持ちが気持ちよくもあるのだけれど。

 スペ星さんやブラ里さん達が居る第三グループは魔術書グリモワール――適正レベルのモノしか読めないが、数度読むだけで書かれた魔術を覚えられるマジックアイテム。書かれた魔術によって価格は変動する――や、魔剣名剣などを買い求めているようだ。
 買い物にはどうしても金の問題が浮上するのだが、どうもそれは種族的な美貌から奴隷として高く売れるが、森の奥に引き籠っていて滅多に見かけないエルフ達を狙って襲ってくる盗賊やヒト攫いなどを返り討ちにする事で解消してしまったようだ。
 つまり餌を撒いてそれに引っかかった獲物を釣り上げている、という訳だな。
 おお、怖い。
 スペ星さんの魔術の腕は、今は分からないが少なくともオーガだった時の俺以上である。
 適正や技量、種族補正なども含めて考えれば、スペ星さんは俺達が戦った帝国と王国の連合軍の兵士三百名以上に相当する実力者だ。魔術の階梯は一つ上がればその威力は桁違いに増幅するので、直接戦闘能力は低くともそれくらいはある。
 それに普段はおっとりとしているのに、一度戦いに転じると敵を嬉々として殺しにかかるブラ里さんとの組み合わせは、盗賊達がむしろ哀れに思えるほどに強烈だろうよ。
 接近戦では数十の血剣で乱舞するバーサーカーみたいなブラ里さん、遠距離戦では広範囲殲滅魔術を連発してくるスペ星さん。
 そのコンビに加えて訓練されたホブ・ゴブリンやエルフ達も居るのだから、それなりの数が居たという盗賊やヒト攫い達が、木っ端のように惨殺されていく光景が目に浮かんだ。
 南無。いや、この場合は玉砕乙、か。

 ワ―タイガーや竜人がいる第四グループは幹部クラスが唯一誰も居ない為か、今イチ雰囲気がよろしくない。転々と各地を移動し始めて十数日が経過し、以前よりは打ち解けてきたかもしれないが、未だどこかよそよそしいのだ。
 グループ構成はオーガが二名、ホブ・ゴブリンメイジが1名に、虎人ワータイガーが二名、竜人が二名、人間三名となっている。
 同期であるオーガやホブ・ゴブリンメイジは新参者であるワ―タイガーや竜人との距離を測りかね。
 まだ正式に入れていないワ―タイガーや竜人は正式メンバーであるオーガとホブ・ゴブリンメイジとの距離を測りかね。
 最も地位が低い人間達は大きく意思表示ができないので沈黙する。
 つまりは話があまり盛り上がらない。あまり知らない人がいると、赤裸々トークができないと言った状況だろうか。
 それにグループリーダーとしたホブ・ゴブリンメイジが、ぶっちゃけ十名の中だと下から数えた方が早い実力しか持ち合せていないと言うのも、強者を重んじるワ―タイガーと竜人達との間に溝を作っている節がある。
 早い話、心の奥では構成に納得していないのだ、自分達の上司が自分たちよりも弱い事が。
 俺はこれも試練だと思っているので彼・彼女等には頑張ってもらう他ないだろう。コレから長い間付き合っていくのだから、ココで打ち解けて貰わねば。今は多少気まずくても、釜の飯や生死を共にすれば自然と何とかなるだろう。
 できないのなら最悪の場合俺が手を出さねばならないが、今は様子見である。
 まあ、多分どうにかなるだろう。勘だけど。
 俺は心の中で声援を送った。

 ドド芽ちゃんと例の五オーガがいる第五グループは真面目に情報収集や植物の種などの採取に勤しんでいる。真面目なドド芽ちゃんがグループリーダーだし、そもそもドド芽ちゃんの種族的に情報収集能力に長けているから、そうなるだろうとは思っていたし心配もしていなかった。
 黙々と森の外の情報収集をこなしているグループで、有益な情報を幾つも教えてくれている。
 なのでちょっと命令して何処ぞにでも観光に行かせようかと思っている。頑張った報酬はあるべきだ。
 とは言え大した事はできないが、これも良い刺激と経験になるだろう、きっと。

 といった感じで、思いっきりグループリーダーの性格が反映されているようだ。
 取りあえず第四グループ以外はそこそこ上手く行っているらしい。
 第四グループは今後の為のテストケースでもあるので、是非とも打ち解けて欲しいモノである。

 今日はゆっくり進んだので王都≪オウスヴェル≫には到着しなかったが、明日にはどんなに遅く行っても到着する距離まで到達したので、今日は野宿して寝た。

 本日の合成結果。
 【病魔の運び主】+【疫病感染インフェクション】+【疫病散布】=【病魔を運ぶ黒の使徒パンデミック・ブラック・アポストル
 【麻痺爪】+【燃える爪】+【金剛瞬爪】=【燃え盛る金剛痺爪】
 【赤外線感知サーモグラフィー】+【反響定位エコーロケーション】+【気配察知】+【罠感知】+【敵性感知】=【早期索敵警戒網フェーズドアレイレーダー


 “百十二日目”
 昼をやや過ぎた頃に緩やかな丘を越えた時、俺達は遠目にだが王都≪オウスヴェル≫を発見した。
 周囲よりもやや高い位置にある為に攻め難く守り易い土地に築かれた乳白色の小高い外壁と、王都の中心部にそびえ立つ巨大な城が特徴的な構造をしているようだ。
 遠目からはそんな事くらいしか分からず、とりあえず骸骨百足に揺られながら近づいていく。
 俺達が進んでいた街道は王都の巨大な門まで続き、その門の前には馬車や大きな荷物を背負った人達の行列ができていた。どうやら検問しないと中に入れないらしい。
 俺達は黙って検問待ちの行列の最後尾に並んだ。
 お転婆姫と少年が言うには、二人が居るので順番を待たず王都に入る事も可能だそうだが、取りあえずは庶民の生活を知る為にも良い事だぞー、とか何とかと言って黙らせる。
 本音を言えば、ココでコレ以上目立ち過ぎるのは面倒くさいからだ。
 骸骨百足は偽装していてもやっぱり目立つし、それを牽いているのが周囲のような馬ではなくてモンスターのボルフォルだ。それに加えて俺達は人外の方が多いし、特にダム美ちゃんとか一目見れば目で追ってしまうほど美人である。
 うーむ、まさかここまでとは、と思うほど注目されているのが現状だ。王都に近づけば近づくほどモンスターを見かける回数が少なくなっていた事から、他よりも余計に注目を集める結果になるかもしれないと予測しておくべきだったか。
 面倒なことだ。人生――いや鬼生とは思い通りにはいかぬモノである。
 まあ、これらは事実なのでどうしようもない。ギリギリ許容範囲外でも無い。
 だけどこれに加えて少々長い行列を追い越し、検問をスルーして王都に入ろうものなら、俺達の噂はとんでもない速度で広がるだろう。ある事無い事の巨大な尾ヒレがついて。
 俺達の種族が種族だけにどうしたって目立つし、噂になるのは仕方ないが、こうやって並んで普通に入る方がまだマシだろう。多少なりとも。
 取りあえず王都でくらいは静かにしておきたいのだ。今は戦力が足りないので、王国に目を付けられて正面から対峙したくはない。それに王国は亜人の扱いがやや軽く、人間贔屓な法律が敷かれているらしいし。一応面倒事になった際の保険はお転婆姫以外にもあるが、それはできれば使いたくない。
 ので、列に並んで時を待つ。

 そして並んでからしばし、ようやく俺達の番がきた。
 本当はそこそこな額の通行料――通行手形と言った特殊アイテムがあれば割引か無料になるらしい――が必要なのだが、それはお転婆姫と少年が居た事で免除された。
 ようやくお転婆姫が役に立った気がする。
 俺達を担当した門番くんには、検問のついでに小さな分体を衣服に付着させ、王都で働く兵士達で交わされる情報の収集をする事にした。分体は間者としても使い勝手が良いから非常に助かる。
 などと色々あったが、とにかく、俺達は王都に入る事ができた。

 流石に王都と言うべきか、壁の中にある生活区には多くのヒトが暮らしているようだ。賑わいを見せる露天市からは活気のある声が響き、かなり様々な品が売られている。
 現世で立ち寄った中で一番活気のあった迷宮都市さえ軽く凌いでいるこの活気は、ただ居るだけでワクワクするような、まるで祭りのような賑わいである。王都に来るのは初めてなのか、赤髪ショート達もそわそわとしている。
 表通りを歩きながら観察して気がついたが、今まで立ち寄ってきた村は木造建築な家だけか、あるいは煉瓦造りの家がチラホラとある程度だったが、王都では木造建築のモノが全く見られない。全てが煉瓦造りの家ばかりだ。
 それに通路も石畳を敷いて舗装されているし、話によれば上下水道も完備されているのだとか。お転婆姫達の話では、今年で七十を迎える【異界の賢者】という特別な【職業】を持つ人物によって齎された知識により、この世界ではかなり発展している部類に入るのだとか。
 他にも色んな事を詳しく知りたいし、王国の暗部とか個人的に凄く気になるのだが、お転婆姫と少年が居るから今は調べる事ができない。

 と言う事で今はさっさとお転婆姫を城に送り届けて依頼を完了させ、その後色々と、と行きたかったが、王都の下町を回ってから王城に行く、とお転婆姫が言うので、そのまま露天や店を冷やかしながら城に向けて進んで行く事になった。
 城に続く坂道は幅広く、積層都市型の王都は中心に行けば行くほど高度が高くなっていく造りになっているようだ。その道をボルフォルに牽かれていく奇妙な形をした骸骨百足は注目の的で、なんだあれは的な視線が殺到してくる。
 しかしいい加減慣れてきたので、俺達は気にせずに買い物を済ませ、午後四時くらいには王城に到着した。
 さて、ココでお転婆姫とはお別れだ。ココに来るまでの間に予想以上に親しくなっていたので、やはり別れるのは多少なりとも寂しいモノである。
 と思っていたのだが、別れるまでにはもう少し時間があるらしい。
 お転婆姫がお転婆姫の権限で【王認手形】と呼ばれる、コレを持っていれば王国内ならどの都市の検問でも見せるだけでパスできるし、一定以上の権限を与えてくれる、という超便利アイテムを報酬に追加してくれるそうなので、王城内にあるお転婆姫の“琥珀宮アンバーパレス”に招かれる事になったからだ。
 正直、王城に入る事で起こるかもしれない面倒事と手形を得た時の利益を考えれば、心動かされるシロモノだった。
 不確定な面倒事と、確実にある利益。
 心の中でそれ等を天秤にかけ、俺は利益を選んだと言う訳だ。

 お転婆姫と少年に案内された“琥珀宮アンバーパレス”は、琥珀色をメインとした煌びやかな宮殿で、ここの主が王族なだけに宮殿で働いている使用人の数は多いようだ。事前連絡もない、突然の訪問者である俺達に警戒心が集まるのは必然で、宮殿に勤務している衛兵達がものすごい数集まっている。
 警戒されているのがありありと分かり過ぎるほどの態勢だが、俺達は一応はお転婆姫が招き入れたお客さん扱いなので丁寧に扱われている。
 報酬を貰ったらすぐに出て行くんで、と思っていたらお転婆姫が手形を造るのは明日まで必要で、今日は泊まっていけと言った。
 とはいえ当然の話だがお転婆姫の寝室がある琥珀宮の最深部には入れないし、お客さん用の一角に押し込められるような形になる。
 少し悩んだが宿も取っていないし、この世界では上等の部類に入る部屋に泊まってみるのもいいかもな、と思ったので一泊させてもらう事に。
 一応面倒事の気配は少ないので、その決断を下す事ができた。
 夕飯は美味いし、部屋は豪華だし、風呂は気持ちがよかった。うむ、満足である。
 特に問題も無く、今日はグッスリと眠る事ができた。

 本日の合成結果。
 【鷹の目ホークアイ】+【風読み】+【刹那の瞳】=【空間識覚センス・エリア


 “百十三日目”
 爽快な目覚めだった。
 日の匂いがするふかふかのベッドがいいのか、あるいは快眠の効果があるマジックアイテムが設置されているからなのか。それ等はともかく、爽快な目覚めだった。
 俺の傍らでスヤスヤと生まれたままの姿で眠っているダム美ちゃんとか赤髪ショートとか姉妹さんとかの艶々とした肌の色気とかも含めて、いい朝である。
 さて、今日はどうなる事やら。

 早朝の訓練は琥珀宮の中庭で行われた。
 既に身長が一メートルをやや越えるまで成長してきたオーロとアルジェントも簡単な運動をさせる事にして、今回はそのついでにとクマ次郎とクロ三郎も交えてやってみる。
 少年も参加しているが、最後と言う事で気合いが入っているようだ。
 そうやって俺達が訓練をしていると遠巻きに琥珀宮の衛兵達が見学していたので、どうせならという事でそれ等も巻き込んで訓練をしてみる事になった。
 【聖獣喰い】を得た事によって能力が飛躍的に上昇した赤髪ショートや、風鬼さん達三鬼が衛兵達――王族が暮らす宮殿を守る彼等は精鋭が揃っている。拠点に残してきた女騎士程ではないが、平均的な戦闘力は高い――を相手にどの程度戦えるのか知るいい機会だった。
 結果だけを言うと、一対一では誰も衛兵たちに負ける事は無かった。一対多数ですると負ける事も多々あったが、それが丁度いいくらいだった。
 中々に有益な訓練だったと言えるだろう。

 朝食はただ純粋に美味かった。正直姉妹さん達のよりも美味かった。とは言え、王族が喰う様なレベルの料理を要求する方が酷な話でしかないのだけれど。
 とにかく朝飯は美味く、こんなに美味い料理は初めて喰うダム美ちゃん達はその味に恍惚とした笑みを浮かべていた。その気持ちは分かる。俺も前世の味を知らなければ蕩けそうな表情になっていただろう。
 だが、だがだ。やはり質は大事だが同時に量が欲しいのである。訓練後なので尚更量が欲しいと感じているのかもしれない。動けば腹が減る、これは仕方のない事なのだ。
 と言う事で、追加注文をさせてもらった。小高い肉と野菜の山は美味しく頂きました。

 そして食事の後、お転婆姫から約束通りに【王認手形】が造られたと告げられる。
 その際に使用上の注意を受けた。コレを悪用し過ぎると、王族の信頼を裏切った事とされて重犯罪者扱いになるそうだ。捕まれば裁判もなく即死刑である。
 便利なアイテムだけに、この条件も当然と言えば当然か。とは言え、忠告された事に気を付けていればかなり便利なので持っていた方が良いのは確かである。
 その他には別に何のトラブルも無く、突発的なイベントとして王様に呼び出されるなどと言った事も無く、【王認手形】を確保できた。そしてそれと一緒に護衛の報酬金を貰う。
 数えてみると、三割ほど報酬金が多くなっていた。その理由を聞いてみると、ココに来るまでに色々な体験ができて面白かったからだそうだ。それに少年の訓練を見てくれた事に対する報酬も含んでいるのだとか。
 いいのか、そんな理由で。と思わなくもないが、雇い主側の意思で金額の上乗せをしてくれているのならと、有り難く貰っておく事にした。

 ちなみに【売値三十%増加】と【買値三十%減少】の両アビリティは基本的に俺が売るか買うかの行動をしないと発動しないので、この報酬金増加には一切関与していない。
 あるとしたら多分、【黄金律】か【幸運ラック】の方だ。
 
 それにしても、最後までお転婆姫に振り回されるのかとも思っていたのだが無邪気な笑顔で見送ってくれた。ブンブンと手を振っている姿は、やはり親戚の女の子のように感じられて笑みがこぼれた。
 ある意味ではちょっと拍子抜けである。何か一波乱あると思っていたのだが。

 まあ、俺達と連絡ができる名鉄を渡しているので次に会った時にでもこのぶり返しがありそうで恐いと言えば恐いかもしれない。最も、あるかどうかも分からない事を気にしても仕方が無いので、俺達は琥珀宮から出立した。
 その後王都の店を見て回る事に。王都に来た昨日も思ったのだが、王都に居る割合は人間八の亜人二、と人間が圧倒的に多い。それは仕方ないとして、店のやり取りを聞いていたら、亜人種に提示する値段はやや割り高になっているらしく、亜人種の観光客に対していい商売をしてらっしゃる。
 だからコチラも遠慮無く、【売値三十%増加】と【買値三十%減少】や【黄金律】などを重複発動させてもらった。ついでに口八丁で値切ってみる。売る相手を見て値段を上げるのなら、下げても別に問題はあるまい、と言う事で。
 結果、八割引きにまで持っていけた。何事もやってみるモノである。今後もやってみよう。
 値切り合戦が終わり、真っ白になった男の店長の口からは何かが出ているようで、流石に笑ってしまった。面白いから今度王都に来た時にまた寄らせてもらおう。
 ちなみに最近離れているとはいえ【行商人】持ちである鍛冶師さん達からは苦笑しか出ていない。どうやらやり過ぎだったらしい。直す気は全くないが。
 そんな感じで王都の活気ある城下町を二時間ほどあてもなく歩きまわり、今回は尾行している者達を闇討ちはできなかったので、そのまま王認手形を使って王都を出る。
 またココには来るだろうから、今は以前から決めていたように、一度拠点に帰って戦力の調整や拠点の生活環境向上などを行おうと思う。
 しかし王都を出ても追跡者が追ってきているようなので、しばらくは街道の上を進み、ある地点から街道から逸れて拠点に真っ直ぐ進むルートに入る。ココ等一帯は既に分体を派遣済みで、脳内地図は完成している。
 多少行った事の無い地域を経由する帰還ルートを選択しても、拠点に戻る事は難しい事ではないのでできた行動である。
 突き進む先にはモンスターが跋扈する森の中なので、流石に追って来られなくなったようだ。追跡者の気配が消えた。
 これで周囲には誰もいない。走行速度は骸骨百足単体の方が速い為、ボルフォルをクマ次郎達と同じ荷台に乗せて突っ走らせる。拠点に帰還するまでには骸骨百足でも数日は必要だが、新しい獲物との出逢いに期待するという事で。

 王都の闇やお転婆姫の秘密については、俺が以前帝国王国両方に帰還させた草の情報網では全てを探り切れていない。“草”は下級貴族が殆どで、中級貴族は数名しかいなかったからだ。
 草だけでは探れる情報には限りがあり、偽の情報を掴まされる心配も多い。
 だから俺は草だけでなく分体も使ってこの国の上級貴族や王族に対する情報収集を行う事に決めた。
 それに今後の為に俺達が戦った連合軍には色んな事情によって組み込まれていなかった王国最強の戦力らしい四名――【四象勇者】とその護衛達や、王国の知恵袋的存在である【異界の賢者】とかについても根を伸ばすつもりだ。
 戦闘能力、出自、保有する権力、保有する武具などについて、細かい所まで調べ尽くそうと思っている。
 特に弱点などを知っておくと、色々と楽だしな。美味しそうな食材の調理法の探求は面白いものである。

 そして王国だけでなく、帝国最強の戦力――【八英傑騎甲団】や、【観測の神の巫女】とかについても色々と知りたいと思っているが、コレは追々調べるつもりだ。まず手始めに、王都から進めていくのである。
 王都には既に結構な数の分体を放っている。焦らず、ジックリと、王都の影から忍び寄らせてもらう事にした。

 と言ってみるが、まあ、暇つぶし程度に取り組むつもりだ。決して国崩しではないので悪しからず。
 あくまでも今後のアビリティ確保の為の情報収集である。
 それにしても、【四象勇者】とか食べたらどんな味なのだろうか。想像したら腹が減ったので移動中に見かけたホーンラビットを糸で捕獲し、それを喰いながら進んで行く事に。



 そして今日の夕方、脳内で謎の声が響いた。

 【世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物サブキャスト】であるオガ吉が存在進化ランクアップしました】
 【条件“1”【存在進化ランクアップ】クリアに伴い、称号【斧滅大帝】が贈られます】


 唐突に鳴り響いたそれに、俺はカフスを介してアチラの状況を確認する。
 そこで、オガ吉くんが俺を殺す瞬間を、俺は目撃したのである。
 ……え、意味が分からないんですけど。
 

 “百十四日目”
 昨日オガ吉くんが殺した対象は当然俺本体ではない。
 どうも俺が見た俺はとあるモンスターが化けた存在だったようだ。
 そしてそれにオガ吉くんは憤り、奮闘し、一度は破れたがランクアップする事で撃破する事に成功したらしい。一瞬そんなにも俺が憎いのかとも思ったが、違うらしい。
 取りあえずホッとする。

 ランクアップした事によって俺とオガ吉くんは真名を得た。
 でも真名を知られると魔法的な意味で厄介な事になるので名乗れないし、普通は名乗らない。
 だからこれまでと同じパターンで改名する事にした。
 俺は使徒鬼アポストルロードだからアポ朗。一文字とってアポロでいいかとも思ったが、どこぞの太陽神のような名前だな、って事で自重した。
 だから俺は今日からアポ朗だ。オガ朗ではなく、アポ朗である。
 以後間違えない様に。

 ついでオガ吉くんについて。
 オガ吉くんはミノタウロスの新種、とまあ、なんですかそれと言いたくなるようなモノに成ったが、取りあえず本人と話し合った結果、ミノ吉くんと言う事にした。本人もそれを不満とする事無く、むしろ嬉しそうに名乗っている。
 牛と吉で、一瞬だけ吉ぎゅ……いや、コレ以上語るのは止めよう。今度会った時に心友ではなく、そんなモノを見る目を向けたくはない。
 この事は記憶から抹消する事にした。



 さて、オガ朗改めアポ朗。オガ吉くん改めミノ吉くん。
 一緒に成長できている友を持てた事に嬉しさを抱きつつ。てっきりミノ吉くんが早く手合わせをしよう、とでも言ってくると思っていたのだが、今はアス江ちゃんがランクアップするまで【デュシス迷廊】の最下層に籠るらしい。
 そのついでに自己鍛錬もするのだという。
 まあ、アス江ちゃんはもう少しでランクアップするそうなので、そう長い時はかかるまい。
 アス江ちゃんがランクアップし終えたら、その時は心置きなく手合わせする事になっている。
 本当にミノ吉くんは戦いたがり屋だな、と思いつつも、その時を楽しみにしている俺が居た。俺も似たようなモノであるらしい。
 前世と比べて、どうも俺は好戦的な性格に変わってきているようだ。
 と言った事はさて置き、今日も訓練から一日が始まった。


 朝の訓練時、今までは確認できていなかったアビリティの数々を実際に使ってみた。
 溜め込んでいた数が多かったのでその全てを使い、その効果を把握・実感するのには相応の時間が必要だったが、喰ったモンスターがモンスターだっただけに、どれもこれも使えるアビリティが多かった。
 取り合えず、特に使えるアビリティの例を出してみよう。

 【下位巨人生成】を使用するとスケルトン達のように地面から闇のような何かの隆起が発生し、それから十三秒ほど待つ。するとその中から二メートル五十センチ程度の体躯をした大鬼オーガや、四メートルほどの巨躯を誇る巨鬼トロルに、バロールと比べれば格段に小さいがそれでも十三メートルほどはあるフォモールの三種族が生成できた。
 生成できる三種類は普通に生成した時のスケルトン達と同様に皮膚は黒く、通常のモノよりも強いようだ。だがブラックスケルトン達と違い、生成された巨人達はどれも馬鹿だった。
 人形、と表現してもいいくらいだ。
 俺が命令しなければ自分で動く事さえ無い。ボケーとした間抜け面を晒した状態で、直立不動を貫いている。
 命令せずとも何か刺激があれば反応するのではないだろうか、と思い、【聖獣喰い】を得たお祝いにとプレゼントした三種のマジックアイテム――中華包丁のように四角く、一切の穢れの無い純白で肉厚な刀身をした刃渡り八十センチ程の魔剣【将軍大包丁ジェネラルチョッパー】と、普段は腕輪の形態なのに使用時にはカイトシールド状に一瞬で可変する【将軍凧盾ジェネラルシールド】。そして白と金を基調とした騎士風の全身軽装鎧(赤マント付き)【白金将軍プラチニウムジェネラル】といった通称【将軍ジェネラル】シリーズと呼ばれる品々――を装備した赤髪ショートに、ブラックオーガの片腕を斬り落とさせてみる。
 結果、赤髪ショートの一閃によってブラックオーガの腕は切断され、血が噴き出す。しかし反応は無い。片腕を斬り落とされ、血が噴出しているというのにまだボケーっとしているのだ。
 どうやら片腕切断という刺激を加えても自分からは動かないらしい。
 その後色々と調べた結果、俺が命令しない限りは何があっても動かないと言う事が分かった。例え死ぬような攻撃に晒されても、動きはしない。
 それと命令も『戦え』や『走り続けろ』などのように単純なモノよりも、『全力で戦え』や『死ぬまで全力で走り続けろ』などとより詳細に命令した方がより強く行動する事が分かった。
 しかも殺せば結構な量の経験値が入るらしく、今後は『全力で戦え、しかし殺すな』などと設定し、部下達と戦わせてみるのが良いのかもしれない。流石にフォモール相手では無理だろうが、オーガならばなんとかいけるだろう。
 ただ利点の他にも、当然と言えば当然だが、欠点も色々とあるようだ。便利なだけのアビリティではないらしい。
 まず一つ目は、生成時にスケルトン五十体分くらいの魔力が一気に持っていかれる事だろう。
 夜、あるいは闇があればアビリティで回復できる俺には大した問題ではないかもしれないが、それでもある程度のダルさを感じる量の魔力が一度で消費される。他の魔術なども併用して使おうと思うなら、昼の連続使用はちょっと控えた方がいいらしい。
 二つ目は生成速度もスケルトンなどと比べれば遥かに遅く、一度に複数体生成する事はできなかった事が上げられる。
 必ず一度に一体までで、一体目の生成中に二体目を生成する事はできなかった。とは言え十三秒待てばブラックオーガでもブラックフォモールでも同じように生成し、個体としてもそれ相応に強いので大きな欠点ではないとは思う。
 三つ目は必ず命令しなければならないという事だ。
 生成して命令もせずに放置していたら、ただ邪魔な物体になるだけなのだ。下手をすれば行動を阻害する原因になるかもしれない。まあ、その時は敵諸共に殺せばいいのだろうけど。

 ……ふむ。やっぱり欠点と言えるモノでも無い、のかもしれない、と思えてきた。
 まあ、【下位アンデット生成】と似たような感覚で扱えるアビリティであると思っておけば問題ないだろう。使えば寿命が縮む、なんて副作用も無いので、今後に期待している。
 それに【下位アンデッド生成】と同じく生成できる種族にも色々と隠された条件があるようで、この世界に居るという“単眼鬼サイクロプス”は生成不可だった。実際にサイクロプスを確認、あるいは殺害する事ができれば生成できるようになるのではないか、と俺は睨んでいる。
 【下位巨人生成】についてはこんなモノだろう。

 今度は【見殺す魔眼】について。
 これは訓練時に茂みから飛び出してきたブレードラビットに対して行使したのだが、アビリティ名の通りに見ただけで死んだ。
 何が起こったのかは定かではないが、とにかく、【見殺す魔眼】を発動させてブレードラビットを見たらブレードラビットは死んだ。死骸には一切の傷は無い。突然死だ。
 これは使用を控えよう、と思う。流石に味方を巻き込みかねないアビリティは早々使えたモノではないし、鏡でアビリティ能力が反射されて自滅、とかな結末になったら流石に笑えない。
 奥の手としては十分期待しているが。

 次は【巨人の鉄槌】や【圧殺超過】などについて。
 【巨人の鉄槌】を発動させると、以前と同じく巨大な腕の幻影が発生した。
 試しにブラックフォモールを生成して殴ってみたら、その巨体を数十メートルほど吹き飛ばす事ができた。十三メートル程の大きさがあるブラックフォモールを一撃で殺す事はできなかったが、攻撃を防いだ両腕の骨や背骨は折れていた。
 一撃で殺せずとも、行動不能にする事はできるらしい。
 ブラックフォモールは死んでいなかったので怪我を治し、今度は【圧殺超過】や【巨人王の覇撃】、それに【黒鬼の強靭なる肉体】など身体能力や攻撃力などが上昇する全てのアビリティを発動させた状態で殴ってみる事に。
 俺の全力の一撃を受け止めさせるため、『全力で守りを固めろ』と先ほどと同じ命令をブラックフォモールに下し、固く拳を握りしめ、動く。
 そしてその結果、ブラックフォモールの巨躯は爆散した。野営していたのが人気の無い草原だったので飛散した臓腑や血液の被害は最低限なモノに抑えられたが、草の絨毯の一部が赤く染まっているのは中々にシュールである。
 ただその後ちょっとトラブルがあった。充満する濃厚な血の匂いでダム美ちゃんが興奮してしまい、それを落ちつけるのに苦労したのだ。俺の血を直接吸わせると落ちついてくれたが、興奮状態時に周囲に振り撒かれた魅了チャームの魔力は色々とヤバかった。
 赤髪ショート達や風鬼さん達が色々とギリギリだったとだけ言っておこう。
 とにかく、【巨人の鉄槌】などは多数の敵と戦う時には非常に役立ちそうなアビリティだった。一応の欠点は両腕にしか幻影が発生しない事だろうか。

 そんな感じで、使えそうなアビリティの数々を嬉しく思いつつ、コレからは合成して効果の高い、それでいて使い勝手のいいアビリティの模索を始めるべきだろう。
 コレから忙しくなりそうだと思いつつ、今日も森の中を行く。
 新しいモンスターは結構殺して喰っているのだが、実力差があり過ぎてアビリティは得られなかったので省略。
 今日は森の中で手頃な洞窟を発見したので、クマ次郎とクロ三郎を放し飼いにして獲物を獲って来させる事に。ボルフォルを解放すると、多分喰われるので洞窟内から出す事はできなかったが、コレは仕方ないと思う。
 食材は買い溜めしていたし、お転婆姫から香辛料の類はタンマリもらっていたので、昨日に引き続いて豪華な晩餐だった。
 飯を喰った後はちょっとした勉強会を開いた後に寝た。


 本日の合成結果。
 【突進力強化】+【猪突猛進】=【黒使鬼吶喊】
 【強者の威圧】+【巨人王の威厳】=【黒使鬼の威厳】
 【刃骨生成】+【鋭角生成】=【鋭刃骨生成】
 【結晶鰐の鎧皮】+【硬い皮膚】+【鋼硬毛皮】=【傷付かない黒使硬鎧皮】
 

 “百十五日目”
 自走する骸骨百足に乗って最短ルートを移動し続けた結果、拠点には予想よりも早く到着しそうである。
 途中で小さな村に寄ったり、ルート上にある森や山で植物系モンスター“胞子茸フングス”や、緑色の肌と木の枝製の巨大棍棒を振り回す“木枝巨鬼トロル・ブランチ”、鉄のような体毛を持つ“鉄鼠テッソ”、尻尾がまるでハンマーのように発達している“鎚尾蜥蜴ハンマーテイル”、青い鱗と手に持つ三又水槍トライデントが特徴的な“ブルーリザード”などを喰ってみたのだが、アビリティは得られなかった。
 喰う事で一応身体能力強化はできているが、能力上昇率は微々たるモノである。
 俺が使徒鬼アポストルロードになってから種族的に強くなり過ぎたようで、新しいアビリティを得る確率は大幅に減ってしまったようだ。コレからは質よりも量を重視していくべきだろう。
 まあ、今持っているアビリティの数が数だけに、焦って新しいのを得る必要はないのかもしれない。気に入った種族と時間があれば、アビリティを得るまで集中的に喰う事にした。
 今日も特にイベントも無く進んで行った。平和な一日である。


 “百十六日目”
 昼、森の中を進んでいると、少々開けた場所にある小さな村を見つけた。
 村を囲っている木の柵のせいでその数はハッキリと分からないが、見えた家の数から恐らく住民は百人から二百人程度の村だろうか、と思って近づいて行ったら、血の臭いと死臭が漂っている事に気がついた。
 丁度【直感】なども警報を鳴らしていたので、骸骨百足に鍛冶師さん達と護衛役の風鬼さん達を残し、俺とダム美ちゃんの二人だけで村に近づく事にした。
 その前に事前調査として【早期索敵警戒網フェーズドアレイレーダー】を発動させ、それによれば村の中央に生きている人間がたった一人居るようだ。
 一応鍛冶師さん作のハルバードを取り出し、そして今まで殆ど使っていなかった黒銀の腕輪――【孤高なる王の猛威ベーオウルフ】の能力を発動させて右腕を保護する黒銀のガントレットを装着し、周囲を警戒しながら村の中に入る。
 しかし警戒するまでも無かったようだ。
 村の様子は、かなり酷いモノだった。
 何人か分からない程の肉片が村中にばら撒かれている。家の屋根の上には下半身が無い人間の上半身の残りが乗っていたり、腕や足などの一部分だけが血溜まりの中にあったり、幼い子供の頭部だけが転がっていた事から、この村で行われたであろう虐殺の痕が見て取れる。
 それに村の家屋が幾つか粉々に叩き潰されていたし、村の地面に幾つかある大きな穴から、何かしらの大型モンスターが地中から襲ったのではないか、と推測できない事もない状況だ。
 とにかく話を聞く為に生き残っている一人の反応がある地点まで近づき、それを発見した。村にいる唯一の生き残りは、赤と紫と銀色の液体が混じった毒々しい血溜まりの中に両膝をつき、天を見上げながら慟哭している全身傷だらけの青年だった。
 そしてその青年は、普通の村人ではないらしい。
 青年の身体を守る銀鋼の軽装鎧は所々損傷がありながらも陽光を反射させて煌めき、その腰には装飾の無い実用重視なのだろう一本の剣がある。そして背中には王国の紋章が描かれた灰色の破れたマントが装備されていた。
 装備の質と紋章から見て、十中八九、王国に所属する【騎士】なのだろう。
 こんな、言っては悪いが寂れた村に居るはずの無い人間だ。
 この村を滅ぼした何かしらのモンスターを追っていた騎士団の構成員という考え方もできなくはないが、それにしては他の騎士団員の死骸や装備の残骸は見受けられない。
 村にあるのはどれもただの村人の死体だ。もしかしたら、たった一人で追っていたのかもしれない。
 と考えた所で、青年が何者なのかについて予想するのを止めた。全ての真実は青年に話を聞けば分かるのだから、あれこれ考えるのは時間の無駄だ。
 泣き叫んでいる青年に近づくにつれ、青年が大切そうに抱いているそれに気がついた。青年は下半身が丸ごと無くなっている、青年と同年代だろう素朴な顔立ちの女性の死体を大切そうに抱き締めている。その為女性の死体から流れ出る鮮血によって軽装鎧の前面の大部分は赤く染まっていた。
 状況から察するに女性は青年の大切な人だったのだろうか。
 二人の別れを邪魔するのは流石に気が引けたので、しばらくの間は青年が泣くに任せ、泣き声が小さくなったタイミングを見計らって声をかけた。
 その時初めて俺達に気がついた風な表情でコチラを向いた青年の瞳は虚ろでありながら、奥底では憎悪に燃えていた。当然悲しみなどもあるのだろうが、青年の心の中には復讐心が滾っているようだ。
 それでも話を聞こうとして、唐突に青年が低く獣のように呻きだした。
 【早期索敵警戒網フェーズドアレイレーダー】と【直感】が激しく警報を鳴らす。
 その時点で『あ、やばい』と思った。背後にダム美ちゃんを庇う様に立ち位置を変える。
 目の前で青年は地面にそっと女性の死体を寝かせ、そして腰の剣を抜刀して俺達に襲いかかってきた。瞳は相変わらずガラスのように虚ろなままだった。完全に正気ではない。
 どうも青年は、精神的な異常を起こして暴走し始めてしまったらしい。
 青年の全身から薄らと黒く汚れた魔力が放出される。魔力の放出はそのまま青年の速度を底上げし、膂力を引き上げているようだった。
 青年は【狂戦士バーサーカー】系の【職業ジョブ】でも獲得しているのだろうか、と予測してみる。
 まるで獣のような疾走速度と身のこなしで、青年は俺を殺す為に接近してくる。
 俺の首を刈ろうとする青年の剣を、俺はガントレットで受け流そうとして――。


 【夜天童子の【異教天罰ヘレシー・ネメシス】が発動しました】
 【これにより夜天童子は“敵対行動/侵攻開始”を行った【異教徒ヘレティック/詩篇覚醒者】に対して【終末論エスカトロジー征服戦争コンクエスト・ウォー】の開戦を宣言しました】
 【両者の戦いが決着するまで、夜天童子の全能力は【三〇〇%】上昇します】
 【特殊能力スペシャルスキル異教天罰ヘレシー・ネメシス】は決着がつき次第解除されます】


 ――唐突に脳内でアナウンスが流れた。
 な、と疑問に思う前に、青年の斬撃を受けた衝撃がガントレット越しに感じた。
 いまさら、止まる事はできない。だから、ただ動く。

 そして五秒も経たず。

 【決着がつきました】
 【特殊能力スペシャルスキル異教天罰ヘレシー・ネメシス】は解除されます】
 【夜天童子は【異教徒ヘレティック/詩篇覚醒者】との【終末論エスカトロジー征服戦争コンクエスト・ウォー】に勝利した為、報酬が与えられます】
 【夜天童子は【陽光之魂剣ヒスペリオール】を手に入れた!!】


 色々と突っ込み所があるアナウンスが言う様に、態々結果は言うまでもないだろうが、暴走状態だった青年は俺達の前で気絶している。
 狂った事によって通常時よりも身体能力が飛躍的に上昇していたとはいえ、その分理性などが消失し、ただ純粋に速く強い攻撃を仕掛けてくるだけの青年をあしらうのはかなり簡単な事だった。
 むしろ殺さない様に手加減するのが難しかったくらいだ。
 そもそも青年は最初からかなりのダメージを負っていた上、俺は勝手に発動した【異教天罰ヘレシー・ネメシス】によって肉体が強化されていた。ただでさえ【孤高なる王の猛威ベーオウルフ】によって膂力が強化されていたのにだ。
 殴ってしまえば、確実に青年を即死させかねない程のダメージを与えてしまっただろう。

 それは避けたかった。

 だから愚直に突っ込んでくる青年の腹部に向けて腕を伸ばし、一歩引いて半身となって、自分自身を傾いた鉄柱に見立てて青年の突進力をそのまま青年に返す事にした。
 言ってしまえば、青年は自分から鉄柱に突進して自滅した、という事になる。前世の大昔にあったとされる国で培われていた“退歩掌破たいほしょうは”と言う技だ。
 それによって青年が耐える事ができるダメージを越え、ガクリと青年の肉体から力が抜けた。かなりの速度が出ていたので、青年が目を覚ますまでにはそれなりに時間が必要だろう。
 取りあえず骨が所々折れた青年が死なない様に回復させて、眼が覚めるまで待つ事に。
 その間に俺とダム美ちゃんは村にばら撒かれている死体の処理を行う事にした。分体も使って肉片の一つ一つを掻き集め、地面を掘り返し、その中に埋める。
 この世界では死体を野ざらしで放置しているとスケルトンやゾンビになる。だから例え戦争があったとしても、戦場に放置された兵士の亡骸はモンスターになる前に埋葬されるのが普通だ。
 俺としてもこのまま肉体を喰い荒らされ、埋葬される事も無くただゾンビになり果てるのは少々ばかり不憫だったので、纏めて供養してやるのだ。
 作業は十数分程度で完了した。
 掌を合わせ、南無。冥福を祈る。
 埋葬が終わったら、今度は村から食器などまだ使える品の回収をさせてもらう事にした。
 この村は既に滅んだのだ。このまま誰にも使われる事無く放置されてしまうくらいなら、俺達が活用してやった方が道具にとっても幸いな事だろう。
 まあ、拠点でも色々と変化があるので日用生活品の補充はそれなりに重要なので丁度良かった、と言うのが本音なのだが。
 一応死体を埋葬した事に対する手間賃として貰う、という事にしとこうか。
 村中から使えそうなモノは片っ端からかき集め終えたのは、作業開始から二十分くらいが経過した頃だろうか。
 まだ青年が起きる気配がないので、水球を造って顔に浴びせてみる。すると飛び起きた。
 また襲いかかってくるか、とも思ったが、暴走は治まったらしい。
 しばらくの間青年は何が何やら、と言った感じでうろたえていたが、それを無視して青年が抱き抱えていた女性と最後の別れをさせる事に。
 青年は再び泣いた。
 青年と女性の別れが済んだ後は女性の死体を埋め、改めて青年から話を聞く事に。

 聞いた情報を纏めると、青年はこの村出身の平民なのだが、ある日突然【陽光の神の加護】を得た事で青年の生活は一変した。
 【加護】を得て一ヶ月も経たない内に国からの使者がこんな辺鄙な場所にある村にやってきて、青年を王都にある騎士や軍師を育成する学園に入学させたそうだ。
 この世界において、実在する神々から与えられる力――【加護】を有するモノはそれだけで平凡なモノを超越した力を持つ。
 同じくらいの技量だが、【加護】を持つ者と持たない者で戦えば、十中八九持つ者が勝つだろう。【加護】は神々の中で最も力の低い【亜神】によるものだろうと、どれもこれも強力な力を得る事になる。
 その為国は【加護持ち】達を集め、他国に渡さない様に囲い込むのだそうだ。しかも青年の場合は神々の中で一番地位も力も弱く、それなりに保有者が居る【亜神の加護】ではなく、その一つ上のより希少な【神の加護】だったから、より迅速に、より強制的に入れられたらしい。
 そして学園に入学してからは貴族の坊ちゃん達の陰湿な妨害を受けたり、【神の加護】持ちと言う事で青年を引き込もうとするお嬢様方を相手に色々と苦労したそうだ。

 そこら辺はどうでもいいので省略するとして。

 今回なぜ青年がこの村に帰ってきていたのかというと、村で生活していた幼馴染の女性を迎えに来たからだそうだ。青年は王都に行っても度々村に戻っては女性との繋がりを保ち、そして今度結婚する事になっていたらしい。
 政治的な問題もあったのだが、それは青年が軍の中で一定以上の地位や王様の信頼を努力で獲得し、それ等を撥ね退ける事に成功したそうだ。
 青年と女性の間に幾らかは障害が残っていたモノの、それでも幸せだったそうだ。

 当然昨日までは、だ。

 そして今日、青年が女性を王都に連れて行く為に村に戻ってくると、村人は既にほぼ全員が喰い殺されていた状態だったらしい。青年は何が起こったのか理解できずに村に入り、そこで見た。
 村で最後に残っていたのは青年が抱いていた女性で、その女性は駆け寄る青年に対して助けを求めて手を伸ばし、そして青年の目の前で地面から出現した一体の大型モンスター――【大鎧百足アルティルム】と言うそうで、【災害指定個体】とやらに認定されている大物だそうだ――によって、一瞬で下半身を食い千切られた。

 女性は即死だったに違いない。

 その後はよく覚えていないそうだが、青年は【陽光の神の加護】と軍で鍛えた力を使って怪我を負いながらも【大鎧百足アルティルム】に一定以上のダメージを負わせて、コレを退散させる事に成功。
 しかし本人が言うには、【大鎧百足アルティルム】が退散したのは青年を恐れたからだとは思えないらしい。村人を喰って腹が膨れて、殺すのに手間取るだろう青年と対峙するのは面倒になったのではないだろうか、と推察してみるが事実は不明だ。
 そしてどんどん冷たくなっていく女性の亡骸を抱きしめた状態の青年に俺達は出逢った、と言う事になる。
 この世界ではよくある悲劇と言えるのかもしれないが、そんな状況に俺はまだなった事が無いので、青年を慰める言葉は思い付かなかった。

 説明してもらっている間も青年の瞳には【大鎧百足アルティルム】に対する憎悪の炎が滾っていた。最初のような虚ろな瞳ではなく、確固とした意思がそこにある。
 素材としても良さそうだったし、【加護】持ちで、色々と使えそうで、何となくそうするべきだと【直感】も囁いたので、青年をスカウトしてみる事にした。

 お前に足りない【大鎧百足アルティルム】を殺す力を与えてやるから、お前の全てを俺に捧げろ、と。
 お前が欲している【大鎧百足アルティルム】を殺せる力をくれてやるから、お前の一生を俺に捧げろ、と。

 まさに悪魔の契約のようだ、と思いつつ、青年に手を差し伸べる。
 青年は、本当にそんな力をくれるのか、と聞いてきた。本当に殺す事ができるのか、と。【大鎧百足アルティルム】がどんなモノか俺は全く知らないし見た事もないが、取りあえず頷く。
 それを見て数瞬だけ沈黙し、結局青年は俺の手を掴んだ。力をくれるのなら、何でも支払うのだそうだ。俺は一つのカフスを差し出し、それを青年は迷わず耳に付ける。
 これで契約は成された。
 青年――とりあえず復讐者リベンジャーとでも呼ぼうか――が【大鎧百足アルティルム】を殺せるだけの力を俺は与えねばならず、それと引き換えに俺は復讐者という一生を捧げた強力な部下を得る。
 どちらも損はない。そう、損はない。
 これからは、更に楽しい事になりそうである。



 【夜天童子の【運命略奪フェイト・プランダー】が発動しました】
 【これにより【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】である復讐者シグルド・エイス・スヴェンの運命が夜天童子の支配下に置かれた為、英勇えいゆう詩篇[輝き導く英雄の背]は世界詩篇[黒蝕鬼物語]に組み込まれます】
 【最上位詩篇に組み込まれた為、国家詩篇[シュテルンベルト]から英勇詩篇[輝き導く英雄の背]が永久的に削除されました】
 【詩篇転載の為、英勇詩篇[輝き導く英雄の背]の【副要人物サブキャスト】である称号【妖炎の魔女】【守護騎兵】【簒奪者さんだつしゃ】【慈悲の聖女】保因者の【詩篇能力/特殊能力スペシャルスキル】は一時凍結されます】
 【称号【妖炎の魔女】と【慈悲の聖女】は既に覚醒状態にあります。保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた時、特殊能力凍結を解除する事が可能になりました】
 【称号【守護騎兵】と【簒奪者さんだつしゃ】は未覚醒状態です。能力を解放するには保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた後、定められた条件をクリアしてください】

 【英勇詩篇[輝き導く英雄の背]の【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】の能力解放決定権は、掌握者である夜天童子に一任されました】
 【以後、【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】である復讐者シグルド・エイス・スヴェンの能力解放は夜天童子の意思によって行われます】


 と思っていたら、早速面白い事が判明した。
 戦う前に流れたアナウンスからして復讐者は俺と同じように――世界詩篇と英勇詩篇、という規模の差があるようだけど――【詩篇】、と呼ばれるこの世界の神秘に携わる一人なのだとは推察できていた。
 しかしあの時のアナウンスには無かった【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】とある事から、【詩篇】の中核を成す人物なのではないのだろうか。
 うん、予想外だ。驚かされた。ビックリだ。と一通り驚くと冷静になれたので、簡単に情報を纏める。
 どうも復讐者――シグルド・エイス・スヴェンという名前は分かったが、俺は今後も復讐者と呼び続けるつもりである――が【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】としての真の能力を解放するには、俺の意思が必要なようだ。
 意識すると、能力を解放するかしないのか、という選択肢が脳裏に浮かんだ。
 俺が願えば、何時でも復讐者の能力は解放できる。
 だから今は解放しないでおく事にした。
 能力を解放したら【隷属化】の効果を弾かれた、とかになったら笑えない。会ってすぐ人を信じるなんてできるはずもない。もう少し復讐者について知ってからでもいいだろうさ。幸い、時間はまだまだあるのだから。

 それにしても【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】や【副要人物サブキャスト】ってヤツは他にも居るのだろうか。……居るんだろうなぁ。俺や復讐者だけが特別だとは到底思えない。
 彼・彼女等はきっと相応に強いのだろう。それに多分、その肉を喰ったら美味いに違いない。
 うん、一度敵対する【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】や【副要人物サブキャスト】とやらを探して、その肉を喰いたいものである。
 いや、絶対に一度は喰ってやると心に決めた。
 勝った時の特典で得た品とか、是非とも収集したいし。
 ちなみに、【陽光之魂剣ヒスペリオール】の情報を読みとったらこうなった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
 名称:【陽光之魂剣ヒスペリオール
 分類:【■■/刀剣】
 等級:【■■■■】級
 能力:【陽光之魂剣ヒスペリオール】【異教天罰ヘレシー・ネメシス
    【陽光収束】【太陽の卵】
    【英雄の卵】【能力増設】
    【未解放】【未解放】
    【未解放】【未解放】
 備考:夜天童子が【異教徒ヘレティック/詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】との【終末論エスカトロジー征服戦争コンクエスト・ウォー】に勝利して得た■■■■級の■剣。
    世界に存在する神々がとる三形態≪■■/■■/■■≫の一つである■■であり、その刃は陽光をそのまま鍛えた様な輝きを宿している。
    これに触れる事ができるのは夜天童子本人か夜天童子の許しを得た者のみであり、許しなく触れた者には想像を絶する災いが降りかかる事だろう。
    ■■である為、破壊は例外を除き、絶対に不可能。

    さらに情報を閲覧しますか?    
    ≪YES≫ ≪NO≫

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


 何これ凄い、としか言えなかった。
 今日だけでこの世界の謎の一端に、一気に近づけた気がする。
 ただ不満があるとすれば、現在の俺ではコレを全く喰えなかった、と言う事くらいか。
 まさか何度噛みついても欠片も出ないとは……。少々、プライドが傷ついた。情報も幾つか読みとれなかったので、いつか読みとれるようになった時には、コレを喰う事ができるのだろうか。
 とりあえず、アイテムボックス内に入れておく事にする。

 あと、一応気がかりなのは国家詩篇[シュテルンベルト]うんぬんかんぬんについてだ。
 英勇詩篇[輝き導く英雄の背]は国家詩篇[シュテルンベルト]から永久的に削除されてしまったそうだし、そうなると詩篇として成立するのだろうか? 成立しない事もないのかもしれないが、確実に不具合が発生するだろう。
 もしかして、俺はちょっとヤバい事をしたのかもしれない。
 ……まあ、よく分かっていない事を深く考えるだけ時間の無駄だ。一応何かあったらお転婆姫と騎士の少年とかは助けられれば助けるか、と思うくらいで別にいいか。
 うん、それで行こう。

 正直王国に災厄が降りかかっても、個人的にはどうでもいいし。

 その後、復讐者が村中に油を撒いて火をつけた。村人に贈る盛大な送り火、と言った所だろうか。祈りを捧げる復讐者に倣い、再度俺とダム美ちゃんは祈りを捧げた。
 南無。
 その後村が燃えだした事に驚いていた赤髪ショート達に復讐者を紹介し、事前に連絡して用意してもらっていた昼食を喰い、拠点に向けて再度出発した。
 復讐者は精悍な見た目通り真面目な性格をしているらしく、それでいて元々が貴族ではなく庶民だから気取った所が無い。話し易いので皆の受けは良かった。
 オーロとアルジェントの教育役に丁度いいかもしれないな、と思うが、それは今後見極めようと思う。

 今日は山頂で野営する事になった。山頂という事もあって夜はかなり寒く、野宿するのには適さない。のだが、俺達にとっては大きな問題ではない。
 骸骨百足は骨を組み変るだけで全員がゆったりと寝られるスペースを確保できるし、周囲を包んでいる分体が風などを防いでくれる。
 それに加えて温かい毛布と、クマ次郎にクロ三郎までいるのだから寒いはずが無かった。
 布団に包まれれば、俺の意識はさっさと眠りに落ちそうになり――。



 【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の開始条件の三分の一以上が満たされました。
 解放条件クリアにより第一節【雌伏の時レビィナ・マス】、第二節【予兆の陽ルーラン・ベラ】、第三節【狼煙の唄ティラン・チィチ】、第四節【破喰の牙グールド・ベラン】まで進む事が可能です。
 現時点から世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】を開始する事は可能ですが、開始しますか?
 ≪YES≫ ≪NO≫】

 ……え?
 と、取りあえず≪NO≫で。

 【≪NO≫が選択されました。
 以後は自動的に発動するか、あるいは夜天童子の意思で発動可能となりますが、残りの条件をクリアする毎に【王国革命のススメ】の成功確率は上昇します。
 現在の成功確率は≪38%≫です】

 あぁ~……。うん、取りあえず今は寝た。


 “百十七日目”
 昨日寝る前になにやら面倒事の臭いしかないモノを見た。見たけど今は無視する事にしよう。
 面倒だし、情報が少な過ぎて判断できない。

 うん、この選択でいい様な気がしてきた。

 今日は山を下り、広大な草原を進んでいる。
 脳内地図と王都などで買った地図を照らし合わせれば、拠点がある“クーデルン大森林”に最短距離で進むとなると、現在地である“カスダッダ大草原”を越え、以前も通った“シーリスカ森林”を抜け、防衛都市≪トリエント≫を過ぎ、“四翼大鷲ファレーズエーグル”が住んでいる山道を進んで、丘陵地とか“クルート”村を過ぎてようやく着くようだ。
 骸骨百足は休息を必要とせず、それでいてかなりの速度が出せるので、くるまでにかかった日数程は必要ないだろう。

 それと朝の訓練時に復讐者と手合わせしてみたが、戦闘能力はかなり高かった。しかしややアーツや補正に頼り過ぎる戦い方をしているようだ。
 コレからの戦闘訓練でそれを矯正していけば、以前フォモール族がいる山で出会ったあの不可思議な――今だからこそ分かるが、多分アイツも【詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト】とかの一人だったんだろうなぁ。で、他のメンバーが【副要人物サブキャスト】とかなんだろう。うん、今度出逢ったら挑発して敵対してみようか。今ならヤれる――雰囲気で俺に殺しを躊躇わせた青年ほどではないとしても、上手く鍛えればあれに匹敵する存在になるかもしれない。
 手合わせした感触から、俺の中で復讐者は鈍鉄騎士以上ダム美ちゃん未満、と言った感じの順列に収まった。能力を解放したらどれくらい強くなるのかは今の所不明だが、素の状態ではこんなモノだった。
 うん、復讐者はかなり使えると思ったのは間違いではないらしい。

 今日は“カスダッダ大草原”を越え、“シーリスカ森林”に入る手前で野宿した。


 “百十八日目”
 “シーリスカ森林”の中を進んでいると、父親エルフから連絡が入った。
 どうやらエルフの里に居た裏切り者達の粛正が完了したらしい。間違いがあってはいけないので父親エルフ側としても念入りに調査し、それに加えて俺が収集し提供した情報と照らし合わせて断定したそうだ。
 俺としてはそこまで興味のある要件ではなかったのでそれを聞き終わると、俺達が運営する温泉などについての感想を聞いてみた。
 カフスに取り付けた分体などから温泉はかなり好評だ、という情報は入ってきているが、やはり直接感想を聞いてみたくなったのだ。
 父親エルフの感想は、『まるで天国に居たようだった』だそうだ。
 温泉の話をしていると、無性に入りたくなってきた。拠点の温泉に浸かって、エルフ酒をグイッと飲みたい。露天風呂で飲むエルフ酒、さぞ美味い事だろう。
 俺は父親エルフに戻ったら一緒に飲もうと約束して、通信を終えた。
 うん、早く帰りたくなってきたぞ。って事で、骸骨百足の速度を上げる。木々が生い茂る森の中だろうとも、地形を操作して一本の道を造る骸骨百足を阻めるモノはいなかった。
 待っていろよ、温泉とエルフ酒よ。


 “百十九日目”
 防衛都市≪トリエント≫には入らずにその横を通過し、空からの諜報やゴブリン達を乗せた空戦部隊を造る為にとりあえず二十体ほど“四翼大鷲ファレーズエーグル”を捕獲し、≪使い魔≫にしている所で再び謎の声が聞こえた。


 【世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物サブキャスト】であるアス江が存在進化ランクアップしました】
 【条件“1”【存在進化ランクアップ】クリアに伴い、称号【地殻雷鎚】が贈られます】


 向こうの様子を確認する。
 しかしアス江ちゃんは眠っていた。どうも徹夜でボス狩りを行っていたらしい。
 仕方ないので一時間ほど時間を開けて、再度確認すると起きていたので詳しい話を聞いてみる。

 するとどうやら迷宮最下層に籠ってボス狩りをしていたアス江ちゃんはランクアップして、“地雷鬼アースロード・亜種”になったそうだ。亜種になるには【加護】が必要なのでどの神から貰ったのかと聞いてみれば、【地震の神】から貰ったらしい。
 現在のアス江ちゃんの見た目は半地雷鬼と大きく変わっていないが、加護を得た事を加味しても以前とは比べ物にならない程強化された上に新しい能力にも目覚め、身長は四メートル程になったそうだ。
 五メートルはあるミノ吉くんとは半地雷鬼だった頃と比べてサイズ的に何とかつり合いがとれている、と言った感じで、夜の営みも再開する事ができそうだとか。
 ミノ吉くんが嬉しそうにそんな事を言っていた。全く、元気なモノだと苦笑が漏れた。
 俺も他者の事は言えないけどな。
 ちなみにアス江ちゃんの真名は“大地母鬼テッラ”と言うそうだ。
 それにミノ吉くんの【斧滅大帝】と同じような系統で、【地殻雷鎚】なる称号を得たらしい。
 ……俺って、称号とか持っていたっけ? 持っていない様な気がする。スキルやアビリティは沢山あるんだが。二人がちょっと羨ましくなった。
 まぁいい。
 ボス狩りをしていた事で同じグループに居たホブ水さんはセイ治くんと同じ“半聖光鬼ハーフ・セイントロード”にランクアップし、足軽コボルドの柴犬は“武士コボルド”になったそうだ。
 柴犬は武士コボルドになった事でアス江ちゃんと同じく真名を得たそうで、“紫煙之介しうんのすけ”というようだがそれはぶっちゃけどうでもいい事である。 
 とにかく、その事についてダム美ちゃんとかにも伝えてみる。
 するとダム美ちゃんを除いた全員――アス江ちゃんを知らない復讐者は除く――はそれぞれカフスを介してアス江ちゃんに祝いの言葉を贈っていた。
 いや、ダム美ちゃんは祝っていない訳ではない。
 ただ、まだ最初期の頃に一緒に居た四鬼で自分だけが三回目の存在進化ランクアップを経験していない事が、悔しいのだろう。
 その美貌に今は若干陰りがある。
 ダム美ちゃんの気持ちが分からなくもないし、力になりたいと思っている。現在のレベルは幾つなのか聞いてみると、“89”とランクアップできる“一〇〇”近くだった。
 どうせなら拠点に帰る前にランクアップさせたいと思い、俺は最終的に“四翼大鷲ファレーズエーグル”を三十体ほど≪使い魔≫にした後、山道を抜けた先にある誰にも被害の発生しない丘陵地に赴き、そこでブラックオーガやブラックトロル、そしてブラックフォモール達を生成して殺させる事にした。
 そしてダム美ちゃんのついでに、赤髪ショートや復讐者、風鬼さん達も戦う事になった。

 人間と大鬼オーガのハーフである【半人大鬼オーガ・ミックスブラッド】なオーロとアルジェントも既に鍛え始めても良いくらいに育っていたので、取りあえず二人の未来の為にも成長を阻害してしまうほど激しくなり過ぎないよう、それでいて強く成れるように鍛え上げる事にした。
 訓練に苦手意識を持たれては今後色々と面倒な事になるだろうから、あくまで二人が楽しく、それでいて自主的に訓練を続けられるように気を使う。
 楽しめて、かつ強く成れるような訓練を考える事は案外疲れたが、二人の親なのだからこの位はどうという事は無い。
 それと俺の子だからか大鬼オーガよりも上位の存在である上級大鬼ハイ・オーガとして生まれた鬼若は、今から訓練を始められるくらい成長していたので、訓練に参加させる事にした。成長が早いのは、人間の部分が四人の子供の中で一番少ないからだろう。
 それと比べて、普通よりも成長が早いとはいえ一応人間であるニコラが他の三人のように動けるようになるには時間が必要になる。あと数年は普通に育つのを待つしかないようだ。
 まぁコレも仕方ない。普通に考えれば他の三人が早すぎるだけなのだから。
 どのこも可愛いのには違いないし、個性の範疇なので何も問題は無い。

 今日は昼から夜までぶっ通しで戦闘訓練に費やされた。命を奪った事で、昨日よりも皆強くなっている。
 その陰で生成した巨人は悉く殺されていくのだが、これは必要な犠牲である。
 それに勿体ないのでダム美ちゃん達によって発生する巨人達の死骸を俺はできる限り喰ってみた。
 生成した数は百体程だが、一体の大きさが大きさだけに俺が喰えたのは四十体程度が限界だった。
 よく喰ったもんだと思うが、喰えたのだから仕方ない。あの量が俺の身体のどこに消えたのか、自分でも不思議ではある。

 【能力名アビリティ【体力値上昇】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【超回復】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【鬼殺し】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【物理攻撃強化】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【強打乱舞】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【大物殺し】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【装甲圧殺】のラーニング完了】
 【能力名アビリティ【幸運値低下】のラーニング完了】

 四十体喰ってもたった八つしかアビリティを得られなかった。
 使徒鬼アポストルロード・絶滅種になってからアビリティを得難いのはちょっと歯痒いな。

 夜になると皆足腰が立たなくなるくらいに疲労困憊となった。
 全身汗だくの泥だらけで、訓練中に大怪我を負う事もあったがそれは俺が治したりしたので残っているのは掠り傷程度しかない。ただ疲労までは完全に回復はできないので、身体が重ダルイようだ。
 そして皆と同じように、俺も疲れていた。
 喰うばかりで怪我など一つもないし、オーロとアルジェント、それに鬼若の訓練は四時間ほどやっただけで切り上げて以降は鍛冶師さん達と喋ったりするくらいで、それほど動いてはいないので肉体的な疲れは無い。
 しかしどうも調子に乗って魔力を使い過ぎたらしいのだ。転生して今まで身体の奥底で満ちていた魔力が、枯渇寸前にまで陥った。
 どうもこの世界特有の症状――“魔力欠乏症”を発症しかけたらしい。
 “魔力欠乏症”は完全に発症すると絶対に失神するらしいのでそれに成る一歩手前といったぐらいだったが、身体が重だるく、異様な眠気に襲われた。
 それを回復させるのは以前フォモールが住む山で出会った青年の連れの魔術師の女性にそうしたように、“魔力回復薬マナポーション”を飲んで魔力を補充するのが一番手っ取り早い手段だ。
 だからグイッと一本嚥下する。
 実は今回初めてマナポーションを飲んだのだが、その感想を一言で纏めると、苦い、となる。あまり飲みたいとは思えない味だった。
 ただ、今まで知らなかった現在の限界を知れたのでよかったとも思っている。
 今日生成した巨人達の数は百体。巨人はどれを生成しても一律でスケルトン達を生成するに要する魔力の約五十体分を消費するから、百×五十でスケルトンを自前の魔力で生成するなら約五千体ほどが今の俺の限界らしい。

 ……正直自分でも驚きの数になった。

 太陽がある時は分体で加工しなければならないとはいえ、魔力を回復できる夜に本気で生成し続ければ、普通に国が落とせる戦力を確保できると言う事になる。
 うむ、現在の限界とかを再認識する為に有意義な一日だった。
 
 今日は疲れもあって毛布に包まれると即座に意識がなくなった。




 【世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物サブキャスト】であるダム美が存在進化ランクアップしました】
 【条件“1”【存在進化ランクアップ】クリアに伴い、称号【氷界女帝】が贈られます】

 【条件“1”【存在進化ランクアップ】クリアに伴い、【■■の正妻】が正式に発動しました】
 【夜天童子が解放条件“1”【鬼人ロード化】をクリアしている為、【■■の正妻】の封印が限定解除されました】
 【称号【■■の正妻】は称号【鬼■の正妻】に変化しました】
 【ダム美に称号【鬼■の正妻】が贈られます】

 【称号【鬼■の正妻】の正式発動に伴い、新しく称号【鬼■の権妻ごんさい】が解放されました】
 【条件適合者の選抜を開始】
 【……選抜が完了しました。条件適合者に称号が贈られます】

 【赤髪ショートルベリア・ウォールラインに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【鍛冶師さんエメリー・フルラットに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【姉さんフェリシア・ティミアノに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【妹さんアルマ・ティミアノに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【錬金術師さんスピネル・フェアンに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【女騎士テレーゼ・イースト・エッケルマンに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【ドライアドさんドリアーヌ・デュブエに【鬼■の権妻】が付与されます】
 【以後、新たな条件適合者が発生すると自動的に【鬼■の権妻】が付与されるようになりました】


 “百二十日目”
 赤髪ショート達七名――ココには居ないドライアドさん含む――が称号を得た。
 そしてダム美ちゃんは存在進化ランクアップした。
 そりゃ百体生成した巨人達の内、ブラックフォモールを五体、ブラックトロルを十体、ブラックオーガを二十体も殺せばランクアップできるだろうさ。
 それにしても、【加護】の能力で氷を生み出してブラックフォモール達を包む氷柱を形成したり、クレイモアで斬り裂いたり、弓で頭部をハリネズミのようにしたり、魔術で巨人達の肉体を爆散させて全身で血の雨を浴びている時のダム美ちゃんは幻想的だった。
 血に濡れて妖艶に笑うダム美ちゃんに、俺はゾクゾクとしたモノだ。

 話を戻すが、ダム美ちゃんが成った種族は“吸血貴族ヴァンパイア・ノーブル・亜種”だそうだ。
 どうも予想していた“吸血鬼ヴァンパイア”ではなく、吸血鬼の中でもより強く高貴とされる【貴族】と成ったらしい。【神の加護】を持っているので亜種には成ると確信していたが、ちょっとだけ想像を越えられた。
 見た目はアス江ちゃん同様、大きくは変わっていない。せいぜいが刺青を刻んだ皮膚の範囲が増え、色が濃くなった事くらいだろうか。
 ただ内面的なモノが大きく違っていた。身体能力は当然ながら各種能力が強化され、より洗練された気配を纏うようになった。
 新しく得た能力には血を吸った自分よりも弱い相手を支配する【吸血支配】や、強力な能力を持った十二体の眷獣を召喚できる【中位眷獣召喚】、そして俺の持っている【下位アンデッド生成】の上位版である【中位アンデッド生成】などが新しく追加されたそうだ。
 【中位アンデッド生成】は新しく得た【冥府の神の加護】によって使えるようになったそうで、俺が以前から喰いたいと思っていた死食鬼グールも生成可能らしいので、拠点に到着したら暇を見つけて喰わせてもらう事になった。
 そしてダム美ちゃんが得た真名は、“月蝕神醒ヘカテリーナ”というそうだ。
 月光に照らされるダム美ちゃんを想像して、似合った名前だと思った。 
 ただアス江ちゃんと違ってこれまでのダム美、とは言えなくなったので、改名する事にした。が、これまで通りの名付けだと、あまり良い名前が思い浮かばない。
 候補としてヴァン美、パイ美、イア美、ブル美など上げてみたがどれも非常にビミョーである。
 仕方無くダム美ちゃんは真名である“月蝕神醒へカテリーナ”から名をとり、“カナ美”と名乗る事になった。
 もっと他に在りそうなものだが、まぁいいか。

 さて、最初にも言っていたように赤髪ショート達が称号を得たりしていたが、その他は特に語る事は無い。
 野営していた丘陵地――辺り一面血で染まっている――を抜け、途中にあるクルート村で村長宅に寄り道して護衛の仕事は順調かどうかを聞いて、俺達が生まれた森に入って突き進む。
 途中でマジックアイテムの製作に使う素材を集めていたら少々遅くなってしまったが、拠点にはやや太陽が沈みかけた頃に到着した。
 そこで、カナ美ちゃんや赤髪ショート達は絶句する事となる。何が何やら、といった表情を浮かべている。
 復讐者は以前の拠点を知らないので反応はやや薄いがそれでも驚いていた。
 しかしそれも当然な事だろう。


 拠点は、立派な要塞と成っていたのだから。


 カナ美ちゃん達に要塞の案内をするのは時間が時間なので明日する事にし、今日は帰り道に狩ったバイコーンなどの肉やエルフ酒を材料に宴会を開く事にした。
 “新しく”加わった種族達も交え、盛大なモノと成った。

 しかし、うむ、やっぱり温泉に入りながらのエルフ酒は最高である。



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