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再編半年/福島原発 避難区域(中)風評、事業の再開阻む

従業員と本格稼働の準備をする佐藤社長(右)。1年半休業し、機械は傷んで工場内はほこりまみれになっている=9月30日、福島県飯舘村

◎「客戻らない」しぼむ意欲

 電話の向こうの経営者の返事はこちらの期待に沿うものでなかった。
 「売り上げは落ちる一方。気がめいって話す気になれない」
 福島県飯舘村で事業を再開した複数の企業に電話で取材を申し込み、ことごとく断られた。
 「工場を開けても顧客は別の工場に流れて戻ってこない」「業績が振るわないことを世間に知られたくない」
 取材拒否の理由はいずれも経営不振に起因している。
 飯舘村は福島第1原発事故の避難区域再編で7月、居住制限区域と避難指示解除準備区域などに移行した。事業活動が条件付きで認められ、10社が再開した。
 10社の中で型枠加工業「佐藤工業」が取材に応じた。村北部の前田地区で消波ブロックなどの型枠を加工する。9月に政府の再開許可を得て、10月上旬の本格稼働に備えている。
 「客離れを食い止めるには再開するしかないが、放射能を心配する取引先が多く、先行きは不透明だ」
 佐藤孝一社長(58)は不安を口にする。避難先の伊達市から通う。

 東日本大震災の復旧工事で型枠の需要は高まったが、原発事故の風評被害で注文が安定しない。事故前は6人だった従業員は3人に減った。増員を考えているが、今後の仕事量が読めず、求人に踏み切れない。
 「まずは営業から。風評被害や従業員の被ばく線量管理など課題は山積みで、軌道に乗るのはいつのことか」
 10社は同社のほか、自動車整備工場やガソリンスタンドなど。再編前から特例で事業継続が認められた事業所と合わせて10月1日現在、17社が稼働している。
 経営環境は厳しく、事業継続組のうち1社が休業し、1社が村外に移転した。両社ともメーカーで、避難先から通う従業員の負担が増したことが響いた。
 村商工会の長谷川長喜会長(60)は「熱意を持って事業再開しても壁に当たるケースが多い。地域経済の存亡は小さな事業所の業績次第で、行政に継続的な支援をお願いしたい」と訴える。

 経営に対する逆風の強さは南相馬市も変わらない。小高区が4月に避難指示解除準備区域などに再編されたのを受け、製造業を中心に20社が再開し、多くが売り上げ減にあえいでいる。
 小高区の酒匂(さかわ)製作所福島工場は8月に操業を始めた。第1原発から20キロ圏内という理由で一部の取引先を失ったという。生産体制は原発事故前の3分の1。花里貴志工場長(45)は「取引先から出荷の際、今も放射線に関する証明書の添付を求められる」とこぼす。
 風評被害への不安から、製品を別工場経由で出荷する「小高隠し」と受け取れる措置を取る工場もある。
 小売業も振るわず、再開は3店にとどまる。再編で立ち入りが自由になり、一時帰宅する住民の利用が期待されたが、インフラ整備の遅れもあって住民が自宅に戻る機会は再編当初より減り、当てが外れた。「人が来ない場所でサービス業の再開はあり得ない」(小高商工会)と事業意欲も沈みがちだ。


2012年10月04日木曜日

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