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2012.4.6(金)更新  私のグッとムービー/谷口ジローさん


私のグッとムービー

    谷口ジローさん
      「ラスト・オブ・モヒカン」
死生観に引き込まれた
 好きな映画を1本だけ選ぶのは酷ですね。葛藤を経てこれを選んだのは、私が漫画で描きたい世界が映像化されていたからです。

 冒頭で連なる山々を延々と俯瞰(ふかん)で映した後。カメラは主人公ホークアイがシカを追って疾走する森の中に入っていく。こんなゆったりした描写は漫画ではできないんですよ。もうこのシーンで十分、すぐに引き込まれたんです。

 舞台は18世紀半ば、先住民や開拓農民を巻き込み、英仏による植民地争いが激化する北米。英仏軍の理不尽さも、彼らに追い詰められた先住民の苦悩も、この映画はちゃんと見せています。

 その中にアクションあり、先住民モヒカン族と英軍人の娘のほのかな恋物語もあり。何も言わず命がけで助けにいく姿にはぐっときました。王道の物語を娯楽映画としてみせた傑作じゃないかな。

ラスト・オブ・モヒカン
え・谷口ジロー
 元々、この時代の北米先住民の生き方に興味があるんです。自然の恵みに感謝し、山や木にも魂が宿るとする精神。ホークアイは白人ですがモヒカン族の育ての親と共に、殺したシカに対して命をもらったことを感謝する。昔の日本人の死生観と似てるのかな、と。

 この主題をいつか漫画でと思っていて、「ラスト・オブ・モヒカン」を見て描いたのが『天の鷹(たか)』。会津藩の侍が海を渡り、先住民と共に米政府と戦う物語です。題名もそうだし、ホークアイが持つ長い銃の形や扱い方も絵になると思った。影響受けてます。

 映画には知らない世界を伝える強さがある。学ぶことが多いですね。私も、見たことのないものを漫画で描きたいと思っています。

聞き手・河内奈々
 
 監督・共同脚本=マイケル・マン

 製作=1992年、米
 ▽出演=ダニエル・デイ・ルイス、マデリーン・ストー、ジョディ・メイほか
たにぐち・じろー
 1947年生まれ。漫画家。
 98年に手塚治虫文化賞を受賞した「『坊っちゃん』の時代」のほか、「天の鷹(たか)」「凍土の旅人」「ふらり。」など。
 
(2012年4月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
 

 

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