NHKスペシャル 攻防 マニフェスト予算 ~政治主導は実現できたか~ 2009年12月26(土)19:30~20:43 キャスター:影山日出夫 解説委員 守本奈実 アナウンサー  ゲスト:野田佳彦 財務副大臣  古川元久 国家戦略室長

密着 予算編成

政権交代が実現した歴史的な衆議院選挙の夜。私たちは、この時から予算作りを見つめてきました。2週間後に財務大臣となった藤井裕久さんです。藤井さんは、来年度予算の編成で民主党が掲げたマニフェストは実現できると語りました。
「今度の選挙の結果、大きな問題がいくつか出る訳ですね、テーマが。(マニフェストを予算案に)入れなさいと。膨らみすぎるなら、(マニフェスト以外の)他のものを切りなさいというようなことですから、事柄はね、意外に単純なんですよ」(藤井財務大臣)

写真

民主党の政権公約=マニフェスト。「コンクリートから人へ」という理念を掲げ、官僚に依存せず、“政治主導”を実現すると約束しました。そのための司令塔として「国家戦略室」が作られました。
「マニフェストっていうのは、国民の皆さんと約束したことですから、できるだけわかるような予算の形にしていく」(古川国家戦略室長)
税制調査会では、政治と業界のしがらみを絶ち、新たな財源を掘り起こそうとしました。しかし、各省の利益を優先する発言が相次ぎ、財源の確保は難航しました。
「改めて与党になると、自民党の皆さんって結構、苦労しながらやっていたんだということが、今、良くわかるんですよ」(古本財務政務官)

政権与党となった民主党。鳩山政権は、国の借金・国債発行額を、自民党政権時代を超えない約44兆円以内に抑えると決めました。その制約の中で、マニフェストをどう実現するのか。予算編成の最前線に立った政治家同士が初めての攻防を繰り広げました。
「マニフェスト政策を行うために国債を乱発するということはやってはいけない」(大串財務政務官)
「一歩間違うとコンクリートも人もバッサリ切っちゃう、ということになったら公約違反じゃないか」(山井厚生労働政務官)

最終盤、財源不足の中で、マニフェストの修正を迫られました。焦点となったのは、金額が2兆5000億円と最も大きい暫定税率の扱いでした。司令塔として期待された国家戦略室。そして内閣に入った政治家たち。結論を下せずにいました。
「何かの結論を出すということは、特にありません」(菅副総理・国家戦略担当大臣)
その時、動いたのが民主党の小沢幹事長。政府の肩書を持たない小沢幹事長が、暫定税率の事実上の維持を要望したのです。鳩山総理大臣は、これを受け入れました。マニフェストの修正を余儀なくされたのです。
「マニフェストに沿えなかったということに関しては率直にお詫びを申し上げなければならない」(鳩山総理大臣)
マニフェストを掲げ、初めての予算編成に臨んだ政治家たちの攻防。鳩山政権が理想とした政治主導は実現できたのか。今夜は、2人のキーマンに問います。

攻防 マニフェスト予算

来年度予算案がきのう、閣議決定されました。霞ヶ関の官僚には頼らないと宣言して始まった今度の予算編成。しかし、マニフェストと財政規律をどう両立させるのか、財源不足という厳しい現実に直面して鳩山政権の対応は最後まで揺れ続けました。そして結局、暫定税率の廃止は事実上見送るという政権公約の修正に追い込まれ、国の借金も600兆円をはるかに上回りました。
鳩山政権は来年度の予算編成で政治主導を実現することができたのでしょうか。今夜は財務副大臣の野田佳彦さんと、内閣府副大臣で国家戦略室長の古川元久さんにお越しいただきました。

——民主党は政権交代によって予算の使い方を変える、コンクリートから人に変える、と言ってきた。実際にやってみて、思っていた以上に大変だったのでないか。

写真

野田財務副大臣
私は野党でずっと国対委員長をやってきまして常に予算を批判する先頭に立ってきましたが、作るのは本当に大変だと思いました。特に今回大変だったのは、今年度で税収が46兆円、麻生政権の下で見込んでいましたけれども、それが36.9兆円、9兆円程落ち込んだ。その中での来年度の予算編成ですから、税収が急激に伸びるはずがない中で、どうやって予算の組み換えをして無駄遣いをなくしていくかという中で、ぎりぎりの努力はしたつもりです。マニフェストの主要項目については、基本的には忠実に実現しようと努力したつもりです。

——暫定税率の廃止は、子ども手当てと並んでマニフェストの一番の柱。その約束が果たせなかった責任をどう考えるか。

写真

古川国家戦略室長
私たちは国民の生活を第一に考えて、命を守る。そういう視点からそれぞれの政策、マニフェストの具体的な項目を作ってきたんですね。そういう中で税収が極度に落ち込んでいる、同時に予算編成まで限られた3ヶ月足らずでやらなければいけなかった。そして極めて厳しい経済状況の中で、どう優先順位をつけていくのか。そういう中で、命を大事にする、暮らしを大事にする、未来を作っていく子供たちを大事にする、そういう視点から子ども手当てや高校無償化を中心に約束を守った。 暫定税率を下げた時には(ガソリンが1リットル)180円と高かったわけですが、安定していると、同時に鳩山総理はチャンレジ25ということで環境問題には大きなリーダーシップを発揮していこうとしている、そうした点から優先順位をつけて、国民の皆さまにご理解をいただく形でまとめさせていただいたわけです。

——ガソリン税率の廃止は、去年の国会で民主党が強く求めていた問題。税収が落ち込んだといっても簡単に反故にして良いのか、国民の理解を得られるか。

野田財務副大臣
去年、暫定税率の廃止でがんばった時は、1リットル180円という異常事態の時でした。今回も揮発油税を触るとしたら、やはり高騰したとき、それが恒常的になった時にはその発動をしようという話になっているので、全くその思いを捨てたわけではありません。今は石油価格も安定をしているので、無理して今、揮発油税の見直しをすることはないという現実的な判断だと私は思います。

司令塔は機能したか

——内閣の中で最終方針が決まらない。最後は小沢さんが出てきてようやく物事が決まった。どうしてもそういう印象を受ける。政治主導と言いながら内閣の司令塔であるべき国家戦略室でどうして政策の優先順位、予算の優先順位を1つに決めることができなかったのか。

古川国家戦略室長
11月から12月にかけて、最終的には総理に2つの選択肢を示してそこで選んでいただくという、そういう過程まで詰めていってたんですね。菅副総理を中心に関係大臣が集まってやっていた。たまたまそこに党の要望も入ってきたということであって、決してぶれていたわけではなく、ずっと流れの中に党の要望も入ってきて、最終的に菅副総理の下、戦略室でまとめた選択肢の中から総理がご判断をして、マニフェスト事項の優先順位付けをして決めさせていただいたということです。

——藤井財務大臣は予算の1割位は簡単に削れると、民間会社ならどこでもそういうことをしていると言っていたが、予算の組み換えで生み出した財源は3兆円ちょっと。切込みが足りなかったのか、見通しが最初から甘かったのか。

野田財務副大臣
概算要求がでてきたのは10月15日です。例年に比べれば1ヶ月半遅れています。その短い期間で年内編成を目指す中では、私は最大限切り込んだと。事業仕分けで縮減できたものが約1兆円、基金から戻してもらうのが約1兆円、合わせて2兆円。最初の概算要求を作る段階で1兆3千億削っています。その3.3兆の間でマニフェストの主要項目をしっかり実現すると、財源なくして政策なしというやり方はできたと思っています。予算の組み替えが相当できています。公共事業費は18%以上削減です。加えて社会保障費は9.8%増えました。文教関係5%増えました。かなりコンクリートから人への投資という国の資源配分は変わったと私は思います。