自民党が衆院選に向けた政権公約を発表した。
自民党は政権復帰目標を公言する野党第1党である。その責任の重みを自覚するならば、なぜ国民が3年前に民主党への政権交代を選んだか、謙虚に反省し、分析した成果が政権公約の根底に流れていてしかるべきだ。しかし、それが見えない。
公約では、集団的自衛権の行使を容認し、改憲で自衛隊を国防軍と位置づけるなど、安倍晋三総裁の考えを反映して国家主義色を鮮明に打ち出している。一方で、東京電力福島第1原発事故後の総選挙で最も態度を明らかにすべき原発政策はあいまい、農業や医療など暮らしを大きく変える可能性の高い環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題への態度は分かりづらい。
目の前の最重要課題への取り組みを先送りしておいて、5年前に突然退陣した安倍政権の「戦後レジームからの脱却」の続きをやろうというのなら考え直してもらいたい。
財界や米国が志向する市場至上主義ではなく、真に国民生活のことを考えて政権を担おうとしているのか。民主党政権の失敗に乗じる形で古い自民党体質が首をもたげてこないか。言い換えれば、3年余りの野党時代に何を学んだか。有権者が公約を通して知りたいのは、これに尽きる。
その点、がっかりさせられたのは、原発政策公約が「10年以内に持続可能な電源構成のベストミックスを目指す」と争点回避の狙いもうかがえるような記述で、投票の判断材料になり得ていないことだ。数値、年次目標、そこに至る工程表を伴った原発の将来像を早急に明示すべきだ。過去一貫して原発を推進してきた自民党の責任である。
公共工事依存の経済対策にしてもそうだ。国土強靱(きょうじん)化基本法を制定し、防災分野への大規模投資によって復興を加速させる狙いだが、土建国家への先祖返りにならないか懸念が拭えない。民主党の掲げた「コンクリートから人へ」の理念そのものは今も価値を失っておらず、政権交代の原動力となった事実を忘れてはならない。
強い疑問と危機感を覚えざるを得ないのは、安倍カラーが濃厚に出た安全保障政策だ。歴代政権が違憲解釈してきた集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の人員・装備・予算を拡充し、改憲で国防軍化する―。極端な主張の数々には選挙協力を進める公明党も反発した。当然である。
日本は戦後67年にわたり平和国家として歩んできた。近隣国から日本が「軍拡」にかじを切るのではと疑われて、いいことは一つもない。国民の願いは、勇ましい国家ではなく日々の平穏な生活だ。今度の投票は、平和国家の在り方に関わる選択にもなる。