なにわ人模様:大阪大コミュニケーションデザインセンター・小林傳司教授 /大阪

毎日新聞 2012年11月06日 地方版

 ◇「役に立つこと」を念頭に 科学技術と社会の関係研究−−小林傳司教授(57)

 科学技術と社会の関係を研究する「科学技術社会論(STS)」という学問領域がある。小林傳司(ただし)教授(57)は01年にSTS学会を立ち上げ、日本ではなじみの薄いこの領域の研究を進めてきた。昨年3月11日の東日本大震災、その後の東京電力福島第1原発事故以降、科学と社会を巡る問題は急速に先鋭化した。小林さんは新しいエネルギー政策を巡り政府の調査や意見聴取会の結果などを検証する「国民的議論に関する検証会合」のメンバーを務めるなど、震災以降も行政と関わりながら発言を続けてきた。

 震災以降、低線量被ばく問題など科学は不可欠だが、科学だけでは対処を決められない問題は山積する。「STSの蓄積は必ず生きる」と話すが、現状は「反省ばかり」だ。なぜか。「例えば原発問題でも安全/危険で色分けされ、固有のリスクがあることを前提に、それを押さえ込めるかどうかの議論ができていなかった。私たち研究者が両者の間に立ち、リスクを問いながら議論をし、原発の賛否を超えて、どのような社会に住みたいかまで、考えるきっかけを作るべきだった」。

 さらに、震災以降「低下したのは科学者の信頼だけでない」と指摘する。科学と社会の間をつなぐと期待されていたSTSもまた期待に応えることができず信頼を失った、と。回復に向けて掲げるのは「処方箋を書くこと」だ。「自分たちだけが高見から批判するという姿勢では議論を進められない。現状が『こうなっています』でも『けしからん』だけでも困る。『こうしたほうがいい』という提案まで提示することで建設的な議論につながる」。

 かつて行政やNPO関係者に「良い専門家とは」と尋ねたことがある。答えは同じだった。「一緒に考えてくれる専門家」。震災後、この言葉の重要性は高まっている。「福島県民と一緒に対策を考えようという姿勢を持った科学者はいます。彼らの活動に学ぶことは多い」。

 STSに何ができるのか。いま提案できればと考えているのは、よりまともな「国民的議論」のありかただ。どのような方法を用いればいいのか。自身の経験も踏まえて考えていくという。「STSは必要な時には『役に立つこと』を念頭に置く学問でありたい」。当事者として、決意は明確だ。【石戸諭】

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