TBS「夢の扉+」12月11日(日)#33 農業の救世主!トラクターを無人で動かせ
ドリームメーカー/北海道大学農学研究院 教授 野口 伸 さん
無人で動くトラクターで日本の農業を変えたい!
〜北海道発 日本の農業の救世主に〜
『無人で動くトラクターで、北海道の農業、日本の農業を変えたい!』
そう訴えるのは北海道大学農学研究院の野口 伸(のぼる)教授。深刻な人手不足や、農業従事者の平均年齢が65.8歳という高齢化・・・。さらにTPP交渉への参加など、日本の農業は多くの難問を抱えている。野口は、その救世主として活躍が期待されている「無人で動くトラクター」の開発者だ。
北海道出身の野口は、バイオエネルギーなど農業研究を進めていた大学助手の頃、十勝の広大な畑である光景を目にした。三世代の家族が総出で、日暮れまで黙々と作業する姿…。途方もなく広い北の大地を前に、疲れ果てたその家族の姿に衝撃を受けた。「これは本当に大変な作業だ。自分のやれることで何かできないか」。そう考えた野口は、人の代わりに作業をする、農業ロボットで手助けをしようと心に誓い、無人で農作業するトラクターの研究に没頭した。しかし、膨大なコストや安全性の問題などでいったんは開発を断念。転機が訪れたのはアメリカ留学だった。アメリカでは、大型の農機がGPSを使って合理的に効率良く作業していた。「このままでは日本の農業は大変なことになる。日本もGPSを使って最新の技術で立ち向かわなければ!」
帰国後、GPSを利用した無人トラクターの開発に挑み、試行錯誤の末、試作機が完成。しかし、実用化には壁があった。アメリカのGPS衛星では、建物や山の中でデータが度々途切れ、走行に誤差が生じることがあった。
そして、2010年9月、日本で初めて測位衛星「みちびき」が打ち上げられた。日本版GPSを利用し、より正確に安全に作業する無人トラクター実用化への挑戦だ。
岐路に立たされる日本の農業を救えるのか…。
北海道の広大な農地と闘う、農業ロボット開発の最前線に迫る。
****************「みちびき」利用実験は成功!
自分の専門外の念願を実現するため、師と仰いだ行本修(自動化のパイオニア)さんや協力農家の日留良一さん、子弟の石井さん、周りの支えも得て、日々進歩している。高価な光学測定器を使ったのではコストが合わず、現在の最新技術を駆使することで、JAXAと協力することで、農業の合理化を実現する!
農業関連の技術は目にすることは希ですが、調べていくと様々な技術開発が進められていることが判ります。先端技術では、工業と同じ様なものであり、全体としてどうして行くかの問題です。今、田植えを人の手でやっていることは珍しくなっている。他も殆どが機械化しているが、立体的総合的な組み合わせは少ない。また、規模が小さいので、農家は機械の代金〜リース料を農協に支払うのに汲々とする姿もある。機械化が農業の人的、経費的な合理化をどう実現していくか、解決していかねばならないことであります。若者にも将来に魅力のある農業を目指していきたいものです。
*******************
第3回:北海道大学 野口 伸 教授 - アドバンス・インタビュー - READ - 準天頂衛星システム(QZSS)みちびきデータ公開サイト[QZ-vision]
――農業機械の自動化に携わることになった経緯を教えてください。
野口:北海道出身ということもあって以前から食糧生産や環境などに関心を持っていて、大学では農業工学を専攻、環境にやさしいバイオマス燃料(※1)についての研究をしていました。
農業機械の自動化の実現に取り組み始めたのは研究者になってからですね。最初は“手作りのロボットカ―”の開発から始めました。当初は予算もなく、石井准教授(当時学生)と共に、タイヤや金属板、エンジンまでゴミ捨て場から集めてきて、溶接してフレームを作成していたのです。三角測量とデッドレコニング(※2)という地上システムを用いてロボットカーの位置を計算しコンピュータ制御するというものでしたが、30m×30mの畑で50cmくらいの誤差がでてしまっていました。
大型車両である農機の自動化においては”安全”が大きなキーワードになってくるので、いかに農機の正確な位置を求めるかが重要な課題になってきます。そこで世界中で正確な位置情報を知ることのできる測位衛星が注目されるようになったのです。
※1 バイオマス燃料:動植物から生まれた有機性資源(家畜排せつ物や生ゴミ、木くずなど)を利用した燃料のこと(石油・石炭・天然ガス等の化石性資源を除く)。
※2 デッドレコニング:タイヤの向き、回転数などから位置を求める手法。
――位置を知るための測位衛星が農機の自動走行の分野でも利用されていると知った時は大変驚きました。そのシステムについて簡単に教えて頂けますか?
野口:現在、宇宙には世界中の測位衛星がたくさん飛んでいて、リアルタイムで正確な位置を知ることができます。そこで操舵、変速などをコンピュータ制御した四輪駆動トラクターに測位衛星の受信機をのせて、動いているトラクタ−の現在位置を正確に求めることで、測位衛星を利用した精密な農機の自動走行を実現できるのです。また、あらかじめ走らせたいコースを制御コンピュータに記憶させておくことで、コースからのずれを自動修正したり、自動で旋回させることも可能です。
測位衛星を利用する良さは2つ考えられます。
1つ目は地上での測量に比べ高い精度で位置を特定することができる点です。これにより正確な制御が可能となり、より安全な自動走行を行うことができます。2つ目は様々な場所で位置を知ることができる点です。最近では携帯電波を用いて位置を知ることもできます。しかし、農地は山中など地上電波の届かないところも多いため、遮蔽物の少ない空からの信号を利用することにより自動走行できるエリアが広がりました。
――みちびきを利用した取り組みも行っていらっしゃるとのことですが、みちびきに期待している事を教えてください。
野口:JAXAとの共同研究として2つの取り組みを行っています。
ひとつはGPS補完実験です。
これまではアメリカの測位衛星であるGPSのみを用いていたのですが、衛星配置によっては衛星が低すぎて建物や防風林に遮られてしまい位置を知ることができない時間帯がありました。こうなるとトラクターを自動走行させることができません。農業は天候の影響を大きく受けるため、衛星配置によって農機が動かないようでは困ります。そこに準天頂衛星みちびきが加わることで、天頂付近に長時間測位衛星が存在することになり、“測位できる時間が増える”ことになるのです。後継機が上がればこの効果はさらに期待できますね。
もうひとつはみちびきのLEX信号を用いたGPS補強実験です。
LEX信号で補正データを配信することによりトラクターの現在位置を精度数cmで知ることができるので、より安全な農機の自動走行を行うができるのです。
――野口先生の研究室では農機の自動走行以外にも手掛けていらっしゃると伺ったのですが。
野口:研究しているテーマは主に3つです。
先ほどお話したような農機の自動走行をはじめとした「農作業の自動化」、環境や生育状況を把握することで農業の効率化を図る「リモートセンシング」、生産物の流れを管理するため情報化(IT)を最大限利用した「IT農業」です。これらを組み合わせることで本当の意味での安心・安全で効率的な農業を実現したいと考えています。
野口 伸 教授 プロフィール・略歴
北海道大学大学院
農学研究科 教授
1990年-1996年 | 北海道大学 農学部 助手 |
1997年-2003年 | 北海道大学大学院農学研究科 助教授 |
1998年-2001年 | 米国イリノイ大学農業工学科 非常勤准教授 |
2004年-現在 | 北海道大学大学院農学研究科 教授 |
2007年-2010年 | 米国イリノイ大学農業工学科 客員教授 |
2010年-現在 | 中国華南農業大学Ding Ying 客員教授 |
2010年-現在 | 中国農業大学 客員教授 |
携帯電話でリアルタイム監視/北海道湧別町で農作業ロボット実演会が開催
農作業ロボット実演会が5月30日、北海道紋別郡湧別町において開催され、ロボットトラクタ、ロボット用施肥播種機、ロボット管理システムについて講演・実演が行われた。主催は上湧別農業経営研究会、北海道大学大学院農学研究院ビークルロボティクス研究室・作物生産システム工学研究室。実演会は北海道大学農学研究院が中核機関となって平成22〜26年度まで実施している農林水産省委託プロジェクト研究の一環として開催され、約120人が参加した。
午前中は湧別町の文化センターさざ波において北海道大学・野口伸教授が「農業の自動化・ロボット化の現状と展望」、(株)日立ソリューションズ・山形典子氏が「農作業管理システム」、北海道農政部の根津忍氏が「先端技術の活用と普及について」と題して講演を行った。北海道は今後GPSを活用した先端的な農業技術の普及を促進する政策を実施する。
120人が参加し高い関心を集めた |
午後は現在プロジェクトで開発中のロボットトラクタ、ロボット用施肥播種機、ロボット管理システム(管制局)が連携した実演を行った。実演ではロボットトラクタによって長辺約200メートルの播種作業を横方向誤差5センチメートル以内で行うことができた。このロボットの作業状態はGISをベースに開発した作業管理システムによってリアルタイムに監視できる。施肥播種機は速度連動して播種量を変更できる機能や、ホッパ内に種子がなくなったところで自動的にロボットが停止・アラームを鳴らす機能も装備している。また、レーザーを用いた障害物センサがロボットの前方8メートル以内の移動障害物を非接触で検出し、自動的に停止・パトライト点灯・クラクションを鳴らし、障害物が走路から離れると再スタートする実演も行った。最後はロボットトラクタに装着されたバンパースイッチに触れるとエンジンが停止する最終的な安全対策の動作も実演した。
今回、携帯電話を使用してロボットの作業を遠隔でリアルタイムに監視できる技術を初めて実演した。この技術は「テレマティクス」と呼ばれるものでロボットを複数同時に作業させる上で必須な機能であり、今後の研究開発プロジェクトの進展が期待される。
関連リンク:北海道大学大学院農学研究院ビークルロボティクス研究室