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ガザ緊迫 停戦は実現するのか

11月20日 22時50分

辻浩平記者

イスラエル軍がパレスチナのガザ地区への大規模な空爆を始めてからおよそ1週間。
ガザ地区からも多数のロケット弾がイスラエルに撃ち込まれ、双方で民間人の犠牲者が増え続けています。
イスラエルとパレスチナの対立が続くなかで、なぜ今回、大規模な戦闘となったのか、国際社会による調停で停戦は実現するのか、エルサレム支局の辻浩平記者が解説します。

空爆下のガザを取材

私は空爆が始まった翌日の今月15日にガザ地区に入りました。
イスラエル側の検問所を過ぎるとすぐに黒煙が上がっているのが目に入りました。
攻撃の標的となっているハマス関連の施設の前を通らざるをえないときには、運転手がスピードをあげて通過しました。
ガザ地区中心部にあるNHKの事務所に着いたあとも、数分おきに空爆による爆風で建物の窓がガタガタと音をたてていました。
16日には、ハマスの本部で、ガザ地区を訪れたエジプトの首相とハマスの幹部の会談を取材しましたが、この建物は、翌日、攻撃を受けて完全に破壊されていました。
攻撃を受けた別のハマスの建物の隣には、国連が運営する小学校がありますが、ここも窓ガラスがすべて吹き飛ばされ、壁にも無数の穴が開いていました。
ガザの中心部でも人影はほとんど見られず、大半の商店がシャッターを閉めていました。
ただ、営業しているパン屋には、食料を買いだめしようという人たちが長い列を作っていました。

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なぜ今

戦闘拡大のきっかけは、今月14日、イスラエル軍がイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門の最高幹部が乗った車を空爆し、この幹部を殺害したことでした。
その直後からハマスの軍事施設などに対する大規模な空爆が始まったのです。
イスラエル軍はその理由を、ガザ地区からのロケット弾による攻撃を阻止するためだと説明しています。
あまり大きなニュースにはなっていませんでしたが、イスラエルには、これ以前にもガザ地区から毎日のようにロケット弾が撃ち込まれていたのです。

増え続ける民間人の犠牲

イスラエル軍による空爆は、20日までの7日間でおよそ1400回に上っています。
これに加えて海上からの艦船による砲撃も始めました。
ガザ地区では、20日までに110人以上が死亡し、このうちのおよそ半分が民間人とされています。けが人はおよそ900人に上っています。
民間人の犠牲が多いのは、ガザ地区は人口密集地域であるためです。
東京23区の6割ほどの面積におよそ160万人が暮らし、中心部では住宅がひしめくように建っています。
イスラエル軍は、標的をハマスなど武装組織の関係者や軍事施設に絞り、精密な武器を使って、いわゆる「ピンポイント攻撃」をしていると主張していますが、それでも周辺に被害が及ぶのは避けられません。
18日には3階建ての建物が空爆を受けて完全に倒壊し、11人が死亡しました。このうちの9人が子どもと女性でした。

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“鉄壁の守り”でも犠牲者

イスラエルもガザ地区から多数のロケット弾による攻撃にさらされています。ガザ地区から発射されたロケット弾は1週間で1000発を超えています。
イスラエルは、ガザ地区から飛来するロケット弾を迎撃する「アイアンドーム」と呼ばれるシステムを、去年、配備しました。
レーダーによる監視でロケット弾の発射を感知し、その軌道を瞬時に計算。人が住む地域に着弾するおそれがあれば、ミサイルで撃ち落とすのです。NHKのカメラも上空でロケット弾が撃ち落とされる瞬間を捉えました。
しかし、すべてを迎撃できるわけではありません。
ガザ地区に近い町では、15日、ロケット弾が住宅を直撃し、イスラエル人3人が死亡しました。
今回、ガザ地区からのロケット弾は、およそ70キロ離れた商業都市テルアビブや政治の中心地エルサレムの近郊まで届きました。
イスラエルの人たちは、空襲警報が鳴り響くたびにシェルターに避難することを余儀なくされています。大都市周辺にまでロケット弾の脅威が及んだことはイスラエル国民に動揺を与えています。

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地上戦も辞さず

イスラエルは地上部隊をガザ地区に侵攻させることも辞さない構えです。
ガザ地区との境界付近に戦車や装甲車を集結させているほか、招集できる予備役の数を7万5000人に増やして、いつでも地上戦に入ることができるよう準備を進めています。
イスラエルでは安全保障が常に最優先課題とされており、地元メディアによる世論調査では、国民の84%が空爆を中心とした今回の軍事作戦を支持しています。
ただ、地上作戦についてはイスラエル軍側も犠牲を強いられるとして、支持はおよそ30%にとどまっています。
ネタニヤフ政権は、来年1月に控えた議会選挙も視野に、世論の動向も見極めながら、地上作戦の是非を判断することになります。

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停戦なるか

戦闘のさらなる拡大をなんとか食い止められないか。国際社会による調停も動き始めています。
国連のパン・ギムン事務総長やアメリカのクリントン国務長官が相次いでイスラエルを訪れ、戦闘の停止を呼びかけることにしています。
焦点になっているのが隣国エジプトの仲介による停戦協議です。エジプトの首都カイロにはハマスの指導者マシャル氏やイスラエルの特使が集まり、エジプトを介して連日、協議しています。
しかし、イスラエルとハマスの主張には大きな隔たりがあります。イスラエルは、ハマス側がロケット弾による攻撃を長期的に停止することを確約するよう求めています。これに対して、ハマスは、イスラエルによるガザ地区に対する経済封鎖の解除などを条件にしているとされています。
エジプトでは、去年、いわゆるアラブの春で、イスラエルと良好な関係を維持し、ハマスと距離を置いてきたムバラク政権が崩壊しました。
新たな指導者となったモルシ大統領は、ハマスの母体でもあるイスラム組織ムスリム同胞団の出身で、ハマスに一定の影響力があります。イスラエルにとってもエジプトとの関係は安全保障上、極めて重要で、敵対することは避けなければならない国です。
今後、イスラエルとハマスの溝を埋め、停戦にこぎ着けることができるか、エジプトが仲介する協議の行方に世界が注目しています。

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