葉面散布の濃度

1998/07/31, 1998/12/21, 1999/03/31
2002/01/20-2008/2/22


【散布量】
 一般的な散布量は、100〜150リットル/10a 。
 一般の農薬散布では、散布液の90〜95%が地上に落ちるか他所に飛散しているといわれる。 散布量が多すぎると、雨が降った時のようにいつまでも液滴が落ち続け、葉上に留まる量が減ってしまうと同時に、乾燥濃縮された滴が落ちた所では肥料焼けを起こす心配が出てくる。

【展着剤】
 展着剤は通常不要で、農薬のようにムラなく付着させる事よりも、総付着量が重要となるため、液滴の接触角を小さくする展着剤は葉への付着量を減らして効果を低下させる。
 作物の種類や時期などによって、滴を弾いてしまう様なら迷わず添加するが、付着の具合を見ながら必要最低限の量に留める。

【資材の選択】
 使用する資材は、水に溶けやすい事は第1条件だが、散布後も水に溶けた状態でないと吸収されないため、吸湿性(潮解性)が少ない資材は吸収が劣る。
 土表面への施用と同様に、散布さえすれば効くと思っていてはいけない!



■ チッ素

・尿素−−−−−(CONH22

リンゴ (常用)   0.1〜0.2%(500〜1000倍)
(6〜8月)  0.5%
(9月)    0.8%
(11〜12月) 1.0%
※後期の散布は着色を害するが、収穫完了の1箇月前になれば影響はない。(2箇月前では影響が見られ、この間の詳細な時期は不明)
 pH6.6 のとき,最も吸収されやすい.
野菜一般 (本圃) 1.0%
(幼苗) 0.5%
※トマトで,1.8%以上で薬害の例有り(データの無い場合は 1%未満で使用する事)
セルリー1.0%
イネ・コムギ1〜2%
※イネは秋落対策として,幼穂形成期に2%液を1回散布. コムギでは出穂後散布の効果が大きい。
クワ0.5〜1.0%
※晩霜害の回復には 1.0%
 摘桑の10日前散布は、蛋白含量を増す。
チャ0.5〜0.6%
※摘茶前20日頃、2〜3日おきに2〜3回散布でアミノ酸が増す
カキ0.2%
※軟化(異常熟成)防止に、収穫の1箇月前に散布する。(落葉病などで軟化するのもチッ素の吸収が劣るため。散布が早すぎると着色が遅れる恐れがある。)

 ※ショ糖,石灰,硫酸マグネシウム等の添加で薬害が軽減するが,この効果は吸収阻害によるもの.
 ※散布後1日以内に,ほぼ吸収される.
 ※明・暗所による吸収の差はない.
 ※アンモニア態・硝酸態チッ素を含む資材は、薬害を起こしやすく、濃度を低くしなければならないため葉面散布に向かない。
 ※日液化学のパンフレットによると、硝酸態チッ素の同化機能は根にしか存在しないため、葉から与えても効率が悪い(・・・らしい)。





■ リン酸

・リン酸一ナトリウム(第一リン酸ソーダ)----NaH2PO4
 ※散布液の好適pH:3〜6

・リン酸一アンモニウム----NH4H2PO4
 ※散布液の好適pH:3〜10
  果樹類の移植時,1.5ヶ月後より1%液を1週おきに散布

・リン酸二アンモニウム----(NH4)2HPO4
 ※散布液の好適pH:3〜10

・リン酸二カリウム----K2HPO4
 ※散布液の好適pH:7〜10. 0.2〜0.4%で使用.

(上記とも)
イネ1〜2%
 冷水田で特に効果が高い
各種作物0.5〜1.0%

 ※酸性ほど吸収量は増えるが,pH2以下ではネクロシスを生じる
 ※リン酸一カリウム・リン酸カルシウムは,乾燥時に塩が析出して吸収され難い.(吸湿性が低い資材は葉面散布に向かない)
 ※ブドウ糖・果糖・ショ糖の1〜5%加用で吸収量が著しく増す.(植物体中では,9割が糖と結合した形で移動する)
 ※他の肥料との混用は,吸収が妨げられる場合が多い.





■ カリ

・硫酸カリ----K2SO4

・塩化カリ----KCl

・リン酸二カリウム−−K2HPO4  −−−→リン酸を参照.

(上記とも)
イネ1〜2%
各種作物0.3〜1.0%

  ※1%では薬害の出るものが多い.
  ※通常,葉面散布の必要性は認められない.





■ カルシウム

・塩化カルシウム−−CaCl22・6H2O
(水溶液は弱酸性.水30ccに1粒溶かしたときの pH=6.1)

・硫酸カルシウム(石膏粉末)−−CaSO4
   (溶解度:0.2%/20℃ ・・・濃厚液はつくれないので注意)
 (※ 溶解度は、溶液100g 中の溶質の質量)

・リン酸一カルシウム−−CaHPO4
(過リン酸石灰から石膏分を除去したもの)

(上記とも)
各種作物0.3〜1.2%
セルリーの心腐れ0.6〜1.2% ※生長点に散布
トマトの尻腐れ0.4〜0.6% ※幼果に散布
リンゴ0.2〜0.4% ※落花直後から散布

 ※ハクサイ・キャベツの心腐れには全く効果が無い
 ※篩部(師管)はほとんど移動出来ないので,散布液の掛かった部位から1〜2mm の範囲しか効果がない


・蟻酸カルシウム−−Ca(HCOO)2
500倍〜1000倍に希釈して散布
散布後、乾燥時に析出しやすく、果樹などでは作業中に飛散して目に入り易い。
作物によっては薬害を生じることがある(ブドウ、など)
固着成分が配合された製品が発売され、乾燥時の飛散は皆無となったが、殺虫剤と混用した場合、他の固着系展着剤同様に殺虫効果が低下する。





■ マグネシウム

・硫酸マグネシウム----MgSO4・7H2O

・塩化マグネシウム----MgCl4・6H2O

※キレート化合物は効果が劣る。
 殆どの農薬と混用可能になるが、散布濃度を低くしないと農薬の効果が薄れるので、製品添付の使用法を遵守。

(上記とも)
イネ0.5〜1.0%
野菜類 2.0%
果樹類 2〜4%
 モモ 2〜3%

※1〜2度の散布では効果が出ない事が多いので、1週おきに繰り返し散布する。

※効果の発現に3〜5週を要する.
 土壌施用の場合,効果発現までに1〜2年要するため,欠乏障害発生時の効果的な対策となる

※葉面からの吸収は尿素に次いで早く,1時間後に20%の例(リンゴ)がある.

※日液化学のパンフレットによると、リンゴで硫酸マグネシウムの吸収率は 8%なのに対して、酢酸マグネシウムでは32%に達する。





■ 鉄

・硫酸鉄(U)、硫酸第一鉄−−−−FeSO4・7H2O
・硫酸鉄(V)、硫酸第二鉄−−−−Fe(SO4)2
・キレート鉄−−−−エデト酸鉄(Fe-EDTA)、クエン酸鉄、など

(上記とも)
各種作物0.1〜0.3% ※効果低いが,薬害少ない
1〜2% ※薬害出易いが、効果が期待できる




■ マンガン

・硫酸マンガン−−−−MnSO4・4H2O

イネ0.5〜1.0%
野菜類0.3%
果樹類(5〜6月)0.25%
果樹類(3月)1.5%
モモ0.2〜0.5%4月下旬から,1週おき2〜3回(欠乏時5回)散布.徐々に濃くする。 または,1樹2kg施用.
リンゴ0.2〜0.3%6月頃より,2〜3回散布.
ブドウ(デラのみ)0.5%デラウェアのゴマシオ症(着色不良).2回目のジベ処理時に加用する
ブドウ(その他)0.5%開花15〜22日後に使用する.0.5%以上で薬害が発生する.
ジベレリンとの混合浸漬は薬害があるので使用しない..(展開直後の葉で、乾燥の遅い低温時に散布すると薬害が出る事がある)
%

  

       



■ ホウ素

・ホウ砂−−−−−−−Na2B4O7・10H2O
・ホウ酸−−−−−−−H3BO3

(上記とも)
セルリー0.3〜0.4%
ナタネ1.0%
ナシ0.06〜0.12一部の文献で"0.6%" との誤植があり、そのまま引用されたものが複数あるので注意
ブドウ0.1〜0.3%花振るい防止に開花7〜10日前に散布.0.2% まで石灰の混用不用
リンゴ0.2〜0.3半量の生石灰を加用
リンゴ(樹幹注入)ホウ砂・1樹4g
リンゴ・モモ0.01〜0.03%裂果防止,葉の光沢維持
開花時の花弁退縮・雄芯退化(ヤニ吹き)には、開花の5日前までに散布
モモ(灌漑)0.1ppm(←単位に注意!)潅水に伴う核割れ防止.塩化カルシウム 1ppm と併用する.

※ 【意見】上記表中、0.1〜0.6% は石灰加用時の上限濃度で、追加散布が必要になったとき古葉で重複散布となった部分は落葉する恐れがある。
 1/10 の 0.01〜0.05%(石灰の混用不用) でも十分な効果が得られる事が多い。
 移行性が無いため複数回の散布が必要な場合があり、0.1%(1000倍)を基準に1作中(果樹では年間)の散布回数で除した濃度(2回散布の場合は2000倍以下)にするのが安全で無駄が無いと思う。





■ 亜鉛

・硫酸亜鉛−−−−−−−ZnSO4

野菜一般0.1〜0.2%
ラッキョウ0.3%
果樹全般3.0%(萌芽前)
カンキツ0.5〜0.6%(夏季0.1〜0.2%)
リンゴ0.3%(生育期)




■ 銅

・硫酸銅−−−−−−−−CuSO4・4H2

一般作物0.01〜0.1%同量の消石灰を加用
果樹0.1〜0.5%
   



■ モリブデン

・モリブデン酸アンモニウム−−(NH4)6Mo7O24・4H2O
・モリブデン酸ナトリウム−−−Na2MoO4・2H2O

(上記とも)
各種作物0.01〜0.05%
(苗床)0.07%
ミカン0.01%




【樹幹注入】

 核果類では葉面散布の効果が小さい場合が多く,特に樹幹注入の効果が高い.

・樹木類
 樹幹に,直径5mm×深さ100mmの穴を開け,耳掻き2杯分位の試薬を入れる.

・野菜類
 葉面散布や液肥施用時の濃度に準じた液肥・ビタミン剤・砂糖液などを注射器で注入する.
 針は下から上に向かって挿し込む.水分の導管上昇に伴って2〜3時間/2〜5mlが吸収される.
 カボチャの大きさ較べ大会では、医療用の点滴装置や、茎の直下に砂糖液を入れた瓶を置き茎に貫通させた木綿糸(タコ糸)を浸して供給している(らしい)。


【検証・その他の注意】
・必ず無散布区を設け,効果を検証する.
・マグネシウム資材を散布するとリン酸の体内移動が良くなるので,軽いリン酸欠乏が回復する等の事例が有り,散布の効果があっても欠乏とは限らない場合がある.

 衰弱樹・老化葉や欠乏症状の激しい葉では吸収が劣る.
 樹勢回復には,砂糖1〜2%や酢0.5〜1.0%の混用が効果ある.




葉面散布資材の作物別吸収速度

【葉面に施用された養分の吸収速度.witter(1959)】
農業技術体系・土肥編(農文協)より、和訳の孫引き

 ※ 特記項を除き、50% 吸収に要する時間・日数を各種文献から抄録したもの。

N(尿素態)リンゴ1-4 hour
パイナップル1-4 hour
サトウキビ< 24 hour
タバコ24-36 hour
コーヒー・カカオ・バナナ1-6 hour
キュウリ・ソラマメ・トマト
・トウモロコシ
1-4 hour
セルリー・ジャガイモ12-24 hour
リンゴ7-11 day
ソラマメ30 hour、6 day
(文献による差が大きい)
サトウキビ15 day
ソラマメ・ブドウ1-4 day
Caソラマメ4 day
Mgリンゴ1時間後:20%
Naソラマメ6 hour
ソラマメ8 day
Clソラマメ1-2 day
Feソラマメ24時間後:8%
Mnソラマメ・大豆24-48 hour
Znソラマメ24 hour
Moソラマメ24時間後:4%



野菜用の汎用処方(自家用暫定版)

 各々の溶液 100〜200ml を水で10リットルに薄めて如雨露で潅水する。
 (各資材の末尾についた(○M)は、標準的な市販品に含まれる結晶水サイズ。無水品を使用する際は考慮する。)

【りん安/リン加】原液:200g/1リットル
 適用:肥料を与えたのに生育が進まない(または、チッ素入り肥料を施用直後に生育が止まった)。
 ※予め過リン酸石灰などを与えておけば、通常は不用。

【硫酸亜鉛(7M)】原液:100g/1リットル
 適用:節間が詰まる(葉柄にヒレを生じる事が多い)。
    果梗が短い。果実が扁平になる。

【硫酸銅(5M)】原液:50g/1リットル
 適用:茎・幹からヤニを吹く。
    葉が折れ曲がってしわくちゃになる(アブラムシの被害では無いことを確認する)

【ホウ砂(10M)】原液:10g/1リットル
 先端の芽が枯れる。
 実止まりしない(石ナスなどの単為結果・トウモロコシの歯抜け・空鞘・その他の不稔)
 キュウリ果実のヤニ吹き・曲がり・尻すぼみ〜尻部の黄化壊死
 

【硫酸マンガン(4M)】原液:100g/1リットル(+亜硫酸ソーダ1〜5g)
 新葉が薄緑のまま、葉色が濃くならない
 ※亜硫酸ソーダは、貯蔵中に酸化して不溶化するのを防ぐために添加する。溶解後短期間で使い切る場合は不用。

【硫酸鉄(U)/硫酸第1鉄)】原液:200g/1リットル+クエン酸20g
 モザイク状や全体が真っ白な葉。
 斑入が消える事があるので鑑賞用品種には使用しない。

【モリブデン酸アンモニウム(4M)】原液:10g/1リットル
 適用:葉が小さく、葉身が拡がらずにマリーゴールドの様な葉になる。
 (長年石灰類を投入した畑で、急に投入を止めた時に多い )




微量要素の自家配合(複合欠乏用)

 微量要素の欠乏が、複数同時に発生した場合の対処用。
 診断が成立した要素が複数ある場合に濃厚液として調整する際に、溶解度や貯蔵性を確認したもの。
 常時全ての要素を配合して使用するためのものではない。(最終更新:1997/6/20)

鉄とモリブデン溶液を混ぜると暗褐色の沈殿を生じるので、上記のうち、モリブデン酸アンモニウムを除いた溶液を混ぜて、全容を2リットルにして貯蔵し、使用時の希釈水中で混合する(原液を直接混合しない)。

5000倍に希釈して散布する。

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