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山田厚史の「世界かわら版」
【第23回】 2012年11月22日
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山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]

「金融右翼」が円を卑しめる
「国債の日銀引き受け」は暴論

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 「安倍相場」と囃され、安倍晋三・自民党総裁の悪のりが止まらない。タブーとされた「国債の日銀引き受け」を公然と主張するようになった。さながら街宣車で日銀に押し掛けるような荒っぽい論議である。

ちゃぶ台返し金融ポピュリズム

 選挙向けとはいえ、冷静で緻密であるべき金融政策に対して、「ちゃぶ台返し金融ポピュリズム」の登場だ。12月の総選挙では安倍自民党が第一党になる可能性が高いという。「金融右翼」が日本国通貨「円」を卑(いや)しめる時代が始まるのか。

 最近の安倍語録はこんな調子だ。

 「かつての自民党とは次元の違うデフレ脱却政策を推進する」
 「建設国債は日銀に全部買ってもらう」
 「輪転機をぐるぐる回して、無制限にお札を刷る」
 「日銀総裁には大胆な金融緩和をする人になってもらう」

 一連の発言は、近代国家が行き着いた「中央銀行の政治的独立」という大原則を頭から否定するものだ。金融に馴染みのない人には「中央銀行の政治的独立」がなぜ大事なのか、ピンと来ないかもしれない。平たく言えば「権力者に打ち出の小槌を握らせない」ということだ。

 権力者が小槌を振って、好き勝手に通貨を発行したら、どうなるか。

 紙幣は昔の金貨や小判みたいに、それ自体に価値があるものではない。紙幣の価値は政府の信用で維持される。例えば「1万円」と印刷された紙幣は「ブランド米15キロ」と同等の価値を持つという「共同幻想」の上に成り立っている。

 お札をどんどん印刷すれば、政府に対する信用がなくなり、やがて紙幣はタダの紙切れになる。

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山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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