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粒羅の作品集

夏の空って、他のどの季節の空よりも鮮やかで綺麗だと思うんだ。

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第１章　『似てない姉弟』

　一斉に机を下げる騒音で、放課後は始まる。
「ふーじ！」
　オレは今週の掃除当番ではないので、そのまま部活へ直行しようと廊下へ出たところ、早苗先輩がオレの教室まで来ていた。藤とはオレのあだ名。オレの本名は藤沢だ。
「やっほ、いこ♪」
「ハイッ」
　オレも笑顔で答えた。早苗先輩は剣道部、オレはその部のマネージャーだ。先輩とは中学からの付き合いでその時の部活も一緒で、オレにとっては何かと縁のある先輩だ。たまに先輩はこうやってオレを迎えに来てくれる。
「丁度良かったサナ姉！これヨロシク！」
　香坂が無駄だとわかっているのにまた早苗先輩に手荷物を手渡した。何を隠そうこの２人は姉弟。香坂は中等部からこの学園に在籍しているので、オレは中学時代早苗先輩がとある日に言った『県体に藤と同い年の弟が出てるんだ！』と言う事位しか香坂のことを知らなかった。そして高校入学直後に剣道部に仮入部に行った時、この事を知った。

　その事実を知ったときは驚くどころではなかった。

　第一この姉弟、容姿からしてまるで似ていないのだ。早苗先輩はどちらかというと肌は色黒で、髪の色も光に透かすと完全な茶髪になる程だ。だが香坂の肌は女子から羨ましがられるほど白く、髪の色はどう見ても漆黒。
　性格もかなり違う。早苗先輩は人並みに明るく、社交的だが決して目立つような性格ではなく、人前に出るのもどちらかというと苦手な方だ。しかし香坂はまるで天性のお笑い人間のような個性を持っている上に目立ちたがり屋でとことんクラスのムードメーカーだ。
　強いて似ているところと言えば体格だろうか。２人とも、すらりとした長身で手足が細く、スタイルが良い。顔の形は微妙なところだ。早苗先輩は丸めの目、香坂は切れ長で掘りは両方共深く、鼻と唇は小さめで形が良いところは一緒。……まあどの学校にも何組かはいそうな美形姉弟を想像すれば話は簡単だが。

「何度言えばわかるの？アンタはどう見ても男なんだから自分で持ちなさい」
　早苗先輩は何回目になるかわからない台詞を多少グレードアップして弟にぶつけ、手荷物を押し付けた。
「だってぇ、もっと朔君と一緒にいたいんだもんっ！」
　香坂はそう言って朔君ことクラスメイトの本城朔也に寄り添った。本城は香坂を始めとした男子グループにとつるんでいる奴の一人で香坂ほど目立った美形ではないが、そのほっそりとした体格と、いつもどこか優しげに話すその口調から女子からの人気は高い。で、香坂はそんな人気のある男子をひっ捕まえてはベタベタするのだ。
　本城は苦笑していたが慣れているからか、あまり気にした様子もない。
「だから朔君が掃除終わるまで部活行かない！」
「いい度胸だ。先輩からこってり絞られろ」
　ついこの前香坂が『先輩に会うために早く来てます☆』と部活のエースの2年にゴマすりしていたのを思い出してオレが言った。
「あぁ、そうよ！羽柴先輩が待ってるんだわ！でも朔君もいるもん！あぁどうしてこの学園っていい男がいっぱいいるのかしら！」
　この台詞でオレは軽く寒気がしたが、それにすっかり慣れきっている、中等部からこの学園にいるクラスの女子、竹中くるみが香坂に向かって言った。
「香ちゃんもいい男だよー」
　『香ちゃん』とは香坂のあだ名。自分の下の名前が嫌いだからって皆にこう呼ばせようとするが、呼ぶのはノリのいい人たち少数で後はすべて苗字で呼んでいる。まあ、確かに、コイツの下の名前はどこをどう読んでも女らしくはならないしな。
「駄目よ竹中ちゃん真実を言っちゃ！私はみんなの前では乙女なんだから！」

「全っ然人の言うこと聞いてないわね」

　早苗先輩が言った。押し付けられた手荷物はいつの間にやら床に放り出されていた。
　いつもならこのまま香坂を無視して早苗先輩と行くのだが、今日は剣道部が体育館倉庫の整理と掃除を体育教官の方から頼まれていたのだった。間宮学園では何ヶ月かに一度、どこかの運動部が総点検するようになっている。今日、剣道部全員は袴と胴着は着ず、ジャージで作業する。
　早苗先輩が愚痴るように言った。
「おまけに今日点検だしねえ……」
「早坂先生（顧問）も早く来れる人は早く来るよう言ってましたよ」
「使った事のない跳び箱とか運ばされるしなぁ……」
「だいたい毎年男手の多い所が選ばれますよね」
「そっ。だからサッサと来て欲しいのに……」
「ですよね。じゃあ無理にでも引っぱっていって……」
　オレ達は香坂の方を振り返った。

「いや～ん！」

　香坂は男子達に押さえつけられて体中をくすぐられていた。
「もう～やめてぇ～ん！そこさわらないでぇ～！」
　前言撤回。オレたちは香坂に背を向けた。
「行きましょうか先輩」
「ええ、ほっときましょう。――絞られるがいいわ」

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