既にシリーズ全作品がDVDやBlu-rayで発売されている007シリーズだが、今回新たに「TV放送吹替初収録特別版」というDVDシリーズが発売されることになった。今でこそDVD発売されている洋画に日本語吹替が収録されているのは当たり前になっているが、かつては「劇場鑑賞では日本語字幕」「テレビ放送では日本語吹替」という区別があった。洋画がノーカットで原語字幕放送されるというのはNHKの「名画劇場」などきわめて特殊な例であり、テレビ放送では日本語に吹き替えられるのが当たり前だったし、ビデオもDVDもない時代には、テレビ放送される洋画は日本語吹替でしか見ることができないものだったのだ。一度作られた日本語吹替版の洋画は繰り返し放送され、俳優ごとに定番化した声優もいて、テレビの洋画劇場で映画に親しんだ人たちにとっては、そうした声優の声こそが俳優の肉声そのものだった。
こうした定番の声優たちはDVD版でもほぼ踏襲される形で吹替版制作に参加しているのだが、制作時期の違いから声が変わった人もいれば、重要な役で出演しながらなくなってしまった人もいる。今回DVD発売イベントで上映された『007は二度死ぬ』の場合、日本側エージェント役で出演した丹波哲郎がテレビ放送時に本人役で声を当てているのだが、その後亡くなってしまったためDVD用の吹替は別の声優(谷口節)に変わっている。ボンドガールだった浜美枝も、テレビ放送版では本人が日本語に吹き替えたが、DVDでは別の声(小林沙苗)になっている。そういう意味で、今回のTV版吹替収録DVDの発売は貴重なものだろう。
007シリーズは最新作の『007 スカイフォール』から、劇場での日本語吹替版上映を始める。そこで主人公ジェームズ・ボンド役の声優に選ばれたのは、DVDでダニエル・クレイグのボンドを2作担当した声優ではなく、テレビの洋画劇場で1度ボンドを演じた声優(藤真秀)だった。映画会社はこれから映画を観る観客の多くは、DVDの日本語吹替音声よりテレビ洋画劇場のボンドに親しんでいると判断したわけだ。これはテレビ洋画劇場の日本語吹替が、DVDの日本語吹替版が普及した今でも大きな意味を持っているという証拠なのだ。
さて『007は二度死ぬ』だが、僕はこれを、それこそテレビの洋画劇場で観ているクチだ。今回の日本語吹替版での上映はとても懐かしく、丹波哲郎の「フッハッハッハッハ」という高笑いや、主人公に「ボンドくん」と呼びかける大物ぶりにシビレた少年時代を思い出してしまった。今改めてこれを見ると、映画が撮影された1960年代の日本の風景が興味深い。トヨタ2000GTがカーチェイスを繰り広げる道が、穴ぼこだらけだったり未舗装だったりするのが、昭和40年代初頭の偽らざる姿なのだ。ボンドにはぜひもう一度、日本に来てもらいたいなぁ……。
(原題:You Only Live Twice)
DVD:007は二度死ぬ(TV放送吹替初収録特別版) [DVD] DVD:007 TV放送吹替初収録特別版DVD-BOX【第一期】 |