松尾良一は、37歳になった今までに、何人かの女性と付き合ったことがある。
その中には、真剣に結婚を考えた女性もいた。
そんな女性達と比べても、彼にとって、灰原哀は、群を抜いて魅力的だった。
同じ、研究者として、その優秀さに舌を巻く思いもあるし、10年前、宮野志保という18歳の女性が幼児化して、哀となったという、とても信じられない経歴も面白い。
そして、その肢体の美しさ。
今まで、良一が知る女性と比べても、スタイルがいい。
最初に見たときには、随分と華奢な印象だったが、その裸身は、思っていたより、豊かだった。
確かに、脚や腕、腰は、細い方だが、胸や尻には、適度な肉付きがあって、体に美しいラインをもたらしている。
良一が哀に魅せられているのは、体だけではない。彼女の態度や仕草も、十分に魅力的だった。
彼女は、自分に対しては、冷たい視線を投げてくる。
おそらく、軽蔑されているだろう。
そのことは、百も承知で、別に彼女に好かれようとは、思っていない。
時には、動揺の色を見せることはあるが、常に冷静で、驚くほどの勇気も持ち合わせている。
そんな彼女が、自分の行為に対して、ベッドの上で見せる反応。
自分に対する嫌悪と、彼女が心を寄せる男への想いから、決して、良一の行為を、心から受け入れることはない。しかし、女性としての彼女の体の感度は、良一を刺激するには、十分だった。
哀が、自分に対する軽侮を示せば示すほど、冷静であればあるほど、良一の昂りは大きくなり、より激しく、彼女を責めさせる。
それは、良一にとっては、哀に寄せる想いの裏返しでもあった。
*****
服を脱いだ良一は、ベッドに座り、裸の背中をこちらに向けている哀を見つめた。
天井の照明を消すと、ベッドの脇にあるテーブルの上のスタンドの白熱灯が、薄暗い部屋で、哀の白い肌を浮かび上がらせた。
良一は、ベッドに座ると、後ろから、哀の素肌の肩を抱く。
後ろから肩を抱き、哀の素肌の背中と自分を密着させると、良一の中で、愛しい想いと、サディスティックな昂りが湧いてくる。
「うっ……」
熱い想いに駆られ、良一の無骨な手が、胸に下がってきて、乳房を強く掴むと、哀は、僅かに呻いた。良一は、彼女の首筋に唇と舌を這わせ、激しくその肌を吸う。
両手で荒々しく、哀の胸を蹂躙した良一は、彼女を引き倒すようにして、ベッドに寝かせると、その唇に深く口づけ、舌で彼女のそれを絡めとった。
良一は、哀の形のいい乳房が気に入っていた。
それを激しく愛撫することで、良一の体が熱を帯び、胸が昂ってくる。
やがて、哀の唇から離れた良一の唇と舌は、彼女の首筋を這い、強く吸い上げる。そして、首筋から胸に下りていくと、哀の乳房に達した。
手で乳房を掴んで、その形を鋭くさせると、その先を口に含み、舌で転がすように愛撫する。
左右の乳房を何度も、繰り返し舌と指で玩び、唇で吸った。
その間、良一は、もう一方の手を彼女の下腹部に下ろしていく。
「んっ……あ……」
唇をグッと噛み締め、声を上げないようにしていた哀だったが、下腹部に達した良一の手にショーツをずらされ、その指が彼女の中に入ってくると、上体を反らせ、喘ぎ声を洩らした。
「うっ……」
良一の指は、何度も出入りを繰り返し、次第にその動きが激しさを増して、哀を責め立てる。その快感と恥辱が入り混じった複雑な感覚の中で、自分の意識が遠くなりそうになって、哀は、胸を締め付けられるような恐怖を感じた。
しかし、良一の指は、容赦なく、哀の中をかき回してくる。そして、その間、彼女の乳房を玩んでいた彼の唇と舌も、胸を離れ、下腹部へ向って下りてきた。
頭が哀の下腹部まで移動してきたとき、良一は、彼女のショーツを完全に脱がせると、膝の後ろを掴んで脚を持ち上げた。
そして、左右に、脚を開かせる。
「い……や……」
膝を持ち上げられ、脚を開かされると、哀は、思わず声を上げた。
良一の頭がその間に入って、今度は、彼の舌が、彼女の秘所を刺激し、中に入ってくる。
「はあっ……」
哀は、頭を振り、上体を反らして、荒い息を洩らした。
「あっ」
指と舌で刺激し、哀が潤い始めたことを確認した良一は、彼女の両脚の間に体を入れる。
そして、欲望で熱く膨れた自分自身を哀の中へ埋め込んでいった。。
「はあっ……んっ」
良一の欲望が奥深く、侵入してくると、哀は、声を洩らして、上体を反らせた。
良一が欲望を達成させるため、腰の律動をすると、それにあわせ、哀の体が突き上げられて、上下に激しく揺れる。その肌に滲む汗が、ベッド脇のスタンドの灯りに照れされ、妖しい色を帯びていた。
「んっ……うっ……」
二度、三度と、哀に腰を打ちつけた良一の動きが激しさを増していく。
「くっ」
短い呻き声と共に、良一が、より強く、腰を打ちつけると、哀の奥で、昂った彼自身から、欲望が溢れ出た。
*****
手首にはめられた手枷の金具が外されたが、哀は、あまり表情を変えないまま、体を横たえている。
ベッドの脇に立った良一は、そんな彼女の裸身を見下ろしていた。
その瞳からは、まだ、欲望の火が消えていない。
しばらく経って、ゆっくりと、哀が上体を起こしたときだった。
「四つん這いになってくれ」
乾いた声が頭の上から聞こえると、哀は、顔を上げ、良一を睨んだ。
「四つん這いになるんだ」
彼の顔を睨んだまま、ぐっと唇を噛み締めると、哀は、ゆっくりと、体を動かし、ベッドに両手をついた。
そして、目を閉じ、屈辱に耐えながら、腰を上げ、言われたとおりの姿勢をとる。
「あ」
その時、良一の手で乱暴に腰を掴まれて、さらにそれを上げさせられると、哀は、小さく声を上げた。
「あっ……んっ……」
後に回った良一の指が、腰を上げた哀の秘所に入ってくると、その中をかき回し、容赦なく責め立てる。
「あ、いやっ……いや……うっ」
唇を噛んで、蠢く指に耐えていた哀だったが、その数が増やされ、さらに、その後ろの方にも指が入ってくると、思わず、声を上げた。
初めて感じる異様な感覚に、体が緊張し、力が入る。
「体の力を抜くんだ」
少し声を荒げた良一の指が下腹をかき回すように刺激し、前に侵入している指と、間の壁を挟むようにして、哀の神経を狂わせようとしていた。
それでも、哀は、目を閉じ、ぐっと唇を噛んで、その恥辱に耐えている。
激しい動きで、哀の中をかき回していた良一の指が、ようやく離れる。
すると良一は、彼女に脚を開かせ、その間に膝立ちになった。
「はあっ……くっ」
後ろから、哀の腰を掴むと、その中に、再び、充実した自分自身を突き入れて、律動を始める。
良一の律動に合わせて哀の体が前後に揺れ、押し付けるように素肌にあてられた大きな手が、彼女の胸や腰、背中を這いまわる。
その手が揺れる哀の乳房を掴むと、良一は、彼女の上体を抱きすくめるようにして、自身で突き上げた。
「んっ……くうっ……」
手首に手枷をはめられたまま、その両手をベッドにつき、唇を噛み締めて、哀は、後ろからの責めに耐える。
「うっ……」
良一は、僅かに呻くと、より強く腰を突き上げ、再び、哀の中に、その欲望を放った。
*****
手枷を外されると、哀は、ぐったりと、その裸身をベッドに横たえた。
そこには、自分の体に加えられた、良一の激しい行為の痕跡が残っている。
そして、汗と、その行為の痕跡を残すドロドロとしたものが全身の肌を覆い、哀は、胸が悪くなるような嫌悪感と戦っていた。
しかし。
女の部分のどこかで、秘かに悦びを感じていることを否定できず、哀は、愕然としていた。
コナンに抱かれた時、全身が喜悦に震え、その甘い感覚は、今でも、ありありと感じることができる。
コナンになら、彼になら、もっと激しく、抱かれたいと思う。
良一に抱かれることは、屈辱でしかない。
屈辱感の中で、彼が望むように両手を拘束され、彼が望む姿勢で、彼の欲望を受け入れる。
それは、屈辱でしかないはずだった。
おそらく、良一は、経験が多いのだろう。
良一は、哀の様子を見ながら、彼女がより強く、反応する場所を巧みに責めてくる。
愛してはいない。
それどころか、軽蔑さえしている。
なのに、良一の行為に悦びを感じる自分の体が、哀自身を失望させる。
屈辱感と羞恥、そして悦楽が複雑に交錯し、哀の胸をかき乱していた。
「シャワーを使うといい」
浴室から出てきた良一は、バスタオルで体を拭きながら言った。
そんな彼の顔すら見ずに、ゆっくりと体を起こした哀は、浴室に向った。
(ここにいるのは、誰?……あなたは、誰なの?)
自分の裸の全身を映している浴室の鏡に向かい、哀は、心の中で問いかけた。
(あんな男に体を許し、いいように玩ばれ、辱められて、あなたは、平気なの?)
シャワーの湯が全身を叩くのも忘れ、哀は、鏡の中の自分の顔を見つめた。
(女の誇り、あなたは、それを捨てた……そして、彼を裏切った……)
(たとえ、この体がどうなろうとも、どんなに辱められようとも、私は、データを手に入れ、彼の命を助けないといけない……これは、私が過去に犯した罪の償い……罪の罰……)
(それを彼が喜ぶと思う?)
(しかたないじゃない……他に方法はないのよ。彼が喜ぶかどうか、それは、問題じゃない……増して、彼が私を嫌悪し、蔑んだとしても、それも問題じゃない……)
(じゃ、彼が助かった後、あなたはどうするの?)
(さあ……でも、それも、大した問題じゃないわ)
でも。
哀は、俯き、その場にうずくまると、両手で顔を覆った。
(2009/1/22初)
(2012/3/11改)
NEXT 赤い月16「揺れる朝」へ