赤い月


 
14 すれ違う夜


「灰原がこれを?」


「うん……哀ちゃん、何か様子がヘンだった……」


 コナンが意識を取り戻したのは、その日の明け方だった。

 コナンが目覚めたとき、傍に居たのは、蘭と小五郎、それに、哀と入れ違いに病室にやって来ていた阿笠の3人だった。

 明け方の目覚めたコナンは、その後、診察を受けたが、医師の診断は、以前と同じで、はっきりした原因は、わからなかった。
 ただ、今回は、貧血の症状がみられ、そのため、目覚めたコナンは、頭痛と、眩暈に悩まされていた。

 それでも、その日の昼すぎには、コナンの症状は、落ち着きを取り戻していた。そして、蘭は、哀から託された手紙と包みを、コナンに渡すことができた。

 封筒を開けたコナンは、中の封書を取り出す。

 ベッドの上で上体を起こしたコナンは、封書を取り出して読み始めた。その表情が、段々と厳しいものになっていく。

「私、出てるわね……」
 コナンの様子を見ていた蘭は、そう言って病室を出て行った。

(コナン君……新一……)

 蘭には、わかっていた。

 コナンも、哀も、コナンが倒れた理由、いや、コナンの体調の異変について、その原因を知っている。
 コナン自身は、自分の体の異常について、その理由をよく知っているから、何度倒れても、入院しても、焦りも見せずに、落ち着いているのだろう。

 そして、哀は、そんなコナンの体の異常を知っているし、その原因も、対処方法もわかっているようだ。
 だから、2人とも、あんなに冷静でいるのだと思う。

 そして、それがまた、蘭の確信をさらに、確かなものにしている。

 コナンが新一であること。

 時が経ち過ぎていて、今更、コナンが新一であると確かな証拠が出てきても、社会的に混乱が起きるだけで、周りを不幸にしてしまうだろうことも、蘭は理解している。
 だから、コナンのことについては、自分には、何も口出しできない。
 ただ、コナンの体調に気を配ることしかできない。

 それが歯痒く、また、悔しくもある。

 でも。

 コナンの命に関わる事態になっているのだとすれば、自分は、自分にできることをするしかない。
 今は、自分の気持ちは、二の次にするべきだ。

 蘭は、そう思っていた。


*****


 哀からの手紙を手にしたまま、コナンは、厳しい表情で、窓の外に視線を投げている。

(結局、俺は、アイツに何もしてやれないのか……)

 哀の手紙には、一緒に渡された薬に服用方法など、彼女らしく、事務的なほどに、簡潔に書かれている。
 そして、その後には、これから自分がすることは、コナンや自分を大事にしてくれた人たちを裏切ることだと書かれている。そして、コナンは、そんな自分を許せないだろうと、許さなくてもいいとも書かれていた。

 哀が何をしようとしているのか、コナンには、詳しくは、わからない。しかし、1人で何かを背負っていることは、その手紙からも、察することができる。

 そして、その手紙を読んだコナンは、胸が締め付けられるような苦しさを感じている。
 妬みと哀しみ、そして、それに伴う胸の痛み。

 押し寄せる嫌な感情に、コナンは、思わず、目を閉じ、頭を振った。

 これまでにも、哀は、自分の命を投げ出そうとしようとしたことは、何度もあった。
 それは、組織に狙われている自分が、他の人間を巻き込まないためだった。

 今、自分と哀を襲っている危機も、彼女にとって、同じことなのかもしれない。
 自分の作った薬、それを飲まされたことによって、新一が失ったものは、確かに大きい。そして、今度は、命さえ、失うかもしれない。

 この事態になっては、哀が、自分を犠牲にしても、コナンを助けようとすることは、明らかだった。

(アイツ、人を頼るってこと、知んねえからな……)

 コナンは、手紙と共に、哀が蘭に託した包みを手に取ると、中身を出した。

 その小さな瓶には、カプセルが詰められている。
 おそらく、哀が寝る間を惜しんで作ったであろう薬。

 その小瓶を抱きしめるようにしたコナンは、何かを思いついたように顔を上げると、ベッドから出る。
そして、病室のドアを開け、外に出て行った。


*****


 3日後、とくに異常は見られないため、コナンは、とりあえず退院した。
 哀からもらった薬が効いたのだろう、体調は、急速に回復していた。

 そして、その日の夜になって、コナンは、阿笠の家に哀を訪ねた。

「いない?」
「ああ。夕方、人に会うと言って、出て行った……帰りは、遅くなると、言っておったの」
 訪ねてきたコナンに、阿笠は、少し不安げな表情で言った。

「人って、誰だ?」
「それが、教えてくれんのじゃ……」
「博士は、心当たり、ねえのか?」
「……ああ」

 阿笠の寂しげな表情に、コナンは、胸が痛んだ。そして、この優しい保護者に、こんな想いをさせている哀に対し、怒りと、哀しみがこみ上げてくる。
 そのとき、哀の手紙の文字が、コナンの頭をよぎった。

「私のしていることを知れば、あなたは、私を許さないでしょう。許してくれなくても、かまいません」

 アイツに会わなければ、話さなければ、いけない。
 今、そうしないと、一生後悔する。

 コナンは、そう思った。

「博士、わりいけど、アイツが帰ってくんの、待たしてもらっていいか?」
「ああ。かまわん……いや、そうしてくれ」
 そう言った阿笠の表情は、少し和らいだように見える。

 哀のことは、コナンに任せるのが一番いい。
 阿笠は、そう思っている。

「さ、入るといい」
 阿笠は、そう言ってコナンを家の中に入れた。


*****


 感情のない表情で、床に視線を落としながら、哀は、良一に促され、彼の寝室に入った。
 そんな哀の顎に手をあて、顔を上げさせた良一は、その唇に口づける。
 彼の舌が侵入し、自分の舌を絡め取ったとき、哀は、目を閉じ、僅かに表情を硬くした。

「服を脱いで」
 しばらくして、唇を離した良一は、そう言うと、ベッドに座った。

 哀は、視線を上げ、睨むように良一の目を真っ直ぐ、見つめてくる。
 いや、その視線は、良一を見つめているようで、もっと遠くを見ているように感じる。

 思わず視線を外した良一は、ベッドに視線を落とすと、その上に置いてあった黒いものを手にした。

 3日前、哀を抱いてから、良一は、彼女のことばかりを考えていたように思う。
 今度は、どうやって彼女を抱こうか、哀に対してやりたいことを、良一は、いろいろ思い浮かべていた。

 着ているものを脱ぎ始めた哀の表情は、相変わらず、何の感情も読み取れない。
 スカートを足元に落とし、下着姿になっても、それは、同じだった。

 薄い青のキャミソールの下着と同じ色のショーツ、そこから、細く白い脚が美しいラインを描いている。
 その姿は、良一の胸を熱く高鳴らせ、体を昂らせるには、十分だった。

 じっと自分を見つめる良一の視線には、まるで無関心なように、哀は、表情を変えずに、下着のキャミソールを脱いだ。
 括れた腰の曲線が現れ、良一の男を刺激する。

(やっぱり、きれいだ……最高の女だ)

「早く、全部脱いでくれ」

 我慢しきれなくなった良一は、少し声を荒げた。
 そんな良一の様子にも、哀の表情に変化はなく、、体の動きも、そのペースは変わらない。
 しかし、背中に手を回した哀は、あっさりと、ブラを外すと、その美しい胸の膨らみを良一の目に晒した。

 昂った良一の息づかいが、大きくなっていく。

「こっちへ来て……」
 乾いた良一のくぐもった声が哀の耳に届く。
 少しの間を置いて、哀は、ゆっくりと、良一の目の前にその裸身を進めた。

「手を背中に回して、向こうを向くんだ」
 良一の言うと、表情も変えずに哀は、言われるまま、両手を後に回し、その背を彼の方へ向ける。

 良一は、傍に置いてあった黒いもの、手枷を取ると、哀の手首にそれをはめ、金具を繋いで拘束した。

 自分を見る哀の冷たい眼差し、その感情が見えない態度。
 そんな哀を拘束し、辱め、責めること。

 3日間、良一が彼女に対して、やってみたいと考えていたことを今、彼は、実行できる悦びに、胸を高鳴らせている。

 手枷をはめた哀をベッドに座らせると、良一は、ぞくぞくする感情の昂りに身を委ねながら、自分も服を脱ぎ始めた。

 手枷で両手を拘束され、裸でベッドの上に座っている哀は、相変わらず無表情で、背後で良一が服を脱ぐ気配を感じても、僅かに、目を細めただけだった。

(2009/1/15初)

(2009/1/19改)

(2011/12/17改)

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