赤い月


 12 歪んだ夜


(私は、彼を裏切る……彼の命と彼女のためには、私は、悪魔にでも、魂を売る)


 でも。

 自分の心に嘘は、つけない。
 哀は、戸惑っている。それでも、その場を動けずにいた。

 好きでもない、目の前の男は、自分の裸身を見つめ、目を光らせている。

 迷いというか、体や感情が自分を拒否していると、良一は、哀を見ていて思った。
 しかし、さして、動じている様子もなく、その度胸は、さすがだと思う。

(いい女だ……)

 改めて、そう思った。

 そして、あと少し、手を伸ばせば、その女が手に入る。

 胸を腕で隠し、壁際に立つ哀を睨んでいた良一は、スッと体を翻すと、クローゼットの扉を開ける。
 その中を探っていた良一は、黒いものを手にして、哀の方に振り向いた。

 それは、金具のついたベルトになっている手枷だった。

 薄明るい照明に照らされたそれは、哀の目に、鈍く、不気味に光って見える。

「これを使わせてもらうよ」
 言いながら、哀に近づいた良一は、手枷を彼女の顔の前へ掲げ、ニヤリと笑った。
 そして、彼女の手首をそのベルトで締め付けようとする。
 
その手を振り解こうとした哀だったが、良一がその腕を押さえて睨むと、彼を睨んだまま、抵抗することをやめた。

 ニヤリとして、哀の腕を掴んだ良一は、手枷のベルトを彼女の手首にかける。
 この時、哀は、決心したよう瞳に力を込めると、良一の顔を見据えた。
 睨まれている強い視線に、良一は、また心が怯むのを感じていたが、気にしていないように装い、彼女の両手首を手枷のベルトで締め付けた。


*****


 哀の両手首に手枷をかけ、ベルトを締めつける。
 そして、両腕を背中に回させると、その手首にはめた手枷に付いているそれぞれの金具を繋ぎ、後手に拘束する。
 哀は、僅かに、表情を歪めたが、それでも、抵抗しない。そして、良一は、彼女をベッドに座らせると、前に立って、その美しい裸身を眺めた。

 細い体だが、形のいい胸、美しい体のライン。

 このとき、良一は、改めて、哀に見惚れて、彼女の持つ雰囲気から感じていた心の怯みを忘れて笑みを洩らした。

 哀の前に、ゆっくりと、しゃがみ込んだ良一の手が、乱暴に彼女の乳房を掴む。哀は、グッと唇を噛み締めたが、ほとんど表情を変えずに、良一の顔を見ていた。

 良一は、片方の乳房を強く掴んで、顔を近づけると、もう一方に唇をつける。
 そして、口に含んで吸い、舌でその先を玩ぶ。

 哀は、乳房を玩ぶ良一の手と唇、舌の動きにも、表情をあまり変えない。ただ、心の中では、必死に、その恥辱に耐えていた。

「君を見つけたとき、嬉しかった……男としても、科学者としても、ね。男として、君に興味があったし、科学者としても、あの薬を飲んで生き残っている君の体にも、興味がある……」

「……んっ」
 執拗に乳房を玩ぶ良一の行為に、哀は、耐え切れず、僅かに声を上げ、目を閉じた。
 それに満足したように、ようやく、哀から体を離した良一は、立ち上がると、服を脱ぎ始める。

 ズボンを降ろし、下着も取った良一は、哀の前に昂った自分自身を晒した。
 哀は、僅かに顔を反らし、良一から視線を外す。

 裸になった良一は、また、彼女の前にしゃがみ込むと、また、その乳房を乱暴に掴み、その感触を楽しみ始めた。

 こんな男にいいようにされるのは、悔しい。悔しくて、しようがない。

 これは、罰。

 自分の犯した罪。そして、それを償いもせず、平穏に暮らしてきた罪への罰。
 哀は、そう自分に言い聞かせ、顔には、その想いを出すことなく、この屈辱に耐えていた。

「僕は、自分でも、優秀な方だと思う……だけど、君には、叶わない……あの薬の改良は、失敗だ。だから……その意味でも、君がほしい……」
 そう言う良一の唇と舌が、哀の乳房を吸い、玩ぶ。そして、哀の体をベッドに押し倒すと、その手と唇を、彼女の胸から腹、腰、腿へと、移動させていった。

 哀のショーツにかかった良一の両手が、それをストッキングごと、足元に下ろしていく。
 その時、初めて、哀は、目を閉じて、羞恥に顔をそらせた。

 良一の指が、露わになった彼女の下腹部の茂みを探り始める。

「んっ……」
 良一の指が秘所に触れ、そこを刺激し始めると、哀は、唇を噛んだまま、僅かに声を洩らした。
 序々に彼の指の動きが激しくなってくると、哀は、後手に拘束され、自由にならない上体を捩って耐える。

「……あっ、う……」
 そして、良一の指が、哀の中に入ってきた。

「うっ……ん……」
 唇を噛み締めた哀の上体が反り、美しい胸が突き上げられ、その乳房を左手で掴んだ良一は、哀の中に入れた右手の指を動かし続けている。

「君と僕が一緒になれば、あの薬を武器に、何でも手に入れることができる」

「あっ……」
 体を捩らせる哀の声が洩れる。
 その肌に汗が滲んで、光る彼女の体は、良一をさらに、刺激し、指の動きが激しくなった。

 哀の中をかき回すようにしていた指を、ようやく抜いた良一は、両手で、彼女の膝を掴むと、脚を開かせる。

「くっ……」
 良一の頭が、自分の脚の間に入ると、哀は、恥辱に唇を噛んだ。
 良一の舌が、哀の秘所を蹂躙する。
 彼女の意志とは別に、哀の中が潤ってくると、良一は、笑みを浮かべて顔を上げた。

「んっ……」
 両手で強く掴んだ哀の腰を持ち上げた良一は、その下に自分の膝を入れる。
 哀は、顔を横にして、きつく目を閉じた。

 良一は、熱を帯びて昂った自身を哀の秘所にあてると、その入り口を探る。

「はあっ……」
 良一自身が侵入してくると、哀は、荒い息を洩らした。
 律動をはじめ、打ちつけられる良一の腰が、哀の体を揺らす。

「いや……あっ……」
 突き入れられるたびに、良一の腰、手や指の動きが激しさを増して、哀の体を責め立てる。

「くうっ……」
 そして、うめき声と共に、良一の体が震えたとき、哀は、ドロドロした男の欲望が、自分の中へ流れ込んだ不快感と、自棄的な気持ちに襲われた。

 欲望を放った良一は、一旦、哀から体を離す。

 ベッドの上でうつろな顔で横たわっている哀は、良一の行為の中で、僅かに感じた悦びに、湧き上がる自己嫌悪をどうすることもできなかった。

「あっ」
APTXのデータは、今は、F国にあるよ。F国の製薬会社の研究所には、友達がいてね……彼とは、彼が日本に留学中に知り合った……そこなら、組織の目も届きにくいし、僕は、一時、データを彼に預けることにした」
 良一は、そう言いながら、哀の体をうつ伏せにすると、彼女の腰を両手で掴む。

「データは、その製薬会社のデータファイルの中にある……それを開くパスワードは、僕しか知らない」
「うっ……」 
 良一は、哀に膝を立てさせて、腰を上げさせる。
 両手が背中で拘束されているため、顔や肩がベッドについたまま、腰を突き上げた屈辱的な姿勢になり、哀は、強く、唇を噛み締めた。
 
 良一は、腰を上げた哀の脚を開かせると、その間に膝をつき、今度は、後から、彼女の中に、昂った自身を入れていった。

「くっ……」
 腰を掴まれ、体が引き寄せられると、良一自身が深く、中に入ってくる。

「ああっ……」
 再び、良一の昂ったものに貫かれた哀は、思わず声を洩らして、体を震わせた。

 哀の中で、ゆっくりと前後に、良一自身が動きだす。

「うっ……あ、はっ……」
 突き入れる良一の動きが激しくなってくると、思わず、哀の口から喘ぎ声が洩れた。

 良一が腰を打ちつけるたびに、汗が光る哀の肌が妖しく揺れ、彼の欲望がさらにかき立てられる。

 激しい良一の行為に、哀は、恥辱と屈辱感、そして、自分の意志に反して煽られる快感、喜悦に戸惑いながら、自分を見失わないように、自身の心を励ましていた。

(2008/12/16初)


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