ハリウッドで成功したストーリー構成
ハリウッドメジャーのフィルムは
優れたエンターテインメントとして絶大な支持を得ています。
そんなハリウッド映画の中でも大ヒットする作品には
共通するストーリー構成が存在しているようです。
ここでは、これからストーリーを構築しようと言う方を対象に、
ハリウッド映画に見る成功したストーリーの
平均的な時間の流れに沿ったストーリー展開と、
五大要素と言われる、流れ、登場人物、
仕掛け、背景、セリフの要点を説明します。
ここでは具体的な作品名は取り上げませんので、
是非、これから見る作品のストーリー構成を観察し、
この内容と照らし合わせていただきたいと思います。
なお、この文章は、Linda Seger / T.L.Katahn の著を参考に、
伊澤隆司が独自の解釈で監修した物です。
●総尺●
ハリウッドで一般的に使われているシナリオ書式では
1ページが1分と計算されます。
シナリオのページ数は平均で120ページ。
もちろん基本的には枚数の制限はありません。
多くの成功している作品の初稿は平均で120ページ弱。
(日本ではペラ240ページ弱に相当。)
十分な見ごたえがあり、
多くの観客が集中力を持続できる時間は
2時間前後と言われますから、
作品は120分を目安に構築する事が成功の秘訣と言えそうです。
●構成●
基本の構成はスリーアクト(日本では序破急と呼ばれるもの)です。
大まかな2時間の平均的な時間配分は、
1幕30分、2幕60分、3幕30分と言われます。
それぞれの幕に設定、展開、解決の3つの要素を存在させます。
また、ストーリーの進行は後半に行くほど速くし、
疲れてくる観客を飽きさせない構成にします。
これは全世界共通で、古くから基本的な構成とされています。
★第一幕★(開始〜およそ30分まで、だいたい30分間)
「序」と言われる下準備の幕です。
ゆっくりと観客を物語へ導きます。
●クレジット●
多くの作品は何かしらのクレジットから始まります。
様々な試みがされていますが、黒バックに白文字で
シンプルに始まるものが好感を得ているようです。
特にキャスト・スタッフに有名人がいれば
これから始まる物語の下準備が楽になります。
この部分は上映開始から2〜3分で終わります。
クレジットが終わるまで具体的なストーリーに入らず、
観客を作品の世界へ導くイメージでゆっくり進むのが一般的です。
●セットアップ●
最初に舞台背景の映像、ストーリーを暗示させる質感、
全体のムード、そして登場人物の紹介に入ります。
ここではまだ本題には入りません。
セットアップは上映開始から10分〜15分まで。
●カタリスト●
カタリストとは、きっかけをもたらす媒体。
訪問者によって主人公に働きかけがあったり、
書籍を見つけるなどで一つの方向性が示される事です。
上映開始から15分〜20分が良いタイミング。
●1stターニングポイント●
きっかけによって主人公はその方向性を決定します。
これが物語のセントラルクエスチョンとなります。
冒険なら目的地に辿り着けるか?恋愛なら成就するか?
と言った最大のテーマが示されます。
そして主人公が動き始める事で第二幕が始まります。
これは上映開始から25分〜30分に配置します。
★第二幕★(開始およそ30分後〜90分位までの約60分間)
「破」と言われる幕です。
主人公を取り巻き、様々な出来事が起こります。
●メインプロット●
主人公は順を追って核心へ迫っていきます。
効果的に「障壁」「選択」「後戻り」「方向転換」を配置します。
観客が先の展開を考える事はできるのですが、
見え見えでなく、可能なのかな? と思わせる構成にします。
このとき、注意するのはストーリーの勢いを維持する事。
箸休めは必要ですが、
流れが滞ると観客は物語から映画館の座席に戻り、
さらには耐え切れず座席を立つ結果となります。
壁に当たったらすぐに方向転換。
長いアクションシーンの後には短い箸休めと言った、
勢いを保ちながら観客を疲れさせない配置をします。
●サブプロット●
本題から脱線したストーリーです。
シーン転換にコントラストを付け、物語の幅を広げます。
通常サブプロットのテーマはメインプロットより軽いので、
設定から解決まであまり時間をかけすぎないようにします。
そして、必ずメインプロットに関連のあるストーリーとします。
サブプロットは少なくても1つ、多くて6つ程度をテンポ良く配置し、
必ず設定・展開・解決を明確にします。
また、サブプロットはセントラルクエスチョンが解決する前に
すべて解決させます。
●ミッド・ポイント・シーン●
第二幕の中間、つまり作品全体の中間のシーンです。
起承転結で言う「転」に当たります。
多くの映画では中間の興味や勢いを維持するために
開始から60分前後の位置で背景や展開を大幅に変更します。
これが上手くいけば、
物語りは一気にクライマックスへ加速して、
観客を物語にくぎ付けに出来るようです。
具体的には屋外から室内へ、昼から夜へ背景が変わったり、
登場人物の重要なキャラがいなくなったり死んだり、
ミステリーでは重大な秘密が発覚すると言った変化を付けます。
●2ndターニングポイント●
開始から75分〜90分に配置します。
クライマックスへの入り口です。
敵城に辿り着いた。尋ね人の消息をつかんだ。
古文書の謎が解けたなど。
第二幕に配置された一つの問題が解決し、
セントラルクエスチョンの核心へ迫ります。
ストーリーは一気に加速して展開します。
★第三幕★(開始約90分後〜終わり(約120分)までの約30分間)
「急」と言われる幕です。
セントラルクエスチョンへの主人公の取り組みです。
時間がない、危険が迫っている、
大変な集中力を要求されるなど、
主人公にとって最大の難関となる場面です。
物語は息もつかせぬ勢いで進行します。
そして、ここですべての謎が解け、物語は終息を迎えます。
●ロー・ポイント●
勢いに任せて盛り上げるだけでは、
観客はこのまま問題解決だと先を読んでしまいます。
そこで、主人公にストーリー中最大のピンチを与えます。
一度、主人公を最低の状況に置き、問題解決に難色を示します。
観客は主人公を応援し、反撃を望むようになります。
開始から100分〜105分に配置します。
●クライマックス(climax)●
ロー・ポイントから一気に反転し
主人公はカタリスト(触媒)を受けて問題を解決します。
弱点を見つけたり、
サポートキャラの助けによって形勢を逆転させます。
ここは物語中一番盛り上がるように描かれる部分です。
開始から110分〜115分に配置します。
●レゾリューション●
クライマックスのあと、残された謎はここで解決します。
開始から110分〜120分に配置。
●ビッグ・フィニッシュ●
日本では「大団円」と言われます。
この段階で観客が得をした気分を味わっていれば
物語は成功です。
基本的にクライマックスで物語りは終わっていて、
そのあとを長々と続けるのは得策ではないようです。
かと言って、あっさりしすぎても観客は物足りないと感じます。
必要最低限の時間で気持ちのいい余韻を残すようにします。
開始から115分〜120分に配置。
これで120分の作品は完成です。
ありふれた構成に思えるかもしれませんが、
人の感情は普遍的なもので、成功した多くのハリウッド映画に
同じ構成を見ることができます。
ただ、これは基本構成の一つの「型」に過ぎないので、
必ずこれに当てはめようとすることには賛成しかねます。
これは一つの情報と踏まえ、
独自のスタイルを確立していただきたいと思います。
★五大要素★
流れ(Storyline)登場人物(Character)
仕掛け(Idea)、背景(Image)、セリフ(Dialog)
●流れ(Storyline)●
大筋の要点は、統一感のある事。
そして、失速することなく結末へ導く事。
そのためには全体像を把握し、適切な場所にイベントを配置します。
また、迷走している部分があれば修正します。
注意点は、一部を変えれば流れはすべて変わってしまうと言う事。
一部だけを修正する事で全体像がぼやける場合があります。
すべてのシーンは単独で存在しているわけではない事を踏まえて、
常に流れを意識した構成を心掛けます。
●登場人物(Character)●
メインキャラクターの数は少なくても3人、多くても7人。
それ以上の重要なキャラがいると、観客がストーリーを
把握できなくなるようです。
登場人物の主な役割は下記の通り。
主人公(ヒーロー/ヒロイン)
助言者(サポーティング)
敵対者(アンタゴニスト)
お笑い(コミックリリーフ)
お騒がせ(トリックスター)
道標(カタリスト)
好敵手(ライバル)
人物を描く上で重要な事は、
どこまで現実味のある人物を描けるかです。
それぞれのキャラの人となり、
バックストーリー(シナリオに描かれない以前の体験)、
容姿、性格、セリフの癖、哲学、働き、
そして、物語の中で成長しているか。
それらを十分に掘り下げて構築する必要があります。
登場人物がみんな同じ喋り方をしたり、
持っている知識が同じでは真実味に欠けてしまいます。
様々な分野の知識を収集し、
キャラに見合ったバックグラウンドを割り当てます。
イメージトレーニングとして、
キャラのセリフやアクションを頭の中で
具体的に描き出し、活き活きと動き回り、
自然に自分に話し掛けてくるようになるまで
細部に渡って人物像を確立します。
●仕掛け(Idea)●
ストーリーは多くのアイディアで構築されます。
プロットは問題提起、行動、解決を繰り返し、
その中に様々なアイディアが盛り込まれるのです。
要点として3つのテーマを記します。
ストラクチャー
そのアイディアがストーリーとマッチしているか。
また、しっかりとしたコンセプトで一貫して描く事ができるか。
オリジナリティ
新鮮なもので類似品はないか。
ユニークで人を納得させる説得力を持っているか。
マーケティング
フック(興味を惹くカギ)があり、人を動かせるものか。
多くの観客が感情移入し、共感を呼べるテーマか。
次に、人に働きかけるアイディアとなるキーワードを記します。
普遍、流行、生、死、愛、憎、偉大、蔑視、
知識、未知、美観、醜悪、自己実現、友情など。
また、神話やおとぎ話からアイディアを得る事もできます。
神話が語り継がれるのはそれだけ魅力があると言う事です。
普遍的テーマのモチーフとして、ハリウッド作品にも
多くの神話的要素を見つけることができます。
●背景(Image)●
採用される多くのシナリオは背景描写が具体的と言えます。
映画は動いてこそ映画。
アクションでストーリーを描く事が基本となります。
そのため、読んだ人が背景を思い浮かべられる
具体的な記述は不可欠であり、
的確でわかりやすいものが好まれます。
シーンのつながりも背景によってコントラストを持ちます。
適切な順番で背景を配置する事により
ストーリーに一定の流れを持たせ、
飽きの来ない展開にすることができます。
シーンの長さは、そこで何が起こるかによって決まります。
適切な長さで設定、展開、解決がなされ、
全体のスリーアクトと照らし合わせる事で
自然と配置が決まってきます。
また、すべての背景はキャラ、ストーリーと
連携して働く必要があります。
西部を描けば、開拓者を連想するだろうし、
都市を描けば、冷たい都会人が連想されます。
背景がキャラクターの性格付けを手伝ったり、
問題解決の糸口(ここならできると思わせる事)につながります。
●セリフ(Dialog)●
セリフを描く場合の注意点は、
必要最小限のセンテンス(文)でまとめる事。
セリフが増えるとストーリーは勢いを失います。
それは、映画が視覚情報によって展開するためです。
セリフを用意する前に、その情報はアクションや
イメージ、ムードに置き換えることはできないか検討します。
また、一人の筆者によって書かれるシナリオでは、
別のキャラでもセリフの言い回しは必然的に似てきます。
十分なキャラクターディベロプメントによって、
キャラクターが自然に喋る言葉を書き写すような技を要求されます。
そのため、日ごろから多くの人を観察し、声を聞き、
多彩な表現を蓄えておく事が必要です。
また、日常会話はすべてが筋の通るものではないことを踏まえ、
セリフを言う前に味方が理解して好感を得たり、
悪役が言葉を理解せず観客を苛つかせるなど、
自然な遣り取りとして成立させながら、
観客の心理に有効に働きかける内容を心掛けます。
セリフの役割は会話が中心です。
2人以上のキャラが会話する場合、
コンフリクト(葛藤)が生じます。
もちろんモノローグによる内面的コンフリクトも生じます。
それぞれのキャラが目指すクライマックスを明確にし、
お互いが協力するのか、敵対するのか、
それぞれの方向性に合ったセリフを用意します。
また、コンフリクトは一つではありません。
主人公が目指すメインプロットに対するメインコンフリクト、
そのシーンで生じる小さなコンフリクト、
また、人間関係から生じる連携したコンフリクトなど。
それぞれのつじつまが合わないセリフは観客を混乱させます。
セリフはイメージやアクションと併用し、
その言葉の目的や意味を明確に伝えるようにします。
ダイアログを用いるシーンでは、
飽きさせないためにインパクトのある内容を配置します。
説得によってキャラが考え方を改める。
協力者と喧嘩になるなど。
特に平板な説明シーンでは、興味を惹く表現を心掛け、
勢いを滞らせない展開を構築する必要があります。
★見直し★
シナリオが書き上がったら読み直してみます。
その時にチェックする要点は、他の人が書いたストーリーの
良否を判断する材料にもなり得ると思います。
見直すときの要点を記します。
●プレディクタビリティ(予測性)●
多くの映画を観ている人、たくさんのシナリオを読んだ人は、
大抵のシナリオの結末は予測できます。
しかし、多くの観客はそうではありません。
観客の視点から分析することが成功の秘訣と言えます。
成功したハリウッド映画のほとんどは主人公の勝利で終わります。
問題は、途中で結末が予測できるストーリーだったとしても、
なお観客を惹き付けられる展開となっているかがポイントです。
フック(興味を惹くカギ)はあるか、ローポイントはどこか。
明確なコンセプトにしたがって展開してるか。
ストーリーの勢いは十分かと言った点を検討します。
●アイディア(仕掛け)●
ストーリーラインにマッチした仕掛け、
オブスタクル(壁)、コンプリケーション(複雑化)
リバーサル(逆転)、ツイスト(ひねり)
が加えられているか。また、やりすぎはないか。
それらは、すべて解決されているかと言った点を検証します。
ヘタなアイディアを盛り込む事は、
ストーリーを興醒めさせてしまう原因になります。
意外性はあるか、理解できるか、退屈でないかと言った点に
注意して分析してみる必要があります。
●ビリーバビリティ(信用性)●
背景や展開に無理がなく、本当っぽく描かれているか。
専門家が見ても納得できる内容か。
その背景で実際に起こりそうな出来事になっているか。
無理な展開であっても、
観客を惹き込み楽しませられる内容か。
以上の事に注意しながら
状況設定と照らし合わせてキャラの行動を検証します。
●サブプロット(脱線)
メインストーリーをぼやけさせていないか。
自然発生的に登場するストーリーか。
気分転換や息抜きと言った役割を担っているか。
全体のストーリーに効果的に使われているか。
きちんと解決されているか。
以上に気をつけて見直します。
●コンティニュティ(連続性)●
すべての設定や葛藤の結末は妥当なものか。
キャラの性格・行動や成長は一貫しているか。
プロップ(小道具)は適切に登場しているか。
シーンの配置に不自然さはないかなどをチェックします。
●キャラクター(登場人物)●
キャラを分析する要点は以下の通り。
描かれるテーマに最も適した人物像か。
応援したくなる人物像か。
プレスクリプティブ(理想面)と
ディスクリプティブ(現実面)を併せ持っているか。
※これは、観客がこうあってほしいと願う理想を満たし、
同時に、弱点を露呈するなどで人間味を出し、
共感できる部分を持ち合わせているかと言う事です。
変化は一貫しているか。
キャラの書き分けはできているかなどにも注意します。
●ダイアログ(セリフ)●
キャラに合ったセリフか。
(年齢、生い立ち、学歴、経験、願望、哲学、性格、その時の気分など)
時代考証や文化・風俗に見合ったセリフか。
シーンの目的にマッチした内容か。
無駄な情報を与えるセリフではないか。
正しい方言や言い回しをしているか。
●ペース(勢い)●
テーマに合った進行速度か。
興味を惹くペース変化が盛り込まれているか。
それぞれのシーンは自然なペースでつながっているか。
ビート(一つながりのアクション)は適切な長さか。
また、ビートが多すぎはしないか。
●パフォーマンス(文章表現)●
言葉を上手く駆使してイメージを伝えているか。
概念や感情をビジュアル化できているか。
表現にオリジナリティはあるか。
表記方法にばらつきがないか。
また、重苦しくて読みにくくないか。
ストーリーは的確に流れているか。
大事な事柄が欠落していないか。
また、書きすぎている部分はないか。
シナリオライティングの技巧を理解しているか。
正しいフォーマットで書かれていて誤字脱字はないか。
(これは内容が問題なので、間違っていてもかまわないようです)
以上の事柄について見直すことで
より説得力のあるシナリオを構築できると思います。
この文章が少しでもストーリー構築のお役に立つ事を祈ります。(文責:伊澤)
2008年度版 監修:伊澤隆司 製作:彩倫
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