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空想法律読本のジャミラ放水殺人… (趣味・ゲーム)楽天ブログ 【ケータイで見る】 【ログイン】
碁法の谷の庵にて
風の精ルーラの囲碁と法律雑記

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2007年11月01日
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空想法律読本のジャミラ放水殺人事件を検証してみる

 先日、ウルトラマン第23話「故郷は地球」を見る機会に恵まれた。あ、ウルトラマンだと思って題名を見たら「故郷は地球」と出てびびりまくりましたよ。


 大まかなストーリーを言ってみよう。

 国際平和会議のために日本に集まる飛行機が次々と原因不明の墜落事故を起こし、科学特捜隊はそれが見えない宇宙船によるものと突き止めた。科学特捜隊はその宇宙船を発見、撃墜すると、中から怪獣が出現。
 その怪獣の正体は、かつて宇宙開発競争華やかりし頃、某国(一説ではフランス)によって打ち上げられた宇宙船の乗組員ジャミラ、つまり怪獣はもともと地球人だったことが判明する。
 宇宙船は故障し、宇宙をさまよったが、某国は宇宙開発競争に敗れることをおそれ見殺しにしてしまった。だが、彼は水のない星に不時着、身長50メートル、体重1万トンの棲星怪獣となったが生き延び、自力で宇宙船をなおし、自分を見殺しにした地球に復讐にやってきて、国際平和会議を潰そうとしたのだ。
 会議場に迫ったジャミラに対し、科学特捜隊は水に弱くなっていたジャミラに人口降雨弾を放って苦しめる。さらに、ウルトラマンが現れ、指先からの放水でジャミラを倒した。


 さて、この場合におけるウルトラマンの罪責を検討したのが空想科学読本第1巻の「ジャミラ放水殺人事件」。
 ここにおいては、いくつか検討したうえで、最終的にウルトラマンに殺人罪の成立を認め、過剰防衛で罪は減軽され、執行猶予判決(当時は殺人罪の法定刑下限は懲役3年)になるだろうという結論を導いている。

 はっきりいって検討すべき事項はむちゃくちゃ多い。実際問題、本の中で検討されていた事項、あるいは個人的に検討すべきと思う事項としては

「ウルトラマンは人間の刑法で裁くことができる存在なのか」
刑法で裁けるのは人間だけ。同書では宇宙人の人権享有主体性を認めているが、それによって直ちに犯罪能力を認めてよいかは難しい問題と思われる。
「ジャミラは殺人罪に定める人と言ってよいのか」まあ一応人間が変異した存在であり、どのような姿かたちであれ人というべきだろう。
「放水で人は死なない以上不能犯なのではないか。また、因果関係がないのではないか。」
前者は監修者の問題提起、後者は私の問題提起。あんまり思考枠組みが違わないが。学説の対立は激しいが、現実に死んでいるし、少なくとも水に弱いことを知りつつ放ったということは、やはり殺人の実行行為に当たるし因果関係もあるというべきだろう。アレルギーの人にアレルギー食品を食わせるようなものである。
「ウルトラマンに殺人の故意はなかったのではないか」
倒れても放水を続けたので、未必の故意くらいはあったというべきだろう。
「科学特捜隊の攻撃に原因があったのではないか」
科学特捜隊の攻撃にひざをついていたのは事実でも、その後ウルトラマンと一応戦っていたので、死因はやはりウルトラマンの放水にあるというべきだろう。
「正当防衛が成立するのではないか」

なんていったあたりではないか。



 だが、私は監修者の結論にどうにも納得がいかないのである。 


 なぜ納得がいかないか。それは、やはりウルトラマンに過剰防衛といえど犯罪が成立するという結論の問題である。ちなみに、過剰防衛なら刑が免除できるから免除しろと言うのもあるのだが、この際はこれは脇においておく。
 ジャミラが倒れた時点で、急迫不正の侵害はもう終わっているのだから、ジャミラが倒れる前の放水はともかく、ジャミラが倒れた以降の攻撃は過剰防衛に当たるというのが監修者の見解である。これはこれで一理あるだろう。検察官の立場でこの点を主張することは批判できないくらいのレベルは十分にあると感じている。


 しかし、ジャミラをなんだと思っているんだという発想が私の納得いかなさの根底にある。
 ジャミラと言えばその不幸な境遇には誰もが同情するが、一方では罪もない人々の生命や財産を奪っている存在。国際会議場を襲う前に、口から業火を吐き(設定は100万度だが、劇中見る限りそこまでではないように見えた)、人の住む家も燃やしてしまっていた。
 身長50メートル体重1万トン。走るスピードも速かった。腕力はインド象5000頭に達するという。
 しかも、ウルトラ水流でいったん倒された後も、降参するでも反省するでもなく、復讐の念をむき出しに国際会議の旗を引き倒そうとしながら絶命した。そのさまが、ジャミラの哀れさをより誘うのだが。
 だが、その辺に着目すると、ここで止めを刺さなかったら、ほぼ確実にジャミラは復活し、再度国際会議場を襲おうとしていただろう。


 ウルトラマンは、3分間しか地球にいることができない。続けざまに何度も変身することもできないといわれる。科学特捜隊の人工降雨弾も、ダメージを与えられるとはいえ使えばそう簡単にジャミラは倒れてくれるとまではいえない。反撃されれば隊員らに生命の危機が及ぶ。
 また、監修者は倒れた時点で現行犯逮捕するべきと指摘するが、ジャミラを拘束できるのはウルトラマンしかいない。いや、ウルトラセブンやウルトラマンAやウルトラマンタロウなどに交互に来てもらえば何とかなるかもしれないが、全宇宙の平和を守る彼らがそうそうジャミラの逮捕のためだけに関わりあっていられまい。
 刑事訴訟法上、私人に過ぎない現行犯逮捕したらすぐさま司法警察員、つまりは巡査部長以上の警察官に引き渡さなければいけないのだが、日本の司法官憲では、いや外国の軍隊でも拘束は不可能だ。ウルトラマンは3分しか地球にいられない。また、逮捕できたところで暴れるジャミラを入れられる施設はおそらく世界中どこにもない。
 逮捕できないから殺していいんだ、という発想はむちゃくちゃだと思うが、正当防衛の成否という視点からは、一つの重要な要素に思える。「予防的に殺すことを正当化」するためではなく、「現在の危難の判断材料」として使えるというわけだ。

  
 ここで注目すべきは、平成9年6月16日の最高裁判例である。(監修者がこの判例を意識したかは定かではないが、2001年=平成12年時点の法令を用いているということなので、平成9年の判例も当然考慮材料にされてよい)
 
 この裁判例は、Aが鉄パイプを持ってBに殴りかかってきた後、Aが勢い余って一時的にベランダから体を乗り出した状態で攻撃も何もできない状態になったときに、BがAをベランダから落っことして傷害を負わせたという事件。
 一審と高裁は、Bは正当防衛にも過剰防衛にもならないことだとしていたのだが、最高裁判所はAはベランダから乗り出した状態で一時的に攻撃できなくなっていたとはいえ、この部分が正当防衛、この部分が過剰防衛などというように個別に判断するのではなく、防衛のための一連の行動として観察し、なおもAは武器を握り締めて攻撃しようとしていたんだから急迫不正の侵害はなおも続いていたと指摘したのである。
 ただ、Aが武器を握っていたとはいえ、ベランダから落とすのはやりすぎとして過剰防衛となった。

 
 この考え方を応用すれば、ウルトラマンに正当防衛の成立を認めることも可能ではないか、というのが私の感想である。

 確かにジャミラが倒れた時点ではすぐさまジャミラが攻撃に移る、というわけではなかったかもしれない。
 しかし、ジャミラはなおも国際会議をぶち壊そうという意識を強固に持っていた。しかも、彼はそれ以前にも何の罪もない人たちの住む村を燃やし、会議を防止するためには飛行機の撃墜という大惨事も起こしてきた。
 また、平成9年最高裁判決は鉄パイプで一時的に攻撃力が弱まっていたのにベランダから落としたのはやりすぎと言うが、ジャミラの強大さはこんなものではなく、実際上ジャミラ自身が降参するか逃げ出すか、都合よく眠らせる方法でもなければ絶命させる以外に被害を食い止める方法は存在しないと思われるのである。

 つまり、ジャミラが倒れて攻撃が終わった後でも急迫不正の侵害はずっと続いている状態であり、倒れた後もずっと水をかけ続けるという行為は倒れたことの一事で過剰防衛というような話にするのは変ではないかと思われるのである。





 法的能力自慢の方々、批判的見解求む。





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最終更新日  2007年11月01日 21時51分33秒
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