日銀法の改正は、市場プレーヤーにとっては喜ばしいことと思うが、海外、特に英国から見たら「中央銀行の独立性が弱まった」という非難があるだろう。だが、日本の中央銀行は戦中の対インフレ統制経済と終戦後の年率60%のインフレの一年を経て預金封鎖・新円切り替えのDNAを引きずっている。
故に、「物価の安定」と言っても、インフレ対策だけであって、デフレに対する物価の安定はやれない、という体質がある。戦後の日銀は、そもそもインフレファイターとしての存在で生きてきた。1960年(ごろ)に出た城山三郎の大著「小説日本銀行」は、小説ではあってもドキュメンタリー要素が強く、その辺の事情を活写していた。だからバブル崩壊時の三重野総裁などは、資産インフレと物価高騰を混同していて、物価は少しも上がっていないのに、公定歩合を年に数回も引き上げて、加虐趣味ぶりをイカンナクハッキした。株価が「70年ぶりの大暴落」の最中にである。
自分で金融資産を持たないから何も知らない週刊誌の記者たちが、それをミーハー向けに「平成の鬼平」といって持ちあげた。この週刊誌やテレビの流行語は実に噴飯ものだったが、金融資産を少しでも保有していた者にとっては噴飯だけでは済まされない実害が大いにあったし、産業界にも大いに実害を及ぼした。それでも、正常な人間が総裁になれば、日銀は民主党政治に比べれば何倍もマシな方であって、日銀に対しては、筆者も今までは一定の評価はしてはきたが、体質的にはインフレ対策の機関であってデフレ対策には弱い。米FRBは実質的には中央銀行の役割を有するが、「デフレ対策には財政出動がいる」と言って催促したことがあった、これほどデフレにも真剣だったし、「市場との対話」も重視してきた。いまのFRB議長は学者出身だが、概ねはFRB議長か財務長官か、あるいはその両方共に金融業界から選んで就任させてきた。アングロサクソンに流れるプラグマティズムというものであろう。
|
|
|
▓ 山崎 和邦
慶應義塾大学経済学部卒。野村證券、三井ホームエンジニアリング社長を経て武蔵野学院大学名誉教授に就任。投資歴51年に及び野村証券時代の投資家の資金を運用から自己資金で金融資産までこなす。
|
|
|
|
|
|