これらの報道が流れた結果、どうなったか。安倍が国債の日銀引き受けを求めた、という話が一人歩きを始めてしまった。
「一般論」で強烈に批判してみせた白川総裁
日銀引き受けという解釈を前提にして、話は第2幕を迎える。20日に日銀で開かれた白川の記者会見で、記者から「安倍総裁発言についてどう思うか」という質問が出た。
白川は注意深く「発言の詳細を承知していないので、個々の論点について具体的にコメントするのは差し控える」と前置きしつつも、一般論と断りながら「長期国債の買い入れが財政ファイナンスであるという誤解が生じると、長期金利が上昇し、財政再建だけでなく実体経済にも大きな悪影響を与える」と語った。
ところが、記者から「一般論で結構ですが、日銀の直接引き受けや財政ファイナンスがなぜ問題になるのか」と追い打ちをかけられると、白川は俄然、一歩踏み込む。これまた「あくまで一般論として申し上げたい」と前置きして、こう述べた。
「(直接引き受けは)先進国で行われていないだけでなく、発展途上国でもIMF(国際通貨基金)が中央銀行制度に関する助言を行う際に、行ってはならない項目リストの最上位に掲げるようなもの」
「中央銀行が国債の引き受け、あるいは引き受け類似の行為を行っていくと、通貨の発行に歯止めがきかなくなり、さまざまな問題が生じる」
白川は最初「安倍発言の詳細を承知していない」と認めながら「一般論」として強烈に批判してみせたのだ。もちろん、自分の批判がメディアに報じられるのは百も承知のうえだ。翌日のメディアは当然のように、白川批判を大々的に報じた。
金融政策の目標は政府が主導して設定するもの
メディアは大物同士のけんかが大好きだ。次の総理がほぼ確実な自民党総裁と日銀総裁のけんかとなれば、報じないほうがどうかしている。こうして安倍の真意とは関係なく、日銀引き受けがあたかも焦点であるかのように「論争」が報じられる形になった。
こういう架空の論争は無意味どころか、国民が金融政策について理解を深めるためには有害でさえある。なぜなら本来、金融政策はどうあるべきかという論点を離れて、議論があいまいなってしまうからだ。
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