続いて、高杉敬久委員(日本医師会常任理事)は、
「日本は治しがたい症状だらけです」
と語りはじめた。対策は、景気を良くすることであり、この特別部会でいくら議論しても無意味だという。困窮者の踏みにじられた尊厳や心は、まず治療されなくてはならない。この視点から、高杉氏は「生活保護基準の引き下げが気になる」と言い、「ただ金額を減らすということで良いのか」と懸念を表明した。
高杉氏は、困窮者の支援の意味を「弱みのある人を治して社会に出られるようにすること」と語り、「教育は基本です、どんな人にも届けなくてはなりません」と教育の重要性を強調した。
では、就労支援は結局、どうすれば実を結ぶのか。インセンティブは本当に就労に有効なのか。特別部会では、限られた時間の中で、インセンティブに関する議論も行われた。しかし、求人が不足しているために就労が困難な現状は、インセンティブによって就労意欲を向上させることでは解決しない。冒頭で紹介した「新仕分け」は、「生活保護基準を引き下げることが就労インセンティブとして機能する」という前提のもとに結論を導いたが、その前提は正しいのだろうか?
生活保護基準引き下げに賛成する人々は、引き下げが日本の社会に及ぼす悪影響を「全く」と言って良いほど考えていないようだ。生活保護基準引き下げは、社会にとっても有意義だ。日本の活性化のために好影響を及ぼす。そのように考えているようだ。さらに、何らかの快感があるのかもしれない。
「生活保護基準×日本の総人口」は、概ね、日本の内需の総量の最低線の指標である。生活保護基準を引き下げるということは、内需を縮小するということに他ならない。どのようにポジティブな波及効果が考えられるだろうか? 筆者には、何1つ思い浮かばない。
12月16日の衆議院総選挙まで、情報を集める時間・考える時間は、まだ3週間以上も残されている。バッシング報道に扇動された結果でなく、自分なりに調べ、知り、考えた結論を出す時間がある。
次回は、選挙での選択を行う上で参考になると考えられる内容を中心に紹介する。各政党や候補者たちは、生活保護制度・社会保障・日本の向かうべきゴールについて、どのように考えているのだろうか?
<お知らせ>
本連載は、大幅な加筆を行った後、2013年2月、日本評論社より書籍「生活保護のリアル」として刊行する予定です。どうぞ、書籍版にもご期待ください。