求人がなければ、教育が不十分ならば
実を結ばない「就労支援」
就労支援に関しては、この不況下、選択可能な就労先を増やさなければ成果は出ない。また、長期にわたって困窮状態にある人々の再就職は、通常の失業者よりもずっと困難である。このため、中間的就労(障害者作業所のように、通勤すること・職場コミュニティをはじめとする社会に参加することを主目的とした、最低賃金法の束縛を受けない雇用形態)・社会的企業の導入が議論されている。
中間的就労に関しても、「労働市場に悪影響を与えないか」「出口がなく、ずっと中間的就労のままにならないか」という視点から議論が行われた。議論の流れは、中間的就労・社会的企業というシステムを使って、人を変えるのではなく社会を変えていくことの重要性へと向かっていった。
野老真理子委員(経営者・大里綜合管理(株))は、民間企業を経営する立場から、
「納税しているのに、生活保護受給者が増えて、税金が使われる」
ということに対する不快感を表明した。野老氏は、税金が使われるにあたっては、自分たちが納税したことと同じくらいの意味がなければならないという。生活保護に関しては、生活保護受給者が納税者になったら、意味があったと思えるという。「国のお金を使わずに困窮者を支援する仕組みを作りたい」と、野老氏は主張する。それは「企業家としての思い」であるという。筆者には、「では、何のための納税なんだろう?」という疑問が残った。税の徴収と適切な分配は、公共、つまり国の仕事でなかったら、どこの誰の仕事なのだろうか。生活保護費は、国費の無駄遣いではなく、社会に対する投資だ。
まず、どのような人々が、生活困窮者になるのだろうか? 2009年、大阪府堺市健康福祉局理事であった道中隆氏(関西国際大学)の調査によれば、生活保護世帯主の約73%が中卒・高校中退であった。「十分な教育を受けなかったことが、経済的自立を維持することを難しくした」と見るべきだろう。
宮本みち子委員(社会学者・放送大学)は、生活保護世帯の子どもの学習・教育に関する問題は、後期中等教育欠如の問題であり、同時に就労の問題でもあるとして捉え直す必要があるという。すべての子どもに、学力とともに教育機会を保障して就労支援を行うことの重要さを、宮本氏は語った。
生活保護基準引き下げは
“就労インセンティブ”として機能するのか
では、現在の日本にとって、生活保護制度とは何なのだろうか。前述の藤田氏は、生活保護をポジティブにとらえることの重要性を主張する。現在、生活保護受給者は増加して210万人以上となり、さらに増加する見込みである。このことは、生活保護制度が、それだけの人命を救っているということである。藤田氏は「日本で一番、生命を支えている制度」とも言う。