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生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第3回】 2012年11月22日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

「新仕分け」で生活保護基準引き下げへ
保護費削減賛成派が知らない日本社会に及ぼす悪影響
――政策ウォッチ編・第3回

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求人がなければ、教育が不十分ならば
実を結ばない「就労支援」

 就労支援に関しては、この不況下、選択可能な就労先を増やさなければ成果は出ない。また、長期にわたって困窮状態にある人々の再就職は、通常の失業者よりもずっと困難である。このため、中間的就労(障害者作業所のように、通勤すること・職場コミュニティをはじめとする社会に参加することを主目的とした、最低賃金法の束縛を受けない雇用形態)・社会的企業の導入が議論されている。

 中間的就労に関しても、「労働市場に悪影響を与えないか」「出口がなく、ずっと中間的就労のままにならないか」という視点から議論が行われた。議論の流れは、中間的就労・社会的企業というシステムを使って、人を変えるのではなく社会を変えていくことの重要性へと向かっていった。

 野老真理子委員(経営者・大里綜合管理(株))は、民間企業を経営する立場から、

 「納税しているのに、生活保護受給者が増えて、税金が使われる」

 ということに対する不快感を表明した。野老氏は、税金が使われるにあたっては、自分たちが納税したことと同じくらいの意味がなければならないという。生活保護に関しては、生活保護受給者が納税者になったら、意味があったと思えるという。「国のお金を使わずに困窮者を支援する仕組みを作りたい」と、野老氏は主張する。それは「企業家としての思い」であるという。筆者には、「では、何のための納税なんだろう?」という疑問が残った。税の徴収と適切な分配は、公共、つまり国の仕事でなかったら、どこの誰の仕事なのだろうか。生活保護費は、国費の無駄遣いではなく、社会に対する投資だ。

 まず、どのような人々が、生活困窮者になるのだろうか? 2009年、大阪府堺市健康福祉局理事であった道中隆氏(関西国際大学)の調査によれば、生活保護世帯主の約73%が中卒・高校中退であった。「十分な教育を受けなかったことが、経済的自立を維持することを難しくした」と見るべきだろう。

 宮本みち子委員(社会学者・放送大学)は、生活保護世帯の子どもの学習・教育に関する問題は、後期中等教育欠如の問題であり、同時に就労の問題でもあるとして捉え直す必要があるという。すべての子どもに、学力とともに教育機会を保障して就労支援を行うことの重要さを、宮本氏は語った。

生活保護基準引き下げは
“就労インセンティブ”として機能するのか

 では、現在の日本にとって、生活保護制度とは何なのだろうか。前述の藤田氏は、生活保護をポジティブにとらえることの重要性を主張する。現在、生活保護受給者は増加して210万人以上となり、さらに増加する見込みである。このことは、生活保護制度が、それだけの人命を救っているということである。藤田氏は「日本で一番、生命を支えている制度」とも言う。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


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急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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