核シェアリングの問題は、核抑止を担うには射程の短すぎる戦術核であることの他に、非核三原則の「持ち込ませず」に反する点です。これに関して、昨年、自民党の国家戦略本部が報告書を発表しました。その中で、「持ち込ませず」を緩和して“非核2.5原則への転換を図る”という文言があります。

[PDF] 「日本再興」 国家戦略本部報告書

我が国は「核兵器を持たず、作らず、持ち込まさず」との非核3原則を堅持してきた。これを、陸上への核配備は認めないが、核兵器を積んだ艦船等の寄港などについては容認する「非核2.5原則」への転換を図る。

報告書では、核の陸上配備については明確に否定し、持ち込みを容認するのは“核兵器を積んだ艦船等”との言及があります。つまり、核シェアリングを想定しているわけではないようです。「将来的に核シェアリングを目指す場合に『持ち込ませず』がネックとなるため、非核三原則を緩和させておこう」というのであればまだ理解できるのですが、核シェアリングとは無関係のアセットの持ち込みを認めようではないか、というのではわけが分かりません。

そもそも、非核三原則の「持ち込ませず」は主に米軍の核兵器を念頭にしたものですが、実は日本に持ち込むような核兵器を米軍はもう持っていないのです。自民党はいったい何を「持ち込ませ」ようとしているのでしょうか?


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米国の核戦略の三本柱は、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」、「戦略爆撃機」、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」です。この3つの運搬手段によって核兵器を投射するということなのですが、このどれもが日本へ “持ち込まれ” ることはありません。

まずICBMですが、これは米本土から発射されるものだということはその名前から素人でも想像がつくので、日本に持ち込む必要性がないことは誰も疑わないでしょう。日本には発射サイロもありません。

次に核巡航ミサイルを搭載するB-52、B-2戦略爆撃機も日本へ立ち寄る必要性がありません。例えば、両爆撃機はそれ自体が長大な戦闘行動半径を持ちますし、搭載するAGM-129空中発射核巡航ミサイルの射程は3,400km以上ですので、仮に北京や平壌への攻撃が必要な場合であってもわざわざ敵の攻撃範囲である日本へ配備する必要などないのです。

最後に、SLBMですが、このミサイルの発射台である戦略ミサイル原子力潜水艦(戦略原潜:SSBN)は、運用上米本土周辺から離れることはありません。SSBNの運用については本稿の主題から逸れるものですので割愛しますが、SSBNを敵国近くに配備したりすれば秘匿性・生残性が低下し、第二撃の抑止力としての機能が果たせなくなります。

◇ ◇ ◇

このように、アメリカにとって日本国内に核兵器を持ち込む必要性も軍事的合理性もないのです。

水上艦船はどうでしょう?実はこちらも、1991年にブッシュ(父)大統領が核削減のための「大統領核イニシアティブ(PNIs)」を発し、空母、攻撃原潜、巡洋艦、駆逐艦などから核兵器がすべて撤去されています。さらに、核トマホークや海軍機の戦術核も退役しているので、日本に内緒で持ち込もうとしてもモノがそもそもありません。

かつて戦略核(SLBM)を搭載していたオハイオ級1〜4番艦もまた巡航ミサイル原潜(SSGN)に改装され、こちらも搭載出来る核兵器がありません。改良型オハイオ級のオハイオ、ミシガン、フロリダ、ジョージアの4隻は、24基ある核トライデントの発射筒のうち22基にそれぞれ7発のトマホーク巡航ミサイル(計154発)を搭載し、残りの発射筒2基は取り払われ、海軍特殊部隊のシールズが使用するドライデッキ(上陸用潜行挺)を装備しているため、核ミサイルを搭載する余地がありません。

日本が核兵器を積んだ艦船等に寄港してもらいたいとしても、米側にはそのような準備がないのです。

非核三原則のうち「持たず、造らず」については、日米原子力協力協定や原子力基本法、さらにはIAEA、NPT等の批准で法的に禁止されているものですが、「持ち込ませず」には法的拘束力がありません。ですから、核シェアリング導入(これの是非は前エントリで)を想定した上で非核三原則の緩和を検討するならまだしも、初歩的なアメリカの核戦略態勢も理解しないまま「SSBN+SLBMを持ち込め!」と言うような具合では、とても自主防衛・核武装なんてできないのでは?とこちらが不安になります。

運搬手段の開発、指揮命令系統、支援・補給システムの確立と法整備、国政/自治体レベルの関与まで必要な巨大な核兵器運用システムを作り上げることは、情緒的な愛国心なんぞで達成できるものではないと思います。


(4)につづく。


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