小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

欧州危機(ドイツ対フランス)

 突然ですが、ドイツの言い分とフランスの言い分、貴方はどちらを支持しますか? なんてことを聞かれても、一般の方はチンプンカンプン。或いは専門家でも、分かりやすく解説できる人は少ないかもしれません。

 それに、ドイツとフランスが対立しているなんて、テレビを見ている限りそんな雰囲気はありません。先日も、サルコジ大統領とメルケル首相がそろって記者会見をしていたことだし‥

 なんて考えている人は、少しばかり甘い。

 これが、先進国と途上国の議論であれば、非常に分かりやすい光景が見られるのでしょうが、なんせフランスとドイツですから、大人の行動しかしないのです。つまり、心の中と行動に相当の差がある、と。逆に言えば、二人でそろって記者会見するということは、それだけ考え方に相違があることの証拠でもあるのです。

 さて、私が何について言っているかといえば、ギリシャ危機、南欧の財政危機、或いは欧州危機と呼ぶべきものに対する対応の仕方についてです。

 欧州危機について、我が国総理は、先月国際デビューしたときに、そもそも欧州が1つにまとまることが重要だ、なんて言っていましたね。

 欧州は、EUとして既にまとまっているのではないのか? 総理の言いたいことはそうではなく、ギリシャ危機に関して、欧州内で意見の対立があるが、それを先ずなんとかしなければ、域外の日本として支援するわけにもいかないということです。

 では、欧州内でどんな意見の対立があるのかといえば‥今、EUをリードしているのは、ドイツとフランスであるわけで、この二つの国には、欧州危機に対する取り組み姿勢で決定的な違いがあるということです。

 どう違うのか? フランスはなんと言い、ドイツはなんと言っているのか? お分かりでしょうか?

 まあ、二つの国とも、これまでいい加減なストレステストで済ませてきたことや、ギリシャにデフォルトを起こさせないことでは一致していると言っていいのでしょうが‥でも、今の危機脱出法に対しての姿勢に大きな違いがあるのです。

 先ず、どちらの国がより危機感を抱いているかといえば、フランスであるといっていいでしょう。

 フランスは、最近、安定化基金の拡充や欧州中央銀行の関与をもっと強めるべきであると主張している訳なのですが、ドイツはどうも消極的であるのです。単純に言えば、フランスは危機回避のために財政出動の範囲を広げるべきだと言っているのに対し、ドイツはそうでもないのです。

 では、何故ドイツは消極的であるのでしょう? ギリシャ人はあまり働きもしないのに、何故勤勉なドイツ人が助ける必要があるのか、と考えているからなのでしょうか? 

 もちろん、そうしたこともあるとは思いますが、ドイツ人の記憶には、第一次大戦の苦い経験が染み込んでいるのです。つまり、ハイパーインフレの経験です。ああいう思いは二度としてはいけない、と。つまり、ドイツとしては、幾ら欧州危機を鎮める必要があるにしても、余りにも財政が野放図になると、過去の過ちを繰り返すことになって、元も子もないと考えているのでしょう。

 でも、この際、ドイツの判断は適切であるとは思われないのです。確かに、長期的にみれば、健全財政を維持することは大変に重要であるのです。しかし、今は、金融危機が再燃しかねない状況にあるのです。それに、日本の例を見れば、すぐにわかるでしょう。日本は、不良債権問題を処理するために、政府が公的資金の注入に踏み切った国です。とんでもない額の公的資金が注入されたことは記憶に新しいと思います。そしてまた、小泉政権に至る前は、景気を回復させようと何度も大型の補正予算が組まれ、そういったこともあり、日本は世界一の借金大国になっているのです。でも、これまでのところ、インフレは起きていないのです。だったら、今の欧州においても、金融危機を鎮める目的のために財政出動するくらいのことでいきなりインフレを招くとは到底思えないということです。

 ということで、普段であれば、フランスよりドイツの肩を持ちたい私ですが、今回の件に関しては、ドイツが譲歩すべきではないかという考えます。もちろん、以前も言った通り、公的資金を投入するからには、責任問題をはっきりさせる必要がありますし、それ以前に、思い切った不良債権の処理に手を付ける必要があるのです。

 ドイツをはじめとするEU全体の価値観は分からないでもないのです。ユーロの着実な発展のためには、何よりも財政の規律を守り、インフレを起こさないことが肝要である、と。しかし、ユーロ加盟国を増やすことをより重視したばかりに、財政内容を偽装していたギリシャを参加させたのは欧州自身であるのです。

 先ずは、ギリシャを破綻処理する。そして、一時的にユーロから退出させ、自国通貨を復活させる。欧州の銀行は、思い切った損失処理に当たり、資本不足が発生するようであれば、財政出動する。

 そういうことではないのでしょうか?

 いずれにしても、破綻処理とか損失処理をすると、責任問題が発生し、そのことがスピーディな処理を阻害している本当の原因かもしれません。

以上

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11月19日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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