6.「従軍慰安婦」問題の根幹とは何か?


 ネットにおける「慰安婦」論争においては、何が問われているのかも理解しないまま延々「論」を展開している方を散見しますので、この問題の基本の基本について述べておきたいと思います。

 「従軍慰安婦」問題の根幹とは何か? それはズバリ、国家自らが管理売春に乗り出したこと、そのものに他なりません。
 即ち、日中戦争・アジア太平洋戦争における日本軍は、内部に売春施設を設置し、そこで売春に従事する女性の徴集を行ったのでした。
 このことを日本軍は組織ぐるみで行い、内務省、外務省など他の国家機関もこれに協力しました。

 国家が管理売春に乗り出したこと、このことの是非が何よりも先ず問われるのです。

(※軍慰安所は軍が設置したまぎれもない軍の施設であったことは「1.軍慰安所は民間の売春宿に過ぎなかった?」を参照してください。)


 そもそも売春が横行するというのは社会として健全であるとは言えません。これをなくす方向で努力するのが近代国家としての当然の責務です。
 売春を直ちに禁止することは非現実的だとして、本人の自由意思の確認の上で制限された一定の場所でのみ止む無く認めることはあり得たとしても(これが公娼制度でした。)、それとて「醜業」と言われていたように決して望ましいものではありませんでした。ましてや、それを国家が積極的に推奨するなどというのは当時の感覚から言っても、とても考えられないことでした。

 その考えられないことをやってしまったのが戦前の日本国家だったわけです。
 即ち、国家自らが管理売春に乗り出し、内部に売春施設を設置し、そこで売春に従事する女性の募集を行うというのは、「国民の保護」という国家としての責務を放棄するに等しい行為なのです。別の言い方をすれば国家が「自らが反倫理的存在である」と公言する行為に他ならないのです。

 このことは軍慰安所政策を推進した当事者もよく認識していました。
 軍による慰安婦徴集に対し、外務省は「面白カラザル」と不快感を示し、内地の警察は「俄ニ信ジ難キ」と驚愕しました。
 軍も、内部に売春施設を設置し、女性を徴集している事実をできる限り隠蔽しようとしました。後ろめたさが伴う恥ずかしい行為だと軍も認識していたのです。

 *「慰安所」「慰安婦」という名称をあえて用いた点に、売春施設設置・女性徴集の事実を隠蔽したかったことが表れています。「慰安」という本来、売春を意味しない言葉をあえて用いて誤魔化したのだと言えます。
 
 **なお、管理売春であれば強制性は推定されます。ネットの議論では管理売春であったことを認めながら「強制だったと言うならその証拠を出せ」と主張する人がよく見受けられますが、管理売春にもかかわらず強制でなかったと主張する人こそ、強制でなかったことを立証すべきであり、それが立証されない限り強制だったと判断して良いように私には思えます。


 軍中央が慰安婦徴集に関わっており、このことから軍慰安所制度が国家ぐるみの管理売春であったことを示す動かぬ証拠とされるのが、当サイトでも度々紹介している1938年の陸軍省の通牒です。(この通牒が発見されたことにより、日本政府は「民間が勝手にやっていたこと」という、それまでの見解を変更せざるを得なくなりました。)
 再度、提示しておきましょう。

軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件
起元庁(課名)兵務課

陸支密

副官ヨリ北支方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒案支那事変地ニ於ケル慰安所設置ノ為、内地ニ於テ之カ従業婦等ヲ募集スルニ当リ故ラニ軍部諒解等ノ名儀ヲ利用シ為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ且ツ一般民ノ誤解ヲ招ク虞アルモノ或イハ従軍記者、慰問者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ或イハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法、誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少カラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派遣軍ニ於テ統制シ之ニ任スル人物ノ選定ヲ周到適切ニシ其実施ニ当リテハ関係地方ノ憲兵及警察当局トノ連繋ヲ密ニシ、以テ軍ノ威信保持上並ニ社会問題上遺漏ナキ様配慮相成度依命通牒ス

                           陸支密第745号 昭和拾参年参月四日 

                                                                     (吉見義明編『従軍慰安婦資料集』105〜107頁)



                            次へ

                            トップページへもどる
                             

1