大胆な金融緩和と2〜3%の物価安定目標を求めた安倍晋三自民党総裁の発言に、白川方明日銀総裁が「現実的でない」などと反論した。デフレ脱却に失敗した総裁の言い分に説得力はない。
安倍総裁はデフレ脱却は金融政策が決め手になるとみて、日銀に積極的な対応を求めてきた。柱は物価安定目標だ。インフレ目標とも呼ばれる政策はインフレを目指すのではなく、インフレ(物価上昇)率を緩やかに安定させるのが狙いである。
日銀は「物価安定のめど」として1%の物価上昇率を目指してきた。だが、二〇一二年度はもとより一三年度も達成できる見通しがない。基本的にデフレが貨幣現象である以上、白川総裁の成績が落第点なのはあきらかである。
自民党は目標設定と達成責任を明確にするため日銀法改正も公約に掲げている。日銀が目標と言わず「めど」とあいまいな言い方をしているのは、そもそも達成責任を回避したい思惑がある。だからこそ法改正に反対している。
政治家であれば公約を達成できなければ、説明責任を問われ、選挙で議員バッジを失いかねない。それに比べて日銀総裁は一度就任すれば、五年間は安泰である。
デフレが国民経済に及ぼす悪影響と金融政策の重要性を考えれば、白川総裁は外部の批判に反論する前に落第点になった責任をどう総括するかを語るべきだ。
安倍総裁が求めた2〜3%の物価目標は世界標準からみて、あるいは十五年に及ぶ深刻なデフレを打ち破るためにも妥当な水準である。「現実的でない」という言い方は反論になっていない。それくらいの意気込みで臨まなければ克服できない重い病ではないか。
安倍総裁は日銀による国債の買いオペ拡大も求めた。これがメディアで「日銀の国債直接引き受け」と推測交じりに報じられ「財政赤字を日銀が賄うのか」という極端な議論に発展した。
白川総裁は「通貨発行に歯止めが利かなくなる」と批判したが、報道を逆手にとった、ためにする反論だ。誤解を拡大するような議論はいただけない。
ただ、政府が目標設定を主導し、達成手段は日銀に委ねるのが本来のあり方である。前原誠司経済財政相はつい最近、日銀に外債購入を求めておきながら、安倍発言を「政治介入だ」と批判した。自分の要求はどうなのか。閣僚には目標と手段に関して原則を踏まえた慎重さも求めたい。
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