2012年02月
2012年02月29日
あまり話題になっていないようだが、けっこう深刻な危機が迫っている。
これがもっと深刻になれば、病院での診察や、一部の研究分野では、かなりの影響が出るはずだ。
いったい、その危機とは何か?
その危機とは、ヘリウムの供給体制がかなり逼迫していること。
臨床で使われているMRI装置の多くには、超電導磁石が使われており、超電導状態を維持するのに液体ヘリウムが使われている。
液体ヘリウムは常に減り続けるので、ある程度の間隔で補充してやらなければいけないのだが、供給業者が十分な量の液体ヘリウムを確保できず、その補充の間隔がかなり先送りされている。
私の知っているところでは、これまではヘリウムの残量が60%ぐらいが補充の目安だったのに、今では40%を切らないと補充されないようになっている。
こういう装置が身の回りにあるのに、まったく知らなかったのは恥ずかしいことなのだが、ヘリウムはレアメタル・レアアース、あるいは石油などのような希少資源なんだとか。
ヘリウムは水素に次いで2番目に宇宙で多く存在しているにも関わらず、液体ヘリウムというのは合成して作り出すことが出来ず、天然ガスを採掘する際に副次的に取り出すことができるものらしい。
日本で使用されるヘリウムガスはそのすべてを海外からの輸入に頼っており、今回のヘリウムの供給不足は、昨年の秋口より海外のヘリウム生産プラントの稼働率が低下したり、定期修理に入ったりということで起きている。
特に医療用用のMRIは、安全性のため蒸発するヘリウムを再回収して液化して利用するということが出来ず、ヘリウムは "垂れ流し" にしている。
なので、すぐにMRIが使うヘリウムの量を減らすことはまず不可能な状態であり、供給不足がこのまま長引けば、稼働率の低いMRIは停止させるような措置が取られるかもしれない。
これがもっと深刻になれば、病院での診察や、一部の研究分野では、かなりの影響が出るはずだ。
いったい、その危機とは何か?
その危機とは、ヘリウムの供給体制がかなり逼迫していること。
臨床で使われているMRI装置の多くには、超電導磁石が使われており、超電導状態を維持するのに液体ヘリウムが使われている。
液体ヘリウムは常に減り続けるので、ある程度の間隔で補充してやらなければいけないのだが、供給業者が十分な量の液体ヘリウムを確保できず、その補充の間隔がかなり先送りされている。
私の知っているところでは、これまではヘリウムの残量が60%ぐらいが補充の目安だったのに、今では40%を切らないと補充されないようになっている。
こういう装置が身の回りにあるのに、まったく知らなかったのは恥ずかしいことなのだが、ヘリウムはレアメタル・レアアース、あるいは石油などのような希少資源なんだとか。
ヘリウムは水素に次いで2番目に宇宙で多く存在しているにも関わらず、液体ヘリウムというのは合成して作り出すことが出来ず、天然ガスを採掘する際に副次的に取り出すことができるものらしい。
日本で使用されるヘリウムガスはそのすべてを海外からの輸入に頼っており、今回のヘリウムの供給不足は、昨年の秋口より海外のヘリウム生産プラントの稼働率が低下したり、定期修理に入ったりということで起きている。
特に医療用用のMRIは、安全性のため蒸発するヘリウムを再回収して液化して利用するということが出来ず、ヘリウムは "垂れ流し" にしている。
なので、すぐにMRIが使うヘリウムの量を減らすことはまず不可能な状態であり、供給不足がこのまま長引けば、稼働率の低いMRIは停止させるような措置が取られるかもしれない。
(12:00)
2012年02月26日
大学生の4人に1人が「平均」の意味を正しく理解できていないという調査結果が、ネットニュースなどでも大きく取り上げられており、話題のようだ。
では、どのような調査をして、「平均の意味が正しく理解できていない」という結果になったのだろう。出題された問題は、次の通り。
3つとも正しく答えられた人が76.0%だったということで、「4人1人は平均が理解できていない」という結論となったようだ。
ただ、この問題、特に問3はけっこう難しいと思う。
一般的に、身長や体重やテストの成績といったデータに対して平均値を使って集団の特徴を把握しようとする場合、そのデータは正規分布に従うことが多い。学生にもっとも身近な偏差値も、そのような前提でデザインされ、使用されている。
したがって、問3のような質問があれば、平均値に近い値をもつ人(あるいは物)がもっとも多いと考えるのは、かなり自然なことだ。
もちろん、これは「今回調査した生徒の身長は正規分布に従う」という仮定しているわけであり、平均値だけから変数の分布が分かるわけではないので、問題文にある「この結果から確実に正しいと言えることには○」という基準には当てはまらない。したがって、正しい答えは×になる。
たしかに、問(1)が正しいというのは平均を中央値(その値よりも大きい値をもつ人・ものと、それよりも小さい値を持つ人・ものとが等しくなる値)と誤解していると言えるだろうし、問(3)が正しいというのは平均を最頻値(その値をもつ人・ものが集団の中でもっとも多い値)と誤解していると言えないこともないが、問(3)については上記のように考える人もいるだろうと思えば、平均を最頻値と勘違いしているという解釈にはやや疑問が残る。
あと、このような誤解の原因を「ゆとり教育」に帰す人たちも多いだろうが、個人的にはそのような意見には賛成しない。おそらく、このようなテストを他の年代にしても、正答率は同じか、あるいはもっと悪いんじゃないだろうか。
そう思うのは、マスコミの報道などで、このような平均値についての誤解あるいは無理解を多く目にするからだ。
たとえば、読売新聞の家計調査に関する記事だと、こんな感じ。
この答えは、総務省統計局のwebサイト(家計簿からみたファミリーライフ 第5章 我が家の資産)を見ると分かる。明らかに、貯蓄額は正規分布に従わない。
統計局の世帯貯蓄額の分布の図を見ると、貯蓄額が200万円未満の世帯がもっとも多く、平均値1657万円前後の貯蓄をしているような世帯は全国で3.5%でしかない。一方、中央値は995万円であり、これでも実感よりも高い気はするが、1500万円以上もの貯蓄があるという平均値よりは、より多くの実感に近い額だろう。
先の試験の問(3)が正しくなかったように、正規分布に従わないようなデータに対して平均値を求めて、その値から集団の特徴を把握しようとするのは間違っているのだが、だいたいにおいてマスコミの報道ではそのようなことは配慮されることがない。
件の統計局のサイトにも、「統計豆知識」として、次のような注意書きが掲載されている。
大学生4人に1人、「平均」の意味理解せず
日本数学会 中央値や最頻値との誤解めだつ
大学生の4人に1人は「平均」の意味を正しく理解していない――。数学者でつくる社団法人「日本数学会」(東京)が大学生約6千人を対象に行った初の数学力テストで、基礎知識や論理的思考力が乏しい学生が多数いることが24日、分かった。大学入試で記述式問題を経験した学生は好成績で、同学会は「入試や授業で記述式の証明問題などを増やすべきだ」と提言している。
日経新聞 2012.2.14
では、どのような調査をして、「平均の意味が正しく理解できていない」という結果になったのだろう。出題された問題は、次の通り。
生徒100人の身長の平均が163.5cmだった。この結果から確実に正しいと言えることには○を、そうでないものには×をつけなさい。
(1)身長が163.5cmよりより高い生徒と低い生徒はそれぞれ50人ずついる
(2)100人全員の身長を足すと16350cmになる
(3)身長を10cmごとに区分けすると「160cm以上で170cm未満の生徒」が最も多い
3つとも正しく答えられた人が76.0%だったということで、「4人1人は平均が理解できていない」という結論となったようだ。
ただ、この問題、特に問3はけっこう難しいと思う。
一般的に、身長や体重やテストの成績といったデータに対して平均値を使って集団の特徴を把握しようとする場合、そのデータは正規分布に従うことが多い。学生にもっとも身近な偏差値も、そのような前提でデザインされ、使用されている。
したがって、問3のような質問があれば、平均値に近い値をもつ人(あるいは物)がもっとも多いと考えるのは、かなり自然なことだ。
もちろん、これは「今回調査した生徒の身長は正規分布に従う」という仮定しているわけであり、平均値だけから変数の分布が分かるわけではないので、問題文にある「この結果から確実に正しいと言えることには○」という基準には当てはまらない。したがって、正しい答えは×になる。
たしかに、問(1)が正しいというのは平均を中央値(その値よりも大きい値をもつ人・ものと、それよりも小さい値を持つ人・ものとが等しくなる値)と誤解していると言えるだろうし、問(3)が正しいというのは平均を最頻値(その値をもつ人・ものが集団の中でもっとも多い値)と誤解していると言えないこともないが、問(3)については上記のように考える人もいるだろうと思えば、平均を最頻値と勘違いしているという解釈にはやや疑問が残る。
あと、このような誤解の原因を「ゆとり教育」に帰す人たちも多いだろうが、個人的にはそのような意見には賛成しない。おそらく、このようなテストを他の年代にしても、正答率は同じか、あるいはもっと悪いんじゃないだろうか。
そう思うのは、マスコミの報道などで、このような平均値についての誤解あるいは無理解を多く目にするからだ。
たとえば、読売新聞の家計調査に関する記事だと、こんな感じ。
総務省が17日発表した2010年の家計調査(速報)によると、1世帯(2人以上)あたりの平均貯蓄残高は前年比1・2%増の1657万円で、5年ぶりに前年を上回った。この記事の中でも、一般世帯の貯蓄に関する特徴を平均で表している。しかし、一般世帯の貯蓄額の分布というのは正規分布に従うのだろうか?
住宅ローンなどの負債残高も2・1%増の489万円で、4年ぶりに増加した。08年秋のリーマン・ショックを受けて落ち込んだ個人所得が改善し、住宅ローンを組む人も増えたためとみられる。
読売新聞 2011.5.17
この答えは、総務省統計局のwebサイト(家計簿からみたファミリーライフ 第5章 我が家の資産)を見ると分かる。明らかに、貯蓄額は正規分布に従わない。
統計局の世帯貯蓄額の分布の図を見ると、貯蓄額が200万円未満の世帯がもっとも多く、平均値1657万円前後の貯蓄をしているような世帯は全国で3.5%でしかない。一方、中央値は995万円であり、これでも実感よりも高い気はするが、1500万円以上もの貯蓄があるという平均値よりは、より多くの実感に近い額だろう。
先の試験の問(3)が正しくなかったように、正規分布に従わないようなデータに対して平均値を求めて、その値から集団の特徴を把握しようとするのは間違っているのだが、だいたいにおいてマスコミの報道ではそのようなことは配慮されることがない。
件の統計局のサイトにも、「統計豆知識」として、次のような注意書きが掲載されている。
たくさんのデータを集めた統計を分かりやすく表すためによく使われるのが平均値です。左右に同じように広がる富士山のように分布しているときには,平均値が実感に合っています。ところが,上の貯蓄のように,左側から右肩下がりのグラフになるときには,平均は必ずしも実感と合いません。このような場合には,額の多い方から数えた真ん中の世帯の額(中央値)が実感により合った額を示してくれます。最近は記事中のひどい漢字の間違いも目に付くし、科学・技術に関する報道にも怪しいものが多い。マスコミは「ゆとり教育」や「ゆとり教育」を受けた「ゆとり世代」をバッシングする前に、自らの無理解や知識不足をよく自覚して反省する必要があるのではないだろうか。
(12:00)