紅雪白雨
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大切な人

初夏のある日、僕は公園の隅でうずくまっていた。
もう泣き疲れて涙は出なくなったけれど、立ち上がる気持ちが湧きあがってこなかった。
顔を上げると、夕焼け空の中に、鳥の飛ぶ影がいくつか見えた。
「近寄らないで、か……」
それはつい先ほど、いつも一緒に遊んでいた子供たちに言われた言葉だった。
友達だと思っていたけれど、今ではわからなくなってしまった。
またうなだれて地面を見つめた。
赤茶けた地面は夕陽の光に、真っ赤に染まっていた。
「弘明くん……?」
不意に声をかけられた。
公園の入り口の方から聞こえたその声は、姉さんのものだった。
「姉さん……」
「どうしたんですか、そんなところで。もうご飯だから帰りましょう」
姉さんは優しく言って、僕のもとに歩いてきた。
「あら……泣いていたんですね」
言いながら僕の前でしゃがみ込んで、小さく首を傾げる。
「誰かに意地悪をされたりしたんですか?」
「そんなことは……ないよ」
強がって言う僕の頭を姉さんが優しく撫でて、そっと抱きしめてくれた。
「本当ですか?」
「うん……」
姉さんは僕を抱きしめたままで、小さくため息をついた。
「まったく、弘明はお姉ちゃんにも気を遣ってしまうんですね」
「……」
「あのね、お姉ちゃんは弘明のお姉ちゃんなんだから、何を言ってくれてもいいんですよ。弟がお姉ちゃんに甘えるのは当たり前なんですから」
ふんわりとした姉さんの香りと共に、優しい言葉が僕を包み込む。
少し前までの不安感や、寂しい気持ちが、心の中から流れ出るのを感じた。
「姉さん……」
本当に優しい、僕の姉さん。
「帰りましょうか……」
「うん」
あれは、何年前のことだっただろうか。

「んん……」
セミの声が遠くから聞こえる。
朝から本当にご苦労様だなと思いながら、布団の中で寝返りをうった。
「もう夏なんだな……」
だからあんな夢を見たんだろうか。
幼い頃の、思い出に残る夕焼け空。
「あの頃は、姉さんに甘えっぱなしだったな……」
「あなたは今も存分に甘えているじゃない」
独り言に、頭上から応える声があった。
「え……?」
「おはよう」
「う、うわぁ!」
布団を除けて、突如現れた顔に思わず声を上げてしまう。
見知った人物がベッドの上に乗り、こちらを覗き込んでいた。
「失礼ね、人の顔を見てベッドから転げ落ちるなんて」
「起き抜けに他人が部屋の中に居たらびっくりするわ!」
「また失礼ね、他人だなんて。幼馴染じゃないの」
「幼馴染だろうが何だろうが、びっくりするものはびっくりするんだよ。というか真希。何でお前、こんな時間からこんなところに居るんだよ」
「一緒に学校に行こうと思って誘いに来たんじゃない」
肩までの髪をかきあげて、澄まし顔で真希は言う。
しかし、時計を見ると、まだ朝の六時半だった。
「早いだろ! どう考えても!」
「早起きは三文の徳と言うしね」
「三文なんて、今じゃ百円の価値もないぞ……」
「冗談はともかく、このところあなたがなかなか起きないから起こしてやってくれないかって、由梨さんに頼まれたのよ」
「姉さんに? どうしてそんな余計なこと頼むんだよ……」
ため息をつくと、真希がくすりと笑いかけてきた。
「そうよね大好きな姉さんに起こしてもらうのが、あなたの毎朝の楽しみだったのにね」
「いや、そんなことじゃなくてだな……」
「あら、顔が赤いわよ」
「な……!」
「嘘よ」
「……!」
真希は、幼馴染ながら本当に嫌な奴だ。
人を弄んだり馬鹿にするようなことを言って楽しむことを趣味にしている。
ちなみに今日夢に見た思い出の中のあの日、俺をいじめていた主犯はこいつだったりする。
「着替えるから出て行けよ」
「はいはい。さっさと支度してよね」
機嫌の悪さを押し出して言うも、真希は堪えた様子も無く、薄く笑みを浮かべて部屋を出て行った。
「ったく……朝から不快な気分にさせやがって……」
と、すぐにドアの開く気配がした。
「何だよ! 出てけよ変態女!」
さらに語気を強めて叫び、振り返る。
しかしそこに居たのは真希ではなく、一緒に住んでいるたった一人の家族である姉さんだった。
「あ……ね、姉さん」
夢の中で見たあの頃と変わらない、長い綺麗な黒髪が窓からの日差しを受けて艶やかに光る。
朝食の支度をしていたのだろう、制服の上からエプロンを着けていた。
「び、びっくりしました……」
目を丸くして言う姉さんに、俺は頭を下げた。
「ごめん、真希と勘違いして……」
「弘明くん、真希ちゃん相手にいつもあんな言葉遣いをしているんですか?」
素直に謝ったのだが、姉さんは眉をぴくりとはね上げる。
「常日頃、あんなことを言っているんですか?」
「いや、そんなことはないよ。変態変態言ってたら、俺の方こそおかしく見られちゃうし」
「そういうことを言っているんじゃありません。ちょっとそこに座ってください」
「はい……」
着替えの途中だったので、パンツ一丁という姿で俺は床に正座することになった。
恥ずかしくはあったが、そこは家族ということで、姉さんは全く気にした様子は無かった。
「お姉ちゃんいつも言ってるでしょう。汚い言葉遣いは嫌いですと」
「うん……」
「乱暴な言動を取っていると、心まで荒んでしまうものですよ」
「ごめんなさい……」
姉さんのお叱りに、ただただ非を認めることしかできなかった。
いい年して姉の言いなりだなんて、世間から見たら情けない弟なのかもしれない。
でも仕方がないと自分で認めてしまっていた。
美人で、頭も良くて、学校の男子生徒皆が憧れの眼差しで見る由梨姉さん。
両親が留守がちだった我が家で、姉さんはいつも俺の面倒を見てくれた。
少し潔癖すぎるところはあるけれど、時に優しく、時に厳しく、いつも俺のためを思って色んなことをしてくれた、本当に大切な人だった。
「弘明くん、ちゃんと聞いていますか?」
「あ……うん」
「まったくもう。従順にしていればお姉ちゃんが強く言えないって、そう思っていますね?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「どうかしら」
姉さんは少し拗ねたように唇を尖らせた。
「ご、ごめん。ちょっとぼんやりしてたけど、確かに姉さんの言うことは聞いたから。今度から気をつけるよ」
「本当に?」
「本当に」
「ふむ……よしよし、ですね」
姉さんは頷くと、にこりと笑って俺に抱きついてきた。
そして、俺の頭を何度も撫で回した。
「いい子いい子。さすが私の弘明くんです」
「ね、姉さん……!」
一分ほどそうしてから姉さんは俺から離れ、また満足げにうなずいた。
姉さんが俺を褒める時の、昔からの癖だった。
「姉さん、俺ももう子供じゃないんだからさ……」
「いくつになっても、私がお姉ちゃんで弘明くんが弟であることには変わりはないでしょう」
「それはそうだけど……」
さすがにこの年になると照れてしまう。
それに、こんな風に抱きつかれると姉さんの胸が顔に当たって、どうしても体の一部が反応してしまうのだが、姉さんにそれを言うのもためらわれた。
「姉さんて……ひょっとしてブラコンなの?」
少しドキドキしながら聞いてみる。
「そうですね。よく言われますよ」
姉さんはあっさりと答えた
「でも別におかしいことではありません。姉にとって弟は可愛いものだと、古今東西決まっていますから」
「そ、そう……」
「それじゃあ、着替えたらすぐに朝食にしましょうね。真希ちゃんも待っていますから」
言って、姉さんは階下に降りて行った。
抱きつかれた時に膨らんでしまったパンツの中身に気付かれなかったのは、本当にありがたかった。
「困ったもんだな……姉さんには」
呟きながら、服を整えた。

家を出るのはいつもより早くなった。
性格の悪い幼馴染と顔をつき合わせて延々朝食を食べるのは、どうにも耐えかねたからだ。
「ふふふ。朝からおいしいもの食べてしまったわね」
並んで歩く隣で、その性格の悪い幼馴染はぺろりと唇を舐めて笑いを漏らしていた。
「お前、おかわりまでしてたもんな……」
「だって、本当においしかったんだもの。あなたが羨ましいわ。毎日あの手料理を食べられて」
「別に……そんな大したもんでもないだろ」
「あら、由梨さん」
「……!」
言われて後ろを振り返る。
が、そこに姉さんの姿は無かった。
「……真希、お前な。そのくだらん性格を直さないと、いつか誰にも信じてもらえなくなるぞ」
「聞かれて困ることなら、最初から言わなければいいのよ。どうせ心にもないことなんだし。由梨さんが好きなら、素直にそう振る舞えばいいじゃない」
「別に、素直に姉弟仲良くやってるよ」
「あら。もう由梨さんを押し倒したのね」
「何故そうなる!?」
思わず真希の頭を平手で叩いてしまったが、真希は気にした様子も無く、はてと首をかしげた。
「仲良くやっているんでしょう?」
「お前の頭の中はどうなってるんだよ。世の中の仲良くやってる人たちは、みんなそんな関係なのか?」
「いえいえ。あなたに限ってのことよ。弘明は昔から、面倒見の良い由梨さんのことが大好きだったじゃない」
深い深いため息をついてしまった。
こいつと居ると、ため息が普段の生活の数倍になる。
「あのな。俺はシスコンじゃない。あくまで普通の姉弟だよ。最近は姉さんのお節介に迷惑してるくらいだ」
「また素直じゃないわね。由梨さんも、あの様子なら強く迫れば断らないわよ。さくっと両想いになって、思うままに周囲に自慢した方がいいと思うけど」
確かに迷惑しているというのは本心ではなかったが、小さい頃に比べて困ってしまう場面が増えてきたことも本当だった。
今朝、姉さんに抱きつかれた時の体の反応を思い出し、ひどく後ろめたい気持ちになる。
ひょっとしたら真希は、あの光景を見ていたのだろうか。
「とにかく、無いから。そういう気持ちは」
「そう。由梨さんと近親相姦をするつもりは無いと」
真希が生々しい言葉を口にする。
「だとしたら、仲が良すぎるのもどうかとは思うわね。姉弟はいつか離れていくんだし」
「いいよ別に。それはそれですっきりするし」
今度は真希がため息をついた。
「弘明は、由梨さんの前とそうでないところとで、態度をころりと変えるのね。由梨さんと仲良くしたいし、周囲におかしく思われたくもない、というのはわかるけど。そういう態度なら、覚悟はしておいた方がいいと思うわよ」
「何だよ、覚悟って……」
なんだかむかむかしてきた。
どうして朝からこいつに家族関係の説教を受けなきゃならんのだ。
「もう黙れよ」
「怒らないでよ。私なりの心配なんだから」
やれやれと、呆れたように真希は頭を振った。
「本当、見る目の無い人よね、あなたって。耳触りのいい言葉だけを言う者は真の友人ではないって、昔の偉い人も言っていたでしょうに」
「知らないよ、そんなの」
「まあ、そうよね。私が昨日の夜寝る前に、天井を見ながら考えたの。ちょっとかっこいいでしょう」
「むしろ今思いついただろ」
そんな会話をしながら歩いて、気付けば校門を通り過ぎていた。

「おはよう」
「おお、おはよう」
教室に着くと、高校入学以来の親友である笹山が一番に声をかけてきた。
「高部、英語の宿題ちゃんとやってきたか? お前たぶん今日は指されるぞ」
「む……半分くらいしかやっていないな」
さすがは笹山、気のつく男だ。
細やかな気遣いで女子の人気が高いだけのことはある。
「笹山、ノートを見せてもらえるか?」
「いや、俺は全然やってない」
まあ、勉強への情熱はあまりないことが玉に瑕といったところか。
「ふふ……よかったら私のを見せましょうか? 明日も由梨さんの朝食をいただくという条件で」
「く……」
背後から制服の裾を引っ張りながら、真希が不敵な笑みを浮かべて取引を持ちかけてきた。
その様子を見た笹山は、
「なんだ、坂折と一緒か相変わらずお熱いな」
などと言う。
「好きで一緒に来たわけじゃないよ、こんな奴と」
「そうよ、無礼だわ。私はシスコン治療のボランティアで、仕方なくこの男を迎えに行ったのよ」
「……いや、どこか息があってるぞ、お前ら」
知り合いとしての時間は長いだけに、真希とはたまに息が合ってしまう。
あまりにも悔しく、辛い習性だった。
「しかし、シスコン治療か。相変わらずなんだな、高部は」
笑いながら言う笹山に、俺は慌てて言い返した。
「坂折が勝手に言ってるだけだ」
「恥ずかしがるなって。由梨さんが相手ならシスコンになっても仕方ないさ」
「だから違うって! 俺は姉さんのことなんかなんとも思ってないよ。むしろ……」
「あら、由梨さん」
真希が俺の肩の向こうに目線を投げて姉さんの名前を呼ぶが、さすがに一日に二度も同じ手には乗らない。
「むしろ、姉さんがべたべたしてくるから、最近は迷惑だと思ってるしな」
「あ……」
俺の言葉を聞いて、笹山はただ一言そう言った。
真希と笹山、二人が俺の背後を見て驚いた顔をしていた。
「ご、ごめんね……」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返るとそこには、弁当の包みを両手に抱え持った姉さんが立っていた。
「ね、姉さん……」
「これ……今日、お弁当忘れてたから……」
言って、姉さんが弁当を差し出す。
その手が微かに震えていることに気がついた。
「姉さん、今のは……」
「ごめんね。お姉ちゃん、気遣いができなくて……」
小さな声で言って、姉さんは小走りに教室を出て行ってしまった。
引き留めようにも両手が弁当でふさがってしまい、手を掴むことができなかった。
「わざわざ知らせてあげたのに」
真希が淡々と言う。
「相当に傷ついてたな、由梨さん」
さらに笹山が続いた。
「……別にいいよ……俺……シスコンじゃないし」
「じゃあ、その落ち込みようは何なのかしらね」
「……」
黙り込んでしまった俺の背中を、笹山が勢いよく叩いた。
「まあ、元気出せ。後で謝って、ちゃんと説明すればわかってくれるさ」
「そうかな?」
「ああ。家族もいつ居なくなるかわからないものだからな。大切にしておけよ」
笹山は俯いてそんなことを口にする。
苦笑いというか、何とも複雑な表情だった。
「どうした? なんかいつになくしんみりと……」
「いや、前にちょっと話したと思うんだけど、うちの両親とうとう離婚することになってな。少し思うところもあるのさ」
「笹山……」
「せっかくあんな綺麗なお姉さんがいるんだから、思う存分甘えておけよ」
「いや、それはまたどうだろう……」
どうやって姉さんに謝ろう。
心の中は既にそのことでいっぱいだった。
結局この日の英語の授業は集中できず、予想通りに教師に指されるも、上手く答えることはできなかった。

あっという間に一日は過ぎ去った。
傾いた太陽が染める西の空を窓の外に見ながら、ついため息をついてしまった。
「放課後になってしまった……」
「由梨さんには謝ったの?」
真希が相変わらずの薄ら笑いを浮かべながら傍に寄ってくる。
人の気も知らず、何やら楽しそうな様子だ。
いや、こちらの気の落ち込みを知っているからこそ楽しんでいるのだろうか。
「まだだよ……」
「家に帰ったら気まずいでしょうねえ……」
「お前はまたいちいちうるさい奴だな」
しかし実際その通りだ。
どうにかして、うまく謝らなければならない。
「うん、そうだ。プレゼントを買って帰ろう。姉さんが喜びそうなやつを」
「なるほど、あなたにしてはいいアイディアね」
もうこいつは無視だ。
相手にすると不快な気分になるし、無駄なエネルギーを使ってしまう。
「でも、童貞のあなたに、女の喜ぶプレゼントなんて贈ることができるかしら?」
「うるせえよ!」
無視しようと決めたのに、一瞬も持たなかった。
真希は本当に俺を怒らせるツボを心得ている。
そしてまた悔しいことに、真希の言う通り、姉さんに何を買っていけば良いのかわからないのは事実だった。
「姉さんが喜ぶプレゼント、か……」
悩みながら、帰り支度を済ませ、教室を出る。
昇降口に出たところで、ジャージ姿になった笹山と出くわした。
「おお! ちょうどいいところに!」
俺は笹山に駆け寄ると、その肩をぽんと叩いた。
「笹山、ちょっといいか?」
「ん? なんだ?」
「放課後ちょっと買い物に付き合ってくれないか?」
「え……男と買い物か……また微妙だな」
本気で微妙そうな顔をする笹山に、両手を合わせて頼みこむ。
「頼むよ。姉さんに買っていくプレゼントを選びたいんだ」
「……お前、まだ謝ってなかったのか」
「ああ、そうなんだ……」
「そうか……まだなのか……」
笹山は顎に手を当て、宙を見た。
何やら考えている様子だった。
「笹山?」
「や、なんでもない。すまんが、ちょっと忙しいんで……パスな」
「だよな。お前、部活があるもんな。お前なら女にもてるし、どんな物を買っていけばいいかわかると思ったんだけどな……」
「大丈夫だよ。お前の買って行くものなら、由梨さんは何でも喜ぶさ」
「うーん……」
「それじゃあな」
笹山は手を振ると、足早にその場を去った。
頼みの綱の笹山も無理となると、本格的にどうしたらよいのかわからなくなってしまう。
「グーグルで、姉の喜ぶプレゼントとか検索できるかな」
「そういうところがそもそも駄目なのよ」
背後をついてきていた真希が、なかなかに手厳しいことを言う。
そして、くいくいと、俺の袖を引いてきた。
「……まかせなさい」
「……」
「女の買い物なら女にまかせなさい」
「……夜遅くなると危ないから、女の子は早く帰りなさい」
胸を張る真希を諭して、帰そうとする。
「よし。じゃあ商店街に行くわよ」
「お前は人の話聞かないのな……」
結局俺は、真希と二人で連れだって買い物にいくことになってしまった。

そんなこんなで一時間後、俺は真希と商店街からの帰り道を歩いていた。
手に提げた袋の中には、吟味の末に購入した姉さんへのプレゼントが入っている。
割れものなので落とさないように注意しつつ、俺は袋の中のお洒落な包装紙で包まれた箱を見た。
「意外といい感じのが買えたな。お前が選ぶって言った時には、正直どうなることかと思ったけど」
「失礼な男ねえ」
真希のことだから、俺にでたらめを教えて適当なものを買わせようとするに違いない。
そう思っていたのだが、真希が選んだガラスの置物は、男の俺から見ても綺麗で、これなら姉さんも喜んでくれるだろうと思うことができた。
「いや、実際助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。ま、しっかりと仲直りしておきなさいな」
澄ました顔で言う真希を、俺はついまじまじと見てしまった。
「? 何よ?」
「いや、姉さんにも言われたけど、俺って真希に日頃から結構酷いこと言ってると思うんだよな。まあ、俺もお前には色々と嫌になることを言われてるんだけどさ。幼馴染っていってもそれほど仲が良いわけでもないと思うんだけど……どうして今回助けてくれたんだ?」
「仲が悪いというわけでもないじゃない。日頃の言い合いは、まあ、じゃれ合いのようなものでしょう」
それに、と真希は続けた。
「心に無いことを言ってしまって避けられてしまう辛さはわかっているつもりだから。今回手助けしたのはそれもあるわね」
「……?」
真希はこの話は終いとばかりに手を叩いた。
「まあ、いいじゃない。そんなことより、しつこいようだけど、ちゃんと仲直りしなさいよ。あれで由梨さんは脆いところもあるんだから」
「姉さんが……脆い?」
「ええ。これを機会に一気に駄目人間化してしまうかもしれないわよ。そんなのは嫌でしょ?」
「姉さん、これでもかってくらいしっかりしてるけど」
「まあ、あなたから見たらそうなんでしょうね」
良くわからない。
そんな会話をしていると、ポツポツと雨が降ってきた。
「あれ? さっきは晴れてたのに……」
「初夏だもの。夕立くらいあるわ」
「まあいいやとりあえず、うちに寄っていけよ。姉さんと仲直りしたら、お茶くらい出すからさ」
「あらあら、今朝とは打って変わった歓迎ぶりね。まあ、ありがたくお受けするわよ」
雨はあっという間に土砂降りになり、俺達は慌てて俺の家に走った。
大粒の雨が地面を打つ音と、遠くに鳴る落雷が、辺りの空気を震わせる。
家の中に入っても、雨の音はうるさく聞こえてきた。
「あれ……?」
見ると、玄関に姉さんの靴ともう一つ、男物の靴があった。
「あら、来客? 出直した方がいいかしら」
「いや、この大雨だし、休んでいけよ。タオル用意するから」
真希と一緒に家に上がる。
居間に行っても客の姿はなかった。
「あれ……? どこだろう」
姉さんもいない。
「姉さんの部屋……?」
男の来客が姉さんの部屋に居るかもしれない。
そう思うと、なんだか胸がむかむかとした。
「ちょっと待っててくれ。適当にテレビでも見ててもらえるかな」
「ええ。わかったわ」
真希を居間に残して、階段を上り、姉さんの部屋に向かう。
雨が一段と激しく振り、家の外壁を叩く音が大きくなる中、廊下を歩いて姉さんの部屋に近付くにつれて小さく声が聞こえてきた。
「あ……ぁあ……」
「……?」
その声を聞いた俺は、思わず足を忍ばせてしまった。
確かに俺は真希の言うとおり童貞だが、アダルトビデオの一本くらい友人達と見たことはある。
一応の性行為に関する知識はあった。
「ねえ……さん?」
呆然と呟く。
部屋の中からは微かに、しかし確かに、女性の発する喘ぎ声が聞こえてきていた。
「あ……ぅう……んぅう〜」
心臓がどくんと波打つのがわかる。
まさか、あの姉さんがそんなことをするわけがない。
だとしたら今聞こえてくる声は誰のものなのか。
緊張に手を震わせながら、そっとドアを開けた。
隙間から見る部屋の中の光景に、俺は後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

姉さんは、いつもの部屋着の白いワイシャツに灰のプリーツスカートを着て、ベッドに座っていた。
が、ほとんど服を着ていないも同然だった。
ワイシャツの前のボタンはほとんど外され、胸を覆っているはずのブラジャーも外されて、白く豊かな胸が露になっていた。
膝下までのプリーツスカートも捲り上げられて、姉さんの太腿と淡い水色の下着が見えている。
姉さんは、後ろに座った男に胸を揉まれて、喘ぎ声を上げていた。
「ん……く……」
男の手が、姉さんの白い肌の上を這いずり回る。
その手の主は、なんと笹山だった。
「あ……ぁ……だめ……笹山君、それ以上は……」
「どうして? 胸を触るだけならいいっていってくれたじゃない」
「ん……! で、でも……」
「いやらしい気分になっちゃうから?」
「そ、そんなわけじゃ……ないです、けど……んはぁあっ!」
笹山がぐにぐにと姉さんの胸を揉み上げ、乳首を擦るようにして摘むと、姉さんはこれまで一度も聞いたことのなかった声を上げた。
「はんっ! ん! んんん……!」
「ねえ、いいでしょ、由梨さん寂しいんだよ、俺……母さんと離れて暮らすことになって」
「ん、くぅ……そ、それはわかりました……でも……」
「由梨さんみたいな、母性のある人に慰めてもらいたかったんだ。由梨さんくらいしか頼める人なんていなかったから……」
「それは……でも、こんなには……んんっ!」
話している間にも、笹山は姉さんの胸を揉み続け、姉さんは息も絶え絶えといった様子になっている。
しかしそれでも、姉さんの上げる喘ぎに、次第に熱がこもっていくのがわかった。
「姉さん……」
体が動かなかった。
信じられなかった。
自分の憧れの姉さんが、男に体を弄られて感じているという事実が。
「ふぅ…ふぅう…うんっ! んんんっ!」
一際高い声に、また部屋の中を凝視する。
スカートは完全に捲り上げられて、姉さんの股間に笹山の右手があった。
「さ、笹山君、そこは……んあっ! あぁ……あぁああっ!」
笹山は下着の上から姉さんの秘所を擦った。
力のこもった、しかし繊細な手の動きに、これまでになく大きく喘ぎ、身を反らせた。
「んあっ……ふぅ、ん……そ、そこは、ちが……だめ……」
姉さんは笹山の右手を押しやろうとするが、その手には力が入っていなかった。
それどころか、笹山に股間を擦られるごとに、少しずつ姉さんは股を広げていった。
「ダメ……どうしてこんなこと……だめぇ……」
「でも由梨さん、濡れてるよ」
「そ、そんな……はんん……んううん……っ」
ドアの隙間から見ている俺の目にも、それは明らかだった。
姉さんは秘所を弄られるたびに体をくねらせ、気付いたら脚はだらしなく開いたままになっていた。
そして、股間を覆う下着は、重く愛液で濡れていた。
「ほら、由梨さん、見てみてよ。由梨さんの汁で下着が透けて、おまんこの形がはっきりわかるよ」
笹山は姉さんの耳元で囁きながら、秘所をさらに激しく擦った。
姉さんは抵抗するわけでもなく、ただ目を潤ませて自分の秘所を弄る笹山の手を見つめ、何かに耐えるように小さく身を震わせていた。
「ねえ、由梨さん。おっぱいだけじゃなくて、こっちも触っていいよね」
「……」
「いいよね? 嫌って言わないなら、もっと弄っちゃうよ」
姉さんは、ぎゅっと目を閉じた。
そして、何も言わなかった。
笹山の手が姉さんの下着の中に入る。
すぐに先ほどのように激しく動き、一段と大きな水音が聞こえてきた。
「ほら、由梨さん、聞こえる? 由梨さんのまんこ、大洪水だよ」
くちゅ、くちゅ、ぬちゅ、ぬちゅと。いやらしい、粘つくような水音だった。
紛れもない、姉さんが――女としての姉さんが、笹山を受け入れている証の音だった。
「んくっ! んん……んはっ……はぁ、あ……あぁあ〜……ああぁあっ!」
姉さんがこれまでになく大きく身をそらせ、両脚をぴんと伸ばして、唸るように声を上げた。
「へへ……由梨さん、いっちゃったの?」
「あ……ぁあ……」
ぐったりと寄りかかるようにして息をつく姉さんを、笹山はそのままベッドに寝かせた。
ベッドに寝かした姉さんの上に覆いかぶさって、笹山が何事か姉さんに囁く。
何を言っているのか、さすがにこちらまでは聞こえなかった。
やがて笹山は、姉さんの下着に手をかけた。
動かないままの姉さんの下着を、ずるずると下ろす。
太腿を抱えるようにして下着を抜き取った時、姉さんの秘所から愛液がねっちょりと糸を引くのが見えた。
「姉さん……嘘だろ……何で……」
姉さんと笹山は、俺のクラスを訪れた時に数回会っただけの関係のはずだ。
その笹山に、どうしてこんなことを許すのか。
どうして抵抗しないのか。
どうして……。
考えているうちに、笹山はズボンを脱ぎ去っていた。
慣れた様子で、勃起したペニスの先を姉さんの秘所に押し付ける。
それでも――そんな状況になっても、姉さんは抵抗しなかった。
笹山の亀頭が、姉さんのあそこにはまる。
そこからゆっくりと腰を沈め、笹山のペニスはついに姉さんの膣に完全に埋まってしまった。
「い……いたい……」
姉さんの悲痛な声が聞こえた。
姉さんの押し開かれた女性器からは、赤い血が一筋、流れ落ちていた。
俺には、目の前の出来事が、現実のこととは思えなかった。
「へへ……由梨さん、やっぱり処女だったんだね。ありがとう」
そんなことを言いながら、笹山は姉さんの頬にキスをした。
笹山がゆっくりと腰を引き、また沈める。
その度に姉さんの性器が押し開かれ、笹山のペニスを受け入れるのが見えた。
「やったやった。狙ってたんだよね、由梨さん」
笹山は笑いながら言った。
「めちゃめちゃ美人だし、性格いいし。俺の女にしたいなって、一目見たときからずっと思ってたんだ。今日は思い切って来てよかったな。由梨さん……俺が慰めてあげるからね」
笹山は腰の動きを早めた。
笹山の両腕に抱えられた姉さんの脚が、振動に合わせてぷらぷらと揺れている。
二人の結合部は、姉さんの純潔の証だけでなく、透明な愛液もでぬらりと光っていた。
「ねえ、由梨さん、気持ちいい?」
「……」
「さすがに初めてじゃ気持ちよくならないかな。でも、すぐに気持ちよくしてあげるよ。俺無しじゃ居られない体にしてあげるから」
笹山は姉さんの脚を置いて、再び胸を揉み、乳首に吸い付いた。
「ん……!」
「おっぱいは感じるんだね」
「ん、は……ぁ……」
姉さんは両手をゆるゆると上げ、笹山の首に回して抱きついた。
いつしか、ベッドの軋む音と、小さな水音、そして姉さんの喘ぎ声が、部屋の中の空気を満たしていた。
「由梨さん、あいつが相手にしてくれなくても、これからは俺が相手にしてやるからね」
「ん、ん……ん……」
笹山の言葉に、姉さんは微かに頷いた。
「今頃高部は坂折さんとデートだよ。俺たちも楽しくやろう」
「はあ……ぁあああ!」
笹山が腰の動きをさらに速くし、姉さんの体を押しつぶすようにペニスをねじ込んだ。
「くぅっ……!」
「由梨さん、あんまりベッド汚すの嫌だよね? このまま膣で出すよ?」
「え……それは……やめ……」
言いかけて姉さんは顔をのけぞらした。
笹山がぐりぐりと擦るようにして腰を動かし、それに合わせて姉さんは体を大きく跳ねさせた。
「出すよ! 由梨さん……!」
「ああぁ……」
吐息と共に、姉さんが諦めたような、力無い声を漏らす。
覆いかぶさった笹山の体の陰に、涙を流して上気する姉さんの顔が見えた。
笹山が一層強く腰を押しつけ、姉さんの秘所に根元までペニスをねじ込んだ。
そしてそのまま、体を小さく震わせた。
「熱い……」
呟く姉さんに笹山が顔を寄せ、二人はそのまま口づけを交わしていた。
姉さんは頬を朱に染めて、鼻から甘い吐息を漏らしていた。
濃厚な口づけの後で、二人が口を離すと、唇と唇の間に唾液の糸が細く引いた。

しばらく二人は体を重ねて横たわっていたが、やがて笹山が身を起こし、ベッドに腰掛けた。
「由梨さん、起きてよ」
「え……?」
ぐったりとしたままの姉さんの手を取り、笹山が呼びかける。
「ほら。一回終わったからさ。舐めてよ。俺のちんこ」
「舐める……んですか? その……笹山くんの、それを……?」
笹山に支えられて身を起こした姉さんは目を丸くした。
「そうだよ。一回終わったら掃除するのが普通なんだから。ほら、由梨さん」
姉さんは命じられるままに床に正座し、笹山のペニスを目の前にした。
「あー。俺、正座よりも四つん這いになってくれた方がいいかな。その方が興奮するから」
「よ、四つん這い……ですか。そんな犬みたいな……」
「そうだよ。由梨さんみたいな女が犬みたいなことするから興奮するんじゃん。早く早く」
「そんな……」
姉さんは渋りながらも結局笹山に逆らわず、その場で四つん這いになった。
俺の方からは、姉さんの形の良い尻と、笹山との性交で真っ赤に充血した秘所が、はっきりと見えるようになった。
薄いヘアーの中に、肉の花弁が開き、笹山の放った精液が糸を引いて床に垂れていた。
「ん……ふぁ……」
姉さんが笹山のペニスを咥えこんだ。
苦しそうな声を出しながら、笹山の指示通りに、忠実に喉の奥まで大きなペニスを呑みこんでいた。
「由梨さん。気持ちいいよ」
笹山はにやついた笑みを浮かべながら、懸命になって奉仕する姉さんの姿を見下ろしていた。
やがて前のめりの姿勢になると、四つん這いの姉さんお尻を両手で鷲掴みにした。
「ん……! むう……!?」
笹山のペニスを咥えたままで呻き声を上げる姉さん。
その裂け目に、笹山の指が触れた。
「……ん! ……んんうっ!」
「へへ……愛液と精液でぐちょぐちょだね」
笹山の指が姉さんの敏感な部分を蹂躙する。
姉さんはたまらず、ペニスを口から吐き出した。
「だ、ダメです……! ……んん……っ!」
「由梨さん、意外と敏感だよね。ちんこじゃダメだったけど、指でならイけるかな?」
そう言うと、笹山は姉さんを促して自分の股間の上に跨らせ、対面座位と呼ばれる姿勢になった。
そのまま姉さんの背中を左手でがっしり押さえつけ、右手で尻を揉んだかと思うと、姉さんの秘所に指を滑り込ませた。
「んあっ……!」
姉さんの短い声が響いた。
姉さんの秘所は、何の抵抗も無く笹山の指を呑みこんでしまったようだった。
「へへへ。ホント、ぐちょぐちょだ。さっきまでぴっちり閉じてたのに、俺のちんこで広がっちゃったね」
笹山は指の動きを次第に早くしていった。
みち、みち、ぬちゅ、ぬちゅ。
そんないやらしい肉の音が、姉さんの股間から響いてきた。
「由梨さん、気持ちいい?」
「あ、ああっ! いやぁ……笹山……くん……!」
「どうなの? 気持ちいいの?」
「き、気持ちいいですっ!」
姉さんは残照を映す美しい黒髪を振り乱し、叫んだ。
笹山はその目に欲望の色を強くし、姉さんの秘所をさらに乱暴に掻きまわした。
「あ、あ! ……あ! だめえっ!」
姉さん体を離そうとするも、笹山にしっかり背中を押さえられて、それはかなわなかった。
為す術も無く膣の肉壁を擦られ、よりいやらしい、はっきりとした水音を股間から奏で出していた。
「由梨さん、イく時は、ちゃんとイくって言ってよ?」
「そんな……そんなこと……! おあ……! あぁああっ!」
姉さんが笹山の上で一層激しく首を振った。
「……いきますっ! イっちゃいますっ! 由梨、イっちゃいますっ!」
姉さんは背中をのけぞらせて、笹山の腕の中で何度も体を痙攣させた。

激しく呼吸する姉さんの体の陰に隠れて、笹山の顔は見えなかった。
が、笹山は再び姉さんの尻を鷲掴みにし――
「……あぁああ! んひぃ!」
笹山の指に絶頂に導かれ、ぐったりと動かずにいた姉さんが、情けない叫び声をあげた。
笹山のペニスを、また膣に突き立てられたのだ。
姉さんは先ほどのように苦痛の声をあげることは無かった。
笹山にぎゅっと抱きつき、もどかしげに腰から下をくねくねと動かしていた。
「どう? 由梨さん。一度イった後だと、ちんこも気持ちいい?」
「……」
黙り込む姉さんに、笹山はそれまで動かさずにいた腰を、大きく突き上げた。
「んひっ!」
姉さんの口から、想像もつかなかったいやらしい叫びが漏れる。
それを皮切りに、笹山は姉さんの尻をしっかりと掴んだままで、激しく腰を振り始めた。
「あ! んあ! いいっ! やっ! んはぁっ……ぁああああぁあー……!」
「由梨さん……! すごい……締まる!」
笹山の腰が律動する。
姉さん穴を激しい勢いで、抉りこむようにしてほじくり返す。
「ああ〜、あぁああ〜……んぁああ、ああ……」
姉さんの顔は見えず、ただ声だけが響いた。
完全に快楽に呑まれてしまった、女性としての声だった。
「どう? 由梨さん、俺のちんこ気持ちいい?」
「お、おち……おちんちん……」
「気持ちいいって言ったら、もっとおまんこ掻きまわしてあげるよ?」
笹山の言葉に、姉さんはあっさりと全てを認めた。
「……おちんちんいいですっ!」
清楚な姉さんが。
しっかり者の姉さんが。
言葉遣いには厳しかった姉さんが。
何のためらいもなく、いやらしい欲求を口にしていた。
「ぁいいっ…も、もっと! おちんちん気持ちいい! もっとぉお! ……おちんぽっ! くださいっ! おちんぽいいーーー!」
何もかもかなぐり捨てるようにして姉さんは叫び、笹山を強く抱きしめた。
笹山も姉さんを抱きしめた。
笹山の腰の動きに合わせて、姉さんの腰も激しく前後した。
姉さんがセックスの快感を笹山に求めているのが、はっきりとわかった。
「由梨さん、処女をなくしたばかりなのに、イきそうなの? 俺のちんこでイきそうなの?」
姉さんはがくがくと、震えるように頷いた。
「さ、笹山くんっ! 由梨、もうダメ! おまんこ熱い! おまんこ気持ちいいよおっ!!」
「く……由梨さん……! イっちまえ! 俺のちんこでイっちまえ!」
「……ん゙おっ……! ぁあああぁあ゙あ゙っ! い、イク! イグうぅううううっ!」
姉さんは腰を小刻みに震わせ、獣のような快楽の悲鳴を上げた。
笹山もそれに合わせるようにして腰を震わせ、姉さんの中に二度目の射精をしていた。

俺は気付けば涙を流していた。
殴りこむわけでもなく、立ち去るわけでもない。
二人を見て、ただ涙を流していた。
いつの間にか俺の隣に、真希が立っていた。
「行きましょう……」
真希は囁いて、俺の手を引いた。
そのまま俺たちは家を出て、真希の家に向かった。
「まあ、少し意外な形だったけれど、姉離れの時ということなんじゃないかしら」
雨に濡れながら、真希は言った。
「弘明は、近親相姦はするつもりは無いと言っていたでしょ? である以上、たまたま今日目の当たりにしてしまったけど、いつかどこかで由梨さんはあなた以外の人に抱かれる運命だったのよ」
「わかってるよ……」
どんなに仲が良くても、姉弟はずっと一緒にはいられない。
いずれお互い以上の異性を見つけて、別々に家庭を作る。
それはわかっていても、この胸の中の喪失感は、いかんともしがたいものがあった。
「わかってるはずなのに、悲しいんだよな……馬鹿だよな……俺って」
「馬鹿じゃないわ」
真希は淡々と答えた。
「何だよ……いつもみたいにむかつくことを言ってくれよ。その方がいっそ元気が出るからさ」
「言えないわね。好きな人が他の人に取られる悲しみを知っていると……」
「え……?」
「ちなみに私、先週笹山に告白されたのよ」
「そ、そうなのか?」
「好きな人が居るからって断ったけどね。笹山が由梨さんを寝取ったのは、それでイライラしていたせいかも知れないわね」
真希が不敵な笑みを浮かべた。
「仕返しに……寝取ってみる? 嘘か本当かはわからないけど、あの男が体目当て以外で好きになった、初めての女なんですって」
「お、お前、何を……」
「まあ、抵抗はすると思うけれど。ちなみに今日、うちの両親はいないわよ」
真希は家の門を開けながら、そう言った。

紅雪白雨
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