社説:自民党の公約 安倍外交に注目したい
毎日新聞 2012年11月22日 02時31分
自民党がまとめた衆院選の政権公約は、安倍晋三総裁らしく保守色の強い内容となっている。そのまま次の政権の政策となる可能性があるだけに、実現への具体的な手順を十分に説明する責任がある。
なかでも外交は「強い日本をつくる」(総裁選後の記者会見での安倍発言)ことを意識してか、中国、韓国との領土や歴史認識などをめぐる問題での強硬姿勢が目立つ。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や原発など民主党が衆院選の争点とする政策には踏み込まず、外交・安全保障や教育など、安倍カラーを前面に押し出せる政策を有権者に訴えるのが狙いとみられる。
公約に掲げた「主張する外交」や「対外発信の強化」「領域警備の強化」は積極的に進めてもらいたい。だが、領土や歴史問題は国際社会への波紋も大きく、注意深い取り組みが欠かせない。公約は尖閣諸島への公務員常駐や周辺漁業環境整備の検討、従軍慰安婦問題の反証などを明記したが、新たな措置が近隣諸国との関係をことさら悪化させることのないよう配慮が必要だ。
安倍氏は、対中外交においては強い姿勢を示す方が効果的と考えているのだろう。尖閣諸島の問題では強固な日米同盟で中国の挑発的な行動を抑止することが重要だという認識は、私たちも共有する。
ただし、それは問題を国際法に基づき、対話によって平和的に解決する道筋をつけるためだ。オバマ米大統領も20日の野田佳彦首相との会談で「中国との問題が激化しないように望む」と述べ、日中双方が行動を抑制するよう要求した。過去の自民党政権時代から積み重ねてきた近隣諸国との関係を大事にし、対立をエスカレートさせず東アジア地域の安定を図ることが、日米両国の共通の戦略的利益ではないか。
安倍氏は06年の首相就任後、初の訪問国に中国を選び、小泉純一郎政権時代に靖国神社問題で悪化した対中関係を改善して戦略的互恵関係を結んだ。当時の安倍外交の現実的柔軟性は評価されていい。
今の日中関係は当時よりもっと困難な状況にある。そして、日中関係の持つ重要性は当時よりもっと大きくなっている。対中関係、対韓関係をめぐる自民党内の意見も強硬姿勢一本やりではないだろう。党内をまとめ、強固な日米同盟を再構築し、中韓両国との関係を戦略的に安定させることは、安倍カラーの外交と矛盾するものではないはずだ。その大局を見失わない外交を求めたい。
ともあれ、論戦の舞台は整いつつある。民主党をはじめとする他の政党も明確な路線を示し、骨太の政策論争を展開してほしい。