メリーさんの日々@池田動物園

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あらためましてm(・_・)m

岡山市・池田動物園のアジアゾウ「メリー」さんは、推定2歳でタイから来園して以来、43年を過ごしています。

そんなメリーさんの、とある一日(取材日=2010/6/10)に寄り添いながら、彼女をめぐるいくつかの事柄を記していきたいと思います。

後ろに映る寝部屋から9:00頃に出てきたメリーさんは野菜の朝食の後、ゾウ班の飼育員さんたちの世話を受けます。これは1日3回繰り返されるものの初回です。特に足を洗うのは大切です。メリーさんは足や爪を傷めやすいたちのようで、こまめに洗ったり消毒したりしないと化膿してしまうこともあります(午後には爪切り・爪削りも行なっています)。写真で前脚の膝裏をタワシで触れているのも、そこがあかぎれになっていて、夜の間についた乾草などの汚れを落としいるのです。これから暑かったりじめじめしたりなので、傷の類いはきれいに治しておきたいところです。

そんなお手入れの間も、別のスタッフがこうやって鼻で遊んであげたり、息を吹き込んだりしています。息を吹き込むのはゾウを安心させるのには、よい手立てです。人間の目から見れば傷を調べたり洗ったりという手当てだけれど、メリーさんにしてみれば、じっと体を預けているのは、やっぱり我慢の要ることなのです。だから、メリーさんの気持ちをなだめたり危険がないように見張る役がいなければなりません。実際、左後足の爪が割れて化膿していた時は、強く押して膿を出したりしたこともあり、メリーさんは足をぶんぶん振って嫌がったそうです。

いま、メリーさんの鼻に息を吹き込んでいるのは長谷川秀明さん。今年で飼育員歴7年目ですが、ずっとゾウに関わっており、現在はゾウ班の班長さんです。

こちらは浅野孝行さん。飼育員さんとしては20年選手ですが、ゾウ班に入ってからはまだ3年弱。メリーさんに早く馴染んでもらうために、いろいろ機会をつくっています。ゾウ班は他に二人の若手メンバー(芦田渉さん・清水拓矢さん、共にゾウ歴は5年以上)がいて、全部で5人。お互いに年齢や経験を補い合うような関係を心がけているので「班全体で飼育する」という体制になっています。ゾウは繊細で賢く、記憶力も抜群なだけに、もしも一人とか二人の担当者だけになついてしまうと、他の人ではコントロール出来なくなり、何かの理由で「特権的な担当者」がいなくなった時、結果として「孤独なゾウ」を作り出すことになってしまいます。「班飼育」の大切さはそこにあります。班長の長谷川さんは現在のゾウ班のバランスなら、順調にいけば20年のスパンでやっていくことが出来るだろうと話していました。ゾウの長寿の目安は60歳、現在45歳のメリーさんにしてみれば、あと20年というのは「生涯型保険」と言えますね。

コントロールの大切さ。手鉤を使った合図と号令を中心に、めりはりをつけて確実に言うことを聞かせます。ゾウのパワーは強大です。きちんとした関係づくりなしには飼育することは出来ません。昼食を与えた後に行なわれる「調教」を中心に、毎日の流れの中にそういう関係づくりが組み込まれています。

既に触れたように、怪我の手当てひとつでもコントロールは必要です。

ちなみに、以前は「調教」の一環として座らせることを重視していましたが、メリーさんの足腰の負担が大きいようなので、現在では足挙げと歩行を要にしています。

ゾウ班の飼育方針の基本は「怪我のないコト」。メリーさんが興奮していて自分たちに攻撃が向かいそうな時には、飼育員さんたちは彼女のペースに合わせて、うかつな接近を避けます。しかし、それだからこそ、普段から手鉤で抑えたり、時には厳しい声を出したりして、メリーさんとの正しい距離を定める努力を欠かしません。

実は、メリーさんの「調教」は彼女が30歳を過ぎてから始まりました(!)。既におとなになって久しい頃です。それだけに関係づくりは大変だったし、若手のスタッフを狙って攻撃を仕掛けてくるといったことも続きました。現在のゾウ班とメリーさんの関係はようやく落ち着いています。ベテランの浅野さんがメリーさんとの絆をはっきりさせていくことで、その流れはさらに安定したものになっていくでしょう。

声がけにしても、叱る時だけではありません。ちょっとメリーさんの体のそばを通ったりする時も、スタッフは声で合図します。「約束」をはっきりさせることは、メリーさんにとっても安心の元になるのです。

しかし、ただきっちりしているだけでは、一人暮らしのメリーさんも何だか退屈だし、淋しくもあるでしょう。池田動物園では、そんなメリーさんが来園者と触れあえる時間を設けています。

13:30頃からチケット制先着20名での「餌やり体験」です。一日の食事の一部を割り当てての「おやつ」ですが、バナナなどの御馳走をここに集中します。メリーさんも「調教」で頑張った後に大張りきり☆受け取るなり、どんどん「パクン♪」(´∀`;)

きちんと飼育員さんたちが見守ってくれる中で、メリーさんの鼻に触ったりも出来ますよ。これも日頃からの関係づくりがあってこそです。そんなことも頭の隅に置きながら、めったにない機会をメリーさんと一緒に楽しんでみてはいかがでしょう(●^_^●)。

なお、ゾウ班自体でも、時には調教や爪の手入れを休んで、特別に可愛がる「よしよしタイム(班内の仮称)」も行なっているそうです。メリーさんの暮らしのためには、こういう時間の重みも増やしていきたいとのこと。

「調教」の中で指示と実際の動作を関連付けるのによく使われるのは、「声がけ(ほめる)」のほかに「1動作=1餌(御褒美)」ですが、あまり多用すると「飼育員=餌」になってしまいます。池田動物園では、現在、このような「調教」の一環を含め、関係づくりの半分以上は餌が絡んでいるとのことですが、「よしよしタイム」は、こういう「手段としての餌」への依存を下げていこうという試みのひとつでもあります。

メリーさんとの信頼関係なしでは、「よしよしタイム」のようなものはコントロールとのメリハリを失わせてしまうでしょう。外部の身ながらも「よしよしタイム」が可能な状態が保たれることを心からお祈りします。

もうひとつのお楽しみ!水のみに入った水を使っての水浴びです。メリーさんの流儀は、鼻で吸い上げた水を一旦散らしてから、また吸い込んで、バシャァ~3

これからの夏場。天気のいい暑い日には期待していいと思いますよ(^_-)v

塀の外から飼育員さんが流してくれるホースの水も、器用に鼻で受け止めて、御覧の通り。

「誰か向こうにいないかしら?」

残念。また後でね(^。^)b……

そんなふうに今日も暮れてきました。足の消毒も済ませて……

おうちに帰ろうね。

バックヤード。乾草や木の葉を鼻で巻いてはもりもり◎

時には園内のバショウの葉なども与えるとのこと(ゾウ舎の隣のヒグマ舎の裏に生えているそうです)。

夜の室内では最低線の繋留は欠かせませんが……現在は左右の後足の一方のみを日替わりでつないでいます。若いころのメリーさんは19年間ほど、前後の足の対角線でつながれっ放しだったこともあります。その時は、ほんの2m幅くらいしか動く余地がなかったとか。施設の改善・「調教」を含めてのメリーさんの気持ちを落ち着かせる努力が、いまの状態に至っています。

ゾウの感情は目に現れるといいます。池田動物園の努力が彼女の心によく伝わっているなら、と思います。

「メリーとゾウ班は全体で、ひとつの家族だと思っています(※)。」

「ゾウを抑えているのは手鉤の力で自分個人じゃないと、いつも自分に言い聞かせてます。自惚れた時が事故の起こる時だと……」

そんなふうに、いわば「ゾウに育てられた」経験を感じさせながら語る長谷川さんですが、

「でも動物に対して本気で、というか、ムキでいたいですね。」

そんなことばの若々しさも印象的でした。

最後に、取材の機会をお与えいただいた池田動物園と、長谷川班長さんはじめスタッフの皆さんに心より御礼を申し上げます。

※今回いろいろとお世話になりました総務部長の赤迫良一さんもゾウ班出身で、現在も補助メンバーとのことです。メリーさんにとっては「家族の一員」なのでしょうね。

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