僕たちはある程度自由な社会に生きている。でも、もっと自由なことがあってもいいと思ったり、さすがにそれは自由すぎるだろう、と思ったりすることもある。では「本当に自由な社会」とは、どんな社会なのだろうか? 社会哲学を専門とする北海道大学の橋本努准教授は、さまざまな社会問題を通して、「自由社会の再設計」を具体的に提案している。それをまとめ、閉塞的な斯界で話題や議論を呼んでいるのが、近著『自由の社会学』(NTT出版)だ。
今回、橋本准教授に、本書の中でも提案されている「売春業のライセンス化」という画期的なビジョンから見える、自由社会のデザインを聞いてみた。
――まずは、本書を執筆する経緯について教えてください。
橋本 偉大な社会思想家というのは、必ず"社会はこうあるべきだ"ということを具体的に提言しているんですが、凡俗の思想研究者たちは、"自分ならどう考えるか"について語らないですね。だからなんとなく、社会思想というのは役立たない学問だと思われている。そういう状況に違和感を抱いていたので、この際、私自身が政策的なことを体系的に考えてみよう、と。大胆ですが、いろいろと練っています。最近、サンデル教授の「ハーバード大学白熱講義」が流行っていますよね。「どんな社会がいいか」という、サンデルが投げかける問いに、私も自分なりの答えを出しているつもりです。
――本書の中では、より自由な社会を実現するために、いくつかの具体的な社会問題について提起されています。たとえば「戦争の民営化」や「ムハンマドの風刺画問題」など。その中でも、私が斬新だと感じたのが、「売春業のライセンス化」についてです。確かに売春業を合法とすることは、一般市民に「より社会が自由になったな」と感じさせる身近な例だとは思いますが、同じく市民からの道徳的な反感が強いように思います。
橋本 ええ、まずは不可能だという前提がありますね。しかし現実には、オーストラリアやニュージーランドで、売春業の経営者にライセンスを与える形で、売春の合法化が行われています。なぜ、そのようにするのかといえば、非合法でも実際には、日本中で売春は行われているわけです。非合法でもこんなにやっている人がいるなら、合法化して、きっちり取り締まるほうがいい、ということです。
――合理的に考えれば、そうだろうなと思える一方、体を売るという不道徳な行為を国家が認めるというのは抵抗があります。…