安倍首相の歴史認識に関する質問主意書と政府の答弁書
平成18年9月29日提出 安倍首相の歴史認識に関する質問主意書 提出者 社民党 辻元清美 |
平成18年10月10日受領 内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の歴史認識に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 |
安倍新政権が成立したことを受けて、安倍内閣総理大臣の歴史認識や政治姿勢を明らかにすることは、多くの国民の要求するところである。 1 安倍首相は、1942年当時、日本がなんらかの侵略行為を行っていたと考えるか。そうであれば、どのような侵略行為だったのかを具体的に明らかにされたい。 2 2005年8月15日における小泉純一郎前首相の「内閣総理大臣談話」について 3 1995年8月15日における村山富市元首相の「村山内閣総理大臣談話・戦後50周年の終戦記念日にあたって」(以下「村山談話」)について 1 「村山談話」では「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げ」るために何をすべきであると考えるか。 |
1から3までについて 政府としての認識については、平成7年8月15日及び平成17年8月15日の内閣総理大臣談話等において示されてきているとおりである。 いずれにせよ、政府としては、唯一の被爆国である我が国としての体験及び戦後60年の歩み等を踏まえ、今後も、世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることに変わりはない。 |
4 1995年6月9日に、衆議院本会議で決議された「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」について 1 安倍首相は同決議に賛成しているか。 2 安倍首相は同本会議を欠席しているが、欠席した理由は何かを明らかにされたい。 |
7、7の1、8の2及び3、10の1から4まで、11並びに12について お尋ねは、安倍晋三衆議院議員の政治家個人としての発言等に係るものであり、政府としてお答えする立場にない。 |
5 1993年8月4日における河野洋平元官房長官の「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(以下「河野官房長官談話」)について 1 「河野官房長官談話」では「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 3 「河野官房長官談話」では「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 4 「河野官房長官談話」では「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。 5 「河野官房長官談話」では「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」るために、何をすべきであると考えるか。 |
5及び7の2について いわゆる従軍慰安婦の問題についての政府の基本的立場は、平成5年8月4日の内閣官房長官談話を受け継いでいる。 |
6 1995年8月14日における橋本龍太郎元首相の「元『慰安婦』の方々に対する内閣総理大臣の手紙」(通称「お詫びの手紙」)について 1 「お詫びの手紙」では、「いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 2 「お詫びの手紙」では、「私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。 3 「お詫びの手紙」では、「我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関わる諸問題にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えております。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。 4 安倍首相は、橋本元首相をはじめ、小渕恵三元首相、森喜朗元首相、小泉純一郎前首相と同様に、「お詫びの手紙」に署名するのか。 7 安倍首相の「この従軍慰安婦の記述については余りにも大きな問題をはらんでいるのではないかと私は思います。(略)それはなぜかといえば、この記述そのもの、いわゆる従軍慰安婦というもの、この強制という側面がなければ特記する必要はないわけであります」(第140回国会衆議院決算委員会第2分科会、1997年5月27日)という発言について |
6について 政府としての認識については、5及び7の2についてで述べたとおりである。 |
8 安倍首相の歴史教科書についての「この近隣諸国条項によって、喜んでもらう、日本がこんな残虐なことをしましたよということをやることによって、諸外国からは余り指摘がなくなるということであります。また、特定の思惑を持って行動する人たちにも歓迎されるということで、そちらの方面において日本が残虐な行為をやったということを強調する分にはどんどん検定を通ってしまうという問題が出てきているのではないか」(第140回国会衆議院決算委員会第2分科会、1997年5月27日)という発言について |
8の1について 教科書の検定については、教科用図書検定調査審議会の専門的な審議を経て、適切に行われているものと考えており、いわゆる「近隣諸国条項」については、現在、見直すことは考えていない。 |
4 同会の「日本歴史教科書問題」に関する中間報告に、検定制度について「教科書事件以来、いわゆる『近隣諸国条項』によって、実質的に『空洞化』『有名無実化』の状況にあることが明らかになった。」という記述があるが、安倍首相は同じ見解か。そうであるなら、検定制度が「空洞化」し「有名無実化」したと判断する具体的な根拠を示されたい。 |
8の4について 教科書の検定については、いわゆる「近隣諸国条項」を含む教科用図書検定基準等に基づき、教科用図書検定調査審議会の専門的な審議を経て、適切に行われているものと考えている。 |
9 2006年9月13日、米下院の国際関係委員会が日本による第2次世界大戦中の従軍慰安婦動員に関する決議案(下院第759号決議案)を満場一致で可決した件について 同決議案では、「従軍慰安婦動員の事実を確実に認め、歴史的責任を受け入れること」「従軍慰安婦問題が人権に反する恐ろしい問題であることを現在および次世代の日本国民に教育すること」「慰安婦動員を否認するいかなる主張に対しても公に強く繰り返し反論すること」とあるが、米下院の国際関係委員会がこのような決議をしたことは内政干渉と考えるか。安倍首相の見解を示されたい。 |
9について 政府としては、御指摘の「決議案」が国際法上違法とされるいわゆる「内政干渉」に当たるとは考えていない。 |
10 安倍首相の「まだ学問的に確定しているというふうには言えない状況ではないか。(略)さきの大戦をどのようにこれは定義づけるかということでありますが、それはやはり、これは政府の仕事ではないだろうと私は思うわけであります。それはやはり歴史家の判断にまつべきではないか。(略)歴史というのは長い連続性の中にあるわけでございまして(略)政府が歴史の裁判官になってそれを単純に白黒つけるということは、それは私は適切ではないのではないだろうか」(第164回国会衆議院予算委員会、2006年2月16日)という答弁について |
10の5について 歴代の内閣総理大臣や国務大臣が認識を示してきたことが「「政府が歴史の裁判官」になったという適切ではない政治姿勢」に当たるとは考えていない。 |
11 安倍首相の自著の「たしかに軍部の独走であり、もっとも大きな責任は時の指導者にある。」(『美しい国へ』25頁)「日本は講和とひきかえに、服役中の国民を自国の判断で釈放できるという国際法上慣例となっている権利を放棄することによって、国際社会に復帰したのだ」(『美しい国へ』72頁)「天皇は『象徴天皇』になる前から日本国の象徴だったのだ。」(『美しい国へ』104頁)「60年前、天皇が特別の意味をもった時代があった。そして多くの若者たちの、哀しい悲劇が生まれることになった。」(『美しい国へ』106頁)という記述と、「昭和の歴史を虚心に振り返れば、極東軍事裁判によってA級戦犯とされた人々に戦争の責任をすべて帰すのは、不可能です。」(「諸君!」2005年3月号)などの一連の発言について 2 歴史認識のもとでの発言でないのであれば、安倍首相は何を根拠に意見表明をしているのか示されよ。 12 安倍首相の「中身でいえば、まず自虐史観に侵された偏向した歴史教育、教科書の問題があります。」「ストライクゾーンの左サイドぎりぎりにすべての球が集まっていて、全体でみると、ひどくアンバランスになっている。(略)ストライクゾーンど真ん中の記述ばかりであった扶桑社教科書の市販本は100万部近く売れて国民に支持されたにもかかわらず、教育現場での採択は惨憺たる結果になりました。現状の採択の仕組みでは、大多数の国民の良識が反映されないどころか、否定されてしまうわけです。この状況を変えていかなければいけない。(略)現在は、自分が裁判官になったかのごとく祖国の歴史を裁いて、したり顔をしている人たちが採択に影響を及ぼし、子供たちに一方的な断罪史観を押しつけている。」(「正論」2005年1月号)という発言について 右質問する。 |
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