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総選挙に向け、自民党の安倍総裁が「大胆な金融緩和」発言をエスカレートさせている。先週末には「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と踏み込んだ。財政の健全性を守ると[記事全文]
日本維新の会の橋下徹大阪市長が今月10日、遊説先の広島で、核を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則について発言した。おおむね次のような内容だ。[記事全文]
総選挙に向け、自民党の安倍総裁が「大胆な金融緩和」発言をエスカレートさせている。先週末には「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と踏み込んだ。
財政の健全性を守るという基本原則への配慮が希薄で、強い不安を抱く。
安倍氏の主張は、日銀が国債などの金融商品を無制限に買って、本気でインフレを目指していると市場が受けとめれば、「今のうちにモノを買ったり、つくったりしたほうが得だ」という心理が広がり、経済が活性化するというものだ。
インフレ期待が高まれば、為替も円安に動き、輸出企業の業績が回復して株価が上がり、景気が良くなるという。
さらに、政策が軌道に乗るまでは、建設国債を日銀に買わせて公共事業を拡大し、「国土を強靱(きょうじん)化する」と訴える。
しかし、いいことずくめの話には必ずリスクがある。
インフレへの予想が本当に強まれば、今の超低金利の国債は価値が下がる。そこで、国債を大量に保有する銀行が一斉に売り抜けようとすると、金利が急騰する。国債発行による政府の資金調達に支障が出る。
国内のすべての債券の金利が2%上がれば、銀行全体で12.8兆円の損失が出ると推計されており、欧州のような財政と金融が絡み合った複合的な危機になる恐れがある。銀行の貸出金利も上がる。
こうした危うさのなかで、さらに公共投資で財政を拡大し、その財源となる国債を日銀に引き受けさせていこうという感覚は、理解できない。
公共事業もある程度は必要だが、財政の持続性や費用対効果を精査すれば、どれだけのものが正当化されるだろうか。資金調達で最初から日銀を当てにしているのなら、なおさら疑ってかかられよう。
私たちは社説で、金融緩和が国の財政の尻ぬぐいと見なされないよう求めてきた。
中央銀行の信用を傷つけることでもたらすインフレは、健全とはいえない。不況のままインフレだけが進むスタグフレーションという現象もある。
消費や投資の拡大に伴って物価が上がることが本来の姿だ。それには新産業の育成などを通じて、雇用が増え、賃金が上がるという期待を国民が持てるようにする必要がある。
日銀への要求の前に、「賃金デフレ」を強いる企業の行動に変化をもたらす環境をどう整えるのか。その道筋を示していくことが政治のつとめだろう。
日本維新の会の橋下徹大阪市長が今月10日、遊説先の広島で、核を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則について発言した。
おおむね次のような内容だ。
非核三原則は堅持すべきだ。しかし日本に寄港する米海軍第7艦隊が核兵器を持っていないなんてあり得ない。安全保障のために米国が持ち込む必要がある場合、国民に問うて理解を求めていきたい――。
非核三原則は歴代の内閣が堅持を表明してきた。日本の非核外交の基盤ともなってきた。
一方で、持ち込みを認めるような「密約」があったことも民主党政権になってからの調査で明らかになった。しかも米国は核の配置場所を明らかにしないのが原則であり、持ち込ませずの検証は容易ではない。
今回の発言は、「持ち込ませず」の不透明感について問題提起したものだ。核廃絶をめざす方針と米国の「核の傘」に頼る現実のはざまにいる日本の悩ましさを指摘したものでもある。
だが、だからと言って、非核三原則の堅持から後退する必要はないと考える。
橋下市長はその後、第7艦隊については確認の必要があると追加説明したが、そもそも何を根拠にした発言だったのか。
米国は1991年、水上艦船と攻撃型潜水艦を含む米海軍の艦船、航空機から戦術核兵器を撤去すると表明した。
米国は自主的にこうした措置をとり、ロシアに同調を求めた。その結果、ロシアの戦術核も自国内に撤収された。ロシア戦術核がテロ集団や第三国に密売、強奪されるのを防ぐのが、米国の大きなねらいだ。
「核なき世界」を提唱するオバマ大統領のもとでは、核兵器の役割を下げる努力も進んでいる。しかも通常戦力の能力向上によって、戦術核の代替が利くようになりつつある。
「核の傘」は、米国に配備された大陸間弾道ミサイルなどの戦略核が柱で、非核三原則に合致しているのが現状だ。
今後の米ロ核軍縮交渉では、戦術核の削減も進める方針だ。その後、中国などを含めた多国間の交渉も視野に入れている。核政策が91年以前に逆戻りして、核持ち込みのリスクが再び生じる可能性は極めて低い。
被爆国・日本に求められるのは、核の役割低減をめざすオバマ政権を後押しし、東アジアでの核軍拡競争を防ぐ外交を強めることである。
その役割を日本が果たすうえで、非核三原則が重要な足場であることに変わりはない。