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日本と近隣諸国と歴史と「政治的な罪」と

2010/09/11 18:17

 

 

 最近、ロシア韓国中国米国…と長い歴史的な付き合いかある国々と日本との関係の現状を思うと、ため息が出るばかりです。戦後60年かけて少しずつ前進させてきたはずのものが、わずか数年でどんどん後退し、元の木阿弥どころかさらに悪化・劣化していく。歴史を、冷厳な事実からではなく自分勝手な自己都合と加害者・被害者意識からゆがめ、しかもそれを倫理・道徳で厚化粧してパリパリに固め、身動きとれなくなっていく。しかしまあ、それも国民意識とその選択がなせることなら是非もないと。

 

 とまあ、日々ニュースに接しながらそんなことを思っていて、ある文章を思い出したので紹介します。とてもとても有名な名著といわれる古典の一節なので、まともな政治家や官僚らなら一度は読んだことがあるはずですが、全くその戒めは実践されていないなあと、改めて思いました。少し長くなりますが引用します。

 

 《ある男性の愛情がA女からB女に移った時、件の男性が、A女は自分の愛情に値しなかった、彼女は自分を失望させたとか、その他、似たような「理由」をいろいろ挙げてひそかに自己弁護したくなるといったケースは珍しくない。

 彼がA女を愛していず、A女がそれを耐え忍ばねばならぬ、というのは確かにありのままの運命である。

 ところが、その男がこのような運命に加えて、卑怯にもこれを「正当性」で上塗りし自分の正しさを主張したり、彼女に現実の不幸だけでなくその不幸の責任まで転嫁しようとするのは、騎士道の精神に反する。恋の鞘当てに勝った男が、やつは俺より下らぬ男であったに違いない、でなければ敗けるわけがないなどとうそぶく場合もそうである。

 戦争が済んだ後でその勝利者が、自分の方が正しかったから勝ったのだと、品位を欠いた独善さでぬけぬけと主張する場合ももちろん同じである。(中略)

 同じことは戦敗者の場合にもあることで、男らしく峻厳な態度をとる者なら――戦争が社会構造によって起こったというのに――戦後になって「責任者」を追及するなどという愚痴っぽいことはせず、敵に向かってこう言うであろう。

「われわれは戦いに敗れ、君たちは勝った。さあ決着はついた。一方では戦争の原因となった実質的な利害のことを考え、他方ではとりわけ戦勝者に負わされた将来に対する責任――これが肝心な点――にかんがみ、ここでどういう結論を出すべきか、いっしょに話し合おうではないか」と。

 これ以外の言い方はすべて品位を欠き、禍根を残す。国民は利害の侵害は許しても、名誉の侵害、中でも説教じみた独善による名誉の侵害だけは断じて許さない。

 戦争の終結によって少なくとも戦争の道義的な埋葬は済んだはずなのに、数十年後、新しい文書が公開されるたびに、品位のない悲鳴や憎悪や憤激が再燃して来る。(中略)

 政治家にとって大切なのは将来と将来に対する責任である。ところが「倫理」はこれについて苦慮する代わりに、解決不可能だから政治的にも不毛な過去の責任問題の追及に明け暮れる政治的な罪とは――もしそんなものがあるとすれば――こういう態度のことである

 しかもその際、勝者は――道義的にも物質的にも――最大限の利益を得ようとし、他方、敗者にも、罪の懺悔を利用して有利な状勢を買い取ろうという魂胆があるから、こういうはなはだ物質的な利害関心によって問題全体が不可避的に歪曲化されるという事実までが、そこでは見逃されてしまう。「卑俗」とはまさにこういう態度をこそ指す言葉で、それは「倫理」が「独善」の手段として利用されたことの結果である。》

 

 …これは1919年1月の講演録ですから、今から90年以上前ということになりますね。しかし、いま、われわれの眼前で展開されている事態にそっくりそのまま当てはまるように思います。私はこのブログで何度も書いてきましたが、人間なんていつの時代も変わらないし、国際関係もそうそう進歩したり、改善されたりするものではないようです。

 

 ただ、少し違うかなと思うのは、わが国の場合は、「説教じみた独善による名誉の侵害」を心底もっともだと受け止め、ありがたがる人が一定数、いるようだということです。日本が周囲から虐げられるほど、もっともっとやってくれと煽る日本人、それどころか自ら火を付けて回る人たちも少なくないようですし。

 

 ここで引用した「職業としての政治」を著したマックス・ヴェーバーが暮らした第1次大戦後のドイツは、そうではなかったのでしょうか。いや、程度の差こそあれ、似たような傾向があったから、こういう講演を行ったのでしょうね。…民主党の代表選でどちらが勝っても、こういう事態がこれからいい方向に進むようには思えないのが残念です。

 

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コメント(14)

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2010/09/11 19:27

Commented by 縁側 さん

阿比留さま こんばんは

 1919年のドイツというと、大戦から数年たった頃でしょうか。仰るとおり文面だけなら日本と近隣の関係各国のようにも読めますね。それはそうと、近々来沖のご予定がおありだと宮本氏から伺いました。会場でお会いできる日を楽しみにしております。

 
 

2010/09/11 20:13

Commented by Bero さん

先の大戦で日本は、アメリカの圧倒的な火力の前に敗れた…これ、見え易い事実。しかしそれよりさらに問題なのは、戦前~戦中、そして戦後の歴史という、実は大部分がアメリカによって書かれた物語のシナリオを押しつけられ、教化されてしまった点だとつくづく感じます。「日本は悪い」、「戦前~戦中の『不自由』から解放された」、そして「平和を手に入れた」という三大キーワードを柱とするプロットを多くの人が信じ続ける以上、現状を大きく転換するのは難しいのかも知れません。

かえすがえすも、「教育」をかの国の掌中におさめられたことが痛恨事だと感じています。でも諦めたくないですね。

 
 

2010/09/11 21:23

Commented by hasimoto214take さん

ご苦労様です.
どこで紹介されていたの忘れたのですが(ここ?)
「日本統治時代を肯定的に理解する」(朴賛雄)を
読んだらすっきりしました. 韓国民主化のリーダが
書くのですから, 日本の影響下を離れて朝鮮は政治的
に李朝の時代に戻ったと考えるのが良いです.
支那もインテリジェンスなど日本より巧妙で凄い国だと
思っていましたが, バブル後始末の様子や尖閣諸島
の様子を見ていると, 民主党とあまり変わらない
ドタバタをやる国のようです. また, 増田悦佐氏の
最新刊本から, アメリカとてその国力にあまりに目を
奪われるべきでないことを痛感します. ここは朝鮮・
支那・米国よりは, 我々が日本の未来をどう考える
かにかかっています.

 
 

2010/09/11 21:42

Commented by syurin さん

阿比留さん、こんにちは。

>国民は利害の侵害は許しても、名誉の侵害、中でも説教じみた独善による名誉の侵害だけは断じて許さない。

名誉が侵害されるということは、精神的にも相手に隷属してしまい自律・自立していないということです。

中国韓国北朝鮮は戦勝国側であるにも関わらず、我が国民に「済まない」と感じさせるのが上手ですね。

 
 

2010/09/11 23:11

Commented by tropicasso さん

阿比留さん、こんばんは。ご無沙汰しています。

さて、9月6日付け日経新聞に一人当たりGDP金額が載ってましたね。購買力平価計算では台湾の後塵を拝し25位の33、478$で、上位には台湾24位、香港7位、米国6位、ブルネイ5位、SIN4位で、一位はカタールで90、149$です(因みに中国は96位7,240$)。名目ドル基準値でも一位はルクセンブルグ、日本は17位、19位にSIN,香港24位、韓国36位となっています(中国は97位で3,999$です)。

バカ鳩などは総理在任中GDP中国に抜かれるのを如何にも仕方がないと言う様なコメントしていますが、バカ丸出しです)。
私は上記のGDP/capitaというのは一種の豊かさの指標だと思っています。ですから、最近の失われた20年云々は最早意味がないことで、今後10年20年後には、日本は再び一人当たりGDPで世界一になると宣言し「風」を起こせば雰囲気は劇的に変わると思います(それは次回の若い執行部の自民党に期待するとしましょう)。

世界一の一人当たりGDPで広い家に住み、円高安い物価を実現して、物理的にも精神的にも豊かで、楽しく暮らせて、財産が子供たちに残り、それを受け継いでもらって減価させないのが重要です。そして、重要なことはこういう夢がだれでも実現できる機会均等の社会が日本が最も欲してることです(円高は確かに輸出産業直撃ですが、一方で、輸入産業はウハウハでしょう。ですから、どちら側から見るかで180度意見が分かれますね。

日教組による一番出来ない子に合わせる不平等教育主義、失敗者や怠けものの言い分を聞くバカな民社党、中国や朝鮮半島に阿る民主党のスタンスでは日本は決して良くなりません。

生活が良くなるというのは言わば、社会・文化的満足であって、ミソ糞一緒の社会共産主義ではそういう夢のある社会は実現不能です。

安倍さんに自民党新執行部と大同団結して、たち日本、創新党と保守の旗頭になって戴きたいですね。

 
 

2010/09/12 00:05

Commented by gankojiji さん

阿比留様、こんばんわ。

引用されている文章は、「極東国際軍事裁判」にピッタリ当てはまるようですね。
私も、約半世紀前、学生時代に読んだ記憶がありますが、内容は一片も頭に残っていません。
そこへいくと、阿比留様が、フッ、と思い出されるようでは研鑽を励んでいられるようで、頭が下がります。
ところで昨日の写真ですが、私は箱根で同じような夕焼けの空を見ていたので、てっきり夕焼けと早合点してしまい、失礼しました。
朝焼けとすると、清澄の青空にはまだまだ、時間が掛かりそうですね。

 
 

2010/09/12 01:57

Commented by abusan123 さん

中国の尖閣諸島での件と言い(ー_ーメ)
在日チョーセン一世の「被害者面」と言い(ー_ーメ)

毎日新聞
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20100910ddlk13040286000c.html

日本人を舐め切った事が相次いで居ますな凸(`、´メ)Fuckin
まあ、日本人としてのプライドも愛国心も無い民主党の態度
が隣国を勢いづかせて居るのですが。

 
 

2010/09/12 05:10

Commented by tropicasso さん

阿比留さん、おはようございます。

先程はエントリーと直接関係ない話題を書き込みまして失礼しました。

だれの文章かと読み進み90年前と言っても見事だなと唯只管関心してました。

阿比留さんはもしかして哲学科ご出身ですか? こういう名言を牽けるのは流石です。原本はM・ウエーバーですか。第一次大戦後の時代は現代日本と同じ状態だったのですかね?現代日本の政治情勢を見事に喝破してます。コピーを取って、始終参考にさせて戴きます。

 
 

2010/09/12 10:01

Commented by 伊佐柳若人 さん

第二次大戦終了後、敗戦国となった、日本とドイツは武装解除されて「丸裸」になり、すべての軍事技術と「製品」は没収され、アメリカの技術開発に「貢献」する事になった。また、世界はアメリカを中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心にした共産陣営とに分かれ、「核兵器」を筆頭に激げしい兵器開発競争が続いた。ただ日本とドイツも経済大国として復活ははたしが、特に日本は精神的にボロボロにされたままである。

人類おいての平等というのは、理性と道徳においてのみの平等であり、猿的、犬的人間はそれなりに扱われる方が本人も楽である。

 
 

2010/09/12 11:37

Commented by よもぎねこ さん

 戦争など歴史上の事実の評価など、古代ローマやエジプトの事を、日本の歴史学者が記述しても、人により違うのです。 同じ皇帝の政策を絶賛する人も居れば、糾弾する人も居るのです。

 だから近代史の事件を当事国同士で統一見解なんかあり得ないのです。

 それを作り出し、統一教科書を作りたいなど言うのは、反知性主義としか言いようがないのですが、それを高学歴内閣が主張しているのですから、絶望的です。

 戦後日本の教育は反知性、センチメンタリズムの邁進ではなかったかと思ってしまいます。
 

 
 

2010/09/13 13:06

Commented by kinny さん

小生は、そろそろ一部の新聞記者がある種の二重生活者となって、おおせのようなバカを引っぱたいて回るくらいの危機感をもって歩くのがよいと思うね。

初めの志士ってな、本格派でなきゃなんない。烈公東湖をみれば明らかで、左内や松陰、西郷や木戸なんてのが騒ぎ出すためには、ローカライズされる前の議論におけるスジのよさ、道理が重要だ。

走るに燈明ないもんだから、草莽なんてな大編成の特急列車、先人の轍が出来上がってからでなくっちゃ、運足さえ危ういモンなんだよね。

阿比留さんはそこまで担っていただける感受性の持ち主だ。
読書量で勝手に判断してんだけど(笑)でも世界の狭い者にスジのいい道理が語れないのは間違いないことだよ。

 
 

2010/09/13 13:25

Commented by leny さん

「「舶来モノ」を有り難がる風=海外の権威に頼る風」は日本の特徴なのでしょうか?ただ紹介したに過ぎず、なんら研究に成果を加えた訳でも無い人文系学者が権威を握っていた例やいる例は未だに散見されますしね・・・。海外のキワモノやカルトに近い評判?にすら気にしすぎています。

結局、特アの論調に相乗りしている連中には当事者意識が無い、って事なのでしょう。すべて他人事で、他罰的ですからね。

 
 

2010/09/13 22:34

Commented by ii1920 さん

阿比留瑠比さんは
【わが国の場合は、「説教じみた独善による名誉の侵害」を心底もっともだと受け止め、ありがたがる人が一定数、いるようだということです。】
と言っていますが、「説教じみた独善」とは何を指すのでしょうか。多分先の戦争における日本の戦争責任ではないかと思うのですが・・・。
アメリカは日本に対し「お前たちは侵略者だ。悪い奴だ。だから姿勢を正してやる」とでも言ったのでしょうか。確かにそれらしき‘事実’はあります。例えば日本の軍国主義を糾弾しています。
ところがそれを最初に言ったのは「ポツダム宣言」においてであって、その第6項には、
---------------------------------------------
六 吾等ハ無責任ナル軍国主義ガ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ヅルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ
---------------------------------------------
とあります。明瞭に(日本は)軍国主義によって世界を侵略した、誤ったことをしたと述べています。日本はこれを受諾しました。そのおかげで日本は破滅から救われたのです。
当時世界に向かって受諾を宣言したこのポツダム宣言否定することはできません。
同様に「日韓基本条約」で1910年~1945年の懸案事項はすべて方が付いているのに、今でも「謝罪せよ!」「賠償せよ!」と叫ぶ日本人がいますが、【説教じみた独善による名誉の侵害】などというのはこういういわゆる「反日」の人と外国との約束を軽視するという意味で、同じではないでしょうか。

ピント外れだったらお許しください。

 
 

2010/09/14 09:01

Commented by 伊佐柳若人 さん

「戦後日本におけるアメリカのソフトパワー」岩波書店を是非。
対米依存の深淵、特に文化人が精神的に侵された経緯が論ぜられます。

 
 
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