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「のうのうと生きてちゃいけない」“リストカッター”鳥居みゆきが生きる意味を得たマンガ



2012.11.16

――サブカル系のマンガ読みとしても知られ、”リストカット”経験を持つ芸人・鳥居みゆき。今年7月に発売された小説『余った傘はありません』(幻冬舎)でも自らの死生観をぶつけているという彼女は、小さい頃から「35歳で死ぬ」と公言しているという。そんな彼女に、リストカット体験を踏まえて、生きる意味を与えてくれたマンガについて聞いてみた。

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(写真/オノツトム A/M)

──鳥居さんは、好きなマンガ家さんっているんですか?

鳥居みゆき(以下、鳥居) 丸尾末広先生が大好き! 9月にやった単独ライブのチラシも、丸尾先生に描いてもらったの。で、今度発売する丸尾先生の画集にもコメント書かせてもらったんだ! いいでしょ!

──うれしそうですね……。丸尾先生にハマったきっかけは?

鳥居 小さい頃に、古本屋で、見世物小屋を舞台にした『少女椿』(青林工藝舎)を立ち読みして衝撃を受けて。それからしばらく見世物小屋の人につきまとって、「見せ物じゃねーよ!」って怒られてたくらい。それ以来、ずーっとファン。でもね、当時は、お小遣いを全部甘いパンに使ってて、そればっかり食べて太ってたから「白豚」って呼ばれてたの。

──えっと……?

鳥居 だから、丸尾先生のほかの本がなかなか買えなかったの。

──ああ、なるほど。

鳥居 白豚って呼ばれるのは構わないけど、でも丸尾先生の本は欲しいなって悩んでて。結局パンを我慢して丸尾先生の本を買うようになったの。それで痩せたし。ちょっとスリムになったのは丸尾先生のおかげ。

──丸尾ダイエットですか(笑)。

鳥居 そう。あとね、つげ義春先生の『夜が掴む』『外のふくらみ』(共にちくま文庫)も好き。みゆきも夜が怖くて、「同じ感覚の人がいたんだ」って思った。夜眠れなかったんだけど、これを読んで部屋の窓にガムテープで目張りして、夜とか外が入ってこないようにしたら安心できるようになった。

──それからは、夜眠れるようになったんですね。

鳥居 ううん。眠れない。

──え? 安心できるって……。

鳥居 安心しても眠れるかどうかは別。だって、昼に寝てるもん。

──……。ところで、本題に入りますけど、”死の描写”に惹かれたマンガ作品ってありますか?

鳥居 丸尾先生の作品のように、死んだ時が一番美しくなるように描いてたり、性と食のとらえ方が真逆で、人も殺していいっていう、藤子・F・不二雄先生の『気楽に殺ろうよ』【1】とか、死を大げさにせずに、身近にあるものとして描くものが好き。

──自分の死を意識することは?

鳥居 いつも。指にささくれができても「死にてぇ」って思うもん。

──聞いたところによると、リストカットの経験もあるとか……。

鳥居 うん。でも、ある時「リストカットはダセぇな」って気づいて。その痕を消そうと思って、リゲインのふたの下のクルクルってなってるとこで、傷の反対側を切って皮膚をくるんって剥がせば傷が消えるんじゃねぇかって考えて、やってみたの。

──成功……してないですよね?リストカットより怖いですよ。

鳥居 もう血がドバドバ出て。おかげで「痛い、痛いぃー! はっ! 私、生きてる!」って思えたんだ。

──リゲインの用法違いますよ。

鳥居 でも、リゲイン飲んだから「よし、やるぞ!」って勢いがついたし。まぁ、リストカットの痕は自然に消えて、リゲインの傷だけ残っちゃったんだけどね。あはは。

──壮絶ですね……。生きることを考えたマンガ作品とかはあります?

鳥居 しりあがり寿先生の『ジャカランダ』【2】で、それを考えた。この作品の中では、死は重要視されていなくて、人を平気で殴り殺しちゃったりするの。で、その世界ではある”木”をご神木のようにみんなでありがたがってるんだけど、その木が成長して人を殺すようになって、初めて人々が死を恐れるっていう内容で。これを読んで、「のうのうと生きてちゃいけないな」って感じたよ。逆に、『方舟』(太田出版)を読んだ時は「生きててもしょうがねーじゃん!」って考えさせられたりもしたんだけど……しりあがり先生のメッセージは押しつけがましくなくて、かえって受け入れやすい。そこがかっこいいって思うの。

──本当に「死にたいな」と思い詰めた時は、そういったマンガに救われたりも?

鳥居 ううん。そういう時は『美味しんぼ』【3】で栗田ゆう子がアワビのしゃぶしゃぶを食べてるシーンを読んで、「エッロいなー」って思ったり、『名探偵コナン』(小学館)とか適当に読んで、あまり深く考えないようにしてる。

──そこは、あまり重くない本を選ぶんですね。ちなみに、鳥居さんが人にマンガを勧めるなら?

鳥居 うーん。しりあがり先生を勧めたら「ちょっと怖いよ」とか、丸尾先生を勧めたら「絵はキレイなんだけどね……」って言われたりしてイラッとするから、最近は弘兼憲史先生の作品を勧めてる。

──これまた幅広い。

鳥居 この間も『黄昏流星群』(小学館)を読んでたら、おじさんがテレビをぼーっと見てて、小島(よしお)らしき芸人が「おっぱっぴー!」とかやってたら消されるっていうシーンがあって。すぐに小島に電話して「おい! お前、すべってるぞ!」って言ってやったわ。

──小島さん……(笑)。

鳥居みゆき(とりい・みゆき)
1981年、秋田県生まれ。高校卒業後、お笑い養成所「松みのるお笑い塾」に入る。現在はサンミュージックプロダクション所属のピン芸人。『PON!』(日本テレビ)にレギュラー出演するほか、バラエティに限らず、映画やドラマ、小説などでも活躍中。近著に、『余った傘はありません』(幻冬舎)。

【拡大画像はグラビアギャラリーでご覧いただけます。】

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【1】『気楽に殺ろうよ』
藤子・F・不二雄/小学館文庫(95年)/590円
『異色短編集』シリーズの第2巻。表題作品の「気楽に殺ろうよ」では性欲と食欲をはじめとし、あらゆる価値観が逆転した世界で、子どもを産んだらひとり殺せる、という権利が得られる。


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【2】『ジャカランダ』
しりあがり寿/青林工芸舎(11年)/1680円
人を殺すことをなんとも思わなくなった世界で、神のように崇められていた木、ジャカランダ。やがてジャカランダは巨大樹へと成長し、その圧力によって崩れ落ちるビル、広がる火の海の中で、人々は次々と死んでいく。


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【3】『美味しんぼ』
原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ/小学館(85年~)/509円~
「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて83年より連載されている、「究極」vs.「至高」のグルメ対決を描いたマンガ。12年11月現在、単行本は109巻まで発行されている。




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