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「マイナス金利」の衝撃を検証する

2012/11/21 12:49

 

 産経エクスプレス11月21日【国際政治経済学入門】「マイナス金利」安倍構想に波紋、から

 経済学の世界ではお金にも値段がある、という。平たく言えば、金利のことである。人々は銀行に預けると金利がつくし、借金すると金利を払うことが当たり前になっている。ここで言う金利とは、プラスの数値である。ならばマイナスの金利があってもよい、と経済学者の多くは考える。
 マイナス金利を適用すると、銀行に預けると金利をとられるが、借金しても金利をもらえる。そんなバカな、いや、そうなったらありがたいと考える向きもいるだろうが、現実にありうるのだろうか。答えは「ある」のだが、残念ながら住宅ローンなど消費者向けローンには「ない」という注釈付きになる。マイナス金利は銀行間の資金のやりとりや、金融市場での大口の取引にしか成立しえない。
 よく引き合いに出されるのはドイツなど欧州の一部の信用力の高い国債の金利がマイナスで市場取引されるケースである。国債の買い手は売り手に金利を払う。それでも、将来国債の相場が上がれば売却益が発生すると期待する投資家は購入に踏み切る。ギリシャ、スペインなどユーロ圏で政府債務危機にあえぐ国の国債を持つよりは、金利を払ってでも優等国の国債を買って様子をみる投資家がいるのだ。この場合、マイナス金利はユーロ危機の副産物であり、一時的な金融市場の現象にとどまる。実体の経済活動には影響をほとんど及ぼさない。
 ■欺瞞に満ちた政策放置
 銀行の中の銀行である中央銀行がマイナス金利政策に踏み切ったらどうだろうか。中央銀行は資金を創出して市中銀行に供給するのだから、銀行金利を誘導できる。
 日本の場合、日銀は真逆の政策をとり続けている。日銀の資金供給残高はこの10月平均で128兆円に上り、2008年9月のリーマン・ショック前に比べて40兆円増えたが、市中銀行はその87%、35兆円を日銀当座預金に留め置いたままである。しかも、日銀はこの当座預金の約8割に対し、ご丁寧にも0.1%のプラス金利をプレゼントしているというから、あきれる。
 銀行に金利を払ってまで日銀口座に資金を預かるのだから、市中銀行は一般の貸し出しにカネを回すはずがない。日銀は表向き金融を緩和しているとみせかけながら、実際には金融を引き締めている。実体経済にカネが流れないので、デフレ不況から脱するはずがない。民主党政権はそんな欺瞞に満ちた日銀政策を放置してきた。
 そんな折、次期衆院選後の政権奪還をめざす自民党安倍晋三総裁は最近、日銀の政策金利について「ゼロにするか、マイナス金利にするぐらいのことをして、貸し出し圧力を強めてもらわなくてはいけない」と述べた。次期首相最有力の人物が「マイナス金利」を示唆したのだから、株式を含む金融市場を沸かせている。
 ■円高・デフレ容認派反発
 政策金利とは銀行間の短期の取引金利の誘導目標金利のことだ。まずは当座預金の金利をマイナスにする必要がある。市中銀行は当座預金の金利を基準に短期資金を調達する。そして政策金利よりも高い水準で企業などに貸し出しするようになる。政策金利がマイナスなら、少なくても短期市場金利もマイナスになる可能性が高いので、貸出金利は押し下げられ、借り入れ需要が高まる。カネは一挙に実体経済に流れ込み、景気が刺激される。実際にはどうか。
 参考になるのが、デンマークである。デンマーク中央銀行はこの7月、マイナス0.2%の政策金利を導入した。世界初の試みである。グラフにあるように、短期市場金利を代表する翌日ものの銀行間金利はマイナス0.3~マイナス0.4%台で推移している。金利をマイナスにすると同時に、資金供給量を一挙に1.8倍に増やす「量的緩和」にも踏み切った。
 銀行貸し出しはどうか。データはこの9月が最新だが、徐々に増え始め、前年同期比で4%増えている。貸し出しは10年12月からマイナスに転じ、一時は13%以上も落ち込んでいた。金利と量の両面での大胆な金融緩和への転換は成果を生みつつある。
 気になる貸出平均金利は企業向けが2.4%台、家計向けが6.2%台で、それぞれ0.2~0.3%程度とほぼマイナス政策金利分だけ下がった。預金金利(要求払い)は0.85%台で、0.04%台の下落にとどまる。
 見逃せないのが、円安効果である。銀行間市場金利がマイナスになると、マイナス・コストの円資金を調達して、より高い利回りのドルやユーロなど外貨建て金融資産で運用する「キャリー・トレード」も活発になる可能性もある。そうなると、大量の円が売られるようになる。
 安倍氏案はしかし、その大胆さゆえに日銀や財務官僚を中心とした円高・デフレ容認派の強い反発は必至だ。自民党内部でも安倍構想に冷ややかな有力議員も少なくない。総選挙後、安倍政権が発足したとしても、実現するためには力強い政治指導力と、4月に任期切れになる白川方明・日銀総裁の後任人事が鍵になるだろう。
 (特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
       ◇
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カテゴリ: マネー・経済  > 金融    フォルダ: 田村秀男の国際政治経済学入門

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コメント(2)

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2012/11/21 17:02

Commented by hei-chan さん

>より高い利回りのドルやユーロなど外貨建て金融資産で運用する「キャリー・トレード」も活発になる可能性もある。そうなると、大量の円が売られるようになる。

これが、リフレ政策のひとつのネック(副作用。米国等からの圧力)に繋がる可能性もあるのではないでしょうか?
資金が国際的な商品先物相場に流れて、原油、大豆などの商品相場を押し上げる。

2006年に日銀が矢継ぎ早に政策金利を上げたひとつの理由も商品価格の急上昇があったためでは?

現在は、当時とは違って中国の急激な経済成長による商品需要急拡大の期待も薄く商品相場を押し上げる大きなファンダメンタルズはなく、そうした懸念はないのでしょうけど、本来であれば、そうした場合に備えて、先物相場での取引証拠金の増額とか、取引益に対する増税とか、(市場を歪ませない配慮を払いつつ)合わせ技ができればいいんでしょうけど。

一方、キャリトレードで米国に流れた資金が米国の雇用拡大に繋がるようなことになれば、米国からは、むしろ、ウェルカムということになるんでしょうか?

 
 

2012/11/21 18:39

Commented by 田村秀男 さん

To hei-chanさん
要は、市場予想です。キャリートレードが起きる可能性があると市場予想が起きると円安に振れますが、実際にキャリートレードが起きるかどうかは、米欧の市場状況にもよります。
米国に日本の資金が流れることは、米側も歓迎でしょう。しかし、今の商品投機は主にじゃぶじゃぶのドルにあります。
日本にとって重要なのは、何よりも着実に円高是正を実現することです。そのためには、金利と量の両面にわたる日銀政策転換が欠かせないと思います。
田村

 
 
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2012/11/21 15:25

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