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ゆるふわ悪態生活。 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-11-20

サービスの質をあえて落とすということ

迂闊だった。


その日は仕事で夜遅くなり、ひどくお腹がすいていた。けれど部屋に帰って料理するような気力はなかったし、コンビニで弁当を買って部屋で広げるのもなんだか億劫だった。
そんな私には、店頭のポスターに描かれたタレが自慢の新商品はとても魅力的に思えた。そのポスターの発する誘惑と、リーズナブルな価格、用意も片付けもいらない気楽さに私はついに負けて、普段は意識的に避けている駅前の牛丼チェーン店に入ってしまった。


その数分後、私は激しく後悔した。


ポスターとは色合いから違う出された料理に対して、だけではない。残念ながら私のバカ舌は、そんな詐欺まがいの丼もそれはそれでそこそこ満足して受け入れてしまう。


けれどもっと不快なことが、店内のあちこちにあった。

どこを触っても微妙にベタベタする、店内のなんともいえない清潔感のなさ。そのバックグラウンドを想像すると、やりきれない気持ちが押し寄せてしまう片言の日本語の店員。そして片手で携帯をいじりながら箸を動かす、他の客の死んだような顔。

それらが発するおぞましい負の空気。



思い出した。私はこの激安牛丼チェーンが店内で醸し出す負の空気が耐えられないくらい大嫌いだったのだ。



この負の空気を浴びていると、自分の人生の何もかもが不安になってくる。

死んだような顔の客は全員、今日リストラを宣告されたばかりのサラリーマンに思えてくる。自分もいつ何時あちら側の住人になってもおかしくないような気になる。
金を失う、家族を失う、人間関係を失う、職を失う、家を失う。そんなことは誰にでも突然起こりうることのように思えてくる。すると、自分が今持っているものは一つも手放してはいけないような気持ちになる。

夢だとか、希望だとか、スキルアップだとか、もってのほか。今の安定した生活を決して手放さず、つつましく人生を終えなければいけない、と。
発想がすべてネガティブになっていく。



店内からこの負の空気を消し去るのは簡単だ。私が社長やオーナーなら、従業員に居酒屋ぐらい無駄な覇気を持って仕事に取り組ませる。騙されて日本に連れて来られたような外国人バイトはお断りする。そして店内はこまめに拭く。食事する最低限のスペースだけでなく、紅しょうがの入っている木箱だとかも、ベタベタしないように。

きっとこれだけのことで、負の空気は浄化されるはずだ。これらが完璧にできている店があれば、その結果商品単価が100円や200円上がっても、料理の提供時間が5分長くなっても、私は間違いなくその店に通う。私と同じように思っている人も多いだろう。



けれど本物の社長だとか偉い人たちは、そんなこととっくの昔に気付いているはずだ。だけどそうはしない。なぜなら、そんなことしてしまうより今のままの方が断然儲かるからだ。


編集者の中川淳一郎さんはかねてから、「ネット上で難しいことや正しいことをいってクオリティの高いものを提供してもムダ。ネットではゴシップとかしょうもないネタとかの方がウケるし人が集まる。バカに照準を合わせてサービスの質を落とした方が儲かる」というようなことを主張している(と私は解釈している)。


これはネット以外にも当てはまる。

現実世界には、牛丼屋がたとえ負のオーラを発していても、気にせず100円でも10円でも安い店を選ぶ人がたくさんいる。なんだったら、彼らは私がネガティブだと感じているその場所に、負の感情どころか、居心地の良ささえ感じているのかもしれない。



この国には、あえてサービスの質を落とすという商売が存在していて、それなりに繁盛している。そのサービスが醸し出す負のオーラに飲み込まれないよう、私は今日も駅前の牛丼チェーン店を避けている。


こちらからは以上です。

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