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「妻に笑顔でいてもらいたい」 断酒 家族が支え 依存症の男性

2012年11月20日 11:20
「断酒の誓」をいつも心に留めているという夫婦
「断酒の誓」をいつも心に留めているという夫婦
 心のおりを吐き出すような言葉が続いた。「地獄のような日々でした」「迷惑を掛けた家族に申し訳ない」…。今月中旬、福岡県大野城市であったアルコール依存症の自助グループ「断酒友の会」の例会。当事者と家族約60人が参加し、悩みや目標を語り合った。その中に「妻にずっと笑顔でいてもらうために断酒を続けたい」と宣言した50代の男性がいた。話を聞かせてもらった。

 酒量が急激に増えたのは10年ほど前だった。起業して数年がたち、経営が軌道に乗ってきたころ。緊張の糸が切れたのか、部下に仕事を任せ、経営者としての重圧から逃げるように毎晩飲み歩いた。酔っては暴言を吐き、従業員が次々と会社を去っていく。次第に経営も苦しくなり、朝から酒におぼれるようになった。

 自宅で大暴れすることもあった。殴りはしなかったものの、食器を割ったり、携帯電話を投げたり。近所中に響く音に、妻は「私の骨でも折れたら警察に突き出せるのに」と思うほど追いつめられていった。

 子どもたちは思春期の真っただ中。普段の優しい父と荒れる姿の違いに戸惑っていた。父親を避け、子ども部屋で過ごす時間が長くなり、だんらんも減った。

 禁酒を宣言しても三日坊主で、焼酎の紙パックを買いに走った。一方で、酔って暴れたことは何も覚えていなかった。月10万円ほどの酒代は家計を圧迫し、妻は「私が甘やかしているのか」と自分を責めた。

 アルコール依存症は「否認の病」ともいわれる。周囲に指摘されても「自分だけは違う」。それが治療や回復への道を閉ざしてしまうとされる。夫妻には知識がなく「酒癖が悪いだけ」と思っていた。恥ずかしくて誰にも相談しなかったことも受診を遅らせた。

 昨夏、健康診断の結果が悪く、知人の勧めで病院を訪ねた。アルコール依存症だとすぐに分かった。

 入院中に自助グループと出会った。「家庭が崩壊した」という体験を何度も聞かされた。それまでは酔って暴れた記憶がなく、家族を悲しませた実感が薄かった。依存症の恐ろしさが身に染み、断酒を決意する。

 今月16日、酒を断って丸1年を迎えた。仲間の中には再発して入退院を繰り返す人もいる。自分もイライラすると、つい飲みたくなる。「一日一日、飲まない日を積み重ねていくしかない」。何より子どもからの信頼を取り戻したい。それには行動で示すしかない。

 夫が依存症だと分かり、妻も目の前が開けた思いだったという。もう自分を責めなくていい。以来、一緒に自助グループに参加するなど、二人三脚で断酒の道を歩いてきた。

 「迷惑をかけてしまった償いです」。男性は今、朝4時に起きて子どもたちの弁当を作っている。さまざまな思いとたくさんの愛情を込め、おむすびを握る。

 ●家庭だけでは困難

 ▼福岡県断酒連合会事務局長、船越正義さん(56)の話 アルコール依存症は家族を巻き込む病気。回復には家族の協力が必要だが、その過程で家族が精神的に追いつめられることもある。家庭内だけでは解決できないので、病院や各地の断酒友の会に遠慮なく相談してほしい。

 ◇各地の自助グループは全日本断酒連盟=03(3863)1600=で紹介している。



=2012/11/20付 西日本新聞朝刊=

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